第26話 VSゴクウ

『だが! 守りはどうするつもりだ! このように力を増やさなければ――』


『力を増やす? そうして他国の傀儡政権にでも成り下がるつもりですか?』


『なっ!』


 リーナは何か言おうとしていた敵の声を遮った。……いや、まあ、今リーナが返答してることは俺が考えて即興で伝えてるだけだがな。


『貴方は、ライネル王国を傀儡政権としたい国の手のものなのではないですか? ゴクウはその国に貸し与えてもらった……そう考えれば、納得できます』


『そんなわけがないだろう! 私はこの国を守るために! こうでもしないとどうやってこの国を守れると言うんだ!』


 リーナは、軽く深呼吸し……最後に、大きく息を吸い込むと、今日一番の威厳の籠もった声でまくしたてる。


『簡単な話です。ムサシがいます。わが国の守り神、ムサシがいるかぎり、この国は安全です。必ず守りきってみせます! ……それを証明するために、今からこの傭兵団を、全て倒します! そうすれば、守りは完璧だということが証明されるはずです!』


『なんだと……このゴクウに勝てると思っているのか! そんな実戦経験がほとんどないような機体で! それに、そもそも第一世代型機兵を完全に使いこなせる操縦士などライネル王国にはいないはずだ!』


 そこまでゴクウが言ったところで、俺はリーナと喋る役を交代する。


『何、言ってるんだ? そっちこそ――その程度で、と思ってるのか?』


 突然声が変わったはずなのに、ゴクウは驚かずに言い返してくる。


『……よほど殺されたいらしいな』


『小者がいきがってんじゃねーよ。相手を見てから調子に乗れ』


 ピリッと殺気が張り詰める。その様子を見て、空気を読んだのか周りの機兵たちが少しずつ遠ざかっていく。

 邪魔者が消え、その消えていった邪魔者で構成された円が、戦闘範囲。

 この中で、一騎打ちの大将戦だ。


『……じゃ、いくぞ。貴重な第一世代型機兵だからな、なるべく壊さないように戦うつもりだが……まあ、死んじまったら許せ』


『その心配は無い。なぜなら死ぬのは貴様だからだ』


『やれるもんなら』


 俺はそれだけ言い残すと、ゴクウに向かって駆け出した。


『やってみな!』


 ――さて、敵さんの実力はどれほどかね。

 俺は牽制の意味も含めて、真っ直ぐ刀を振り下ろすと、ゴクウは持っている棒でその刀を受け止めようとしていた。


(バカが。この刀を受けられる分けねーだろ)


 これは一発で決まったか? 俺がそう思い、口元を一瞬緩ませた瞬間、

 ガキィッ!


『なっ、う、受け止めやがった!』


『バカめ。ワンオフアームズが斬れるか!』


 ワンオフアームズ? なんだそりゃ。

 よく分からないが、とにかくあの棒はちょっと斬れそうにないらしい。


『チッ』


 どうやら向こうも近接型の機兵らしく、距離をとってくることはない。

 刀を振るい、頭部を狙う……が、間一髪躱される。俺が刀を振り切った瞬間を狙ったのか、敵の棒が俺に迫るが、転がってそれを空ぶらせる。


(レベルもなかなかだな……CPUにしたら15、くらいか? 少なくとも、中堅以上の実力はあるな)


 俺の横薙ぎの一撃が、また棒で受け止められる。……が、それを読んでいたので、受け止められたのを利用し、相手の後ろに回る。相手はそれに虚をつかれたのか、一瞬間が開いた。いける、殺れる!


『くらえ!』


『ぐっ!』


 しかし、どうやら第一世代型は反応速度も第二世代型とは段違いらしい。完全に決まったと思うタイミングだったのに、装甲の一部を切り取ることしか出来なかった。

 反転したゴクウから、今度は突きが繰り出される。……悔しいが、武器のリーチは棒の方が長い。上手くかいくぐらないと刀が届かない。

 いくつかの突きを捌きながら、相手の懐に飛び込むタイミングを計る。二回、三回、と突きが繰り出されると、一瞬止む。コンボ終了の瞬間だろう。そのタイミングにあわせて、俺は斬りつける。


「チッ、浅いか」


 何度か打ち合ううちに、向こうの攻撃パターンは大体つかめてきた。ほとんどムサシと同じらしい。違うのは、突きがあることくらいだが、その突きも大分慣れた。


『おい、さっきから全然攻撃が当たってないぞ? やる気ないのか?』


 スピーカーで煽ってみる。すると、どうやらカッときたらしく、一直線に飛び込んできた。俺はその攻撃を捌き、いなし、弾きつつ敵のゴクウの装甲を削いでいく。一撃でやれないなら、ちょこまか攻撃を当ててやるぜ。

