13.火に油をさらさらと

「クソがっ…近寄れん!」


 炎に包まれた清美を追い、二歩三歩と前へ進んだはいいが、熱さのあまりこれ以上は容易に進む事が出来ない。


「旦那! お願いやから、前に進まんといてや! 洒落にならんへんて!!」

「黙れ。俺よりも熱い目にあっているかもしれん女がいるんだ。何とかしてやなねばならんだろうが!!」

「せやから、前に進んだところで、どうにもならへんて!! 根性も優しさも無鉄砲も大いに結構や! けどなぁ、それに殉じて死ぬ言うんは見過ごせん!!」


 柳は俺の肩を掴み静止を訴えかける。柳の言葉は正しい、俺が無茶をして前進したところで、どうにもならんだろう。


「だからと言って、見捨てろってのか!?」

「誰もそないな事言うとらんやろが! 頭冷やせ! なんとかしたいなら、なおさらや!」

「くそっ!」


 分かっている。そうだ分かっているのだ。

 清美がここにいる理由も察しはつく、今こうなっているのも柳が説明してくれた。だが、どうすればいいかだけが分からないのだ。

 それだけが分からないからこその焦り。そう、今の俺にはどうする事もできない事も分かっているのだ。


「大丈夫」


 俺が焦りを募らせる中、ユエが呟く様に発した言葉が俺の荒れる心に、一つの光明を差し込ませる。

 焦りは一旦止み、俺の頭はその言葉の意味を知る事だけを求めようとしていた。


「ユエ、大丈夫と言ったのか?」


 ユエの言葉を確かめようと振り向くと、


「うん、言ったよよよよ…」

「そっちこそ大丈夫なのか!? ものすごい勢いで震えているように見えるんだが!?」


 そこには生まれたての小鹿のごとく足をガクガクさせながら、激しく振動するユエの姿があった。

 まるでバイブレーション機能の壊れた携帯である。


「へ…平気…私がなんとかするる…から…大丈夫ーぶいぃ…」

「その状態でピースされてもな。よし分かった、引っ込んでろ」

「い…嫌っ!」

「嫌言うても、無理やろ。一体何事やっちゅねん…あっ」


 柳の言葉が不自然に止まる。どうやら、今のユエの様子に心当たりがあるとみた。


「月兎…その最後は炎で自らを焼き殺し…そういう事か。ウサギちゃん、火があかんのやな」


 柳の言葉に、思わず息を呑む。

 中国の故事である月兎。神に食べもの用意できなかった兎がその身を炎に投げ込み、自らを食物とする話。最後は神により月の住人となるのだが…。


「本当なのか?」

「よ…余裕ぅー」

「そうか、よく分かった。うちの清美変態がすまない事をした」


 前世持ちとやらの事を未だによく分かってはいないが、どうにも面倒なものである事は確かなようだ。この分だと前世からの因縁やら、弱点やら、性格やらも受け継いでいる可能性がありそうだ。


「っ――――」


 この状況下で、のん気に考察を行っていると、ユエの震えが止まり、体が何か衝撃を受けたように跳ね上がる。


「どうしたユエ!?」

「あかん!! 結界がぶち壊されるで!!」

「何っ!?」


 柳の言葉を聞き、辺りを見渡すと俺達を囲む炎が空間にヒビを入れ始めているのが見えた。冗談ではない、結界が壊れると言う事は、


「だっ…めっ…させ…ないっ!!」


 気合を入れるようにユエは勢いよく飛び上がると、八幡宮の三の鳥居の上へと着地する。すると鳥居の上に透明な球体が浮かび上がり、ユエはそれに両手を当て、


「火は歌い土は踊る、金は栄え水は満ちる、木は連なり悉くをもって円と成し相なりて生まれたれ!」


 その球体に力を注ぐように言葉を発する。

 すると、球体はユエに答えるように色を次々に変え、最終的に赤黄青紫緑の五色に分かれた色彩豊かなガラス玉のようなものに変化した。

 ユエが何を行ったかは分からないが、ユエが両手を添えている球の色が変わったと同時に、清美の放った炎にヒビを入れられていた空間が元通りになる。


「相生…しかもアレンジか。ええ腕しとるなウサギちゃん」

「何をしたかさっぱり分からん。説明しろ」

「結界の補修とちょいとばっかし改造やな。本来の派生を無視して火を一番に持ってきよった。相剋にせんかったのは、あの火出しとるお嬢ちゃんを煽らん為やろな。火と火、どちらかが強力すぎんかぎりはトントンやから、実質強度アップや」


