第30話 リレヴォリューション

「さて、だ。どうする? ミランダ。前国王の遺言に従い、この国を表から変えていくのっか、それともそれに叛き、今この場で殺されるか――選べ」


 懐にしまっておいたΣを取り出す。いくらリーナの血縁だろうが、味方に付けられない場合は殺すしかない。こんだけ強いし行動力がある奴は、野放しにしたら大変なことになる。


「お姉さま」


「…………?」


「この国は、お好きですか?」


「……当たり前だろう。自国に誇りを持たぬ王族なんぞ存在しない」


 うわー、それ前の世界の人に聞かせてやりたいわ。自分の国を他国に売り渡そうとする、国賊の多かったこと多かったこと。すすんで他国のために動く奴の気が知れないね。


「では、この国はこのままでいいと思いますか?」


「ダメだ」


「では、変えましょう」


 シンプルで、飾らないリーナの言葉。それだけにミランダにも効果覿面だったようだ。


「出来るの、か……?」


「当たり前です(だ)」


 俺とリーナの声がハモった。

 今、ミランダの心は揺れている。自分でどうにかしなくては、という心から、誰かと協力してやってもいいんじゃないか、という心に。

 ここが押しどころだ。


「なあ、ミランダ。なんでそんな迷ってるんだよ」


「?」


「俺はお世辞にもそんなに優秀な人間じゃない。できることと言えば機兵を動かすことくらいのもんだ」


 でも、と俺は少し溜めてから一気に言う。


「お前らを、そしてこの国を守るために機兵を動かすことなら、出来る。そうすれば、お前たちは安心できるだろ? だって、とりあえずこの国最強の機兵に、この国最強の操縦士が乗るんだ。そうそう負けはしない。外からの攻撃は全て退けて見せる。外から攻撃される心配が無くなれば……内政の安定に精が出せるってもんだ」


 俺の仕事は機兵の操縦。つまり、この国の守護だ。


「いいか。一人で背負うもんじゃないぜ? ちゃんと役割を分けよう。何でも出来る人間なんて俺は一人しかしらない。しかも、その一人も結局完璧じゃあねえんだ」


 チート使いまくっても弟に勝てなかったからな。あの兄は。まあ、それ以外はほとんど完璧なんだが。


「な、いいからこっち側にこいよ。正直殺したくはない。お前がこっち側につけば、この国を立て直す機会を再び得られるんだ。悪い話じゃないだろ?」


 そう言って、俺はΣを下ろす。そして、スッと差し出した。

 痺れ薬のせいで這い蹲っているミランダに、右手を。


「……一つ、いいか?」


「なんだ?」


「……何故あたしを欲しがる。あたしの価値は機兵の操縦だろう。だが、何故負けたあたしを欲しがる?」


「決まってるだろ」


 俺は少し呆れ顔でミランダに告げる。


「お前のことが、俺の描く未来に必要だからだ」


 どうあがいても、味方側のコマが少ない。国の中にも敵がいるからな。それだったら、王の姉、しかも超強いチート人間のミランダを、欲しがらない奴なんていない。

 俺のそんな気持ちが通じたのか通じていないのか、ミランダは口の端をフッと歪め、俺の手をとった。


「なるほどな」


「ああ、それともう一つ。コレは俺の意見というより、世の男性を代表して言うんだが……」


 グッとミランダのを立ち上がらせながら、俺は指を一本立てる。


「美人が死ぬのは勿体無い」


「ふっ、ははははっ! なるほど、凄いわかりやすい納得の理由だ。あたしは美人だからな。貴様が惚れるのも無理は無い」


「納得すんのか。つーか惚れてねーよ」


「いいだろう、では改めて。あたしはライネル王国元第一王女にして、現王家直属特別兵団所属のミランダ・ドウェルグだ。主任、よろしく頼む」


「ああ、よろしくな」


 俺はミランダを立たせ、そのまま握っていた手で握手をする。


「お父様の遺言に従おう」


「まだ死んでないけどな、あのおっさん」


 とはいえ、公的には死んだことになるのか。となると国葬を行わなければならないんだろうな……メンドクサイ。


「まあ、次来る時はお前の住居とか、公式な処遇とかが決まってからになる。それまでは窮屈だろうがもう少しだけ牢獄で過ごしてくれ。一応、追放刑にするってことに対外的にはなるんだから、脱獄した扱いでもいいかもしれんが」


