第27話 絶対切断
少しずつ近づこうとはするものの……ニョイボウとやらの打撃が、俺の動く場所動く場所に的確に落ち、そのたびに俺は足を止めざるを得ない。
『フン、この程度か!』
『そう焦るなよ。勝負はまだまだこれからだろう?』
なんとしても接近戦に持ち込みたいところだが……座標点攻撃を破るすべが思いつかない。サムライソードの特性も。
くそっ、気ばかりが焦る……
『ええいちょこまかと……ならば、これなら、どうだ!』
掛け声と同時に、ゴクウが腰だめにニョイボウを構えた。
まさか――座標点攻撃でムサシを貫通させる気か!?
(くそ――)
無駄かとは思いつつも、俺はこちらに構えられたニョイボウの延長線上にサムライソードを十字にして構える。
すると次の瞬間、ゴクウの機体が微かに揺れると同時に、ドッ、という音がしてムサシが後ろにずり下がる感覚がした。
(……?)
『ほう、今のを防ぐか』
敵さんの、悔しそうな声音。どうやら――俺はサムライソードで、ニョイボウとやらの一撃を受け止めていたらしい。
『はっ、あの程度で終わると思われてたんなら心外だ。むしろいいのか? 今ので決められなかったってことは、もう奥の手は無いんだろ?』
何が起きたかは分からないが、とりあえず強がっておく。くそっ、まだ見つからない。
『ふん、まあいい次だ、いくぞ!』
ビュンビュンと風を切り、二回、三回と素振りをした後、真っ直ぐニョイボウが振り下ろされる――が、俺はその瞬間右のサムライソードを振り上げる。
『そら!』
キィン! と甲高い音が鳴り、ゴクウのニョイボウの軌道が変わり俺の真横の地面を抉った。思った通り。どうやら座標点攻撃じゃあないようだ。
(ニョイボウとやら、名前の通り伸縮自在らしいな。しかも、伸びる部分は透明、と。原作よりも使い勝手がいい武器じゃねえか)
もしも座標点攻撃だったら、突かれた時に終わっているはずだ。今まだ負けていないってことは……違うということだろう。
とはいえ、それが分かったところでニョイボウを完全に防げている分けじゃない。サムライソードで弾いたらムサシがぐらついて前進できないし、躱すと態勢が崩れる。メンドクサイな。
「あー、どうするか……」
後ろに飛びのき、いったん距離をとる。
――このまま十五分間経てば、俺が勝つだろう。第二世代型の挙動しか出来なかった時は俺の方が確実に動きがよかったからな。しかし、このままだと下手したら十五分間もたないかもしれない。それだけ、ニョイボウはチートだ。
『ハッ!』
ニョイボウが横薙ぎに振るわれる。ジャンプして避けられるタイミングじゃない。俺はクロスさせたサムライソードでそれを受ける。
ギィン! と派手な音が鳴って、ムサシのボディが横にずれる。なんて威力だ。これが第一世代型機兵の力か……
俺は少し焦りつつも、なんとか刀の届く距離に潜り込もうと再び両足を前へ動かす。
『バカの一つ覚えが!』
――しかし、敵も然るもの。どうやら横薙ぎなら俺も躱せないと察したのか、執拗に横薙ぎ攻撃ばかりしかけてくる。どっちがバカの一つ覚えだ。
あー、もう、なかなか見つからない……
『ふん、そんな遠くで刀を振り回してなんになる? おとなしく自分の負けを認めたらどうだ!』
遠くから挑発の声が聞こえる。なるほど、よく考えたら機兵どうしの戦いで、しかも第一世代型機兵同士での戦いなら、挑発というのはとても有効かもしれない。一瞬のミスが素で戦うよりもさらに命取りになるからな。
なら、挑発し返しておこう。
『なんでそうなる? 俺はまだ一度も致命傷は受けていないぞ? 判定でも、俺が勝つと思うがな』
言いながらも探す手は止めない。くそっ、ここにもない。どこだ!
