第13話 夫婦設定。恥ずかしいわボケ!

(これが、まぐれか……?)


 この程度の距離で普通外すか? 訓練を受けた人間ならこのくらいやれるだろうし、あと5メートルくらい離れてても当てられるぞ。

 とはいえ、このくらいでまぐれと思われるのはしゃくだったので、俺はΣP202のカートリッジを替えてから、構えなおした。


「なあ、店主さん」


「ん? なんだ? まだ撃つのか? それ以上撃つと本番で使えるのが無くなっちまうぜ?」


「ああ。ところでモノは相談なんだが、もし俺がこのマガジンを撃ちきって、全弾ど真ん中に命中させたら、今日のこれ無料で持って帰っていいか?」


 俺がダメ元で言うと、店主は「かかかっ」と笑い、


「おう? いいぜ。そんなこと無理だろうがな!」


 冗談で言ったつもりなのにお許しが出た。うれしい誤算だ。

 俺は少し集中して、フルオートで十五発全てばら撒く。

 パパパパパパパパパパパパパパパァン!

 ――全弾命中。


「はぁ!? う、嘘だろ……まぐれじゃなかったのか」


「悪いな、全部無料でもらってしまって」


 唖然としている店主に、めっちゃドヤ顔をしてやる。フッ。


「ユーヤ、ちっとも悪いと思ってるようには見えません」


 だって、そんな賭けに乗るこいつが悪いんだ。俺に非は無い。

 俺は呆然としている店主を尻目に、買った弾丸を持ち、店をでる。


「この世界では銃の使い手は珍しいのか?」


「はい。機関銃や散弾銃は軍で使われますが、拳銃はあまり使われません。近接戦や室内戦では不利ですから」


「そうか、外で戦う時は機兵がいるから、銃なんかじゃ焼け石に水ってわけか」


「それに音が出ます。暗殺にも向きません」


 この世界はサイレンサーはないんだろうか。いや、そもそも技術がちぐはぐだ。電気がないのに、機兵はある。話によると車やバイクはあるようだ。ただ、大量生産は出来ないので、数は大分少ないらしいが。

