第45話 王家直属特別兵、一堂に会する(4人しかいないが)
「待ってたぜ、ライア」
「こんにちは、ユーヤさん。今日からよろしくお願いします」
ライアと握手して、俺は王家直属特別兵の本部――まあ俺の部屋の下の階の部屋なんだが――に案内する。
そこには、今のところ二人しかいない王家直属特別兵のミラとギルがいた。
「というわけで、紹介だ。知ってるかもしれないが、こいつはライア。前王の参謀だった男で、頭のキレるやつだ。それでいて戦闘も出来る。三國○双で言うところの諸葛亮孔明みたいなやつだな。戦力としては相当なものになる。俺よりもこいつの方が作戦立案から指揮まで上手だから、有事の際にはこいつの言うことも聞いてもらうことになる。そして俺はどうしても前線に出る機会が多くなるだろう。だから、もしも俺がいないときの命令の優先権は、リーナの次はこいつになる。そのつもりで動いてくれ。じゃあ、ライア一言頼む」
軽くライアの紹介をする。ミラはライアのことを知っているかもしれないが、ギルは知らないだろうからな。ちなみに、三○無双のくだりでは誰も反応してくれなかった。そらそうだ。
ライアはペコリと一礼してから二人に向かって話しはじめる。
「こんにちは、ライアと申します。ユーヤさんの紹介は少しオーバーで、私自身はそんなに能力は無いのですが、この力を国のために役立てるよう精いっぱい尽力しようと思います。それでは、みなさんよろしくお願いします」
再び頭を下げるライア。
俺はそのライアに向かって、ミラの方を指さしながら彼らの紹介を始める。
「こいつがミラ。お前なら気付いているとは思うが、こいつは昔顔に火傷を負ったから、甲冑を外さない。だが、純粋な戦闘能力ならばリーナ以上だし、第一世代機兵の操縦も出来る。基本が脳筋だから諜報には向かないが、それ以外なら何でもできるぞ」
俺がミラの方に手を向けながら言うと、ライアがこちらへ歩み寄ってきた。
「よろしくお願いします、ミラさん」
ライアが少し頭を下げた後に、目を細めてミラのことを見る。
そして、その雰囲気で察する。……ああ、一発でお見通しか。まあ、そうだろうな。
ミラと言えば、ライアは知らない間柄でも無いようで、普通に挨拶をしている。まあ、声は出さないので握手だけだが。
そして次に、俺はギルを紹介する。
「こいつがギル。戦場での前線の指揮に関してはなかなかのもので、本人の機兵操縦の技術も高い。第一世代機兵の操縦は練習中だが、第二世代機兵の操縦はそこにいるミラよりも上手い」
「よろしくお願いするのである」
「はい、よろしくお願いします」
ギルはさすがに歳を重ねているので、普通に挨拶している。
俺はその三人を見て、今後のことを話すことにした。
「で、だ。みんな聞いてくれ。まず、いくつかしなくちゃならんことがある。まず、ギル。お前は早急に機兵を全機いつでも出撃できるように準備していてくれ。ライトフットとシンガイシンは全機だ。そのためになら、多少の予算オーバーは構わない。これはリーナの許可もとってある」
「わ、分かったのである。しかし、何故であるか? 確か隣国のオルレアン王国で最近、革命が起きているということは聞いているが――我が国にすぐに攻め入るとは思えないのである。革命が成功したとしても、すぐに地盤を固めるなんて無理であるからな」
ギルが尋ねてくるので、俺は端的に答える。
「向こうは世界でも1、2を争うほど、第二世代機兵の数が多い国だ。そんな国を第一世代機兵で乗っ取ろうとしている奴がいるんだぞ? 革命を成功させたら、当然ライネル王国の第一世代機兵――ムサシとゴクウを狙って攻め入ってくるだろ」
そう、俺たちの国には、たった一機で形成を変えてしまうチート機体、第一世代機兵が二機もあるんだ。
隣国を奪ったら、標的に定めるのはうちの国に違いない。
「当然、お前の言う通りすぐに攻め入れないだろうが……それはあくまで、国内政治をしようというなら、の話だ。あの国を飲み込んで、その兵力で俺たちの国に攻め入って、それからちゃんと国を運営しよう、なんて思っているかもしれないからな」
ライネル王国は、作物がかなりとれるからな。革命で疲弊していたらその辺を補うために攻め入ってくるということもあるかもしれない。
俺がそういうことを話すと、ライアが補足するかのように口を開いた。
「どうやら、オルレアン王国に革命を仕掛けた人たちは、そのまま世界征服を狙っているようです。ですから最低限のこと――人事などのみを行い、ライネル王国に攻めてくることはあるかもしれません。とはいえ、どれだけ短くても一か月は無いと思いますが」
「とはいえ、先日の武力政変の時に破損したライトフットとかの修理だってまだ済んでないだろ。それを直したり、整備や調整なんかをして万全になるのにはある程度の時間はかかる。だから、今のうちにしておくんだよ。だから、ギルはそれらを頼む。それと、ミラ」
俺はミラに書類を渡しながら、今日の予定を伝える。