 無用な混乱を起こす必要もないしな。っつーかコイツ、牢獄ぶち破ってたからな。ホントはココにおいててもすぐ脱獄されそうだ。


「大丈夫だ。牢獄での生活にも慣れてきたところだ」


「そうか。なら家の用意は――」


「ああ、大変だ。こんな窮屈なところにいたせいで、あたしの精神に異常をきたしてしまったようだ。至急ちゃんとした家にすまないと」


 すまし顔で言うミランダに、俺は思わず苦笑する。ここらへんはリーナの姉だな。しれっと変なことを言う。


「じゃあ、どうする? リーナ」


「そうですね、正式な手続きをしなくてはいけませんので、それまでは隣の牢に入っておいてもらいましょう。お姉さまなら心配ないですよ」


「さっさと出してくれよ?」


「ええ」


 二人は軽く会話を交わし(ミランダはもう痺れ薬の影響が薄れてきているようだ。本当に化け物だな)、笑い合った。それを見届けた俺は隣の牢にミランダを入れ、リーナの横に並ぶ。鍵はさっき看守のおっさんからスっておいたから問題ない。


「行きましょう、ユーヤ」


「ああ」


 リーナは少し名残惜しそうにしながらも、前を向いて歩き出した。




 夜、俺はなんとなく眠れずにベランダへ出た。満点の星空である。こんなもん、東京じゃ確実に見られなかっただろうな。この景色だけでも、この世界に来てよかったと思える。

 ――俺は現在、王家直属特別兵団主任として、女王であるリーナの身辺警護の任にあたっていた。もっとも、リーナは俺よりも圧倒的に強いので、本当に警護が必要かどうかは微妙なところではあるが。

 形だけになっているかもしれないが――護衛をしなくてはならないことは間違いない。

 そんなわけで俺はリーナの隣の部屋――つまり、この国の王の隣の部屋に住んでいる。

 俺、ただの高校生から一足飛びで王城に住めるようになったんですけど。どういうことですか。

 それと、西遊旅団はライネル王国の傘下に加わった。まあ、元々そういう話だったので、その件に関しては簡単にまとまったのはありがたかったな。

 そうそう、さらに、俺は一応貴族になった。そのおかげで、名前が変わったんだが――詳しいことは、また今度にしよう。


「ったく、こっちに来て何週間経ったんだ? さすがにそろそろ慣れてもよさそうなもんだがな……」


 ちなみにこっちの世界でも、一日は二十四時間、一週間は七日、そして一年は三百六十五日だ。ただ、日月火水木金土、ではない。


(……世界は、変わるもんだな)


 一生、シューヤの影で生きるもんだと思っていた。

 一生、シューヤの弟でしかない山上雄哉として生きるしかないと思っていた。

 でも――どうやら、運命の神様は俺を見捨てていなかったらしい。違う世界に生まれ変わらせてくれたんだから。

 こっちの世界はこっちの世界で大変そうではあるが、自分として生きられる。そんな生き方が出来るなら、元の世界よりも百倍マシだ。


「ユーヤ」


「――ん?」


 考え事をしていたからか、気づくのが遅れた。


「リーナ、どうしたんだ?」


 隣のベランダに、リーナが立っていた。

 俺は自分の部屋のベランダから跳び、リーナのいるベランダに着地する。一メートルくらいしか離れていないとはいえ、少し怖かった。


「おい、いくら夜とはいえ気をつけろよ? 狙撃されるかもしれないだろ」


「もう、無粋ですね。せっかくの二人きりの夜だというのに……」


 俺がリーナに注意すると、何故かリーナはふいとそっぽを向いてしまった。


「なんだって?」


「なんでもないです。それより……」


 リーナが、姿勢を正して俺の方を真っ直ぐと見据えてきた。

 俺もそれにつられ、姿勢を正す。


「ユーヤ・ナイト・エディムス。貴方のおかげで私は今回の武力政変を乗り切ることが出来ました。本当にありがとうございます」


 ああ、これはアレか。王として部下を評価する、というイベントか。

 ならば、誰も見ていないとはいえ、俺も部下として対応せねばなるまい。基本、公式の場とか人前では、俺もリーナを敬って接するからな。礼儀はわきまえているのだよ(初対面からタメ口だっただろとか言うな)。


