第87話「解体新書……」

 解体。


 情報を照らし合わせていった結果導き出されたこのキーワード。


 この二文字の発音を聞いただけで、何故だか悪寒が走る。それは、半サイボーグの私にとっては恐怖のワードとなっているからだろう。解体とは、建築物や建造物を壊すことを意味する。老朽化のためや建替え、著しく損傷し修理が困難な場合、何らかの理由で使用目的が全くなくなった時に解体される。もっと極端に言えば、ばらばらにすること。また、ばらばらになること。人や動物の体を切り開くことも言う。


 戦闘機人と呼ばれる、無機物と有機物の完全融合種族が大勢いるこの場所と世界で出て来た「解体」という単語。何故そのような、戦闘機人達にとって不吉な事を連想させる言葉が出て来たのか。ネア達に視線を送ると、全員不穏な表情をしている。私も同様だ。ここのスタッフと戦闘機人達に話を聞いて、「解体」の意味をある程度知ったのだからな。


「皆からその単語が出たという事は、もう意味をある程度理解していると思って話させてもらう。解体と言うのは、文字通り戦闘機人達を解体、バラバラにしてしまう事だ」


「戦闘機人の皆さん、口々に言っていました。男子は解体されてしまったのではないかって。行方不明になっていた子達も、もしかして人知れず解体されて戻ってきたんじゃないかって噂も話してくれました」


「スタッフの皆さんも話しずらそうだったが、どうやらこの世界では解体という事柄は割とポピュラーな物のようだ。この異世界の情報についてさらに詳しくデータベースにアクセスして検索したが……」


 言葉に詰まってしまった。ネア達に話すべきか話さないべきか迷う。


「アンチさん? 大丈夫ですか?」


「……ああ、大丈夫だ。これから話す内容は解体とも関ってくるから、この世界の仕組みと概念、予備知識として知っておいてくれ……」


 覚悟を決めて、ネア達に話を聞かせる。

 この世界は度重なる環境破壊と戦争のせいで、眠っていた多くの怪獣を呼び覚まし、誕生させてしまった。怪獣の脅威に対抗するために様々な強力な兵器が作られてきたが、破壊しては製造され、勝利しては敗北を繰り返して来た。多くの兵器が大地や海に没していったのだ。兵器の力だけでは対抗しきれないと悟った政府と軍は、兵士の力を高める技術に着手し始める。


 その結果生み出されたのが戦闘機人、人造人間と言ってもいい。戦闘機人は人間の素体と死体、戦場に散った兵器の残骸を融合して創り出される。研究を進めていった結果、戦場で拾う兵器の残骸と素材だけで製造ができるようになったそうだ。そして誕生した彼らは、それぞれこの世界の前線基地に駆り出されるそうだ。


「だが、ここである問題が起こる。同じ存在の戦闘機人が出来てしまった場合だ」


「同じ存在? それはどういう事なの旦那?」


「わかりやすくいえば、同じ顔、同じ性格、同じ考えと心。同じ身体をした全く同じ戦闘機人が出来てしまうらしい」


「ちょっと、それって双子みたいなもんなの? 三つ子でもいいかしら?」


「違う。それは姉妹、兄弟だ。極端に言えば、自分と全く同じ存在、もう1人の自分がいると思えばいい」


 皆の表情が険しくなる。当然の反応だろう。私もその手の話には詳しくないが、何となく奇妙で嫌な感じがする事だけはわかる。


「えっと……何処が問題なの? まったく同じ存在が一杯できるって事じゃん? 強いのが被ったら寧ろ戦力としてはいいじゃない」


「……いや、この世界では同じ戦闘機人が生まれる事は嫌がられる事らしい。他の基地にいるのは問題ないが、一つの基地の中に同じ種類の戦闘機人がいるのは避けたいようだ」


「どうしてですの? 縁起が悪いとか人間の下らない概念ですの?」


「いても意味が無いのさ。同じ存在は戦隊の中に組み込むことが出来ないらしい。同系統同士ではお互い拒否反応が出てシステムに弊害が起こり、この世界に多大な影響を起こすそうだ。よくはわからんが、世界の修正影響力というやつのようだ。あれだな同じチート野郎が沢山集まり攻撃を仕掛ける事が出来ないようになっているとか……」


「「「ああ……」」」


「そして、同じ存在が出来てしまった時にする事が、解体だ。使い物にならず戦力にしたくても出来ないから文字通りバラバラに解体されてしまうんだ。最後は元になった素材しか残らなない。そして、その素材を使い、また拾って来た残骸を組み合わせて新たな種類が誕生するのを待つそうだ」


 全員黙り込んで考え込んでしまった。自分でも話していて凄い仕組みの世界に来てしまった物だと頭を抱える。倫理問題や人間性に問いかける問題ではないか。彼等と話してみて、全く人間と変わらない存在だと言うのに、被ってしまうと戦力として出せないから新たに生み出された方が即座に解体されてしまうと言うのだ……。そして新たな種類が生まれるまで製造を繰り返す……。少し惨い話だが、これがこの世界の仕組みと言うのなら、私達余所者にはとやかく言う権利は無い。


「アンチさん。話していただいたこの世界の事情と戦闘機人さん達の話を合わせたら、やはり行方不明になった子達は一度解体されたのではないでしょうか?」


「ネアもそう思うか?」


「またあとで同じ個体が生まれたのなら、記憶はどうなるのかはわかりませんが、説明が付きます。そして、ここからは女の勘ですが、男子だけが帰って来ないのは……誰かが意図的にそうしてるからだと思います」


 ネアが珍しく女の勘と言う言葉を口にして進言する。いつになく真剣な様子に、こちらも思わず表情が険しくなる。


「ネアちゃん。きっとある人物の個人的な感情もありますわね」


「そう読んでいます」


「ああ、嫉妬だね、絶対」


「そう、まさしくその通りです」


 コルラとモコがネアの予想に加勢する様に身を乗り出し、意見を述べて来た。特定の人物の個人的な感情、嫉妬が起因しているという意見をネアは否定せずに認めた。


「そうなると、あいつしかいないわね。ってよりもあの男しか怪しい奴がいないもの」


「そうですな。この前線基地に在籍する人々を束ねる立場であり、権限を持ち安易に権威を行使して話を合わせる事の出来る事が出来て、今回我々がこの異世界に来る事となったチートアイテムを持つ存在、彼しかいませんなアンチ殿?」


「既に皆理解しているようだな。あの長官、奴がこの前線基地で起こった戦闘機人行方不明事件の犯人と見ているんだな?」


「動機は十分にあります。あの眼鏡をしている時点でも決まったも同然です。常に経験数が見えていて処女かどうかを確かめているのですから。アンチさんもあの男の経験数見たでしょ?」


「……ああ、不可抗力で見てしまったよ……」


 あの長官と言う青年は童貞だ。見た時は何も感じなかったが、彼の処女と経験している女性についての考えが、ネアとのやりとりの時に垣間見えた。


「あいつ処女厨だ」


「です」


 何故だろう……何とも言えない空気になって来た。一応犯人を推理して判明したかもしれないという雰囲気なのだが……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る