『そもそもたかが剣で棒に勝とうなどというのがおこがましいのだ!』
『剣じゃねえ。刀だ』
『どっちでもいい』
『なんだと? つーか刀が棒に勝てないなんて誰が決めたよ』
『攻撃できる範囲と距離が違いすぎる。実戦ではどっちの方が有利かなど、少し考えれば分かるだろう』
『はっ、今はまだ自分の距離だからって余裕だな。――いつまでその余裕がもつか楽しみだ』
『なに?』
『言っておくが……刀と棒、武器を比べることに意味は無い。使い手ですべてが決まるからだ』
『な、なんだと!?』
棒は剣よりも強し、という持論を小馬鹿にされたからか、激昂した声が上がる。
……その反応と、暗殺者からの話を思い出して、このゴクウに乗っている人間にめぼしはついたが、今はいい。
『信じられないか? なら、今から俺が証m――あったああああああああ!!!!』
突然大声を出した俺に、後ろでリーナが驚いている気配がした。
だがそんなこと知ったことではない。
とうとう、見つけたんだ。
「リーナ! この手順にはそれが必要みたいだ。ここを見て準備を頼む!」
「え、は、はい!」
やっと見つけたぞ、サムライソードの特性の使用方法!
『よぉ、悪いな、今まで手を抜いて戦ってもらってて。こっちの動きに合わせてくれてたんだろ?』
『……何を言っている?』
何故か怪訝そうな声が返ってきた。
俺はそれをあまり深く考えず、続ける。
『いや、今まで片手で操作してたからな。そのせいで大分動きが鈍ってたんだが……まあ、手加減してくれてたみたいで助かった』
「もう、ずっとヒヤヒヤしてたんですから」
呆れるようなリーナの声。すまんな、だがやはりこういうのは慣れてる俺がやったほうがいいと思ったからな。
……正直、若干相手を舐めてたことも否定しない。サムライソードの秘密さえ分かれば、一瞬で勝てると思ってたからな。
だってこいつ、前の世界で戦ったライバルたちと比べても、明らかに弱いから。
『バカな……バカな、バカな、バカなバカなバカな! この第一世代型機兵を、片手で操縦できるはずが無い!』
『いや、出来たぞ』
つーかWRBでたまにやってたし。縛りプレイで。
『そんなはずはない! 機神は動かすだけでもそうとうの修練が必要なんだ。まして片手で操縦するなど――走りながら靴紐を結ぶようなものだぞ!?』
リーナが首飾りUSBを差込み、サムライモードにするときと別の操作をすると、今度は「サムライソードを使用しますか? はい いいえ」と出た。
『ありえん、ありえん、ありえん! ハッタリだ、そうに決まっている! 私が機兵戦で負けるなど、あってはならんのだ!』
はい、を押すと……サムライソードからゆらりと陽炎が上ったような感覚がした。
そして、そこから先は見なくても分かる。このサムライソードの特性がどんなものか、どう使えばいいのか、どうやって――敵機を倒すのか。
『うおおおおおおお!! ニョイボウ!』
『遅ぇよ』
バカの一つ覚えのお手本のように横薙ぎ攻撃を繰り出してきたゴクウの、見えないニョイボウの一撃を――俺は、サムライソードでぶった斬りながら前に進む。
『んなっ!』
更に一歩進むと、今度はニョイボウが真上から振り下ろされるが、サムライソードで受けようとしただけで簡単に斬れるのか、受け止めたのに一切手ごたえを感じない。
『何故だ……こんなはずは……』
『そういえば、まだ俺名乗ってねえな』
敵機のスピーカーから絶望感溢れる声が聞こえてきたので、俺はいったんムサシの駆動を止め、相手に警戒しつつ、さっきの相手の名乗りを思い出しながら大きな声で宣言する。
『え~っと……我が機兵は、ライネル王国専属第一世代型機兵――機神、ムサシ。ワンオフアームズはサムライソード、特性は『絶対切断』。いざ――尋常じゃねえ勝負を』
サムライソードを下げ、自然体の構えで相手の出方を伺う。
そして数秒が経過した後、ゴクウが痺れをきらしたのかニョイボウを振りかぶった。
『おおおおお!!』
『無駄無駄無駄ぁっ!』
しかしそれらのことごとくを、俺は斬って斬って斬りまくる。『絶対切断』の特性に相応しく、まるでバターでも切るかのように斬れるが……こうも手応えがないと、本当に斬れているのか不安になる。
斬りながら、俺は一歩、また一歩とゴクウに向かって歩を進める。
そして両者の距離が五歩くらいになった瞬間――ゴクウが、腰だめにニョイボウを構えた。
(来る――!)
ニョイボウの『伸縮自在』の真骨頂、ハイディング・ピアーズ(俺命名)だ――!
