第9話 武器選び?

「じゃあ、王女様はそっちの部屋に。装飾品とか服とかが置いてあるのよ。ユーヤ、お前はこっちなのよ」


 そう言って、クラウディアがある部屋にスタスタと入っていく。

 俺もそれに続いて入ると……


「おー……日本だったら確実に銃刀法違反で捕まるな、これは」


 クラウディアに案内されて入った部屋は、銃に弓矢に槍、剣、刀、ボウガン、エトセトラエトセトラ……完全に秘密結社の武器庫って感じだ。

 つーか、なんでこんな場所があるんだ?


「……盗品だけじゃなく、買い取るものの中には、武器もあるのよ」


「なーるほどね。分かったような、分からんような」


 俺は気の無い返事をして、目当てのものを探す。


「こっちの世界にはどんな銃があるのかね」


 そう思いながら見るが……ダメだな、目ぼしいものが無い。元の世界に比べると、少し古臭いものが多い。十分使えるだろうが、信頼性にかける。装弾数も少なそうだ。


「と、思ったが、これはよさそうだ」


 形状はベレッタM92FSに似ているが……なんて名前の銃だろうか。


「なあ、これなんて名前の銃だ?」


 俺がクラウディアに訊くと、なぜか彼女は俺の質問に答えず、すっと銃を俺の手から取り、元の場所に置いた。


「おい」


「これは、売れないのよ。……まだ、持ち主が現れるかもしれないから」


「はあ? って、ああ」


 そうか、盗品も含まれているわけだから、なんでも貰うわけにはいかないのか。面倒だな。

 気を取り直して、再び物色する。


(……ここらへんはかっこいいけどなんだか動作不良を起こしそうだ。お、このリボルバー、パイソンじゃねえか? 名前は違うだろうけど。ううむ、俺には反動が強いか? こっちのSIGっぽいやつとかもどうだろうか……)


 あまり銃に詳しい方ではないが、それでも結構銃は好きなので、どうしても見入ってしまう。それも、一生撃てないだろうと思っていた銃ばかりだ。テンションは上がる。

 最後に候補を絞ったところで、再びクラウディアの方を向く。


「これとこれのどっちかにしたいんだけど、これらは大丈夫か?」


 片方はパイソンっぽい銃で、もう一方はSIGっぽいの。どっちもそれにしか見えないが……まあ、名前は違うだろう。


「……どちらも大丈夫なのよ。そっちの大きい方はPIS50。44口径で、装弾数六発の回転式なのよ」


 これ、44口径? って、ことはかなり強力な弾丸を使うんだな。どんだけだ、俺じゃ扱える自信がねえな。反動が大きすぎるし。両手で持って、落ち着いて狙うなら話は別だろうが。


「で、もう片方は9mm弾を使うΣP202。装弾数は十五発の自動拳銃なのよ。改造してあるから全弾連続で撃てるのよ」 


「……こっちはまんまSIGって感じだな。もう一方は形だけパイソンだったのに」


「SIG? パイソン?」


「気にすんな。さて、どっちにしようか……」


 個人的にはPIS50にしたいところだが、そんなに威力があっても使える気がしない。

 やっぱり∑P202にするか。9mm弾なら弾の互換性も高いだろうし、反動は少なそうだ。試し撃ちできないのは厄介だが、まあなんとかなるだろう。


「じゃ、こっちの∑P202を貰おう。弾はあるか」


「さすがに弾は置いてないのよ。後で店を教えるから、そっちに買いに行くのよ」


「……そりゃ残念」


 俺はため息をついて、その銃を持つ。重さもいい具合だ。

 そのほかにも目ぼしいものは無いか、辺りを見回す。


「あ?」


 一つ、この武器がたくさん置いてある中、異彩を放つ物があった。


「ダイヤ……かなんかの、ネックレス?」


 手にとって眺めてみる。とても兵器には見えない。


「なあ、ウェーンライト、これなんだ? 宝石類が紛れ込んだのか?」


「違うのよ。これはね……」


 クラウディアに説明してもらって、やっとこれの用途を知る。なるほど、いいな。


「じゃ、これも……」


「おや、こんなところにいたのかい」


 ペンダントの説明が終わり、俺がそれを受け取ったところで、老婆が降りてきた。後ろにはリーナも一緒だ。

 それを見て俺は、サッとそのペンダントを背に隠す。いや、別に堂々としていていいのだが、なんとなく隠してしまった。


「リーナ、そっちはもういいのか?」


「はい。ついでに、いろいろ教えてもらったり、あとは生活必需品を揃えたりしてもらいました」


「そりゃ助かる。で、俺はこいつらだが……大丈夫か?」


「ああ。ドレスは800万ロッヅってところだからね。ついでに現金も大分渡せるよ」


「は、800万!?」


 と、とんでもないのを着てたもんだな。いやー、さすがは王族ってところか? いやいや、高すぎるだろう。……とはいえ、そのおかげでこうしていろいろ揃えられるんだから文句は言わないが。

