第15話 決戦に向けて
宿屋の部屋に戻り、ソファに上着を脱ぎ捨ててから、その隣に座りさっき買った肉まんらしき物を食べる。
「美味しいな、これ。冷たいけど」
「そうですね」
リーナも少し不満そうにしている。やっぱり、肉まんは熱々が美味しい。
電子レンジが無いって不便だな……こっちの世界でもどこかで手に入らないだろうか。無理か、電気が無いんじゃ。
他のものも食べる。……やはり、美味しいんだけど、なんだか惜しい。
「ああいうのって、買ってすぐ食べるモンなんだろうな」
しょせん屋台だもんな。
「はい。やはり作りたてがおいしいですからね」
「だよな」
まあ、腹は膨れた。これならエネルギー切れになる心配は無い。
「しかし……今日はたくさん聞いて回ったな。大分疲れたよ」
「そうですね。それにユーヤはいちいち頭を使っていたんですから、それも疲れたでしょう」
「言われるほどじゃないさ。でも……まあ、そうだな。今夜は少し早く寝よう」
俺は地図を広げ、経路を確認する。
「さて、俺たちは明日城都へ行く」
「いよいよ……ですね」
リーナがそういった後、フッと自嘲めいた笑いを浮かべる。
「でも……頑張るのはユーヤだけで、私に出来ることなんて無いでしょうけど」
……まあ、戦うのは俺だしな。
でも、じゃあリーナが役立たずなのかって言われたら、そんなわけはない。
俺は少し気だるげに、リーナに明日の計画を話す。まあ計画と言えるほど練りこんだ内容では無いが……。
「まず、明日は日の出と同時に城都へ向う。そしてなるべく近くに気配を消して潜むんだ」
「それで、どうするんですか?」
「敵側の第一世代型機兵が出てくるのを待つ。出てきた瞬間――リーナ、お前が演説する」
目下、一番重要なことだ。
「え、演説?」
リーナが素っ頓狂な声を出す。そんなに意外だっただろうか。
「そう、演説だ。お前が国民から……というか兵士や城都にいる人、武力政変を起こした人からの信頼を勝ち得てから、俺が敵の第一世代型機兵と戦う。なに、演説の内容は考えてある。それをお前が威厳たっぷりに戦場にいる奴らに語りかければいい。拡声器代わりに機兵のマイクを使えば問題ない」
まだマイク機能は見つけてないが、明日探せば見つかるだろう。ゴリラは使えてたし。
「言っておくが……俺たちに正義があると国民や、兵に思わせなければならない、大変な作業なんだ。特殊な人種を除いて、普通の人間は、自分たちに正当性がある場合――平たく言えば、自分たちが正義だと思ってる場合じゃないと人を傷つけられない生き物だ」
「はあ……」
俺が何を言ってるのかピンと来ていない様子で、リーナは首をかしげている。
それにかまわず、俺は伝えなきゃならないことを伝える。
「俺たちは敵を倒すんじゃない。国を盗り返すんだ。国っていうのは、領土、政府――そして、国民が必要だ。どうあがいても国民の心を手に入れる必要があるんだよ」
そして、国民を見方につけ、この戦争を軍部の暴走という完全なる悪として認識させる。
首謀者が誰だか知らないが……よほど上手くやらないと、クーデターで国民の信頼を得ることは難しい。
とはいえ、こちら側も、王様がなんかやらかしたらしいから……こちら側に付く国民は少ないんだろう。じゃなきゃ戦争になってない。
「なんとしても、あいつらを国賊にするんだ。そうでもしないと、国民の同意が得られない。そのためにも、リーナの演説と、ムサシが必要なんだ」
状況的に、今の国民はどっちにも転がると見ていいだろう。だったら、先に心を掴んだ方の勝ちだ。
国民の心を掴まなくては勝てない。
「だから、お前が必要なんだよ。じゃなきゃ勝てるモンも勝てなくなる」
「そう、ですか……」
俺が言うと、ほんのり頬を朱に染め、嬉しそうな表情になるリーナ。
まあ、やっぱり誰かに必要とされるとうれしいよな。俺みたいに。
「だから、頑張ろうぜ」
ニッと微笑む。……演技でなく、自然とこんな表情をするのも、いつ以来だろうか。向こうにいたら考えられないことだ。
リーナもニコリと俺に微笑み返し、とても嬉しそうな声で返事をした。
「はい!」
――が、
「それは無理だな」
突如第三者の声が、俺たちの空間に入り込んできた。俺とリーナ以外、誰もいなかったはずの空間に、だ。
「「!?」」
俺とリーナは咄嗟に飛びずさる。
「何モンだッ!」
俺はそう叫びながら、突如現れた黒ずくめの侵入者に殴りかかるが、
「悪くないが、少々キレがないな」
「チッ……!」
簡単に止められた。体勢が悪かったとはいえ、この様かよ。くそっ、生半可なチンピラじゃねえ、訓練を受けた人間だ……
俺は手を振り払い、狭い部屋の中一応少し距離をとる。
(あー、なんでこうなった)
全身黒ずくめで、目だし帽を被っている男(そんな格好じゃ逆に目立つだろ)が、じろりと俺を睨む。強盗か、それとも……
「死ね」
リーナが言ってた暗殺者か。まさか本当に来るとは思ってなかったぞ。
「嫌なこった。まだやりたいことがあるんでな」
俺は左手を開手、右手を拳にした構えを取る。
空手、柔道、合気道……似てるもんはあるだろうが、全く同じものは無いはずだ。
人間は、初見の動きにはそう対応できないもんだ。そこにつけこむしかねえ。
「ユーヤ! 向こうの部屋にも気配が!」
リーナがそう言うと同時に、寝室から二人も暗殺者が……ッ!