 胡散臭い話ではあるが、結界のヒビが無くなった以上、柳の言う通りなのだろう。


「今の言葉…いや呪文か。それにそんな力があるのか」

「んな訳あるかい。あんなもん自己高揚の為の媒体や」

「は? どういうことだ、おい?」

「当たりきつない? せやから、あれには多少の意味はあるんやけどな、ぶっちゃけほぼ気合や」

「ははっ、冗談は貴様の存在だけにしておけ」

「ほんまやねんて! ウサギちゃん見てみいや!」


 柳に言われるままにユエの方へと目を移すと、


「根性…根性…ド根性…っ!」


 踏ん張りながら、オカルトにまるで合わない言葉を口にし結界を維持していた。


「ほれ! 力なんてもんは基本気合と根性やねんて!」


 衝撃の事実である。あれだけ格好つけた呪文が、テンションを上げる程度の効果しかないとは。という事はだ、ユエと萩の戦いの際の言葉もまた同じと言う事なのだろうか?


「とんだ茶番だな」

「重要やからな? 第一それを力の発動のスイッチにしとる場合もあるしな」

「それに意味はあるのか?」

「発動タイミングを明確に計れるようになるで」

「こけおどし…か」

「せやから意味はある言うとるやろ!? ほれ、ウサギちゃんの結界もガチガチにパワーアップしとるし!」


 そう言われるとこちらは何も言えなくなるが、やはり腑に落ちん。

 まあいい、ユエが気合を入れて結界を張ってくれているおかげで危機は去ったのだから。

 これで一安心、と胸をなでおろした瞬間、


「ぐっ…!? う…そ…!?」


 周囲の炎が猛り、結界に再びヒビが入る。


「どういう事だ柳!?」

「知らんわ! 何でもかんでもウチが知っとる思うなや! …まあ、恐らくやけど外へ出ようとしとるんやろな」

「予測がついているならもったいぶるな!」

「うっさいわ! 憶測なんやから、言いづらいに決まっとるやろが!」

「説明役が使命を放棄すると言うのか!? 失望したぞ!」

「誰が説明役やねん!! 勝手に上げて下げんなや!」

「安心しろ、評価は一切上がってはいなからな」

「下がりっぱ!? 酷過ぎやない!?」


 しかしまいったぞ、外に出ようとしているなぞ言語道断だ。結界が壊れたが最後、炎は鎌倉の町を焼く事となるだろう。

 そうなれば、取り返しのつかない事となるのは明白である。


「させる訳にはいかん! 柳、なんとかするぞ!」

「おう! ってなんでウチが手伝う事になっとんねん! ええか、よう聞きや。ウチかてな助けたいんは山々の山やけどな、おいそれと助ける訳にはいかんねん。対価がない仕事はいずれ根腐れを起こすんや。つまりやな、ウチの矜持にかけて…」

