第62話「送ってきます、プライスレスで」

 無事に今回の任務を終わらせることが出来ました。


 けど、1つ問題があります。それは、人格が豹変しているアンチさんです。この巨大な怪獣アンデストロイヤーモードでも会話は出来るみたいですが、流石にこのまま話し続けると首が痛くなります、私は恐怖のあまり腰が抜けて立てない状況。一旦アンチバレットコア化してもらわないと……無理です……。


「あ、……あの……アンチさん、ごめんなさい……一旦アンチバレットコア化して……」


「トランスフォーメーション!」


「ひぃっ!?」


 もう何度漏らしそうになったでしょう。叫び声だけでも怖い……。彼は見る見るうちに小さくなっていき、徐々に獣の姿から人の形へと変化していった。じ、自力で戻れるのですか!? その途端、私の心歓喜に包まれました。

 良かった、戻れるんだ。そして、アンチさんは以前とお変わらぬ姿に……。


 以前の紫尽くめの服装に身を包んでおりました。完全に元に戻る直前に紫色の粒子を操り服を構成して着用していました。でも……その表情は非常に疲れ切っていると言うか、明るさなど感じさせない暗い荒んでいました。私はその表情を見た途端、駆け寄るのを躊躇ってしまった。


 ううん、きっと戻ったばかりで混乱してるだけ。ここは私が落ち着かせて癒してあげないといけません。あんなひどい裏切りを受けたんだもん。心がすっごい傷付いたからあんなに荒んでいるのです。


「アンチさん、元に戻って良かった、良かったです……!」


 私は彼に抱き付いて言葉をかけた。ああ、以前と変わらない。このぬくもりと匂い。アンチさん。アンチさんです! 今頃になって喜びが沸き上がってくる。自然と笑顔になり、うれし涙が溢れてきました。


「下がれやあぁ!!」


 でも、彼は私を振りほどいた。わけがわからず戸惑っていると、彼は背を向けて俯いたまま何も言わない……。


「あ、あの、アンチさん。モコちゃんもバイラちゃんもすっかり元気になりました。ダークエルフの事は、もう過ぎた事ですから忘れましょう? 異世界の中にはああいう人たちだっているんですよ。ですから、また前みたいに異世界チート転生者を狩る旅を……」


「黙れやおんどれがあぁぁ!!」


 彼が私に向けた顔は怒りに満ちていた。そして、悔やんでいるようにも見えた。


「初めの頃は、ただただ使命を全うすれば、それでいいと思ってた……信念だけで突き進めば何でもできると思ってた……」


「だがな!? 信じた結果があの惨状だ!! 異世界チート転生者以外を殺さずに甘い考えで招いた結果があれだ……そして、狂暴な怪獣と化した俺は……ただ怒りと憎悪、破壊衝動に駆られて暴れた……何もかもから解き放たれて動けた事に対して、開放感を覚えたんだ……。もう、自分で何をしたらいいかわからなくなったん!!  おどれらにこの気持ちがわかるかぁ、ええ?」


「わ、わかりません……私はアンチさんじゃないです……でも、まだまだ異世界チート転生者は異世界中に一杯いるんですよ? アンチさんの力が必要なんです。使命を全うしなきゃいけないんでしょう?」


「……小娘もアンチートマンになってんだろうが……しばらくはお前が代わりを務めてくれ……俺は自分が信じられん、放っておいてくれ……」


《これは……アイツを呼ぶか》

《そうだね。連絡を入れよう》


 チェイサーちゃんとサイダーくんが、何やらひそひそと話を始めている。いったい、何を召喚する気なんでしょうか……?


《主、凹むのはいいが、まずはインテリジェントデザイナーに貴方を直してもらわねばならない》

《僕らは消耗してるから、ちょっと運び屋を頼んだから大人しく待っててね》


 運び屋? テレパシーで誰か呼んだのですか? インテリジェントデザイナーって、確か聞いた話によればアンチさんをこの世に送り出したお方……。


「んだと? 放っておいてもくれんのか、インテリジェントデザイナーも俺の行動を見て呆れてんだろが!?」



 次の瞬間、空間が避けたかと思うと、中から巨大な物体が飛び出してきた。横に細長くて四角い……チェイサーちゃんと同じタイヤが付いているが数が多い……これは乗り物? 巨大な乗り物はエンジンを吹かしながら勢い良く地面へと着地した。思わず見上げてしまう。すごく大きな乗り物です……。赤と青、銀色のカラーリングをしてます……。


「この大きな乗り物さんは、チェイサーちゃん達と同じ乗り物さんですか?」


《その通りだ》

《トラックだよ》


 すると、乗り物は大きな音を立てながら変形し始めました。金属音がガチャガチャと鳴り響き、細かい部品が次々と組み変わりながら、形が変わっていく様は圧巻。やがて手足を形成していき、胴体や頭が現れて人型の形へと完全変形しました。


《やあ皆、私の名は、オクッテキマス・プライスレスだ》


 腕を上げて挨拶を交わした乗り物さんは、どうやら自己紹介をしたようです。……変な名前……。でも見た目はごつくてカッコイイです。


「ネア・ラクアです。よろしくです……」

「フフフ、コルラ・スネイブですわ、以後お見知りおきを」

「ピーコ・オスンよ。何かよくわかんないけどかっこいいわねアンタ」

「モコ・リウよ、よろしく。そしてこっちが弟のバイラ・タフよ」

「ヨロンセル」


 とりあえず、皆でこのすごく大きな乗り物さん、オクッテキマスさんに挨拶と自己紹介を交した。雰囲気的には優しそうで気さくな性格みたい……。


「ああ、よろしく。君達の事はチェイサーとサイダーを通して知っているよ」


《久しいな、オクッテキマス》

《やあ、久しぶりオクッテキマス》


《チェイサー、サイダー、久しぶりだな。元気そうで何よりだ。話に聞いたアンチートマンは彼だね? 私が無事に送り届けよう》


《ああ、頼むオクッテキマス》

《よろしく頼むよオクッテキマス》


 2りと軽い会話を済ませたオクッテキマスさんは、怪訝そうな表情で彼を眺めるアンチくんに近付く。流石にアンチくんも驚いているみたいです。


「……何だ!? ほっとけって言ってんだろうが!?」


《やあアンチ・イート。私の名はオクッテキマス・プライスレス。インテリジェントデザイナーの元へ君を送ろう》


 オクッテキマスさんはアンチさんを掴んで放り投げた後、高速で先程の乗り物形態へと変形。横に長い箱のような物の中にアンチさんは収まってしまいました。


《では!》


 再び空間の裂け目が出来て、彼は裂け目の中へと突入し消えていった。


《やれやれ……これで主も安心だな。色々と機能を追加してもらえるかもしれんな》

《そうだね》


 とりあえず、アンチさんを送り出したインテリジェントデザイナーという大いなる存在に任せておけば安心ですね……。


「それまでは、まだ私が先生ですね」


 改めて気合を入れ、額の4つの眼を展開させた。


「やっぱいつ見ても怖いわアンタの顔」


「き、気にしてるのに……」

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