「チッ、寝込みを襲おうと思ったのによォ!」
「そう言うな。三対二で仕損じるはずも無い。多少作業が面倒になっただけだ」
俺がそちらに気をとられていると、パチンと目の前の暗殺者Aから音がした。
(バタフライナイフとか……暗殺に不向きだろう。この世界、ホントにアンバランスだな)
刀身が黒く塗られてるあたり、暗殺用なんだろう。しかし敵がナイフを持ってて、俺が無手とか不安すぎる。まあ、銃があるが……使える、か?
出来れば使いたくない。おおごとになる。というか、人を撃つなんて初めてだしな。
「リリス! そっちのモブ二人を頼む!
俺は特殊警棒を投げ渡し、暗殺者Aと対峙する。
「はいっ! 私が助けに行くまで持ちこたえて!」
リーナはそう叫んで、寝室に暗殺者B,Cをぶち込んで、自分もそちらに入る。
「おいおい、俺はボコされる前提かよ」
「……貴様如き、すぐに殺して彼らの加勢に向わねばな」
「つれないな。もっと遊ぼうぜ? っつーか、女の方を重要視するってことは……あいつが誰か分かってるってことか」
「アンジェリーナ・ドウェルグ、ドウェルグ王家第二王女であり、天ノ気式戦場活殺術免許皆伝の実力者。正直そちらの方と戦いたかったんだが。まあ……さすがに、うちの手練二人を相手にして生き残れるとは思えないが、な」
「あいつ、強いぞ? お前じゃ勝てないだろうな」
睨みあいながら、探る。
このさい相手のバックボーンなんてどうでもいい。
まともに戦えば俺は絶対にこいつに勝てない。だけど、この状況を切り抜けられる方法を探さないと……!
向こうの部屋から、ガスガスと音が聞こえる。これがリーナが殴られた音じゃないと今は思うしかない。
「シッ!」
「遅ぇ」
ナイフが横から来るのを、右腕で受け止める。シューヤ謹製の、チートアンダーウェアで。
「シューヤに助けられるとか、人生何が起きるかわかんねえもんだ」
グッとナイフに力を込める暗殺者A。しかし、びくともしないので、少し驚いているようだ。
「……刃が、通らないだと? 下に甲冑でも着こんでいるのか?」
「そう。軽いし、来ててもバレないし、いいだろ。あげないぜ?」
「必要ない。全身甲冑でない以上、頭を狙えば終わりだ」
そう呟いた暗殺者Aは、正確に俺の頭を狙ってナイフを振りかぶった!
それをまた腕で受けた俺は、体勢を崩してしまい、暗殺者Aの蹴りをよけられず、腹にくらってしまう。
「ぐはっ!」
横に転がり、再び距離をとる。あばらにいいのをもらっちまった。ちょっと痛かった。シューヤにこのアンダーウェアの性能レポ送るときに「もっと耐衝撃性能を上げろ」って言わなきゃなんねーな。
「……よく立てるな。今のは確実に肋骨を折ったと思ったんだが」
「はっ……そんなへっぽこな蹴りで殺られるかよ」
どうやら、大分衝撃を軽減してあの痛みだったらしい。こいつどんだけ強いんだ……
「死ね」
「嫌だっつってんだろ」
拳を数度交差させる。俺は右拳を振るうが、奴の手に阻まれ、決定打を打てない。逆に奴の拳は、躱したと思っても、そこから更に伸びてきて――俺の体に当たる。アンダーウェアのおかげでそこまでの痛みは無いが、それでもダメージは蓄積されていく。なんとか顔付近だけは躱しているが、それもいつまで保つか。
俺の喧嘩戦法は通用しない。ならばと思い、空手の構えを取る。
(これでどうだ!)
右手と右足を同時に出し――放つ、渾身の正拳付き。当たれば一撃で倒せる。しかし、それもまた奴には当たらない。掴みかかろうとするも、躱される。クソッ、特殊警棒があればまた違ったかもしれないのに。全然ダメだ、技量が違いすぎる……
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