第43話 背負っているモノと、背負うモノ

 まあ確かに、機兵に関して俺はノータッチだからな。現代知識チートがしたいところではあるが、そもそもアレが俺の現代知識を超えているものだから、どうしようもない。武装に関してはいくつか現代知識――というかアニメとかのロマン武器に関して――伝えておいたけど、正直全然出来るとは思えない。


「この魔魂石だが――端的に言うなら、尋常じゃない動力源の塊とでも言おうか。百数十年前にとある鉱山で発掘されて、以来ずっと研究されているが、正体も、どうして作られるかも分からない、本当に謎の鉱石だ。これ一つで、半永久的に動力源を抽出できる」


 動力源……言葉の流れから考えてエネルギー、ってことだろうか。というか、魔魂石そのものが動力源じゃなくて、動力源が出てくる塊……? クソッ、英語が無いと不便だな。もう、今度から少しずつ英語を普及させよう。取りあえず、今は動力源ということにしておこう。違和感だけど。

 というかそもそも、魔魂石って鉱石だったのか。しかも鉱山で発掘されたなんて……

 俺がなんとも言えない表情で魔魂石を見るが、とてもそんな風には――自然界にあるようなものには思えない。

 何者かによって作り出されていると言われた方がよほど納得できる。


「それで? というか、そんな凄いエネルギー……ああいや、動力源の塊なら、何故機兵と、その建造のための施設にしか使わないんだ?」


 確かに、機兵を量産することは、国防的に不可欠かもしれない。半永久的に動く、ロボット。どういうわけかガソリンが無いので、戦車が無いこの世界では、絶大な制圧力を誇る。

 だけど――他のものに使うなり、それこそ電気を起こすなりなんなりすれば、もっと出来ることは増えるはずなんだが。

 俺のその疑問に、エドは少し苦い顔をしてから、タバコを口に咥えた。


「城内は禁煙だ。吸いたいならベランダ……というか、外に行け」


 加えたタバコを懐に戻した。


「……端的に言うならな、魔魂石は取り出せる動力源が多すぎるんだ。そしてその動力源は他に移せない。まあつまり――機兵くらい大きいものじゃないと、魔魂石の動力源を受け止めきれねえんだ。あの謎の動力源をな」


「受け止めきれない……そんなことがあるのか」


「ああ。もっと詳しく言うなら、一度に取り出せる動力源の量がきまっていて、その量の動力源を今の技術じゃ、機兵よりも小さなものに使うことは出来ねえ。だからこそ、わしらは機兵を作る。……まあ正直な話、機兵よりも大きいものは作りようがねえしな」


 つまり、電力が大きすぎて電化製品がオーバーヒートする……みたいなイメージなんだろう。昔、豆電球を光らせる実験で、電力を高くし過ぎて豆電球のフィラメントが焼き切れたりさせてしまったことがあるが、そういう風になるってことだろう。

 だからこそ、機兵より小さいものは作れないし、逆にそれ以上大きいとなるとエネルギーが足りなくて動かせない。


「まあ、確かにこれ以上大きいものを作るのは厳しいだろうが」


 だとすると、変なことがある。


「おい、GR20はどうなるんだ。アレは確か機兵と同じ動力源――つまり、魔魂石で動いてると言う話じゃなかったのか?」


「ああ……そうだな。その話もしなくちゃならんな。だがまあ、ちょっと待ってくれ。次は魔魂石がどう手に入るかの話だ」


 そっちの話の方が気になるんだが。

 とはいえ、後で話してくれるようなのでおとなしく話を聞くことにする。


「さっきも言った通り、アレは鉱山から発掘される。だが、魔魂石を発掘できる鉱山というものがあるんじゃないんだ」


「……? つまり、どういうことだ?」


 俺はてっきりダイヤモンドみたいに、大きなものも小さなものもあって、その中でも大きいものをこうしてエネルギー源として使ってる……みたいなイメージだったんだが。


「魔魂石はな、なんの変哲もない鉄鉱石の鉱山とか、銅の鉱山から偶然発掘されるんだ。しかもそれは劇的に、じゃない。ある日突然ころりと転がり落ちてくるかのように発見されるんだ。銅や鉄鉱石なんかに混じってな」


 魔魂石は、本当に謎物質らしい。

 というか、せめてどの鉱石の鉱山から出やすい、みたいなことは分かってないんだろうか。それが分かっていればそこを重点的に掘ればいいのに。

 そう思って尋ねるが、エドは首を横に振るだけだ。


「ということは、狙って掘り出すということは出来ないのか」


「一応、わしらだってバカじゃない。確かにどの鉱石の鉱山が出やすいとかそういうことは分からないが、魔魂石が出やすい地域なら分かるぞ」


「なに?」


「というか、魔魂石が一度でも出た地域じゃないと殆ど魔魂石は確認されねえからな」


 エドは少し疲れたかのように肩をすくめる。

 一度でも出た地域じゃないと発見されないというのは、よく考えると不思議なものである。


「じゃあ、その出ている地域の調査とかしたのか?」


「当然。だが、分かったことは少なかった。その調査や、魔魂石の動力源の正体……その辺はライアの野郎から聞いてくれ。わしよりアイツの方が詳しい」


「……魔魂石の正体について教えてくれるんじゃなかったのか」


「いや、正体というよりも、今はお前に話したいことが別にあって、その途中で軽く魔魂石に触れた――そんな感じだったからな」


 回りくどいことをするやつだ。

 俺が少し呆れてエドを見たところで、エドが持ってきていた魔魂石が目に入る。相変わらず、怪しい輝きをしている。

 そしてそこでふと気づく。魔魂石が手に入ったなら、真っ先に機兵製造に回すべきだし、この目の前にいる前王なら、国益のために動いてくれているはず。

 なんらかの言い難いルートで手に入れたなら話は別だが――だとしても、俺のところに持ってくる必要が無い。機兵にするために手に入れたんなら、それこそ俺が持っていくことの方が怪しい。というか変だ。