「今日も、俺は少し城を離れる。だから、いつも通り、俺が帰ってくるまではリーナの護衛はお前がやってくれ。それと、この書類はライアが入ったことで分かったこととかをまとめているから、暇が出来たら目を通すようにリーナに伝えてくれ。いいか?」
こくん、と頷くミラ。よく考えたら、俺はここ最近城にいる方が少ないかもしれない。だからか、リーナが夜に俺と遊ぶ時間を長くとっているような気がする。
「さて、と。後は……それなりに人数が集まってきたから、毎朝この時間に集まって定例会をすることにしようと思う。来れないときは事前に連絡すること。以上。それと、ライアは残ってくれ。じゃ、解散」
なんだか、中学の時の委員会のようなノリになってしまったが、俺にはこういう感じしか知らないのでしょうがない。何といっても俺は普通の高校生だったんだから。社会のことなんて知らないからな。
ギルとミラが出て行ったのを確認して、俺はライアに話を切り出す。
「で、だ。ライア。お前に残ってもらったのは他でもない。前王――エドについてだ」
「おや、やはり接触がありましたか」
俺がエドの名前を出しても驚いた風ではない。まあ、そうだろう。だって来るのを予測していたのはライアなんだから。
「それで、だな。その時これをエドから渡されたんだが……」
「こ、これは……魔魂石。エドはどこでこれを手に入れたと?」
少し前のめりになってくるライア。
やはり、魔魂石はそれほど重要なモノなんだろう。ライアの目の色が変わるほどなんて。というか、少しでも声が詰まるライアとか珍しいものなんじゃないだろうか。
なんか珍しいものを見られたので少し嬉しい気分になりながら、俺は肩をすくめる。
「それに関しては教えてくれなかったな。だが、これを持ってとある職人のところへ行けと言われた。そしてそいつは、お前が知っている、ともな」
「ああ、彼ですか……」
深く納得したような様子のライア。
「やっぱり知ってるのか。そして、本当にいるのか」
俺が安心半分、納得半分で頷くと、ライアが少し意外そうな顔をした。
「おや、信じていなかったのですか?」
「そりゃな。いや、まあ。エドの野郎が嘘をついてないことは分かっていた。だけど、アイツが自分で言ったのと、髪が銀だったことしか証拠はない。せめてリーナでもミラでもお前でも、知ってるやつと会ってほしいんだが」
と、言ったところで気づく。
なんでアイツは、他の奴に顔を見せないんだ?
いや、逆に言うなら、なんでアイツは俺以外に顔を見せないんだ?
(しかし……アイツが嘘をついていたとは思えない。というか、俺相手に嘘をつけるはずがない)
「ユーヤさん?」
「はっ」
思考のせいで完全にフリーズしていた俺を、ライアが引き戻してくれた。
「わ、悪い。少し余計な事考えてた。それで、なんだったか」
「しっかりしてください。彼のことを信じていない理由を聞いていたところでした」
「ああ。そうだった。じゃあ訊くが、エドはこんなやつだったか?」
俺はその場にあった紙に、エドの似顔絵を描いてみる。
別に絵心があるわけじゃないが……それでも、人の顔の特徴をとらえてなんとなくを伝えるくらいの絵は描ける。
完成した絵をライアに見せると、ふむ、と一つ唸る。
「上手でも下手でもない絵ですね」
「ほっとけ。それでも、それなりに特徴はとらえているつもりだ」
「そうですね……この絵の特徴の通りなら、確かにエドだと思います」
「そうか」
ホッとして、胸をなでおろす。
これで悪党だったら目も当てられないからな。
「じゃあまあ、取りあえずこの魔魂石が偽物っていうことはなさそうだな」
「それはそうでしょう。魔気も感じられますし」
「魔気?」
聞きなれない言葉に首を傾げると、ライアはふっと笑った。
「魔魂石に宿る動力源のことです。生命には必ず宿っていて、そしてその魔気が何故か宿っているのが魔魂石なのです。……おっと、どうしてもこういう時に説明ばかりしてしまうのは年寄りの悪い癖ですね。ともかく、魔魂石ですよそれは」
さらっと大切なことを言ったような……
とはいえ、ライアにはそれ以上話す気はないらしく、踵を返して扉の方へ向かっていく。
「では、さっそく行きましょうか。どうせ貴方のことです。もう既に馬車なりを呼んでいるんでしょう?」
「そりゃそうだが。どうせ歩いて行けるところには無いだろ?」
昨日のうちにGR20が二人で乗れるようにサイドカーのようにしておいた。当然、サイドは取り外し可能。
城の技術者は優秀だ。
「では、急ぎましょう。それを加工するのには時間がかかります。ひと月かふた月でしたかね」
「だろうな。それは察しが付く」
機兵を作るのにも、だいぶ時間はかかる。前の世界ほど自動化できる部分が少ないからだが。
しかし、その時間の大半はエネルギー部分に割かれていると聞く。だから、まあ妥当なところだろうな。
「では、善は急げと言います。行きましょう」
「ああ」
さて、どうなることやら。
俺はライアを連れて扉から出る。
「行くか」
「はい」
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