「頼む」

「…あー、あれや、ウサギちゃんがおるやろ? ウサギちゃんと協力して、なんとかすればええんとちゃう?」


 確かにその通りだとユエを見るが、


「ぐっ…ぐぐっ…こ…こんじょー…」


 顔を赤く染めて先ほどよりも気合を入れて踏ん張っているのを見る辺り、必死に炎の進行を止めているのだろう。どう考えても、それ以外に手が回るとは思えない。

 柳もユエの様子を確認したのか、苦虫を噛み潰したような顔をする。


「うへぇ…そやったら、アレや! 一旦火を外に逃がしたらええ! したら勢いも収まるはずや! 多少焼けるかもしれへんけど、なんとか―――――」

「絶対に駄目っ!!」


 柳の提案にユエが勢いよく反発する。ユエは必死に結界を維持しながら、


「焼けたら傷つく…町も…あの子も…絶対に許しちゃいけない…っ! 私が…なんとかするからっ…!!」


 俺たちに訴えかける。

 必死さを前面に現したその言葉は、梃子でも意志を曲げぬとこちらに伝えてくるようであった。

 月兎、心優しくも他者の悲しみを鑑みれなかったウサギの物語。

 前世持ちが、確実にかつての自分の生き様や性格に似るのかは分からない。

 だが、体が震えるほど苦手な火に囲まれながらも、他人を思いやり、自らを律しその身を投げ出すさまは、ユエの前世である月兎を思い浮かばせるには十分であった。

 ああ、ユエは本当に生まれ変わりなのだと感じ取り、同時に引く事はないと俺は理解した。


「柳っ!!」

「なんなんやねん! あーあーあー…勘弁したってや! 生かす決めた二人がこぞって自殺なんて冗談やないで! くそったれがっ! ええわ! 仏さんも二度までは何でも許したる言うとるしな!」

「仏はそこまで寛容ではない!! だが、今はその間違った認識のままでいてくれ!! すまん、恩に着させてもらうぞ! 正直借りを作りたくなかったがな!!」

「こんな時ぐらい媚びへつらえや!! ええな、旦那が言うとおり貸しやで!! 後で報酬もらうかんな!! 絶対やからな!? 頼むでほんま!!」

「守銭奴め」

「正当な要求やからね!?」


 本音を言うとなんでも聞いてやると言いたかったが、無駄な意地が発動し悪態をついてしまう。すまん柳、心だけだが礼を言うぞ。


「ほんなら」


 俺が口には出さずに誠心誠意柳への感謝を述べていると、突然柳が俺の背後に周り羽交い絞めにされる。


「…なんのつもりだ?」

「こうするんや…すぅ」


 柳は大きく息を吸い込むと同時に、刀を俺の首へと向け、


「出てこいやお嬢ちゃん!! こんかったら旦那の首刎ねるぞ!! 首ちょんぱやで!!」


 こともあろうに、清美に向かって脅しをかけやがった。

 ベテラン柳、初手脅しである。思わずこれには俺も呆れたものだが、


「―――――」


 炎の壁が主の出陣を見送るべく、勢いよく自ら出口を開く。どうやら効果はてき面だったようだ。

 柳の嘘の脅しを受けて、開いた出口から清美が炎の中からゆっくりと姿を現す。ただし、その表情に鬼のような怒りを滲ませてであるが。


「おー、怖っ。えらい恨まれたもんやな」


 柳はへらへらと笑いながら俺を離すと、手で下がっていろとジェスチャーを送ってくる。

 人をとっ捕まえたり、どこかへ行けと追いやったりと忙しい女だ。だが、今は柳の言うとおりにするしかない。


「恨まれるんは慣れとるさかい、どうってことないけどな。ほんなら、ちゃっちゃとやってこか!!」


 清美を前にし、柳は腰に挿してあった刀の鞘から、もう一本の短い刀を抜きお得意の二刀流になる。二天一流、宮本武蔵の完成させた流派である。

 長い刀は大太刀、短い刀は小太刀。柳はそれぞれの刀を持ち臨戦態勢へと入ろうとしていた。

 そして、構えを取ろうとした瞬間、


「そいっ!!」


 柳から炎が放たれる。それは業火と呼ぶべき威力をもってして、炎の柱となり一直線に清美へと迫り、


「よしっ! 入った!」


 そのまま清美に直撃した。そのまま炎は清美を焼くように天へ伸び、竜巻のように燃え盛る。不意をついたからだろうか、清美は身を守ることも避ける事も出来なかったようだ。


「卑怯な…じゃない! なにしてやがんだ貴様!! 清美が焼き豚になってしまうだろうが!!」

「女に向かって焼き豚って…旦那ほんまアレやな。まあ、それはええとして、平気や平気、加減しといたし。いい感じに気絶して――――」


 柳の言葉が途絶える。柳の放った業火が消え去り、そこには、


「………」


 無言のまま、傷一つ付かずに柳を睨み付ける清美が立っていた。まさかの無傷である。


「嘘やろ!? ウチの初狩りファイヤー受けて無傷てあの子どないなっとんねん!?」

「なんだ初狩りファイヤーって?」

「初心者狩りファイヤーの略や。ウチが刀を抜いて構えるフリをすると、大体戦いなれてない青二才は引っかかるねん。構えなんぞしとると、一手遅れるちゅうのが分かっとらんのやな。せやから、初心者狩りや」

