第32話 決闘? いいえ、茶番です
俺とミラは(終始俺がボコされる非道な)鍛錬を終え、準備して機兵の訓練場へ来ていた。
ここでは、機兵が1対1で向き合い、模擬戦をするという形式になっている。だから集団戦がお粗末だったんだな、と今さらながら思う。というか、ちゃんと集団戦も出来る訓練場作らなきゃいけないが、予算が無い。
(っつーかなぁ……)
毎度のことながら、入る度に睨み付けるのは止めて欲しい。居心地が悪いったらありゃしねぇ。
ミラはミラで、怪しい甲冑(しかも性別が分からない。皆男と思ってそう)だからな。こちらもまた警戒されまくっている。
「まあいいか。ミラ、今日も模擬戦やるか」
なんだかんだ言って、ミラの機兵操縦技術は、高い。この世界の基準で言えば、だけど。
弱い人と戦ってもしょうがないし、そもそも俺達は「第一世代型機兵操縦兵」だから、必然的に模擬戦は2人で行うことになる。ムサシやゴクウを使うからな。もちろん、何かあったときのためにサムライモードとかはあまり使えないが。
……ちなみに、サムライモードとかは、専用の訓練設備があるんだが、コレがまた「無いよりマシ」くらいの訓練設備で、改良版を俺のPCを参考に、作らせているところだ。
そうそう、この世界、電気は無いが重機とかはある。じゃなきゃ機兵を作れないからな。これらも、エネルギー源は機兵と同じ、魔魂石だ。
この魔魂石というのは、所謂エネルギーの塊で、鉱山から発掘される。未だに何故こんな物が作られるのかは分かっていないが、小さな大きさでとても大きなエネルギーを生み出せるらしい。
俺は専門家じゃないから詳しいことは聞いても分からなかったが、まあもう魔法のエネルギーってことで納得した。
「じゃあミラ、とりあえずゴクウに乗ってくれ。俺はムサシに乗るから」
と、俺が訓練をしようとミラに声をかけ、ミラが頷いたときに「待て」と制止の声がかかった。
なんだ? と思って振り向くと、そこには、俺より10㎝以上背が高く、顎髭を生やした、目つきの鋭い人物が立っていた。
この人は……確か「機兵部隊」の隊長、ギルバート・ザービルだったかな。
俺が来るまでは機兵の操縦で王国最強だった男で、第二世代型機兵の操縦であれば、ミラも凌駕する腕の持ち主だ。
「なんだ?」
俺は、一応の一応とはいえ、貴族になった。だから人前では平民に――たとえ相手がエリート部隊の隊長でも――敬語を使うことは許されないし、逆に俺より身分の高い人にタメ口をきいてはいけない。
そんなわけで俺より厳つく、貫禄があり、尚且つ実力もある人に対して俺は思いっきりタメ口で話すハメになってしまう。なんでだ。
……けど、その話でいくと、このギルバートは俺に敬語を使わなきゃいけないはずなんだけどな。
思いっきり俺を睨み付けているギルバートを睨み返しながら、ギルバートが何故俺を呼び止めたのか考える。
(……まさかとは思うが、何処の馬の骨か分からない俺が第一世代型機兵の操縦者になることを嫉んでるのか?)
ふとそう思うが……その可能性は無いと思っている。
このギルバートという男、機兵の操縦もさることながら、純粋に軍人としての戦闘能力も、リーダーとしての素質もピカイチ。ハッキリ言ってかなり出来る。それは、俺もリーナも認めるところだ。
と、いうことはつまり――俺とギルバートの間にある、海より深い実力差を感じ取れないはずがないのだ。機兵操縦の技術の差を。
ギルバートは、確かに出来る。ただ、それはあくまでこの世界の基準で、だ。WRBの猛者たちと比べると、せいぜい中級者くらいの腕前しかない。正直、俺と比べようなんて話にならない。これは驕りでもなんでもない、ただの事実だ。
無論、WRBと機兵にはいくらか違いはある。けど、最近になってやっとその違いにも慣れてきたところだ。いや、まあ最初からスイスイ動かしていたけど、それでも若干の使いづらさ(視点とか、レーダーとか)があったのが、最近はほぼ慣れてなくなっている。
つまり、今の俺は「機兵を動かすこと」という一点においては、ライネル王国中最強であることはまず間違いないはずなんだ。
――だからそのことをこの男が理解していないはずがなく、しかもそのことにいちゃもんをつけるなんていう非合理的なことをするようなタイプじゃないはずなんだ。
さて、じゃあなんで俺に絡んできたのかな?
