第12話 出発
トントンと階段を下りていく音がする。
「リーナ、俺達も行くか」
「そうですね」
まだ少し顔が赤いリーナをつれて、食堂的な所にいく。
そこにはもうすでにレイニー婆さんが座っていて、クラウディアが料理を並べていた。
「悪いな、婆さん。飯まで食わせてもらって」
「本当にありがとうございます」
俺は飯に口を付ける前に、レイニー婆さんにむかって頭を下げる。
「ついでさ。それに久しぶりに大人数で食べたかったしちょうどいいよ」
「代金はちゃんと払わせてくれ」
「そんな野暮なことすんじゃないよ」
「……そうか」
支払いを断られたことに少しさびしさを覚えたが、まあしょうがないと割り切って朝ごはんをいただくことにする。
「じゃあ、まあ、いただきます」
ちなみにメニューはなんかコーンスープっぽいものと、パン。かなり洋風。イメージ通りでちょっと安心。
「美味いな」
「ユーヤ! あんたちゃんとよく噛んで食べるのよ!」
自分も卓についたクラウディアが、母親のようなことを言ってきた。
「知るか。俺の食いたいように食う」
「じゃあ肉団子汁はなしなのよ」
クラウディアがスープをさっと取り上げようとするが、俺はそれより一瞬早く皿を持ち上げ、飲み干した。
「ふん、もう食い終わった」
「あー! 信じらんないのよ!」
「静かに食べられないのかい!?」
レイニー婆さんに怒られてしまった。
「ユーヤ……なんでそんな態度をとるんですか」
「ん? ああ、いやこいつ……なんとなく、からかいやすくてな」
なんでだろう。見た目が子どもだからか?
「なんなのよー!」
あ、クラウディアが出て行ってしまった。
俺は気にせず、自分でよそっておかわりをして食事を続ける。
「それ、作ったのクラウディアだからね。ちゃんとお礼言いなよ」
レイニー婆さんが言ってきた。ふむ、それならさっきのはからかいすぎたか?
「ほう」
しばらく食べ進めていると、クラウディアが戻ってきた。どうやら、エプロンを外していただけらしい。
「おう、これお前が作ったんだって?」
「……なんなのよ、不味いんならもう食べなくていいのよ」
「いや、普通に美味いって。いい嫁さんになれるな」
もっとも、嫁の貰い手がいるかは知らんし、こちらの世界でも「家事は嫁がするモノ」という前時代的な気風が残ってるのなら、の話だが。
なんてことを考えつつ、俺が何気なく言うと、
「ふぇ? ……」
ん? なぜ赤くなっている、クラウディア。あと、リーナ? なんで俺の足を踏んでいるんだ?
「お、おい、リーナ?」
ヤバい、痛い、痛い、痛い痛い痛痛痛痛痛痛痛痛!!
折れる! 骨が折れる!
「今晩のご飯をもし作れたら、私が作ります。いいですね?」
「? ……あ、ああ。別にかまわんが……いきなりどうした?」
「別に、なんでもありません」
……おかしな奴らだ。とりあえず俺の足から足をどけてくれると嬉しいんだが。あと、たぶん晩飯を作るのは無理だろ。調理器具が揃ってる宿屋なんて無いだろうし。
俺はとりあえずスープとパンを食い終わり、食器を片付ける。
「ああ、そこにおいといてくれ」
「いや、洗い物くらいさせてくれ。飯まで食わせてもらったんだからな」
「ユーヤ、私も手伝いますよ」
リーナに手伝ってもらいながら、簡単に洗い物をする。
礼のための家事ってのも悪くない。
「さ、そろそろ行くか。リーナ」
洗い物も終わり、少し店の開店準備を手伝った後、俺はリーナにそう言った。
リーナは今、麦わら帽子をかぶっているので、健康的な印象を受ける。ホント、なにしても絵になるよ、美女ってのは。
「生きてたらまた近いうちにくるよ。そん時はまた飯を食わせてくれ」
レイニー婆さんに改めて礼をする。気のいい人だったな。
「ありがとうございました。このご恩は忘れません」
「いや、いいさ。さ、行っておいで。これは道中食べるといい」
そう言って、おにぎりをいくつかくれるレイニー婆さん。ありがたい。
「まあ、今度来たら他にもいろいろ料理を作ってあげるのよ」
「ほう、そりゃ楽しみだ」
クラウディアにも頭を下げ、荷物を肩に担ぐ。
「じゃ、またな」
俺は最後にそう告げ、『一雲質屋』を後にした。
「あっさりですね」
「別に今生の別れでもないし、お前にとってはどうか知らんが、俺にとっては気のいい店員以上の何者でもない。湿っぽくなる必要はないだろ」
