第86話「それぞれの証言」

 数時間後、それぞれ戦闘機人とスタッフ達に聞き込み調査をしていたコルラ達が戻って来た。私とネアも情報収集を終えたので丁度良かった。ちなみに、チェイサーとサイダーは相変わらずやる気が無く、ビークルモードで待機している。話しかけても「やる気が無い」の一点張りだ。人工知能を搭載している機械としてやる気が無いとはどういうアルゴリズムなのかと問い詰めたいが、今は調査の方を優先する。


「さて、各々聞き込み調査で得られた情報を交換し合い、そこから推理していこうではないか」


 ソファーの上に全員で座り込み、机を囲む。少し緊張感と真剣さが漂う場と変わる。小堀で丁寧に作られた机の上には、綺麗な装飾が目立つティーカップが並び、カップの中には赤茶色の液体。この香しいような香り……緑茶だ。隣には皿に盛られた餡団子が置かれている。何処から調達してきたのだろうか。そしてこの異世界の文化は日本に似ているのだが、やはり創造した者の影響だろうか。


「ところでこの茶菓子は何処から?」


「ああ、甘味処から貰ったよ。ここ数日協力してくれているお礼だってさ」


 モコが口に餡団子を入れて噛みしめながら答える。お礼とはいえ貰い過ぎではなかろうか。軽く50本は超えている。そしてその隣で美味しそう餡団子を食べているバイラ。ホルスターに収めていたバイラの警告状態が解けたので、モコに預けておいた。暴走した後だったので、いきなり泣き出すのではないかと思っていたがそんな事は無く、代わりに口調に変化が出ている……。


「では、お茶菓子もそこそこに私とお姉様から話をさせていただきます」


「「「お前誰だよ」」」


 全員から総ツッコミが飛ぶ。目の前にいるのは姿形はバイラだが、中身が完全にジェントルマンだ。佇まいも雰囲気も洗練されており、仕草も隙が無い。それでいて気品と余裕が現れている。この子は毎回何かある度に口調と性格が変わるがモス族はそう言う種族なのか? もしかして成長したのか?


「ああ、バイラなら大丈夫。ここの人達に自己紹介も済ませて置いたし。問題ないんじゃね?」


 違う。そう言う問題ではない。モコも姉だからといって順応し過ぎではなかろうか。暴走した時は泣きじゃくっていたのに、弟が紳士然となると取り乱さないのはどういうわけだ。


「まあまあ、皆様ご安心を。この状態は暴走状態が収まった一時の間だけです。時間が経てば元に戻ります故。では早速お話しましょう」


「あ、ああ……」


 バイラとモコから始まり、コルラ、ピーコと情報を話していく。そして私とネアが得た情報を話して買うそれぞれの情報を紡いで照らし合わせる。


「行方不明になった戦闘機人カップルの内、男子を除く何名かはいつの間にかこの基地に戻っていた。しかし、奇妙な事に彼女達は行方不明になっていた間の記憶が無い。そして、依然男子達は戻ってきていない」


 私は脳内で整理した情報を、デジタルスクリーン式に両目から出現させる。全員声を上げて驚いたが、いい加減私が何をしても馴れて来たのか直ぐに収まった。それはそれで悲しい。原始人の様に文明の利器に驚いてほしいのだがな。


「傷付けられた外傷も無く、精神的トラウマも見受けられない。まるで何事もなかったかのような状態。周りも心配してあれこれ話すが、逆に不審がられてしまう始末。そしてこの奇妙な事件に対して長官から出た言葉は遠征に言っていただけという結論。最初は疑問視する声も上がったが、当の行方不明になっていた女子達が長官の言う通りだと主張。長官の日頃の生真面目な態度と評価も相まって、一種の都市伝説の様に語られているが、彼女達と付き合っていた男子達の事は未だわからない状態……」


「ホント奇妙な話よね? 数日間いなくなったと思ったら戻っていたなんて」


「彼女達が嘘をついている様子もありませんでしたわ。蛇睨みの応用で無意識に催眠状態にして聞き込みをしましたけど、本当に何も覚えていませんでしたもの」


「そうか……」


 そんな事をしていたのか。催眠状態でも嘘はついていなかったという事は、本当に彼女達は何も隠していないという事でいいだろう。


「だが、先程全員で情報交換した結果、共通の気になる単語が出たな?」


 皆同時に目を合わせた。口を開くタイミングも同じで、そのままある言葉が口から出た。


「「「解体」」」

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