第6話 金が無い

 数時間、俺はムサシを走らせ、俺とリーナは、のどかな町にたどり着いた。

 人目につくといけないので、俺たちはひとまずムサシの中で会議することにした。


「もう暗いな。どうする? あそこの町で宿をとるか? そこでいろいろ話を聞きたいし」


「そうですね……では、その前に着替えます。正体がばれるわけにはいきません」


 なるほど、 確かに今のリーナの服装は、水色のドレス。派手な装飾はついていないが、それでも十分目立つだろう。どうみても高級品だし。肌触りとかヤバそうだし……

 それに、敵の手先があの町に居ないとは限らない。むしろ、いない方がおかしいのかもしれない。


「着替えはどこにあるんだ?」


「ありません」


「は?」


 俺はつい、素っ頓狂な声をあげてしまう。

 ……俺ももうろくしたかな。聞き間違えたみたいだ。


「なあ、リーナ。俺には着替えが無いって言ったみたいに聞こえたんだけど」


「 ええ、着替えは持っていません」


「……んじゃ、どーやって着替えるんだよ。アホかお前は」


 俺は、頭痛がするような気がして、こめかみをおさえる。なんなの? アホの子なの?

 ……とはいえ、着替えを持っていないというのも当然だろう。このムサシに、なにかを積めるようなスペースは無い。今でも、俺とリーナの二人がいるだけで、定員ギリギリってとこだ。今は二人とも床に座っている。


「持っていませんか? 女性服を」


「おい、俺の性別が女に見えるのか? お前は」


「……化粧をすれば、あるいは」


「いや、女子に見せたいわけじゃない」


 女装男子も男の娘も俺は興味ない。


「でも、性別はそのままでも大丈夫です。受け、という種族はいます」


「話を聞けっ! つーか、なんだそれは! 勝手にBL想像すんな!」


「BL?」


「ボーイズラブ。男性同士の……その、れ、恋愛? だ……ッ!」


 俺、なんで女子にBLについて説明してるんだ? 死ぬほど恥ずかしい。


「衆道のことですね。……男性同士のそれに偏見を持たないでください! 愛に綺麗も汚いもありません! 受けと攻めは存在しますが」


 こ、こいつ、腐女子……だと……っ! しかもなんかヤバいタイプだと!?


「いいから話をすすめろ! お前は有名人だから変装せざるをえない! しかし服が無い! どうするんだ!」


 俺はつい、声を荒げる。こいつは天然なのか? それともワザとなのか……


(あれ?)


 ……そういえば、他人相手に声を荒げたのって、何年ぶりだろう。

 シューヤのことで、対人関係に疲れていた俺には、家族以外の人間に怒ったり嘆いたり呆れたり、そういった感情がほとんど無かった気がする。

 なんだろう、こいつといると……安心する。

 って、そんなこと考えている場合じゃない。俺は一度頭を振って、切り替える。


「なにか考えはありませんか?」


「……ないわけじゃあないが……いや、ないな。まだ思いつかない 」


「では、服を交換しますか? 化粧すれば……似合うかもしれません!」


「いいから落ち着け。頭を冷やせ、な?」


 そもそも、俺がテメーの服を着ても、目立つのは当然だろうが。ドレスだぞ、これ。それに、俺はリーナよりも背が高いから(といっても、せいぜい五、六センチくらいだが)、たぶん大きさが合わない。ていうか、服も持ってねえくせに、化粧セットは持ってるとでも言うつもりか。