「死ぬかも、しれないんですよ?」
「それは俺が機兵戦で殺られるって意味か?」
少しムッとしてリーナを睨むが、そんな俺に諭すようにリーナが言う。
「それだけじゃないです。今回の革命のことだけじゃなくても、王族である以上敵は少なからずいるんですから。一緒にいるユーヤも同じです」
「あー……ま、そん時はそん時だ。そんなつまらんことで死なないためにも、とりあえず弾丸売ってる店行こうぜ」
ムサシに戻る前に、レイニー婆さんに教えてもらった弾丸を買える店に行くことにした。やはり武装は大事だ。
言われた店に行ってみると、かなり品揃えはよかった。とりあえず俺は9mm弾を、持てるだけ買う。ついでに、PIS50に合う弾も、三十発分買っておいた。
店員に声をかけて会計を済ませる。
「なんだい、兄さん。そんなナリで戦争でも行く気かい?」
「なにかと物騒なんだ。女も連れてるんでな、装備は整えておくことに越したことは無い」
「一応、撃っていくかい?」
そう言って、店員は店の奥を親指で指差す。……あそこに射撃場があるんだろうか。
「いいのか?」
「ああ、もちろん」
この銃も一度試し撃ちしておきたかったところだ。
「なら、少しだけ」
店員の好意に甘え、俺はリーナを連れ射撃場に行く。
レーンは五本、狭いが、店で試し撃ちする分には問題ないだろう。
「当然、買った弾を使ってもらうぜ」
「当たり前だろうな。じゃあ、少し撃とうか」
「ユーヤ、銃なんて使えるんですか?」
「――嗜む程度だ」
俺はΣP202を片手で構え、引き金を引く。
パァ……ン
マンシルエットの頭の的のど真ん中に当たった。
「す、凄い……」
「今ひとつ、だな。まあトリガープルとかも問題ねえ」
俺は続けざまに二発、三発と放つ。その全てが、マンシルエット、さっき当たった部分と同じ、ど真ん中に命中していく。
「こっちは問題ないな。不発弾もなさそうだ。じゃ、こっちも一応やるか」
と、PIS50を構え、同じように撃つ。
ドゴン!
「うおっ」
反動がヤバイ……こりゃ生半じゃ制御できないな。マンシルエットに当たりはしたが、かなり上の方に行ってしまった。やれやれ。
何故かジッとリーナが見ているので、やりたいのかと思いΣP202を貸してみる。
「ゆ、ユーヤ。私こんなの撃ったことないです……」
「ん? 銃は習わなかったのか?」
「はい。姉は棒術、私は剣術をメインに満遍なく習ったんですが、銃は……」
王女様に棒術、剣術仕込んでるのもどうかと思うが……
「姉の棒術はすごくて、私はいつも負けてばかりでした。『棒は剣よりも確実に優れた武器だ』というのが姉の持論で、結局一度も覆せませんでした」
……まあ、リーチの差もあるし、戦国時代も結局戦で一番強かったのは槍だと聞く。その持論は間違っては無いと思うが……刀を操るムサシに乗る身としては複雑だな。もっとも、本家の宮本武蔵はどんな武器でも使いこなしていたらしいが。
「そうか、まあいい。構えてみろ」
「は、はい」
と、声をかけてみたが、一向に構える様子が無い。どうやら、本当に知らないらしい。
しょうがないから、俺はリーナに構え方を教えてみる。
「まず腕はこうだろ? そんで足はそのくらい開いて……ああ、もう。手はこうだよ」
埒があかないので、俺は後ろからリーナの手をそっと包み込む。
「ひゃうっ!」
「ほら、それでよく狙って」
「は、はい」
「よし、撃て」
パァン!
若干中心からはずれたが、マンシルエットには当たった。まあまあ、かな。
「あ、当たりました!」
「そりゃそうだろ。まあ、初めてにしちゃ上出来だ」
と、俺がリーナの手から手を離したところで、店主が様子を見に来た。
「おおう? 嬢ちゃん、なかなかいい腕じゃねえか。まぐれだろうが、一発ど真ん中に当てるとは」
一発? いや、それは既に同じ場所に撃ったから一発どころじゃないんだが。
「いえ、これは私ではなくてユーヤが当てたんですよ」
リーナが言うと、店主は俺の方を見て、
「へぇ。その年でまぐれとはいえど真ん中に当てるとはな……鍛えればいい腕になるぜ」
と、心底感心したような声を出した。
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