第14話 マズいな
ここで必要なのは情報屋――ではなく、情報そのものだ。情報がないと話しにならん。
そして、話しかけるとしたら――
「見つけた。ちょっと行ってくる」
「え? あ、ちょ、ユーヤ!?」
「ここで待ってろ」
俺は馬車に乗っている男に近づく。プライドが高そうで、タキシードを着ているが……似あってない。それもそのはず、見た目が若すぎる。どう見ても俺より年下。
「やあ、少し尋ねたいことがあるんだが、いいか?」
「急いでるんだ。手短に頼む」
声は普通、か。ってことは単に童顔ってことだな。
「なに、城都の様子がどうなってるかを知りたくてね。俺は駆け落ちモンなんだが……城都の戦争にまぎれて逃げてきたんだ。あっちが終結してて余裕が出来てたら、俺たちは連れ戻されてしまう」
「なるほど、いや、すまない。僕も向こうに向かう途中でね。ただ、仲間から『とても激しい』とは聞いている。終盤の方らしくて……下手したら明日には終わってしまうかもしれないとのことだ」
「なるほど……助かった。恩に着るぜ」
俺はその男に礼を言い、少しの金を渡してその場を去った。
リーナのところへ行き、狙う人間を伝える。
「と、いうわけで狙うのは馬車に乗っていたりする、いかにもな旅人だ。この大きい街から出て行くんだ、その理由には戦争のことが考えられる。だったら、正確な情報を持っているはずだ。そうじゃなきゃ逃げ出さないだろう」
「なるほど」
「情報はアウトローの専売特許じゃないさ。お、またいた」
――その後、俺とリーナはさらに何人もの人間に話しかけた。
もちろん、その中には情報を持ってない者もいたが……情報を持っている人間は、必ずこう答えた。
『明日には終結するだろう』
――と。
(さて……)
「ユーヤ? なんで笑っているんですか?」
「いや、これはマズイな、と思ってよ」
「まずい?」
「ああ。このままじゃ――俺たちの出番が無くなる可能性がある」
そう。明日には戦争が終結するだろう。
では、どちらの勝ちで?
それは――
「ああ、城都? それは……王国側が優勢だったよ。このままじゃ明日にでも終わるんじゃないかな?」
これで最後にして宿に戻ろう、そうリーナと決めて話しかけた相手も、その他大勢と同じことを言った。
王国側が優勢だ、と。
(マズイ、非常にマズイ。このままじゃほぼ間違いなく……王国側が、俺の予想よりも早く負ける)
俺は軽く礼をして、リーナの元へ戻る。
「やっぱり、王国側が優勢で決まりみたいだ」
「そう、ですか……」
今、王国側が優勢にみえるということは……敵はまだ第一世代型機兵を使ってないということだ。
それはつまり、いつでも戦場がひっくり返る可能性があるということ。敵の指揮官も馬鹿じゃないだろうから、取り返しの付かなくなる前に第一世代型機兵は出すだろう。
そう、あと一日で負けそうという状況でも、まだ出さないということは、それはつまりそれだけ圧倒的な実力差があると思われているということに他ならない。
今はまだムサシを警戒しているだろう。しかし、ムサシがいないと分かれば……すぐに、落ちてしまう。
無論、これは敵側が第一世代型機兵を持っていることが前提の話だが、悲観論で備え、楽観論で行動せよ、だ。備えが足りなくて負けましたじゃ話にならん。
「あー、クソッ……どうするか、明日まで待つかそれとも今すぐ動くか……」
俺は頭を掻きながら、つい苛立った口調でブツブツ言ってしまう。それを見かねたのか、リーナが俺の手をギュッと握って、毅然とした眼差しで俺を見つめてきた。
「ユーヤ、落ち着いてください。日がもう落ちてしまったので、身動きが取れません。それに、明日には終わるかもしれない、ということはそれまでは敵が完全に追い詰められる状況にならないということ、第一世代型機兵が出てくるほどの状況にはならないはずです。しっかりしてください」
俺はその眼差しに射竦められ……心が、妙に落ち着くのを感じた。
「……そう、だな。今ここで焦ってもしょうがない。明日のことは明日のことだ。まだ慌てるような時間じゃない」
両手を広げ、抑えつけるような仕草をして首を振る。
「はい」
……パロネタであることはわかってもらえなかったがそれはさておき、俺は落ち着きを取り戻し、冷静になった頭で、明日の計画を練り始める。
「あ、あそこに屋台がありますよ。晩御飯を買って帰りましょう」