 ということはつまり――


「その魔魂石を俺に渡すことが目的だった? そして、その魔魂石を使って俺に何かしてほしかった?」


 俺がその魔魂石をスッと持ち上げながら言うと、エドはニヤリと笑ってまたタバコを咥えた。


「だから禁煙だって言ってるだろうが」


 そしてまたばつの悪そうな顔をしてタバコをしまった。


「ま、まあ、それはさておいて。……ご明察、よくわかってるじゃねえか、ユーヤ。さすがはわしが娘を預ける相手に選んだだけはある」


「お世辞はいい。……いや、今のは俺を褒めてるんじゃなくて、自分の見る目自慢か」


「はっはっは。まあ、それはいいじゃねえか。……そう、俺がこの魔魂石の話を持ち出した最大の理由は、この魔魂石をお前に預けるため。そして、お前にその魔魂石を持って行って欲しいところがあるからだ」


「持って行って欲しいところ……?」


「そうだ。どこに持って行って欲しいかと言うとだな……その、GR20を作った職人のところに持って行って欲しいんだ」


 ここでGR20か。というか、今まで流してきたけどなんで英語が無いこの世界でアルファベットがあるんだろう。俺のΣとかもアルファベットが使ってあるしな。

 今、その疑問を持ってもしょうがない。俺は少し頭を切り替えて質問する。


「それで、何故だ? もう一つGR20でも作ってもらえばいいのか?」


「いや、そうじゃない。というか、説明させろ、そう急くな」


「わかったよ」


 そしてエドがタバコを咥えて……


「もう完全にモク中だな……ったく、分かったよ。いいよ吸えよ」


「お! 話が分かるじゃねえか!」


「その代わり、一本だけだぞ」


 そう言って俺は窓を開ける。

 エドは喜々としてタバコを咥えると、懐をごそごそとやりだした。


「……何してんだ?」


「いや、火がねえ。どっかで落としたのか……?」


 ……こいつはアホか。

 俺は思いっきりため息をつくと、机の中からマッチを取り出して、火をつける。

 そして思いっきり呆れた顔をしてから、エドの口もとに持っていく。


「ほらよ」


「……すまねえな」


 ったく、親子そろって抜けてるというかなんというか……ライアたちは相当苦労してたんだろうな。

 そしてうまそうに煙を吸うエドを見ていると……俺も吸いたくなってきた。


「おい、エド。人の部屋で喫煙するのを許してやるから俺にも一本よこせ」


「ああ? ……なんだ、お前吸えるようになったのか?」


「二日に一本くらいだけどな」


 そう言いながら、俺はエドに手を出す。

 エドはニヤニヤしながら、タバコを一本取りだすと、俺に手渡した。


「……なんだよ、その眼は」


「いや別に? ただ、ガキがいっちょまえに大人のフリしてんなー、と思ってな」


 前に思いっきりむせた上に、吸い始めた理由が「カッコいいから」なせいで何も言えないので、少し目を逸らしてタバコを咥える。


「ふぅ~……まだタバコの良し悪しが分かるほど吸ってないつもりだったが、このタバコは美味いな」


 何気なく言うと、エドはわかりやすく破顔した。


「お、分かるか?」


 自分の好きなものを褒められると嬉しいもんだ。


「ああ。そこそこの値段がするんじゃないか?」


「そうでもない。こうして人にやれる程度だ」


 エドが懐からタバコの箱を取り出して俺の方に放り投げる。

 それを俺が受け取って銘柄を見ると……うわぁ、俺がいつも吸ってるやつの倍くらいの値段がするやつじゃねえか。

 見栄を張ってるのか、それとも、普通に布教したいだけなのか。

 分からなかったが、取りあえず礼を言ってから、机の中にしまう。


「悪いな。つーか、やっぱいいタバコじゃねえか」


 苦笑交じりに言うと、エドはカラカラと笑った後……寂しそうな顔をして、ニヒルな笑みを口元に浮かべた。


「お気に入りなんだよ。そんで……リーナとミラの母さん、つまりわしの嫁が好きだったんだ。わしが吸ってると、タバコなんざ吸えもしないくせに、吸わせろとねだってきてやがってな」


「そうか……」


 煙で輪っかを作るエド。それを見て、吸いなれてるというか、年季の差というかをなんとなく感じる。

 なんとなくしんみりしてしまった空気を今はあえて崩さず、エドが何か言うのを待つ。

 まったくライアといい、エドといい、背負ってるもんが多すぎるんだよ。

 リーナも今やライネル王国の国民というどでかいものを背負っているし、ホント、その片方を背負うには、俺の実力が足りなすぎて、焦りが募ってしまう。

 リーナも、これからよくこんな顔をしてしまうのかもしれない。

 その時、俺はリーナの隣にいられるんだろうか。

 何かを懐かしむような、悲しむような、憂うような……そんな眼をするエドを見て、俺はそんなことを思ってしまうのだった。

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