第25話 いざ、決戦へ!

 それから数時間――

 俺とリーナは、とんとん拍子に進み、もう城都の周辺にたどり着いていた。


「アレ以来、機兵とは出会わなかったな」


「そうですね」


 おそらく、あいつらは前線から逃げ出した兵だったのだろう。だからこそ、これ幸いとムサシを討ち取って手柄を挙げたかったから、襲い掛かってきたんだ。

 まったく、アホな奴らだ。


「ユーヤ……その、訓練はどうですか?」


「ん? そうだな……今なら、第二世代型機兵が八十機くらいきても、全てを斬り伏す自信があるぞ。サムライモードにならずに、な」


 最終的に、CPUの強さは最大の9で、九十機まで倒せるようになっていた

 これなら、おそらく城都にいるであろう機兵も倒せるはずだ。

 ……うん、まあ、正直やりすぎだな。つーかこれ、自分で言うのもなんだが、大分チートなんじゃないか? 相手に第一世代型がいないかぎり、ただの虐殺、殲滅になりそうなんだが。

 俺がノーパソの画面を見つめて呆然としてると、リーナがいたわるような声音で話しかけてきた。


「でも……実戦とは大分違うと思いますから。やはり、油断は禁物ですよ」


「まあそうだな。いざ実戦となれば、向こうも組織的行動してくるだろうし」


 同士討ちのような情けない真似はするまい。そうなってくると、多少は話が違ってくる。まあ、本当に多少なんだが。


「ユーヤ、頑張りましょうね」


「ああ。そろそろ行かないとな」


 だんだん、喧騒が近づいてくる。

 派手なマシンガンの音や、何かが倒れる音。

 機兵の駆動音や――爆発する音。

 戦場が、近い。

 城都は、城の周りを大きな砦、そして更にその周囲を壁で覆っている構成になっている。

 だから、その砦が壊された時が、城が落ちる瞬間だ。


「それをさせないために、戻ってきたんだよな?」


「はい。逃げてばかりではいられません。……ドウェルグ家に再び主権と民の信頼を得るために、そして誰もが笑って暮らせる世界を作るために」


「とりあえず、国賊どもをぶち殺そう」


「…………はい」


 俺から目を逸らして頷くリーナ。しまった、軽々しく殺すなんて言ったらダメだった。今、俺たちがいる世界は、殺すって言ったら本当に相手を殺す世界なんだった。

 だから、俺は話を逸らすためにも、リーナの頭にポンと手を置き、微笑みながら操縦を代わる。


「リーナ、お前の演説が大事だからな」


「あ、やっぱりやるんですか……」


「当たり前だろ。俺の戦闘力とリーナのカリスマに全てがかかってるんだからな」


 リアル王女様なんだ。カリスマにかけては心配あるまい。


「分かりました……せめて、原稿だけでもないですか?」


「ああ、訓練の最後の方、ほとんど片手で全滅させられるようになってたから、開いた方の手で書いといた」


「ソレが本当だとしたら、やっぱり目の前にいる存在が、本当に人間か疑わしくなってきたんですが……」


「失礼な。俺はちゃんと人間だ」


 俺はポケットからさっき書いた原稿を取り出す。


「それ、まあ、俺が言っても誰の心にも響かないだろうけど……リーナ、お前が言えば違うはずだ。王族のカリスマ、魅せてもらうぜ」


「魅せてもらうぜ、と言われても……まあ、頑張ってみます」


 自信なさげに俯くリーナ。ううん、どうしたものか。

 俺が何か言おうと、後ろにいるリーナの方を向いたところで……


『全軍に告げる!』


 なんて声が、銃声と爆発音が鳴り響く壁の中から聞こえた。


「なんだ……いや、そうか」


『今から! 第一世代型機兵ゴクウを出陣させる! この国を守り、治めるのにふさわしいのは我らということを、存分に思い知らせてやるのだ!』


「ははっ……悪い方の予感があたったな。いるぞ、やっぱり」


「ええ。いましたね」


「第一世代型機兵ゴクウ、か。こりゃあ面倒な展開になりそうだ」


 俺は、手近な壁を斬り裂き、城都の中に完全に侵入する。


「っ! こ、これは……」


「火の海……」


 案の情とでも言うべきか、火の海だ。そして、その中でたくさんの機兵が戦っている。

 歩兵の姿はほとんど見えない。当然か、こんなスーパーロボット大戦、巻き込まれたら……ひとたまりもあるまい。

 だが、逃げ遅れた一般人の姿はちらほらみかける。これは、酷い。


『な、なんだ貴様は!』


 壁をぶった斬って入ってきた俺を見つけたゴリラが、そう叫ぶが……俺はその問いには答えず、一瞬で斬り伏せる。


「どこにゴクウはいる?」


「分かりませんが……城は向こう側です」


「よし」