 というか、リーナの持っているバッグを見せてもらうと……確かに、俺が欲しいと思っていたもんが大体入っていた。ありがたいな。


「じゃ、後はどうするか……」


「今晩、泊まっていきな」


 俺が思案するようにしていると、レイニー婆さんがそんなことを言ってくれた。


「いいのか?」


「ああ。とはいえ、宿代は払ってもらうし、晩御飯はもう食べてしまったから出ないけど」


「それは構わない。いや、むしろ充分すぎるくらいだ。ありがとう、助かる」


「いいってことよ」


「あ、ありがとうございます!」


 リーナがペコリと頭を下げる。こいつ、王族のくせに腰が低いんだよな。俺がため口なのにも怒らないし。なんでだろうね。

 リーナが階段の方へ歩き出すので、俺も手の中の∑をしまう。


「おや? Σを選んだのかい」


 老婆が横から、俺の∑を見てそう言った。


「ああ。PSI50と迷ったんだけどな」


 肩をすくめつつ、俺は銃を見せる。


「どうせならそっちも持っていくといい。威力はおりがみつきだ。……それに、この弾も使える」


 と、老婆がリーナに見えないように、俺になにかを渡した。


「これは?」


「――炸裂弾さ。機兵にも効果がある」


「――ッ!」


 手の中には三発分の弾があった。この老婆、ど、どこまでお見通しなんだ……


「切り札として持っておきな。……まあ、武運を祈るよ」


「……恩に着る」


 俺はこっそりとそれをポケットにしまい、何気ない顔でリーナと並んで歩く。

 ついでとばかりに、俺は時計も貰っておく、というよりこれは買うということになるのか? まあ、なんにせよ腕時計を手に入れた。腕時計あるんだな。


「とりあえず今晩はここに泊めてもらって……明日のことを考えようか」


「そうですね」


「あ、ここの部屋なのよ」


 クラウディアに案内されて、部屋に入る。電気を点け――いや、これは電気じゃない。ガス灯だ――俺は部屋の隅に荷物を置く。

 ソファが一脚、丸テーブルが一つにベッドが一つ、そしてストーブが一つという簡素な部屋だ。……ベッドが一つ?


「じゃ、また何かあったら言って欲しいのよ」


 そのまんま部屋を出て行こうとするクラウディアの肩を掴み、慌てて引き止める。


「お、おい。部屋は一部屋しかないのか?」


「客が来ることなんて想定してないのよ。ここはあたしのお父さんとお母さんが泊まる時に使う部屋なのよ」


「あ、そう……」


「じゃあ、おやすみなさい、なのよ」


 バタン、と扉が閉じられる。部屋に残されるのは俺とリーナのみ。


「これどう考えてもツインでもダブルでもないだろ……」


「ツイン? ダブル?」


「ん、あーいや、この部屋はどう考えても一人部屋だろ。あいつの親は二人で寝てたらしいが」


 そういえば、ひょっとしたらだが、英語というか、外来語は通じないのかもしれない。こりゃあ喋るのが大変だぞ……よく考えたらクーデターも武力政変って言ってたし。


「……しかし、困ったな。まあいい。ベッ……ああいや、えっと、寝台はリーナが使え。俺は下の階で寝よう」


「えっ?」


「えっ? ってなんだよ。えっ? って。俺もお前も、平均的な男女の身長より少し大きいんだ。あの寝台じゃ狭すぎる。まあ、かけ布団くらい貸してもらえるだろうよ」


 俺はそう言って、階下に行こうと思って立ち上がるが、なぜかリーナはそれを制止した。


「なんだよ」


「二人で寝ればすむことです」


「いや、無理だろ。広さ的に」


 普通サイズのベッドだ。俺(百七十五センチ)とリーナ(見た感じ百六十六センチくらいありそうだ)が一緒に寝るのは……ちょっと、無理があるだろう。物理的にも、心理的にも。


「だとしても、一人にするわけにはいきません」


「……なんでだよ」


 いくらなんでも男女同衾なんて不味すぎる、そう思っての判断だったのに、こいつは何故か一緒に寝たがる。

 俺が困惑していると、リーナがやれやれといった風に首を振った。


「ユーヤ……私たちがどういう状況なのか忘れてないですよね? もしも暗殺者が来たらどうするんですか?」

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