第75話「蛹から蝶へ」

 我々は今、狭間の森で休息を取っている。相変わらず冷たい空気が漂い、極彩色な植物や果実が生い茂っている。不気味な所だが、ネアも含めて全員居心地が良さそうにしている。今気づいたが彼女達って夜の一族ではないだろうか。


「やっぱりここ落ち着きますね~コルラちゃん」


「フフフ、そうですわね~モコちゃんも気持ちが良いでしょう?」


「そうね~。こうやって枝にぶら下がっていたい……」


「イインセル……」


「まあ、不気味な所だけど居心地はいいわねココ」


 私は今、データに表示されていたネアが超進化したという事について考えている。


 分身を解除して1人に戻った後、ネアの姿はかなり変化していた。よりの人の姿へと近づきつつも獣の要素を残した姿へと。


 超進化とはどういうことだろうか……? 確かデータによればアンチバレットコア化し続け、アンチートマンに変身した事で進化を果たした。そして4体分身能力アラクニア・フォーを獲得した。しかも彼女らは、異なる人格と意識を持つかなり特殊な分身。分身のデータについて検索してみた。


 ▼アラクニア・フォー/エアラクニュア

 かなりテンションが高くアグレッシブな性格。長女。飛行形態(ヘリコプター)へと変身して空を飛び、長女ポジションでかなり優秀だが、その代わりに言っている事は支離滅裂でくだらないギャグを言うバカ。ツインテールヘア。口癖は「~ネ」「~ヨ」「デース」。


 ▼アラクニア・フォー/ブラックネーア

 元気いっぱいの明るい性格。次女。超能力を使い、高速形態(バイク)に変身して移動する。その代わり耐久力が弱く直ぐにやられて料理も下手。外はねのショートカットヘア。口癖は「バリバリバリバリよろしく」「ブーン」「やられた~」

 

 ▼アラクニア・フォー/ケアラク二ーア

 健気で献身的な優しく、言葉使いは丁寧であり控えめな性格。高機動態(戦闘機)へと変身してとにかく攻める。三女。本体の性格に近い。戦闘力と自己回復力が高い。その代わり、性的な意味で際どい発言とアピールをしてきて時々暴発。ポニーテールヘア。口癖は「~ます」「シャア!」「ぱらりら」


 ▼アラクニア・フォー/タランチュニア

 冷静でしっかりとした知的な性格。四女。砲撃形態(タンカー)に変身して火力で勝負。分析と状況把握に優れ、砲撃・射撃に特化しており防御力が高い。だが、速さがイマイチで、ダジャレを言いまくる変態。ゆるふわボブカットヘア。口癖は「~たんかー!」「だな」「キタコレ」


 ふむ。なるほど……。データを見終えて、一息付いた……。


「色々とツッコミどころが多すぎるだろ!!」


 思わず大声を出して叫んでしまった。それぞれ特化した能力がある代わりに性格部分の弱点が色々と酷過ぎるだろうこれは!? ネアをどうやって分けたらこうなるんだ!? そして、何故に生物である彼女達が、ヘリコプターやバイク、戦闘機やタンカーに変身するんだ? ……まさか、ネアンチートゥマンに変身する事で肉体に無機物が付加されているのか、それともトランスフォーメーションの応用なのか。それも含めて超進化したと言う事か……だが、1と言う数字は何だ? まだ進化すると言うのか!


「あの……アンチさん、また情緒不安定ですか?」


「あ、いや、こっちの話だネア」


 いかん、少し取り乱してしまった。ふむ。要するに……アンチバレットコア化し続けると肉体に進化の要因が積み重なり、アンチートマンに変身する事で進化の予兆が始まるのか……? どういう理屈と仕様なんだ? そういえば、皆性格にも変化が表れている気がする……特にピーコとバイラが顕著じゃないか?