 なんとしてもゴクウとの一騎打ちにしなければならない。そのためにも、走る。

 その途中、何度も敵と出会うが、俺がムサシだと確認させる暇もなく、全て瞬殺する。

 歯ごたえが無い――まあ、こっちの操作にもやっと慣れたってところだろうな。もともとこの手のゲームも俺得意だったし。

 そうやっていきなり現れた機兵のスペックが妙に高すぎることに敵方の指揮官が気づいたのか……何機もの機兵が、一度に俺たちに向かってきていた。


『あれはライネル王国の最後の砦、ムサシだ! やっと出て来たか……全軍! 総力を持って討ち取れぇぇぇぇって、えええ!?!?!?』


 なんだか敵の指揮官らしき機兵がかっこつけていたが、まあ気にせず俺は敵を屠る。

 どうやら両軍決め手にかけて、双方攻めあぐねていたところだったらしく……俺が斬るたび、みるみるゴリラの数が減っていく。

 ドンドン敵が増殖するが(それはまるでゴキブリのよう)、関係ない。一機ずつ潰そう。


「よっ」


 目の前にいる機兵がこちらを切ろうとしてきたので、その剣ごと斬り裂く。

 やれやれ、味方であるはずのライトフットも襲ってくるから、どっちが敵でどっちが味方か分かんないな。まあ、こちらに攻撃してきたら全部斬ろう。


「ユーヤ、囲まれましたよ」


「問題ない。全員斬る」


 囲もうが何しようが、操作に慣れた今の俺に、この程度の機兵が何機いようと話にならない。背後を注意しつつ、斬って斬って斬りまくる。


『くっ……だが! こちら側にも第一世代型機兵はいる! 団長! 来てください! 出ました、ムサシです!』


 差し向けられた機兵の半数を倒した当たりで、指揮官が叫んだ。どうやら真のリーダーであるゴクウとやらを呼び出したらしい。

 そして遠くの方から……ガシャンガシャンと機兵が走る音が聞こえる。


「お出ましか」


 そして現れた機兵は――オレンジ色の機体、なぜか頭部には輪のようなものがついており、頭頂部は金色に光っていた。武装はどうやら長い棒一本らしく、他の装備は見えない。

 しかし、本物のオーラが漂っている。

 ああ、なるほど。分かるぜ。

 こいつが裏切り者――クーデターを起こした張本人だ。


「リーナ」


 俺は画面を見て、ゴクウから目を逸らさず、リーナに問いかける。


「準備はいいな?」


「ダメと言っても強行するのでしょう?」


「分かってんじゃねえか。……よし、やれ」


 俺はそう言いながら、ムサシのスピーカーをオンにする。


『皆さん』


 リーナの威厳ある声が、戦場に響き渡る。

 決して大きくなかったはずのその声に、多くのものが動きを止め、こちらの話を聞いてくれているようだった。


『今回……裏切り者が出て、このようなことになってしまったことは残念でしょうがありません。何故、こんなことになったんでしょうか。それは、父が軍備縮小という愚を犯したからでしょう』


 どうやら、声でリーナと分かったらしい聴衆だが、特に動きは見せず、ゴクウだけが反応を示した。


『その通りだ。こんな小国でそんなことをすれば、今はいいかもしれないが、いずれ大国に攻め込まれる。……こんな風にな。その時、どうやって国を守るんだ? この程度の寄せ集めの傭兵部隊にも遅れをとるような国が』


 挑発的な台詞だった。しかし、それを無視してリーナは続ける。


『……そう、このまま王城が陥落すれば、この方々が政治を司ることになるんでしょう。しかし、皆さん本当にそれでいいんですか? 確かに、国は守れるかもしれません。しかし、政治は? 世の中で武力政変の行き着く先は一つしかありません』


 そこで言葉を切る。どうやらゴクウの出方を伺っているようだが、ゴクウは沈黙している。

 ならば、とリーナはさらに厳かに語りだす。


『そう、軍事独裁国家への変貌です』


『心外だ!』


 突然ゴクウがさえぎり、叫んだ。


『私は真に国を思うからこそ、こうやって兵を率いたのだ! そんな国に成り下がることなど断じてない!』


『本当にそうでしょうか。あなたの言葉に、信用はありますか? そんなことが起こりえないという根拠がありますか?』


 今度は誰も異を唱えない。いや、言いたいことはあるのかもしれないが、黙っている、って感じだ。


『――私は、今まで善政をしいてきたドウェルグ家の一員です。父の行った軍備縮小は行いませんが、それ以外は父のやりかたを踏襲し、それでいて更に過ごしやすい国を作り上げます。それが、出来る。証拠はこのライネル王国の歴史です』

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