「ん? ああ、そうだな。明日の朝飯はまた買うとして、晩御飯は必要だものな」
と、俺とリーナでその屋台に行くと……肉まん、か? これは。
「よう、兄ちゃん、安くするぜ?」
気さくに屋台の男が話しかけてきた。
さて、日本ではある一部地域を除いて行わないが……こういう屋台では、値切るのが常識とされている。むしろ、値切ったりの交渉が目的でこういう屋台を出している人もいると聞く。
ここの国はどうなのか知らないが……肉まん一つ1000ロッヅってのはおかしいだろう。
「た、高い……」
リーナがうめく。そうか、そうだろうな。
「リリス、まあ見てろ。なあ、安くしてくれるんだろう?」
「ああ? まあ、常連になってくれるならな」
「そうか、じゃあ10ロッヅにしてくれ」
俺がニヤリと笑って言うと、屋台の男は「はっはっは」と小馬鹿にするように笑い、
「兄ちゃん、そんなに安くしたら俺の家全員飢え死にしちまうぜ。冗談はよしてくれよ」
と、首をカッ切る動作をしながら答えた。
「ああ、そうかい。じゃあ別の店で買うわ」
俺はきびすを返し、歩き出そうとする。もちろん、立ち去る気はない。
「おーっと、待て待て。わかったよ、安くする。でも、せいぜい900ロッヅまでだ。それ以下にはできんね」
さて、交渉開始。目標は三百だ。
「百にしろよ」
「いやいや、じゃあ八百でどうだ?」
「おいおい、俺のこと舐めてるのか? 仕入れ値は一つがせいぜい10ロッヅくらいのもんだろう? それを八百だの九百だの……ちょっと、ボリすぎだろう」
「言いがかりもはなはだしいぜ? 仕入れ値はもっと――」
「向こうの通りの店で、30ロッヅのところを見つけた。遠くまで行くのはめんどくさいがそっちで買うよ」
俺が言うと、屋台の男は信じられないといった表情で、叫んだ。
「う、嘘だっ! 仕入れ値がおよそ50ロッヅのはずだっ! そんなんでは儲けが――」
「そう、嘘だ」
してやったり、俺はニヤニヤと屋台の男を見る。
「さて、もう一度訊くぞ? 仕入れ値が50ロッヅの肉まんを、俺にいくらで売ってくれるんだ?」
「あ……」
やっと自分のミスに気づいたらしい。屋台の男は口をパクパクさせている。
「いいんだぜ? 仕入れ値を言いふらしても」
「く……100ロッヅで、どうだ?」
「仕入れ値の倍の値段か。まあ、いいぜ。ほらよ」
俺は屋台の男に200ロッヅを渡し、肉まんを二つ受け取る。
「兄さん、やり手だね。ここまで値切られたのは初めてだよ」
ため息をつく屋台の男。まあ、見た感じまだ若いもんな。
「勉強になっただろう? 言っておくが、値切らせた気にさせる作戦は悪くないとは思うが、あんたは少し駆け引きが下手すぎる。というか、あの程度の手に引っかかるなんて、未熟もいいところだ」
「忠告、痛み入るぜ」
「じゃあ、勉強料ついでに、ここらで売ってる美味しいモンって何か教えてくれないか?」
「ああ? じゃあ、そこの店なんておススメだ」
「あそこか。なるほど、ありがとよ」
俺は屋台から離れ、リーナの所へ向い、ドヤ顔でリーナに肉まんが入ってる袋を見せる。
「どうだ? かなり安くなっただろう」
「……そんな卑劣なやり方がかっこいいと思ってるなら間違いだと思います」
かなり辛辣なことを言われた。
「かっこいい、なんて思ってねえ。でもまあ――おもしろかったのは、否定しない」
シューヤがいない世界って……なんだか、なんでも出来る気がする。なんでだろうか、こんなにも能力の無い俺なのに。万能感? ってやつがある。
「自分の力を過信してひけらかすとろくな目に逢いませんよ?」
「自分の力? 何言ってるんだ。アレは俺が凄かったから出来たんじゃない。相手が俺よりも愚かだったから出来ただけだ」
俺の力なんてない。俺が出来るのはゲームと、機兵を動かすことだけだ。
「そんなことより、早く宿に戻ろうぜ。腹が減っては戦は出来ぬ、ってな」
「そうですね……そういえば、私は料理が得意なんです。今度、何か作ってあげますね」
それ、この前も言ってた気がするぞ。
そう思い、少し苦笑してから、俺はリーナと歩き出す。
「おお、そいつは楽しみだ、さて、じゃあ宿に戻って……敵地に飛び込む覚悟を決めるために、作戦会議だ」
「はい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます