第76話「ただいま休暇モード:お食事編」

 我々は現在、カクヨム食堂でささやかな祝賀会をやっている。ピーコとモコとバイラは来るのは初めてだ。


《我々はここで補給している》

《皆遠慮せず食事を楽しんできてよ》


「ああ、君たちも補給を楽しんでくれ」


 駐輪場にチェイサーとサイダーを駐輪して、長いチューブを穴に差し込んでエネルギー補給を開始する。身もだえ始めているが敢えて触れずに皆を店内へ案内する。


「いらっしゃいませ~。あら、あなたお久しぶりね~? ずいぶんと大所帯になったじゃない?」


 店内に入ると、あの独特の口調と雰囲気を持つ女性店員さんが出迎えてくれた。


「いろいろありまして、仲間がこんなに増えました」


「あなた、ずいぶん懐が深いのね?」


「そうですか?」


 あくまで表情は崩さずに独特の口調を保ったまま、さりげなく賞賛の言葉をくれた女性店員さん。懐が……深いのだろうか?


「では~団体様で~す」


 前よりも大所帯になったので、団体席に案内された。相変わらず店内は複合文化のような外観で、お客さんも亜人、獣人、エイリアンに普通の人間と、服装も種族も異なる人達で溢れている。ここにくると、自分が半サイボーグであることは霞んでしまう。


「す、すごい店内じゃない? 見たこともない種族でいっぱいじゃないのよ。アタシこんなところ来たことない、居心地いいわ」


「うひゃ~ホント色んな種族がご飯食べてるのね~、なんかすごく新鮮だな~。ねえ、バイラ?」


「すぅぅぅごいぃぃぃぃです!」


 3人ともこの不思議な空間を興味津々と眺めている。ここの店は色んな諸国文化が混じっているから、見ていて飽きないだろう。


「私たちはもう馴れましたね、コルラちゃんは?」


「フフフ、まだ数回ですけど馴れました。ここの料理も美味しかったもの」


「さて、これが食事が書いてあるメニュー表だ、ここから選んでくれ」


 全員にメニューを見せて、食べたいものを注文させる。各々がメニュー表に興奮しながら眺めている。見たこともない未知の料理もあるから見ているだけでも飽きないだろう。メニュー表を端から端まで眺め……やはり日本食を食うことにした。


「俺はもう決まった」


 納豆と鮭、豚汁定食にしよう。海苔も突いてくるからな。


「私も決まりました」

「フフフ、僕も決めましたわ」

「アタシも決めた~」

「私も~」

「決まったよぉぉぉ!」


 注文をするために店員さんを呼ぶと、さっきの女性店員さんが着てくれた。


「ご注文は~?」


「納豆と鮭、豚汁定食」

「熱々のボリューム満点ダンゴムシ」

「鼠の丸焼き」

「イナゴの佃煮」

「血かけのフルーツ盛り合わせ」

「苦いだけの葉っぱ蜂蜜掛け」


 …………想像しただけで吐き気に襲われそうになる。


「かしこまりました~」


 毎回思うが、何故ここの店員さん達はこんなゲテモノグロテスク料理を見ても平然としてられるのか……。ここにくる客人も殆どが平気そうな顔をしているが、未だに馴れる事が出来ない。ネア達が注文した料理を想像しただけでもう……っぅ!?


「皆?」


「「?」」


「……食事の間だけ……席を外して構わないかな……?」


「「は、はあ……?」」


 再びトイレでオイルを嘔吐してきた後、ネアに麻痺毒を打ってもらい色んな人間的機能をわざと麻痺させた。麻痺毒も使いようでは鎮静剤になる。

 結局、流石に席を外す事は出来ないので視界機能を調節して自分の料理の実が鮮明に見えるようにして、他の料理にはモザイクを掛ける仕様に設定した。念のため、嗅覚にも自分の料理の匂いだけを判別できるように調整する。これで大丈夫だ。皆と食事が楽しめる。改造手術を受けたおかげか、こういった細かい身体機能を自分で設定調節できるようになったのはありがたい。


「やはり懐かしくて沁みる味だな……美味しい。皆美味いか?」


 平然を装いネア達に感想を聞く。


「やっぱり美味しいです。この濃厚かつさっぱりとした肉厚が堪りません!」


「フフフ、かつて命を救われましたから、再び口にする事が出来て何より、美味ですわ~」


 ネアとコルラは依然と同じ料理を頼み、その味に再び感動している。そうか、美味いか。


「あ~やっぱこの濃ゆい味が沁み込んだ食感が溜まんないわ、うんまいわ~」


「あ~たっぷり鉄分と果汁で幸せだ~美味しい~」


「おふぉふぃべふぅぅぅぅ!!」


 ピーコとモコは初めての料理に舌鼓を打っている。バイラは口の中に含んだまま静かに叫んでいる。


「そうか、美味しいか、それは良かった……」


 皆が口々に美味しいと言いながら満面の笑みで料理を口に運んでいく姿は微笑ましい。

 絶妙な塩気の鮭、納豆の粘り美味さ、豚汁の濃厚な旨みをご飯と共に堪能しながら雑談に花を咲かせる。傍から見たらゲテモノ好きの少年少女達に囲まれて1人だけ哀れに見られているが気にしたら負けだ。そう言う自分も酒のオイル割りなど飲んでいて味覚が多少おかしくなっている気はあるからな。


 ただ、今度来るときは頼むから普通の食事も注文してほしいと切に願う……。


 さて、そろそろチェイサーとサイダーのエネルギー補給が済む時間だろう。ここは機械用にもエネルギーを売っており、供給までやってくれる。この後は、温泉旅館カクヨムランドへ行って心も体も洗い流してリフレッシュする。皆戦闘続きで大分汚れてしまったからな。

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