 俺は、使えるものがないか、自分のカバンの中をあさる。……が、当然ながら女性服なんて無い。この状況で役立つ物もあるはずが無い。


「とりあえず、腹ごしらえするか?」


 俺はカロリーメイトをカバンから取り出し半分をリーナに渡す。


「……? これはなんですか?」


「カロリーメイト……なんだろう、栄養食か? ……まあ、とにかく食べ物だ」


「わ、わかりました……」


 ぱくり、とリーナは俺に渡されたカロリーメイトをほおばる。

 俺も口に含む。う~ん、パサパサする。不味いわけじゃないが、水分がほしくなる。


「……個性的な味ですね」


「工場で大量生産されてるもんに個性もへったくれもねーと思うが」


 とりあえず個性的って言っておけば誤魔化せると思ったら大間違いだ。

 こんなもん、食ったことないんだろう。王様の娘ってことは、幼い頃からいいもんしか食べさせられてないだろうからな。貧乏人の僻みかもしれんが。


「……どうしたんですか?」


 俺が自嘲気味に笑ったのを感じたのか、リーナが心配そうに俺の顔を覗き込む。


「なんでもねーよ。それより、打開策だ」


 すぐさまその表情を消し、前を向く。


「そういや、俺の服は目立たないか?」


 と、俺は自分の格好を改めて見る。

 ダークグレーのジャケットに、ブラウンのシャツ。ズボンは紺のジーンズだ。

 似合ってるかどうかはさておき、街だったらそうそう浮くことはあるまいが……


「大丈夫です。これから行く町はそれなりに大きいですから。農村などでは少々目立つでしょうが」


「じゃあ……これなら、どうだ?」


「ちょっ、ユーヤ!?」


 突然上の服を脱ぎだした俺に驚いたのか、リーナが顔を手で覆う。

 ……目の部分は開いてるからこっちは丸見えだろうが。


「いや、裸になるわけじゃないから」


 苦笑しつつ、俺は上のジャケットと、シャツを脱いでアンダーウェアを見せる。

 このアンダーウェア、色は真っ黒で、ところどころ幾何学模様が入っている。全身タイツのように、ピッタリとしてるわけではない。どちらかというと、少しきつめのジャージに近いだろう。これ一つで歩いていても、されほどまでに違和感があると言うことはない。しかし、雰囲気としては、闇には紛れ込めるだろうが……町並みには、合いそうには無い。

 なにより、少し 悪 目立ちそうだ。


「それは……どうでしょう、普通に町に溶け込むのは難しいでしょうね 」


「だよな」


 さて、どうしようか。

 俺は無い知恵を絞って考える。

 こうなりゃ、身もふたも無いが、金で解決するしかないな。


「リーナ、いくら持ってる?」


 もちろん、俺も金を持っていないわけじゃないが……こっちの世界では使えないだろう。

 王女ってことは、大金を持っていてもおかしくないからな。金貨がジャラジャラ出てきても驚かないぞ。

 …………

「い、1ロッヅも持ってません」


「……なんとなくわかってたよちくしょう」


 俺はガックリとうな垂れる。頼みの綱の金もなしか。


「それはそうと……ロッヅってのが、この国の通貨か?」


「はい」


「なるほど……この国で、このくらいの量の飲み物って買えるか?」


 と、俺は五百ミリのペットボトルに入ったスポーツドリンクを見せる。


「当たり前です。それが?」


「一本なんロッヅだ?」


「……物にもよりますが、130ロッヅくらいです」


「安価な方か?」


「まあ、はい。地域によって異なりますが」


「なるほど……」


 厳密には違うだろうが、1ロッヅが、約1円の感覚でいいのか? まあ、そこまで絶望的な離れ方ではあるまい。


「どうしましょう」


「…………案が、無いわけじゃない」


 俺は苦々しい気持ちを感じながら、言った。


「ホントですか?」


「嘘をついてどーする。まあ、あんまり後味のいいもんじゃあねえが」


「犯罪はいけません」


 俺を勝手に犯罪者にするな。


「ちげーよ。売るだけだ」


「売れるものなんて持っていませんよ?」


 リーナがそう言うので、俺は服を指差す。

「それ、を売るんだよ。まさか親の形見とかじゃねえだろうな?」


 パッと見、随分値打ち物のようだ。王族が着てる服なんだから、オーダーメイドの一点ものって可能性もある。


「最初から考えていたんだが、足がつきそうで保留にしてたんだ。しかしまあ、他に思いつかないからな」


 売る場所はまだ思いつかん。質屋とか古着屋でもあればいいんだが。

「これを……ですか? その間着る服は?」


「気持ち悪いとは思うが、俺の服を着ていてくれ。サイズは……どうだろう。まあ、小さいってことはねーだろ」


 後は髪型も変えなくちゃな。メガネとかがあればなおよし。まさか平民が、リーナの顔を詳しく知ってるとも思えないが、まあ念のため。


「あとは……盗品を扱ってるお店とかがあればいいんだが……」


「ああ、それならありますよ?」


「は?」


 予想外の返答に、俺はリーナを見返す。まさかそんな都合のいいことあるわけないだろう。漫画やアニメじゃないんだ。


「私は王族です。この国のことは知り尽くしています」


 おお、凄いな。


「……というのは見栄ですが」


 って、見栄かよ。


「とりあえずあの町には、泥棒から物を買い、それを転売するという職業の方がいらっしゃいます」


「なんでそんなこと知ってんだ?」


 まさか『実は泥棒なんです ☆ 』とか言わねえだろうな。だとしたら俺非常にヤバイんだけど。


「昔、私に武術を教えてくれていた人が、そのような店があることを教えてくれたんです。なにかあったら頼れるぞ、とも」


「なるほど……って、武術? じゃあ、お前強いのか?」


「さあ、それはどうでしょう。――とにかく、そこに行くんですね?」

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