「お褒めに預かり光栄です、陛下」


 そう言って、俺は膝をつき、胸に手を当て、恭しく頭を下げる。ここ最近、リーナに頭を下げる奴らばかり見ていたから、礼の仕方は完璧だ。


「……ユーヤ、顔を上げてください」


 俺は一応膝をついたまま、顔だけリーナの方を見る。


「おそらく、ユーヤ、貴方がいなければ私は今頃王座にいません。本当に、ありがとうございます」


「私に出来ることを精一杯行っただけでございます」


「そう。では、今後ともライネル王国のためにその力をいかんなく発揮してください」


「仰せのままに」


 俺の答えに、リーナは軽く微笑みを返すだけだった。


「…………」


 俺が膝をつき、リーナが居住まいをただし、どれほど経っただろうか。数分か、それとも数秒か。

 微笑んでいたリーナが、手を差し出してきた。


「ユーヤ、立ってください」


 俺はその手をとり、立ち上がった。


「……今度は、ユーヤの友人として、お願い事を聞いてはくれませんか?」


「いいぜ、なんだ?」


「……お父様の手紙にも書いてあった通り、今この世界では革命が頻発していて、次々に王家が陥落したり、また他国がのっとられたりと、乱世になりつつあります」


 東京と違い、ほとんど何も聞こえない。だから、世界が俺とリーナだけになってしまったかのような錯覚に陥る。


「そうなってしまったら、おそらく泣く人が増えます。死ぬ人も……増えます」


「まあ、そうだろうな」


 革命、まあ、成功した人たちが歴史に組み込むからか、必ず正義として描かれがちなもんだが……何のことはない。要するに戦争だ。幸福だけが生まれるはずもない。不幸な人も生まれれば、怪我をする人だって、死ぬ人だって増える。

 つまり、革命が頻発する世ってのは、戦乱の世となんら変わらないんだ。


「そんなこと……私には、耐えられそうにもない」


 悲痛な面持ちを浮かべるリーナ。まあ、俺だって、目的のために、必要ならば、人を殺す覚悟こそ決めてはいるが、積極的に殺したい殺人鬼というわけではない。誰だって、人が死ぬのは見たくないもんだ。


「だから、この世界を変えたい」


「……どうやって? 毒を以って毒を制すか?」


「はい。この世界に、革命を起こします。誰もが笑って暮らせる、素晴らしい世界に変えるために」


 先ほどの悲痛な面持ちとは打って変わり、瞳には炎が燃えていた。それは、情熱の炎だろうか。それとも、戦場の業火なのだろうか。


「たくさん死ぬぞ。たくさん不幸な人が出来るぞ」


「全ての人間を救い上げたい、なんて綺麗ごとは言いません。それでも、多くの人間を救いたい。そのために必要な犠牲があれば、私がそうなる覚悟です」


「なるほどな……」


 ――この世界を変えたい。それを思うことが出来る人間はいる。だが、それを実行に移す、移せる人間なんてそうはいない。まして、本当に変えてしまう人間なんて、ほんの一握りもいないだろう。

 それを、成そうとしているのだ。俺の前にいる、ほんの数週間前に即位したばかりの、若き王は。

 天下統一、という、途方も無い夢を。


「手伝って、もらえ……ますか?」


 少し上目遣いになっているリーナから、いったん俺は視線を外し、ベランダの手すりの方へと近づいた。


「……この世界を変える、か。すげぇよ、強いよお前は。リーナ」


「え?」


 俺は、結局自分の周りの世界すら変えられなかった無能だ。弱い人間だ。だからこそ、お前が眩しい。




 だからこそ、俺はお前の隣で支えてやりたくなる。




「分かった、リーナ。手伝おう。ただし、条件がある」


「え、あ、は、はい。な、なんでしょうか」


 簡単に承諾してもらえるっと思っていなかったからか、少しテンパるリーナ。そんなに構えなくていいのに。


「俺を、見ろ」


「え?」


「俺を、山上雄哉を見てくれ。そして、世界が変わるその日まで。お前はお前のままでいてくれ。愚王に仕える気は無いぞ俺は」


 俺の言葉に、一瞬ポカンとなるリーナ。なんだ、そんなに突飛なことを言ったか?


「ふふふ……分かりました。私は私のまま。そして、ユーヤはユーヤのまま。世界が変わるその日まで、二人でともに行きましょう」


「ああ」


 この世界を……革命が起こり、悲しむ人が多い世界を、変えよう。

 目には目を。歯には歯を。革命には革命を。

 再革命――リレヴォリューションだ!



              第一章 完

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