 この進化という現象。本来は彼女らに備わっていない能力だろう。まるでイレギュラー要素が原住民に変化を促したみたいだ……。良かったのかと疑問に思う。ネアは何気なく過ごしているが、私は気がかりで仕方がない。人の要素が多くなったことは、彼女の本来の蜘蛛としての特性を奪っている事になるのではないか? いや、だが進化と表示されている。人に進化している? それは良くないと思う。人に近付いても退化する部分は多い。デメリットしか考えられない。


 それとも、両方を併せ持った超生物化するという意味と捉えたならば……。


「あら? バイラ、震えてるけど寒いの? 大丈夫?」


「クルンセル」


 モコの言う通り、バイラが小刻みに震えている。モコが心配そうに撫でており、ネア達も何事かとバイラを心配そうに眺める……ん? もしかして進化するのか? そう言えば蛹だよな。


 次の瞬間、バイラの装甲が光り輝き始める。眩しさに思わず手で覆う。光り輝きだした彼の身体にひびが入り始めた。こ、これは羽化だ、蛹から蝶々への羽化だ! 身体から更に金色に輝く粒子……鱗粉が放出

して辺りに漂い始め、幻想的な空間へと変わる。


「チョオリィケショオオオラァアアアアィア!!!!!」


 喋った!? そして次の瞬間、体全体が浮かび上がってひびが最高潮に達した後に一斉に弾き飛んだ。弾け飛んだ装甲が高速で飛んできた。皆避ける事が出来ずに直撃して転んだ。


「ぴやああああああああああああああああ!!!!!」


 極彩色に彩られた羽を広げて大声で叫ぶバイラ。白くモフモフとした体毛が体全体を覆っており、瞳の色は青く触覚まで生えている。手足もしっかりとしているが……大きさが芋虫と蛹の時と変わっていないのは何故だ……?


「あ、ああ……バイラ……!」


 モコが、バイラの羽化した姿に感極まって震えている。瞳が光り輝き、弟の成長した姿を眺めている。遠慮するな、思い切り抱きしめてあげるんだ。


「ん~おめでとうバイラちゃ~ん、凄く可愛いでちゅね~? お姉ちゃんとお揃いで空飛べまちゅね~? もうモフモフしちゃって最高でちゅね~?」


 ……モコはバイラを抱きしめて思い切り頬擦り。頬を赤くしながら笑顔で赤ちゃん口調になって撫で繰り回している……。うぅむ……こ、この光景をどう捉えるかは、人それぞれだろう……。ちなみに、全員どん引きしている。


 いや待て、ここはネアの超進化に加えてバイラが羽化した事を祝わなければ。


「ぴええぇぇぇぇぇぇお姉ちゃぁぁぁぁぁん羽化出来たぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「うぇっ!? バイラ!? あれ? 何で泣いちゃうの!?」


 突如、モコに抱き付いて泣き出すバイラ。その様子は芋虫状態の時と何ら変化していない。私達は呆気に取られて硬直してしまった。モコですら戸惑っている。

 まさか、外見が成長しただけで中身は変わっていないのかこの子……?


《人型を得ているが、外見が変化しただけのようだな》

《うん、まだ身も心も幼児のままだね。大きくなるのはこれからだよ》


「そ、そうか……生物の進化と成長とは、奥が深いのだな……」


 視界にバイラの新データが表示された。早速眺めてみる。


 ▼バイラ・タフ/モス族成虫(幼児)/♂

 外見が成虫になっただけで体格も中身もまだ幼児。しかしいくつもの進化の可能性を秘める最強クラスの潜在能力を秘める個体。今は泣き虫だが、戦闘で追い詰められると次々に新形態になる。

 ※戦闘の際には性格が豹変するのでご注意ください。まだ幼児ですが滅茶苦茶攻撃系です。


 凄く将来性有望であり、どのような形態に変化するのか楽しみだが、戦闘の際にはご注意くださいと言う不吉な表記が気になる。この可愛らしい男の娘が攻撃系だとはとても信じられないな……。いずれ化けると言う事なのか、種族能力や武器が攻撃系という解釈もできるが、モコが姉である以上、直接攻撃に参加する事は許されないだろうな。私も保護者として許可は出来ない。

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