第11話 さあ、状況を整理しよう

「革命されたらされたで、再び革命すればすむ話だ。そうだろ?」


 俺はばさりと地図を広げる。


「さて、改めて状況を確認しよう。まず、今俺たちはムサシ……この国唯一の第一世代型機兵を持って逃げている。戦力的には申し分ない。つまり、このまま攻めるのが得策だ」


「はい」


「ただ、いくつかの懸念がある。

 まず、俺は最強だ。絶対に負けない。しかし、それはムサシが正常に機能している時限定であって……サムライモードの時間が切れたら、いくらなんでも戦えない。一対一では勝てるだろうが、数が多かったら勝てない、と思う。練習したら話は別だろうがな。今の俺は十五分間で……大体、八十機は斬る自信がある。状況によってはもっと斬れるだろう。でも、そこまでだ。

 だから、ここで問題になってくるのは、敵兵の正確な数を把握できないってことだ。どこから本気を出してサムライモードで戦わなきゃいけないか分からない。

 そしてさらにもっと重要なことが……敵も、 第一世代型機兵を持っているかもしれないという可能性だ」


 リーナは、少し逡巡してから……それに首を振った。


「たぶん、いないはずです。もしもいるなら、もう既に城が落とされているでしょうから」


「そうか? 俺はいると思う。なぜなら、敵方はこちら側にムサシがいることは知っているはずだからだ。戦ってみた限りでは、第一世代型機兵の相手が出来るのは第一世代型機兵だけだ。

 ……一応訊くが、ちゃんとムサシを扱える奴はいたんだよな?」


「はい」


「じゃあ、敵さんはまだムサシが出てくるかもしれないって思ってるだろう。まず、もしも俺が敵側の指揮官なら、対ムサシのために、確実に第一世代型機兵を用意する。容易じゃないだろうがな。そして、第一世代型機兵は、ムサシが出てくるか、陥落させるか、自分たちが危機に陥るまでは出さない」


「なぜですか?」


「ムサシを倒すのでは無く、手に入れるためだ。第一世代型機兵は、どう考えても一騎当千ならぬ一機当千。あるならあるだけ欲しいだろう。

 確か、第一世代型機兵は一律時間制限があるんだよな? だったら、後から使ったほうが有利だ。先に制限時間を使い果たしたほうの負けだからな。……よほどの実力差が無い限り、な」


 なぜなら、あの時戦ったゴリラどもの戦闘能力は、決して低いものではなかったからだ。あの時、サムライモードが無かったら、もっと苦労していただろう。……もっとも、正直あの時の感じからして、冷静になって頭を斬っておけば普通に切り抜けられた気がする。無理に全滅を狙わなくても。


「でも俺らが逃げたことは伝わってるだろうからな……こっちに機兵がくるか、それとも普通に城が落とされるか……」


「いえ、たぶん伝わっていないと思います。機兵の通信半径は広くないので。せいぜいが一キロかそこらです」


「なに? だが、普通の通信機があるだろう。こう、電波を飛ばす……」


「電波?」


 リーナが、きょとんとした顔でこちらを向く。……え?


「い、いや、電気は知ってるよな?」


「電気?」


 ……はぁ!? 

 俺は、部屋を見回す。だが……電化製品は、ない。

 電灯は? ……ガス灯だ。


「電気がない、だと……じゃあ、どうやって機兵は動いているんだ?」


 俺のもっともな問いに、リーナは平然ととんでもないことを答える。


「魔魂石……でしたか? なにやら、そのようなものが動力だったはずです。不思議なエネルギーを持つ鉱石だとか。あまり詳しくないので詳細までは分かりませんが」


「はぁ!?」 


 聞いた事もないぞそんなモン。つまりは、魔法みたいな不思議な力で動いてるってことでいいのか?


「どういうテクノロジーだよ……量産機もそうなのか?」


「はい。というか、そもそも量産機はムサシを元に作られていますから。ムサシの劣化版とでも言うべきでしょうか」


「劣化版? ああ、なるほど。まあ確かにそうかもしれない。……って、ああ。だからムサシが第一世代型機兵なわけか」


 まあ、プロトタイプが強いのはロボットモノの常識だよな。ガン○ムしかり、マジ○ガーZしかり。


「さて、リーナ。どんな第一世代型機兵か分かるか?」


「すいません……分かりません」


「そりゃ残念。……傭兵部隊が、第一世代型機兵持ってりゃ、有名になりそうなもんだが」


「うっ……そ、そうなんですが、私そういうのに疎くて……姉なら詳しかったんですが」


「お前の姉は何モンなんだよ」


「私は内政を勉強し、姉は軍事、外交を勉強していたので」


「なるほどな」


 その姉がこっちサイドだったら大分話が早いんだが……背に腹は変えられない。


「あ、でも、そういえば」


「? なんだ?」


「あの……基本的に、第一世代型機兵は各国が保有している最終兵器のようなものなんですが……ある国が一度滅び、そこにあった機兵が行方不明になったという噂を聞いたことがあります」


