第74話「超進化とカクヨム神からの忠告」

「ネ……ネア!? その姿は……!?」


「あれ……? 私なんか身体が変わってますね……?」


 分身態が1人に戻り、労いの言葉を掛けた瞬間はほんのり光っていたが、完全に光が晴れると、彼女の姿は激変していた。思わず口を開いたまま見つめ続けた。それはコルラ達も同じで、全員驚愕の表情でネアを見つめる。


「な、なんて輝いているの……ネアちゃん?」


「ぴ、ぴっかぴかじゃないの……ネアネエさん!?」


「ま、眩しすぎるわネア!!」


「マブンセル」


 より人間の要素が濃ゆくなっていた。肌の色がより人間に近くなり、体型も頼りなさが無くなっている。蜘蛛の特徴はまるで着飾る装飾の様に変化しており、上手く融合していると言える。髪と瞳の色は真紅色。女性としての魅力が上がったようだな。

これが、進化した姿なのか……?

 彼女はさらに元の獣人型へと戻ってみた。すると、明るい黄色の肌。黄金に輝くの艶のある体毛、赤い文様が身体に施されており、8本の足もより獲物を仕留めやすいように発展している。それでも人の印象が濃ゆくなっている。

 人間態と獣人態、双方ともグロテスクさが消えている。視界にデータが表示された。


 ▼ネア・ラクア/超進化態1

 まだ若く成長期であるため、1の段階。膂力が上がり、アンチート抗体が進化を促した姿。チート能力者に対する対抗力が付いた。サイコパワーと糸の威力も跳ね上がっている。人に近付いているがあくまで獣要素を宿した状態での進化であるため元の種族の要素は残る。


「うわぁ……凄い事になってますね……何か強くなった気がします」


 本人は自分の変化に驚いているが案外あっさり受け入れているようだ。本当に大丈夫なのだろうか?


「身体は何ともないのか? 体調は大丈夫か?」


「はい、何ともありません。これで、もっとアンチさんのお役に立てますね? ネアは嬉しいです」


「そ、そうか? そう言われると嬉しいものだ。ありがとう」


「あ、そうだアンチさん。それよりも、カクヨム神の元へ行かないと!」


「お、そうだったな。犠牲になった4人の勇者の魂と……一応コイツの魂を持っていかないとな。チェイサー、サイダー、頼む」


《ああ、任せろ》

《さあ、乗って乗って》


 ――――……――――……――――……――――……――――……――――……


 次元の裂け目を通り抜け、俺達は現在カクヨム空間へと来ている。目的は、先程倒したチート転移者と、彼に殺された4人の勇者の魂と、再構成した肉体を地球へと返還させるためだ。


「……こ、ここは何さ? あの世? この世?」

「フシギセル」


 モコとバイラがこの白い空間を見渡しながら戸惑っている。それはそうだろうな。あの世と言うのはあながち間違ってはいない。


「今回は難解でしたねアンチさん?」


「ああ、とんでもない強敵を送り出しやがって……」


 何度も復活するなど、悪夢以外の何物でもない。しかもあの能力自体はチートではなく奴が元々持っていたなど……質が悪い。


「元の世界でも無類の強さを誇っていたなんて、本当に反則過ぎますわ」


「しかも中身がイカレてたじゃない、カクヨム神ってろくな奴がいないんじゃないの旦那?」


「乙女ゲー転生以外はろくな奴がいない……」


 考えただけで脳が刺激されて怒りがこみ上げて来た。早く呼び出そう。


「カクヨム神! カクヨム神! ここに来た理由はわかっている筈だ! この魂たちを担当したカクヨム神よ、今すぐここに来い! さもなくば」


「ん~? さもなくばなんだって~?」


「後ろか!?」


「やあ、久しぶり」


 こいつは……前にネアと一緒に鬼人の魂を運んできた時に会った奴。カクヨム食堂を紹介したのもこいつだ……。正直に言うと、こいつは中々食えない性格をしている。こちらに軽めの視線を向けて笑っている。腹の底が見えないなろう神だ。


「お前が担当なのか?」


「いやいやいや、そいつらの担当ちゃんは、前に君が殺しちゃったじゃん?」


「……あいつか? そこにいたからやった……」


「そうそうあいつだよ。まあだからって追及はしないけどね。俺らってお互い情があるわけじゃないし、決まりも無いから、ウンエイ様ならともかくね。

 で、この子達を地球に帰せばいいんだよね? 俺に任せな。ちゃんと記憶も改変するよ」


「ふん……」


 素っ気無く、5つの魂を渡した。カクヨム神は両手でキャッチすると、魂を見つめ、険しい表情を浮かべて構える。瞬間、魂は光り輝き、天へと上昇していき、何処かへと消えていった。


「え? あのさ、イートさん!? 今ので魂が元の世界へ帰ったの? そうなの? あれが神の力でいいのよね?」

「カエンセル?」


 モコとバイラが若干興奮気味に、私の服の裾を掴みながら尋ねてくる。興奮するのは仕方ないが、そうと言えばそうだが……。なろう神に視線を送る。


「ん~……お嬢ちゃん達? 俺らは神と言えば神だけど、正直消えては生まれる妄想の産物なんだよ。一番偉いのはウンエイ様っていう神様さ。だから俺達のことあんまり神々しく見ない方が良いよ?」


「へ? え?」

「ワカンセル」


 余計に混乱させるようなことを言うな、と言う意味の視線を送る。私の視線に彼はお道化た態度を返すだけだ。


「まあ、あれから色々遭って成長したみたいじゃない? ヒロインちゃんも随分進化したね?」


「え、ええまあそうです……」


「世間話なら聞かんぞ? もう帰らせてもらう」


「ああ、違うよ。単なる忠告だよ。君は今のところ支持を得ているようだけど油断はしないでね、これから何が起こるかはわからないんだからさ。周りの環境次第で君は死ぬかもしれないし、とんでもない進化を果たすかもしれない」


「あの、それってどういう意味ですか? カクヨム神様。アンチさんに何が起こるのですか?」


「おっと、蜘蛛のお嬢ちゃん。これ以上は自分達で考えてくれ。君達も所詮は妄想の中の住人なんだからね」


「ん? 増々意味が分かりません、どう」


「ネア、アイツも忠告だけだと言っている、気に留めるな」


「は、はい……」


 カクヨム神から意味深は忠告を受けつつ、我々はなろう空間を後にした。まったく、そんな事薄々理解しているさ。所詮は自分も妄想の産物だとな……。

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