 それを嫌がったのか、初めてゴクウが俺から距離をとった。

 ――正直、ムサシの刀がクリーンヒットして、無事でいられる機兵が存在するはずがない。俺は落ち着いてこうやって攻撃を当て続ければいい。


「だが、まあ」


 ブゥン……

 何かが起動するかのような音が聞こえ、ゴクウから湯気のような――オーラのようなものが立ち上る。


「そう簡単にいくわけねーよな」


『エンジンモード起動』


 システマチックな音声が聞こえてきた。

 そして、ゴクウはヒュンヒュンと棒を華麗に回す。


「……WRBでは棒っつー武器は無かったからなぁ。さすがに戦るのは初めてだな」


 戦ったことのある長柄の武器と言えば、槍とか、ハルバートくらいか。

 相手がアレを使う以上、いくらなんでも、このままじゃ勝てまい。 

 とはいえ――


『第一世代型同士の戦いだ。先にそれを使ったほうが負けるってのは分かってるんだよな?』


『ああ。時間切れになる前に倒せば問題ないということもな』


『へえ。まあ、やれるもんなら、やってみな!』


 俺は、ゴクウの懐までムサシを走らせる。

 どれだけ動きが機敏になろうとも、耐久力までは変わらないはずだ。だから、こっちのモードでも一撃入れることが出来れば――勝てる。

 ムサシがゴクウとの距離を半分にまで縮めた時、不意にゴクウが棒を振り上げた。


(なんだ? そんな距離じゃいくらなんでも届かな――待てよ? ゴクウ、エンジン……悟空、猿神!?)


 そんなまさか、冗談だろ? そんな言葉遊びじゃあるまいし――しかし、そんな理性の判断を、俺の直感は一切信用せず、ゴクウの棒が振り下ろされる瞬間、横っ飛びに転がってその場から飛びのいた。

 ドウッ!


「っ!」


 い、今までムサシがいた場所が、抉れやがった……ッ!


「……ゆ、ユーヤ?」


「ああ。なんだってんだ? 攻撃が目視できなかったぞ?」


 そう、振り下ろされた場所には、棒も何もない。 

 まさか――座標点攻撃とか言わねえだろうな!? そんなん、魔法とか超能力の類いじゃ無きゃ不可能だろ!!


『ほう、今の一撃を躱すか』


 棒を構えなおしたゴクウから、冷静な声が聞こえてきた。


『まあな』


 俺はその台詞に返すと同時に、リーナに目で合図を送る。サムライモードを起動させる合図を。


『――ああ、そういえばまだ名乗っていなかったな。私のこの機兵は、西遊旅団所属第一世代型機兵――通称、機神ゴクウ。ワンオフアームズはニョイボウ。いざ尋常に勝負を』


 敵が名乗りをあげている間に――


『モードチェンジ。サムライモード』


 ――腰に佩いているもう一方の刀を抜き、構える。

 こっちも、本気だぜ。

 お互い、奥の手を出し合った同士。かなり緊張した空気が流れる。


(しかし、待てよ? さっき奴は特性とか言ってたな。ニョイボウの。ワンオフアームズ? には何か特性があるのか? その考えでいくと……特性があるとしたら、サムライソードか)


 俺はリーナに、とある物を出すように言いつつ、構える。


『さあ、勝負だ』


 最終決戦の火ぶたは切られた。





 正直言って、まあ負ける気はしない……が、勝負とは油断するから番狂わせというものが起きるのだ。

 勝つその瞬間まで気を抜いてはいけない。


「ゆ、ユーヤ……そんなこと私がやりますから」


 だからこそ、今は不利になってもこれをやる。


「ダメだ。確かにそうした方がいいだろうが……お前、これの中からたった十五分で目当てのものを見つける自信があるのか? 何ページあると思ってるんだ。こういうのは慣れている俺がやる」


 そんな会話をしている間にも、敵の見えない一撃が飛んでくる。


「チッ!」


 俺はそれをギリギリで回避し、一歩でも前に進もうと足を踏み出す。

 ――が、


『はっ!』


 二発、三発と棒が振り下ろされる。もちろん、棒の動きである程度軌跡は予想できるが……見えない打撃というのは怖い。一撃もらえば即死だと分かっているとなおさら。


(……座標点攻撃なんてチートにもほどがある)


 だからこそ、早く見つけなくては――


「っと!」


 さっきまで俺がいた場所が大きくえぐれる。くそっ、俺が近づけないのを知っててブンブン振り回してきやがる。

 くそっ、面倒くさいなぁ、オイ!

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