第40話 俺の慕う王は
俺は騎兵と歩兵を駆使しつつ、捕虜を増やしながら攻める戦法。
一方のライアは、弓兵と砲門を歩兵で守りつつ、遠距離攻撃してくる守り型の戦法。
「ふむ、中々やりますね」
「……そいつはどーも」
戦況は……ライアの褒め言葉が皮肉にしか聞こえないほど一方的なモノになってた。
正直、食いついていくだけでやっとだ。
そもそも、こっちは捕虜を稼ぎながら戦っているのに、相手の攻撃のせいで全然コマが増えない。
まあ、他に理由もあるんだが……
「ふむ……しかしまあ、貴方はどうして彼女に付き従うのですか?」
「あ?」
砲門のせいで俺の騎兵が釘づけにされてしまっていたので、それをどうするか考えていると、ライアから意図の読めない質問をされた。
というか、俺には彼女はいないんだが。元の世界でもこっちの世界でも。
「彼女――アンジェリーナ陛下ですよ」
「お、俺とリーナはそんな関係じゃない!」
「そ、そんな関係?」
ライアが困惑した表情を浮かべるので、ハッと気づく。
今の彼女っていうのは、単純に三人称のSheだ……。
「い、いや、なんでもない。俺の勘違いだ。そ、それで、付き従うとは?」
恥ずかしい勘違いをしてしまったため、一瞬盤上から意識がそれたが、再び盤上に意識を戻す。
……というか、本当にライアは強いな。
「私にも分からないんですよ……何故かというとですね、貴方の経歴を調べさせていただいたんですが……よく隠してあるのか、貴方は武力政変が起きた時まで、どこにも存在していない」
そりゃあそうだろう。俺はこの世界に物理的に存在してなかったんだから。
「それなのに、唐突に貴方は現れて、そしてこの国を取り返した。圧倒的な機兵操縦技術によって、たった一兵――いや、たった一機で戦況をひっくり返した。これははっきり言って異常ですね」
「そう言われてもな……」
たった一機でひっくり返したと言われればまあ確かにそうかもしれんが、それはあくまでギルやそのほか有能な人たちが頑張っていたからだ。
俺に出来ることは結局、機兵を操ることだけ。そこまで畏怖されるような人間じゃない。
「これだけの力を持っていながら、アンジェリーナ陛下に付き従う。それがよくわからないんですよ。だって、あなたの目、髪の色、顔立ち……どこをとっても、ライネル王国の人間じゃない。なのに、この国のために戦う。理由が分からない」
まあ、日本人だからな。
「そこで私は考えました。いくつかの可能性を。当たっていたら、おひねりとして――」
カツッ、と俺の騎兵があっさりと弓兵に奪われた。
「――貴方の砲門でもいただきましょうか」
「……出来るものなら」
戦況が悪い。今、騎兵がとられたせいで、相手が一気に俺の方を攻めてきた。
それに対処するように考えを巡らせていると、ライアは勝手に話し出した。
「まず一つ目。貴方の機兵操縦技術は、付け焼刃の物じゃない。少なくとも、実戦に近い訓練を何年も繰り返しているでしょう。しかし、貴方の年齢からして、そんな何年も訓練できたとは思えない。というわけで、貴方はこの国の隠し玉――ずっと王城で訓練を受けてきていたと考えます」
なんとか、敵の騎兵を奪い返すことに成功して、なんとか戦況を立て直せた。
しかし、それを気に留めずライアは俺に話しかけてくる。
「しかし、おかしい。そうなると、私にも知られず、エドワードの時代からずっと鍛えられていたことになる」
「アンタだって知らないことはあるだろ」
現に、リーナの師匠や、前王の情報で食いついてきたわけだから。
俺がそう考えて発言すると、ライアは、まるで当たり前のように答えた。
「いいえ。それはあり得ない。この世界で私が予測できないのは、私の能力を一つでも超えられるものだけです。それは、私の知る限り、エドとサニーの二人しかいない。つまり、貴方の情報が出てこないことはおかしいことなんです」
「……大層な自信だな。まるで神になったかのようなセリフだ」
かなり険を込めた声を出したが、ライアはそれにとりあわず答えた。
「そう、おかしいんです。貴方があの戦況をひっくり返したことを含めて、全て。私の前にいる貴方は、予測できないことなんてない。なのに、貴方は私の予測を超えて動いた。だから考えました。もう一つ私が予測できないことを」
「…………」
ライアが、手を止めて俺の方を向く。
そして、俺が絶対に分かるわけないと思っていたことを言った。
「貴方は、この世界の人間じゃない」
ぴたり、と俺の手が止まり、ライアの目を見た。
その瞬間、初めて思った。人生で生きてきて、一度も思ったことが無いことを。
俺の中の常識であり、そして誰も覆せないと思っていたことを。
それは。
(……この人は、シューヤ並みかもしれない。少なくとも、頭の良さだけは)
俺は尋常じゃない動揺を押し殺し、フッと口元に笑みを浮かべて見せた。
「何言ってるんだ。俺がこの世界の人間じゃない? じゃあなんだ。死んでるってでも言うのか?」
