第85話「事件ですよ」

 この戦闘機人達は、驚く程私と構造が似ている。いや、同じだ。全く同じなのだ。


 胎児の段階から無機物を加えて生み出される、無機物と有機物の融合した存在。鋼の骨格に堅牢な肉体。人間でもなければ機械でもない。半サイボーグか機械生命体と表記しても、受け手によって解釈は変わるだろう。機械のような作業、機能を内蔵して意図も簡単に使う事が出来る。戦う為に生まれてきたと言えばそれまでだが、それでも根本的に身体構造は人間とは異なる限りなく人間に近い生物と呼べばいいだろう。外見も内面も、人間と全く変わらない。普通に話して、感情を露わにして苦悩する。それが彼等だ。


 そして、何故だがわからないが、この場所と雰囲気は非常に懐かしい感覚を覚える。


 建物の構造、間取り、街の雰囲気、港の波風。ここのスタッフや戦闘機人。全てに対して不思議な懐かしさと親近感を感じられずにはいられない。おそらくは、戦闘機人達が私と同じ肉体構造である事と、前世の記憶による既視感のせいだろう。


 前世の記憶とは言っても、私は進んでその記憶を思い出す事は無い。時より頭の片隅を通過する程度の微々たるものだ。だが、それでいい。異世界チート転生者を狩るアンチ的存在であるこの私が前世の記憶を完全に保有しているなど言語道断だ。推測だが、インテリジェントデザイナーが私の脳、記憶にロックを掛けているのだろう。知識や経験は残してくれたのはありがたい。この2つをを元にある程度過去を思い出せているのだろう。


 はて……。そうなると私の人格は、記憶と経験に残る微かな前世の記憶を元に形成されているのだろうか。


 人は生まれてから色々な物を見聞き体験して自我と意識を芽生えさせ、心と人格、思想を形成していく生物だ。だが、私の場合は前世態と似た姿で転生された生物。最初からこの意識と自我、心と人格、思想は既に形成されていた。前世の記憶を封印しているのにここまで完成された意識、自我、人格が出来る者なのだろうか? 心を痛める事も出来て思想もはっきりしている。


 待てよ……?


 そもそもなぜ私はこの場所と雰囲気、人々に懐かしさを感じるんだ?


 先程も考えた通り、前世の記憶の影響? だが封印されている状態で感じる事が出来るのだろうか。それとも感じ取れるように設定されているのか、感情と記憶は機械には左右されないという事か。


「ちょっとアンチさん? どうしたんですか。さっきからソファーの座ったまま呆けてますけど」


「ん? 少しノスタルジーな気分に浸り考え事をしていただけだ、ネア」


「そうですか。そんな事より、ピーコくんが言ってた通りに、まずは戦闘機人さん達の行方不明事件について調べないといけませんよ」


「そうだな。ん? コルラ達は何処に行ったんだ?」


「戦闘機人さん達と甘味処に行きましたよ? 聞き込み調査ですよ。ついでにもこんな甘い食べ物を貰いました。「あんこがけだんご」と言うものだそうです。美味しいですね、赤茶色で粒状の甘い塊が、白くて丸いモチモチとした食感の物と絶妙な甘さを醸し出します」


「ほお、いつの間にか仲良くなって……」


「で、彼女達の話によれば、何でも戦闘機人の男女カップルが主に行方不明になっているようですね。事件ですよ」


「正しく事件ですよキンダイチさんってな。戦闘機人達同士で付き合うものなんだな……」


「それはそうですよ。男と女がいるんですよ」


 ネアが顔を接近させてえらく凄んできた。真剣な表情も相まって短い言葉だが妙に説得力が滲み出ている。流石は女性。色恋沙汰にはモンスター系獣人でも敏感と言うわけか。


「男型が行方不明になるのは痛手だな。話を聞くと彼らは貴重な存在らしいからな」


「ところがおかしな話があるんですよ。仲良くなった子から聞きました」


「おいおい手が速いな。どんな話だい?」


「行方不明になった男女カップルの内、何人かは数日後に何事も無かったかのように戻っていたらしいんです。しかも女性だけ」


「なんだと?」


 それは奇妙な話だ。行方を眩ませて数日後に傷ついた身体か、放心状態で戻ってくるならまだしも、まるで何もなかったかのように戻ってきたとはどういう事だろうか。


「さらに、行方不明になっていた間の記憶が無いらしいんですよ」


「増々不可解だな……」


 これは、予想以上に不可思議な事件の予感がする。ピーコがあの場で、ここの現状を調べる提案をしてくれて正解だった。もしかすると、この事件はあのチート眼鏡、長官絡みではないかと私のチートセンサーと直感が働きかけている。本格的に調べてみなければな。ネアが餡かけ団子を差し出してくれたので、受けとって口に運ぶ。その甘みと食感を噛みしめて存分に堪能。モチモチとした柔らかくほのかな甘さが堪らない。脳細胞にいい刺激を送る。トップギアだ。


「もっと詳しい話を聞きに行くか、いくぞワトソンくん」


「いや誰ですかアンチさん」


「私の事はホームズと呼びなさい」


「いや、だから誰ですか……」

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