 ……まあ、電気や活版印刷の技術は後々考えよう。国を取り返した後普及させないと不便だ。


「さて、それじゃあムサシに乗って……移動するか」


「はい」


 俺たちはムサシに乗り込み、次の町へむかって出発した。


「ユーヤ、次の街は城都の次に大きい街です。もしかしたら、城都の戦場の様子を聞けるかもしれません」


「そうか。そりゃありがたい。……なんか、情報屋の知り合いとかいないねぇのか?」


「さ、さすがにそういう知り合いは……」


 苦笑しながら答えるリーナ。……いや、盗品を扱う質屋というのに比べたら、情報屋の知り合いなんて割りと普通な気もするが。

 こうなりゃ、レイニー婆さんにそういうことも聞いておけばよかったな。


「いないならしょうがない。地道に情報を集めよう」


 俺はなるべく人目を避けるように、木々の間をぬって走る。

 ――本来なら夜のうちに移動した方が人にはばれないんだが……ムサシにはライトが付いていない。だから、夜間では何も見えず身動きが取れないのだ。

 そんなわけで、俺たちは真昼間からガシャンガシャン音を立てて、派手な外見のムサシを走らせている。


「まさかとは思うが、この辺にゴリラやライトフットは来ないだろうな」


「さすがにいないと思います」


「だといいんだがな……」


 今、俺完全にフラグ立ててしまった気がする。

 城都からここは大分離れているが、目的地の街へ近づけば近づくほど、城都へは近くなる。

 そうなればもしかしたら戦闘が起きるかもしれない。なったら……めんどうだな。


「まあ、その時はその時だな」


「はい。そうですね」


 それからしばらくは何事も無く時が過ぎていった。

 道中、俺とリーナはレイニー婆さんが持たせてくれたおにぎりを食べながら。ひたすら走った。 

 そして次の街にたどり着いた時は、もう大分日が落ちかけていた。


「日が完全に沈む前に止まる場所を探さないとな」


「日没まではもうすぐですからね」


 日が沈んだら身動きが取れなくなる。まずは拠点を手に入れて、その後情報収集だ。

 あまり小さかったり、ボロっちい宿はよくないだろう。そんなところにほいほい泊まって、金を盗まれても困る。

 時計を見る。五時半か。やはり、日本と同じで、夜が近づくと気温が下がるんだろうか、少し肌寒い。

 リーナが言ったとおり、こっちの街は大きいだけあって、城都に近いというのにそれなりに活気があった。これならばすぐに宿を見つけられるだろう。


「警察……役人? みたいなのはいないか? こう、自治組織みたいなの」


 俺が言うと、リーナはキョロキョロと辺りを見回し、


「……見当たりませんね」


 と少し残念そうに呟いた。


「じゃあ、いいや。あそこにいるフード……あー、いや。ず、頭巾? をかぶったおっさんに訊いてくる。ちょっと待ってろ」


 俺は一応変装しているとはいえ、ばれるのが怖いので、リーナを少し離れたところに残し、そのおっさんに訊いてみる。


「なぁ、尋ねたいことがあるんだが」


 そのおっさんは地面に布を広げて……煙草? のようなものを売っていた。小汚いおっさんだが、背に腹は変えられない。


「はい、なんだね? 客かい? だったら未成年に煙草は売れんなぁ」


「いや~、旅の者なんだが、どこに宿泊施設があるか分からなくてよ。普通の人が泊まる手頃なところはないか?」


「だったら、この先にある宿屋がいいだろう。風呂もあったはずだ。もっとも……いや、なんでもない」


「? なんだ?」


「いやね、大丈夫だとは思うが一応用心しておきな。ここらへんは治安は悪くないが、物騒な人間も少なからずいるのでね」


「そうか。ありがとう」


 俺はその人に簡単な地図を書いてもらうことにした。


「ところで、あの娘はお姉さんかい? それとも、コレかい?」


 そう言って、おっさんが小指を立てる。……どこも年寄りが興味を持つことはそんなもんか。

 ホントのことを言うわけにはいかないので、てきとうにあしらっておくことにする。


「まあ、駆け落ちってやつだ。だからあんまり詮索しないでくれるとうれしい」


「ひゅうー、兄さんやるねぇ。あんな美人を捕まえるたぁ。そんなに身分が高いわけではなさそうだから……兄さん、どうやってあんな美人と知り合ったんだい」


 詮索すんな、って言ったのにこれだ。親指を人差し指と中指の間に挟んで、拳を握っている。

 俺は舌打ちしそうになるのを堪えて、素っ気なく答える。


「好奇心猫を殺す、そう言うだろ? 他人のことは無闇に探らない方が身のためだぜ?」


 そう言って、おっさんから地図をひったくり、いくらか小銭を渡した後、すばやくそこを離れた。


「ったく、んなこと聞いてなにが楽しいんだか」


 何があったのか訊いてきたので、俺はリーナに軽く説明する。


「そうでなくてもお年寄りになると娯楽が少なくなるんです。少しくらいは多めに見てあげないと……」


 苦笑するリーナだが、そのリーナ自身も若干呆れているようだ。


「娯楽に使われる側としたら不愉快になるだけだ。まあいい。行くか」


 俺はリーナに地図というかメモを見せ、その宿屋まで行く。


「普通の宿屋ですね」


「そうだな。まさに宿屋だ」


 二階建てくらいの建物で、一回は食堂になっていそうだ。なんか、まさに宿屋だ。


「さて、入るか」


 俺は扉を開け、当たりを見渡す。

 少し入り組んだ様子で、いろいろなところにオブジェや観葉植物(?)のようなものがおいてある。


「……違和感があるな」


「何がですか?」


「いや、なんでもない。ただの思い過ごしだ」


 そう、思い過ごしだろう。異世界に来てからというもの、気を張りすぎていけないな。


「……とりあえず、部屋を取って荷物を置いたら情報収集だ」


 俺はフロントらしきところに行き、チェックインを果たす。


「リリス、二〇三号室だ」


 ちなみに、こいつは今テキトーな偽名を名乗らせている。リリス・ヤマガミだ。俺と夫婦という設定だ。

 まあ、夫婦という設定にしたとき、顔を真っ赤にされたからな、たぶん怒っているんだろうが、背に腹はかえられない。耐えてもらおう。


「わかりました」


 階段を上り、二〇一、二〇二……お、ここだ。戸を開け、中を覗き込む。


「なかなか、広い部屋だな」


 さすが、大きい街の宿屋だ。天井は少し低いが、それ以外は文句なしだ。

 もう一部屋には、ベッドが二つ。こっちは寝室みたいだな。

 しかし、やはりガス灯か。LEDライトとかが発明されるまで、何年かかるだろう。


「そうですね。お風呂は大浴場みたいです。あとで入りましょう」


「おお、そりゃありがたい。疲れもとれるだろう」


 一日ぶりに、風呂に入れる。これはうれしいな。

 俺とリーナは荷物をまとめて置き、武装してから部屋を出る。


「リリス、お前無手か?」


「あ、はい。と、いっても銃以外はどんな武器でも使えますが……」


「マジかお前。棒も、棍も、槍も剣も? っつーか、なんで?」


「その場にあるものを武器にして戦えるようにするため、です。天ノ気式戦場活殺術は、身近に武器になりそうなものがあればそれを使う、という戦法ですから」


 ……戦場活殺術というだけあって、多分に汎用性がある武術みたいだな。


「凄まじいな。それ相当修得するまで大変だったんじゃないか?」


「小さいころから習ってましたから。」


「……国を盗り返したら、俺にも、教えてくれ。拳銃だけじゃさすがにマズそうだ」


「難しいですよ?」


「兄ほどじゃないが、ある程度の武術は修めてる。その辺と組み合わせてなんとかするさ」


「では、分かりました。上手く教えられるかどうか分かりませんが……」


 そんな話をしながら、俺とリーナは街を歩く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る