「ほう?」


「もしも、それが傭兵部隊にあったとしたら……」


「可能性は、ありそうだな。やっぱ、敵も第一世代型機兵を持ってると考えた方がいいだろう」


 俺はソファから立ち上がり、荷物を確認する。

 ……用意したとはいえ、大丈夫だろうか。

 今さらになって、情報の少なさに少々苛立ちを覚える。

 万が一、もうすでに第一世代型機兵が投入されていたら、戦場は詰んでることになる。俺ほどのパイロットがいなかったとしても、あれだけのスペックを持つ機体だ。動かせる奴が乗るだけでも、充分以上の戦力になる。

 ……本来ならば、すぐにでも俺はムサシを戦場へと走らせ、敵兵を全滅させなくてはならないんだろう。

 でも、今はいわゆる国家存亡の危機ってやつだろ? だったら、国民からの信頼を取り戻さなくちゃならない。

 そう……この圧倒的なカリスマを持つであろう、リーナを一番目立たせなくてはならないんだ。


「今日、城、というか城都は襲われたんだよな」


「はい。防衛線を突破され、すさまじい速度で攻め込まれました」


「……敵の規模はわかるか?」


「正確な数はわかりませんが……機兵の総数は、相手側が若干多かったような気がします。二十体くらい多かったでしょうか」


「そうか……どれくらいかかりそうだ? 城が落ちるまで」


「これと似たような戦闘規模の戦争を知っています。確か、私が逃げ出したくらいの時間から……およそ二日くらいだったと思います」


 二日か……ずいぶん早いな。まあ、ロボット戦争で、しかももう最終防衛ラインとなれば、そんくらいの早さもうなずける。

 もう一度地図を見る。……今まで来た道を引き返すのは無理があるだろう。絶対に追っ手が来てないなんて保証は無い。


「となると……こっちの町を通って、城まで行くのがいいかな」


 俺は一つの道を指差す。


「そう、ですね。来た道を戻らないなら、その道が一番早く着きます」


「よし……じゃ、今日は休んで、明日から動くか。国を盗り返すためにな」


 これからどうなるかは分からないが、とりあえずの目標だ。

 メモ帳も無いので、俺は頭の中にメモをする。


『二日以内に、国をとり返す』


 リアルWRB――俺にはヌルゲーもいいところだ




「ユーヤ、朝ですよ」


「く……体中が痛い……まぁ、床で寝るよりマシだと思うが」


 朝、俺はリーナに起こされて、体を起こす。俺もリーナも、今はとりあえずレイニー婆さんから買ったパジャマ姿だ。

 伸びをすると、体がパキパキと言う。昨日久々に走ったりしたからか、筋肉痛も少しあるな、これは。


「変なことを言ってないで着替えましょう」


「んー……ああ、そうだな。とりあえず着替えて朝飯を貪るか」


「……普通に食べるって言えばいいのでは」


 俺は朝っぱらからアンダーウェアを着るのもなんだか嫌だが……怖いので、俺はアンダーウェアと適当な服をカバンから出す。


「リーナ、俺は洗面所で着替えるから」


 俺はリーナにそう告げて、部屋を出てから洗面所に入る。昨日の晩は、ここで体を拭いて風呂の代わりにした。……城都にはあるらしいが、やっぱあんだけ動いた後に風呂に入れないのはきつい。

 ちなみにリーナをこっちの部屋で着替えさせようとしたら、さっさと着替えて部屋で着替えている俺をドアから覗いてくるから意味が無かった。リーナのキャラがつかめない。

 着替え終わり、リーナに「もういいかー」と訊くと、「はい」との声が返ってきたから、俺は部屋に戻った。

 リーナの服装はシンプルに、なんか町娘っぽい緑を基調としたワンピースを着ている。メガネをかけて、髪型を……お団子結びって言うのか? なんかそんな結び方にしていて、髪を纏めて上に上げている。さらに化粧も多少しているから、パッと見はちょっときつめのお姉さんって感じだ。

 銀の髪はかなり目立つので、あとは帽子でも被れば完璧だな。染髪料でもありゃあよかったんだが。


「変装か。ふむ、変われば変わるもんだ」


「そうですか?」


「ああ、似合ってるよ」


「え、あ、そ、そうですか……」


 何故かリーナが真っ赤になってうつむいた。なにしてんだ?


「お二人さん、朝ごはんの準備が出来たのよ」


 こんこん、というノックの音の後から、クラウディアの声が聞こえてきた。


「え、朝ごはんも食わせてくれるのか?」


「? もちろん、なのよ」


「本当か! 助かる」


「そう。さ、下で待ってるのよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る