「実力者が若造をいびる様な真似をするな!」

「アホ抜かせ! 加減しとる言うたろ! これで伸びてくれれば、殺さんで済むやろが。ごっつ優しい戦い方やっちゅうねん。しっかし、これが駄目ちゅう事はや、割かしキツめに攻めんとあかんかな」


 柳の纏う空気が変化する。相も変わらず揺れるよな、飄々とした雰囲気を纏っているが、


水輪の行モードアクア


 その中に確かに鋭く刀のような、殺気が微かにもれ始める。チリチリと肌を小ざかしく突くような気に当てられ、俺は押し黙ってしまう。

 俺に向かってきたとき、そして清美に炎を向けたとき。そのどちらも本当に加減していたのだと、俺はようやく理解した。


「混じりて交差、詠えや詠え八千夜」


 柳は己を高揚させるための呪文を口にし、両腕に持つ刀を交差させ、バツの字を作る。

 それは戦うための構えにも似ていたが、柳は構えなどしていると一手遅れるとまで言っていた。

 つまり、


「唸らせや竜笛!! 嘶くは波浪!! 押し寄せろ、大波双水龍ウェイブドラゴン!!」


 その行動は構えの一手先へ。何かすると感じたときには、後の祭りなのだ。

 柳の背後に顕現するは、二頭の龍。水で構成された彼らは、その透き通る姿に己が敵を映し出し、圧壊させんと唸りをあげる。


「加減したる! 耐えてくれや!!」


 柳がそう叫ぶ前に、水の双龍はその巨体をもってして、互いに螺旋を描きながら、清美へと怒涛の勢いで襲い掛かり始めていた。

 二頭の水龍、その二つの螺旋が連なり清美へとその身をぶつけ、押しつぶさんとする。

 だが、


「なんだ…?」


 双龍が清美へと届くことはなかった。

 炎が双龍を燃やす。水であるはずの双龍が炎に食われ、消え始めていた。じわじわと延焼し、まるで侵食されているようで、不気味な光景であった。


「…冗談きついで。宿炎しゅくえんかいな」

「宿炎…? あの炎の事か」

「せや、あの炎は生きとる。意思を持った呪いや。あれを見るに、お嬢ちゃんを自動で守っとるんやろうな…」


 炎に燃やされ取り込まれようとする水の龍を指差し、まるで他人事のように頭を書きながら柳はぼやく。

 そうこうしている内に、本来燃えるはずのない龍は完全に炎に取り込まれ、その姿を消してしまう。

 蒸発ではなく炎上し、挙句に吸収され消えたというのは信じがたい事実であった。


「宿炎は何でも燃やす。恨みか、希望が、嘆きか、それぞれ在り方は違うが、概念まで燃やすもんもあるぐらいや。ウチの水芸ぐらいはお手のもんやろな」


 なんという事だろうか、清美の奴ここに来て強キャラである事が判明するとは。聞いている限りだと、あの炎どうしようもないのではなかろうか。


「どうすんだこれ」

「対処法はある…が、色々作法がなぁ。まずは、お嬢ちゃんの前世を当てんとあかんな。不安定のまま軽くやったろ思ったけど、こうなったら魂固定せんと何起こるか分からんしな。最悪不安定で、自分ごと町全体が炎上まであるやろし。でもなぁ…それにしてもや」