「いいえ。貴方がこの世界ではない別の世界……そう、いうなれば異世界とでも言いましょうか。そこから来たと私は考えています。そうなれば、私が探ることができなかった、武力政変までの空白、またその後の戦いに関しても、分かる。そして、どう見てもこの国の人間ではないあなたがこの国のために戦う理由も、貴方が異世界人ならば、納得できる。この国以外に身を寄せることができる場所がないから――この国のために戦うしかないということで」
ずばずばと、言い当てられていく。
こいつの頭の回転はどうなってやがるんだ……
「私の予測を変えられる人間が、私と同じ常識で生きてきているはずがない。勿論、最初から異なる世界なんて考えていたわけではありません。異世界というのは比喩のつもりでした。しかし、貴方は私の知らない――それは文化の違いや、宗教の違いとかそういう次元ではなく違う国、常識で育った人間のはずです。そんな国、この世界には存在しないんですよ。私の常識、予測をはるかに超えられるような成長ができる国は。ならば、この世界ではなく、異世界と考えるしかないでしょう」
今度こそ、俺は何も言えなくなった。
無論、穴だらけの推論であることはまちがいない。
しかし、その眼には確信が宿っている。おそらく、俺に言っていないだけで、他にも膨大な可能性を考えた末の結論なんだろう。
というか、そこまで突飛なことを考えないと俺の存在は彼にとっては理解できないのかもしれない。
それほどまでに、俺の空白の期間というのは、彼にとっては信じられないことなんだろう。
「どうです? 違いますか?」
「……あまりにも突飛すぎるだろう。なんだ、異世界っていうのは」
俺がとぼけようと思ったところで、何故かライアが懐に手を入れて、あるものを取り出した。
そうそれは――この世界にあるはずのないもの。
(ゲーム機!?)
それも、だいぶ古い――数世代前の機械だ。
「おや、顔色が変わりましたね。やはりこれが何かを知っているんですか」
しまった、思いっきり顔に出していたつもりはなかったんだが、どうやら多少顔に出ていたらしい。
「知ってるわけ――」
「私はこれに似たモノを、数点保管しています。これのように全く使い道の分からないものもあれば、分かりやすいものもある。これなんかはそうですね」
今度は、拳銃。しかし、それは撃てるものではない。モデルガンだ。
この世界では、今のところプラスチックを見ていない。つまり、このモデルガンも元の世界の物である可能性は高い。
(なんでこいつが元の世界の物品を……ッ!?)
と思ったところで、ふと思い出す。
そういえば――リーナに昔渡して、今も持ってもらっている、ネックレス型発信機も、この世界の物じゃないはずだ。
つまり、俺もすでに、この世界で手に入れた元の世界の物を持っている。
この世界には、何故か俺の世界の物があるとみて、間違いない。
「どうしました? 固まっているようですが」
「…………」
「やはり、貴方はこれらを知っているようですね」
……なるほどな、ライアがなんで俺が異世界人とか思ったのか。
こうやって、この世界の技術では生み出せないはずの物をいくつか持ってるからか。
(ため息しか出ないな……)
しかし、これで違う世界があるという発想が出てくるのが凄まじいよ、ほんとに。
「では、この対局が終わったらこれらについて説明してもらいましょうかね」
ニヤニヤした顔のライア。
そしてそれは、勝ち誇った顔であることも分かる。
「……もう勝ったつもりかよ」
だから――悔し紛れにこんなセリフを言うことしかできない。
そう、ライアは宣言通り、俺が異世界人であることを認めるような反応をしてしまった瞬間、砲門を取りやがった。
これで、残っているのは――
「残っているのは、歩兵が数体、神官に、そして王だけですよ。どうやって逆転するつもりですか?」
そして、ライアは弓兵も砲門も、そして騎兵も残っている。
俺に勝ち目は、確かに薄い。
「さて、ではどうするんです?」
「まあ、そりゃあこうするしかないわな」
俺は、歩兵を生贄にささげて――当然のごとく、召喚する。
「機兵を使うしかねえだろ」
「でしょうね」
「そしてこうだ」
俺は、機兵を、王と同じコマに入れた。
「は?」
そしてさっさと、動く。
ライアが驚いてコマの動かしかたが雑になった瞬間を見計らって、歩兵や弓兵をあっさりと、とる。
「ルール上は問題ないはずだ」
さらに、俺は王と一体となった機兵で、ライアの騎兵と砲門をとった。
殆どライアに気づかれずに。
「どうした? 形勢逆転か?」
「……おかしい、ですね。貴方のコマの動かし方は読んでいたはずなんですが」
「そりゃあそうだろ。今までとは全く違う動かしかたをしてるんだから」
おやおや? 擬似軍盤が始まってからずっと涼しい顔をしていたライアさん、動揺しすぎじゃあないですかね。
苦笑いするライアに向かって、俺はここぞとばかりに口の端をゆがませて、笑って見せる。
「そうそう、なんで俺がリーナに従っているか教えてやるよ」
足を組んで、出来るだけ偉そうに、今までの失態を取り返すために俺は言ってやった。
「俺の慕う王は、一緒に闘ってくれるんだ」
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