「つくづく思っていたが……貴様がムサシを操縦することが、私は不満だ!」
まさかの!? え、ちょ、噓だろ!?
俺はかなり動揺する。いやだって、そういうこと言いそうに無いから、リーナが(一番最初に指名したのは前王だが)リーダーに指名してるんだぜ?
けどまあ、動揺している暇もない。俺は気を取り直して(一応)貴族として言い返す。
「それはどういう意味だ。私がムサシに乗るということを決めたのは、アンジェリーナ国王陛下だ。貴殿は……まさか、陛下の決定に逆らうのか?」
こういった口調にはまだ慣れない。いやまあ、出来ないことはないんだけど、どうしても変になる。
まあ、取り敢えずリーナの名前を出しておけば黙るだろうと思って言ったが、ギルバートは怯まず、言い返してきた。
「陛下の決定といえど、納得は出来ん! 確かに、我が国を助けたという事実は認める! だがそれは、あくまでムサシに乗っていたからだ! あの時はアンジェリーナ陛下を逃がすために、前国王であるエドワード様がムサシに乗せたようだが、そうでなく最初からムサシを運用していればユーヤ殿のような英雄を欲することは無かった!」
言い返すだけで無く、俺を『殿』扱いか。今は他の貴族がいない場だから、この程度のことで腹を立てて有能なギルバートを罰することは無いが……それでも、軽々にこんなことをする人物だとは思っていなかったんだが。
そこのズレに、俺は違和感を感じて、軽く探りを入れてみることにした。
「そうか……だがギルバート殿は陛下に目通りも敵う身。それ故私には分からないから教えてくれ。何故、態々ここでこんなことを?」
スッと目を細め、俺はギルバートを睨み付ける。
ギルバートは強い眼差しで俺を見返し、口の端を若干つり上げ、堂々と言い放った。
「決まっている。決闘だ! 無論、機兵でな! もしも私が勝ったらムサシの操縦者は白紙だ! そうでなくては、我々の誰も納得出来ん! 地位に相応の力を見せてみろ!」
――なるほどな。
そういうことか。ヤレヤレ、ホントに苦労をかける。
大体察した俺は、ギルバートの考えに乗ることにして、声をあげる。
「生意気な! 私はユーヤ・ナイト・エディムス! この国最強の機兵の操縦者と陛下に認められる身! この私に機兵での決闘を挑むか!」
「当然だ! 私はギルバート・ザービル! この国を真に憂う者! よそ者にこの国の最高戦力を任せられるわけが無い!」
「よかろう! 決闘は挑まれた者が内容を決める、それはいいな?」
「当然だ!」
……よし、なら、圧倒的な力の差を見せてやろうじゃ無いか。というかまあ、そうじゃなきゃならないし。
「ならばいくぞ。決闘の時はこの後すぐ! 場所はここ訓練場! 観戦者は機兵部隊! そして審判も機兵部隊だ!」
「そのつもりだ!」
「――そして、貴様が使う機兵はライトフット。無論、貴殿のいつも使っている機だ。そして私が使う機兵は訓練機!」
「なっ!?」
ギルバートがアホみたいに驚く。まあ、そりゃあそうか。訓練機は、前線で戦えなくなった……所謂退役機だ。前線で戦っているライトフットとは違い、反応速度や動きがまるで遅い。
通常、これらは、訓練兵――つまり、機兵の選抜部隊に選ばれたばかりの者達が動作の訓練に使うものだ。実戦で戦えるものじゃない。
だけど、
「ギルバート、格の違いを見せてやるよ」
ニヤリと笑いながら、俺は少し偉ぶってギルバートを見る。
すると、ギルバートは狂人でも見るような眼を俺に向けてきた。
「……ユーヤ殿、正気か? 訓練機で俺に勝てるわけがないだろう」
「嫌なら、お前がムサシを使ってもいいんだぜ? サムライモードは使えないけどよ」
「……舐めてくれる! いいだろう! その条件でやってやる!」
「よし、じゃあやるか」
俺はそう言って、ツカツカとギルバートの隣まで行って、肩を叩き小声で話す。
「安心しろ、本気でこいよ。じゃなきゃ皆にバレるぜ?」
「ッ!?」
誰にも聞こえてないはずだから大丈夫だろう。
俺は他の兵が嬉々として用意している訓練兵に向かって歩を進めた。
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