『くたばれ!』
いっそ悲痛ともとれるような切羽詰った叫び声とともに、構えているゴクウの機体が一瞬揺れる。ニョイボウが伸ばされた証拠だ。
そしてその透明な突きは、ニョイボウの延長線上――すなわち、このコックピットを貫くだろう。だが、
「俺は、それを、待っていた!」
右のサムライソードを振り、その伸ばされたであろうニョイボウの先端を斬り飛ばし、返す刀でもっと短くなるように左のサムライソードでも斬る。
「おおおお! 二十四連・パーティクルスラッシュ!」
俺は昔観戦者に付けられた技名を叫び、連続斬りを繰り出す。これは俺が一番得意だった技で、そして一番の決め技に繋ぐために相手に近づく技でもある。
ゴクウがこの突きを繰り出す時、そう簡単には左右に動けないであろうことは、一発目を食らった時に分かっていた。人体の構造上(ロボットだが)、あんな風に腰をすえて構えれば、そうそう素早くは動けまい。
そして一気に俺は距離を詰め――
『うおっ!』
苦し紛れに振るわれた、ニョイボウの伸びていない部分を軽く受け止める。
『くっ、次!』
そして更にもう一発伸びていない部分の攻撃が来るが、これも冷静に躱す。
『ぐっ……何故当たらない!』
『おいおい、攻撃が当たらないってところより、伸ばしてもいないニョイボウが受け止められるってところを、心配しなくていいのか?』
『何を言って……はっ!』
そう、奴の伸びていないニョイボウに、ムサシが当たる範囲にいるという事実。
つまり、それは――
『け、剣が届く……ッ!』
『その通り。さて、こっから先は――』
ゴクウがバックステップで逃げようとしてるが、そう簡単に逃がすと思うなよ? 俺はサムライソードの柄の部分でニョイボウをかちあげながら、更に一歩踏み込む。
『――俺の距離だ』
この至近距離でも、相手のニョイボウは当たらない。いや、サムライソードに斬られることを恐れてか、当たるような軌道にニョイボウがやってこない。
ニョイボウを躱し、穂先が下がった瞬間、キイン! と綺麗な音がして、サムライソードがゴクウの頭の上を通った。正確に言うなら、頭があった場所を通った、と言うべきか。
『なっ!』
とたんに狼狽が伝わってくる。どうやら、頭部にメインカメラがあるのは第一世代型機兵にも共通しているらしい。敵機が数瞬制止したタイミングを見計らい、ニョイボウを持っている手の手首の部分だけ斬り落とす。
ニョイボウがもう手に無いことが分からないのか、ゴクウはその後もニョイボウがあるかのように俺に攻撃をしかけてくる。メインカメラが破壊されたから自機がどうなったか判断がつかないんだ。
『憐れに踊る道化師に引導を――』
ゴクウの整合性のとれない、無茶苦茶な隙だらけの動きの隙をつき、前蹴りを食らわせてゴクウの位置を、今から出す技にちょうどいい距離感にする。
『――四連・獅子斬り』
ヒュゴッ! という風を斬る音とともに、ゴクウの四肢が切断されて宙を舞う。右腕、左腕、両足という順番で斬っただけだが――その全てを、ほぼタイムラグ無しで行う技だ。
バラバラと、斬り飛ばされた両腕両足が、地面に落ちる。もはや、ゴクウは身動きできないだろう。さながら、五行山に押しつぶされた孫悟空のように。
辺りが静まり返る。当然か、全員が注目して見ていた戦いだからな。
俺はムサシを軽く操作し、サムライモードを解除して、通常運転に戻す。サムライモードの残り時間は七分――まあ、充分だろ。
そしてシーンとしている連中に向けて、リーナが宣言する。
『私たちの勝ちです。残っている兵は全員投降しなさい!』
漫画だったら背後にドン! とでも効果音が付きそうなほどの気迫だ。
そして、一応全方位を見渡してみるが……視界内のゴリラはもう動く気配がない。最強のはずだったゴクウが負けたわけだから、戦意を喪失しててもおかしくないだろう。
城都は広いからここ以外にもゴリラは潜伏しているだろうが……さっき暴れたせいか、ゴリラの大半はこの付近に集まっていて、さらに俺が斬っていた。残党狩りもそう時間はかかるまい。
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