「なんだ、すべき事は決まっているんだろう?」

「ウサギちゃん、もつんかな?」

「あっ」


 すっかり忘れていた。ユエが結界を保ってくれているから、こんな悠長にしていられるのだった。

 ユエの居る鳥居の上へ目を向けるが、


「ふおおおぉぉ…ふぁいとぅー…」


 汗だくになりながら小刻みに震え、どうみてもギリギリのご様子であった。というより、ほぼアウトに近いのではなかろうか。


「あかんやろ、あれ」

「駄目だろうな。だが、まだなんとかしてくれそうでもある」

「鬼畜か自分」

「黙れ、初心者狩女。しかし、どんな具合か聞いたところで、正直に言ってくれるかが問題―――――」


 そこで俺は、あることを思い出した。


『ここだけの話、ユエはピンチになると全神経を集中するんで、言語中枢がゆるゆるになるんすよ』


 萩の奴が言っていた事が事実であるなら、判断材料になるのではなかろうか? 胡散臭いことこの上ないが。


「ユエー! 大丈夫かー!?」


 俺の問いかけに、


「エブリデイ、だいじょーブイ」


 ピースサインでユエはニコリともせずに、そう返してきた。

 大丈夫…ではなさなそうだが、普段の言動からしてまだ僅かに余裕がありそうである。


「よし! まだ平気だ! さっさと、清美の前世とやらを特定するぞ!」

「今のやり取りで、どこが平気と判断したん!?」

「胡散臭いリークがあるんだよ! ともかく今は一刻も早くなんとかするしかない! 柳! 貴様の宮本武蔵とは一つも関係のない、意味不明な技で情報を集められないのか!?」

「辛辣すぎやろ!? 関係あるっちゅうねん! 五輪の書あるやん!」

「馬鹿も休み休み言え。五輪の書はタイトルのみ火だの水だの使っているが、内容は関係ないだろうが。馬鹿か貴様。馬鹿か?」


 俺は先ほどから気になっていた事を素直に口に出した。

 五輪の書は地の巻き・水の巻き・火の巻き・風の巻き・空の巻きの五つから成る兵法の書である。すなわち、火を出す事も、龍を出す方法も書いてないのだ。


「誰が馬鹿やねん! 黙って聞いとれば、アホぬかしおってからに! 現実問題空飛んで、目にも留まらぬ速さで走る人間がどこにおるっちゅうねん! ええか――――っと危なっ! 今話しとるやろが! お譲ちゃん火だすなや!! んで、旦那は聞いとけ、重要な話やからな!!」


 清美の炎を避けながらも喋るのを止めんとは…見事だ、実に見事だ。いいだろう、素直に聞こう話半分であるが。


「ええか、大前提としてウチらの力の源は伝承なんや! コレがあった、アレがあった、ほんならコレ出来るんとちゃう? そんなんで―――熱っっ!! ちょう待て、ほんま待てや! 火やめーや!!」

「はは、清美の奴容赦ないな」

「なにヘラヘラしとんねん! あっぶなっ!? なんか頻度あがってへん!?」

「そりゃあ、喋りながらなど嘗めた真似されれば、怒りもするだろうな」

「何冷静に判断しとんねん! もうええわ! ウサギちゃんも心配やし巻きでいくで!」


 清美の炎を出す頻度が上がり、柳を焼こうとするが、そのたび柳は避け続け、まるで煽っているような状態になる。

 飛んでくる炎をギリギリでよけて行動する。あれだな、ゲームなどでよく見る光景だ。

 しっかし、これだけ攻撃を受けている以上、流石に清美に向き合うと思ったが、この状況でも喋ることを止めんのか。

 すごいな、こいつ。尊敬してやろう、真似ようとは思わんが。


「ウチらは超常現象そのものや!! 記憶が薄かろうが、濃かろうが、前世を持つっちゅうんは、異常事態なんや!! せやったら、こじつけや尾ひれを使ってこその超常ってもんやろ! せやから想像し、己が力を示す! 前世を持つっちゅうんはな、過去からの続きやない! やりなおしでもない!! 今を生きる為の糧や!! 振り返らず、驕らず、ただ真っ直ぐに! 生き延びてこそ花! 咲かれんなら、生まれてきたいみなどあるもんかいな!!」


 幾度も迫りくる炎をすべて避けきり、息一つ切らさず、何一つ言葉淀む事無く、柳は自分の言いたい事を言い切った。

 思わず拍手をしてしまう。一方清美は無表情ながらもこめかみ辺りをピクピクと痙攣させていた。

 どう見ても清美さんご立腹である。そりゃあ、怒るだろうな。そうだろうとも。

 ふむ、言いたい事を犠牲に非常にまずい事になりそうである。


「よしっ! 相当端折ったが、言いたいことは全部出した! そんなら、お嬢ちゃんの前世当てたろか!!」


 そして、清美のこめかみを引くつかせた原因はご覧の様子である。

 ご満悦気味結構、すっきりするのも結構。ご自由にどうぞと言いたい。

 だが、代償をこれから払うことになるかと思うと、俺は溜息をつかずにいられなかった。

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