第61話「まさかの伏兵登場」

「な、な、何だこの怪獣はぁぁぁ!? ど、どっから沸いて出てきやがったんだ!?」


「ガア˝ァ˝ァ˝!?」


 アンデストロイヤーの見る者すべてを恐怖に陥れる圧倒的迫力と怖さに、チート転生者は怯えて叫び声を上げる。そして、その声に気付いたアンデストロイヤーが、狂暴な眼を見開いて睨みつけ、彼はそれだけで萎縮してしまった。


「へ、へへへ……ガ……ジュ、ララのつもりか何だか知らねえが、例え怪獣が熱線吐いたって、俺にはお社様の力がある……何度死んだって蘇んだよ!!」


「ナ˝ア˝ア˝ビイ˝イ˝ッデエ˝ダオ˝マ˝エ˝エ˝ヴァ˝ァァァァ、メ˝エ˝ジャア˝グジャア˝ア˝ジャネェェガアアアアア。ドオオオオス˝ヴダオ˝オ˝ォォォォォ!!!!!」


 アンデストロイヤーの咆哮だけで周りの木々が軋みを立てて揺れ動き、衝撃波と暴風が発生。今にもあのアンチート熱線を吐きだしそうな勢い……。そうなったら敵諸共消し飛ばされる。でも復活するのは彼だけ……。でも待って、確か今のあの人は異世界チート転生者以外を殺せる筈だから……。お社様の復活効果を無効にできるのでは……?


「こうなりゃ、デカすぎるがまずはテメエから吸収し」


「ヴァガア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝!!!!!」


 男がそう言った瞬間、背鰭が発光して、まるで馬鹿とでも叫ぶようにアンデストロイヤーは口を開けて紫色の熱線を吐いた。物凄い勢いの量が放射され、至近距離で食らったため、男は断末魔を上げる間もなく一瞬で蒸発してしまった。凄まじい衝撃波と暴風が私達に襲い掛かり、周りの木々はなぎ倒されて熱線が通った箇所は焼け焦げて煙を上げる。


「……ガゥ、ペッ」


 唾でも吐き捨てる様な動作をして首を動かすアンデストロイヤー。気にくわない相手、執行対象者であるチート転生者を消滅させて、怒りが収まったのでしょうか……? もう諦めている。次の標的は……私達です……貴方の手で殺されるのなら……本望です……。


 彼は、ゆっくりとこちらを振り返る。その瞬間、眼が合ってしまった。体中の細胞が警告を鳴らす感覚に襲われる。叫んでいる。逃げろと。でも恐怖のあまり体中が震えて言う事を聞きません。全身から汗が吹き出す。恐怖のあまり、再び眼から涙が零れはじめる。


「……なにびびっとんじゃわれえぇぇ!? まだ奴は消え取らんわ、油断するんじゃねえぞ小娘!!」


「ひいぃ……!!」


 あれ? もしかして正気に戻ったのでしょうか? 会話のやりとり、受け答えは出来てるから。興奮の余韻が覚めてないからですか? でも、こちらを見つめる巨大で狂暴な瞳は、やっぱり直視できません……。


「チートは消した……これが魂じゃ小娘。じゃがお社さんが復活せんと不憫だろうが、ええ?」


「え? あ、はいどうも……お社様は復活するのですか? 一番最初に吸収されて消滅したんじゃ」


「何言ってんじゃおんどれはあぁぁぁぁ!?」


「ひぃぃ!? ごめんなさい、ごめんなさい! わかんないから私にもわかる様に丁寧に教えてください!」


「はぅん、アンチ様~お戻りになられたのですか~?」


「だ、旦那……アタシ等よ、わかる? ほら、モコも仲間になったのよ?」


「ちょっとバカ!! 私を巻き込まないで!」


「なんじゃとゴルラアァァァァァァ!?」


「「「ひああああ!?」」」


「辛うじて意識だけで全部見とったけんわかっとるんじゃあああ!!

 ……で、話を戻すぞ。お社さんは元々神さんみたいなもんじゃ、そんな簡単には消えやせん。自分を乗っ取ったチート転生者が消え失せれば、おのずと復活するけんのぉ……これでわかったかおんどれわあぁっ!?」


「「「「わかりました!!」」」」


「お、丁度お社さんが復活するみたいじゃ、おんどれ等、よく見とき」


 もう完全に口調が、人格変わっておられます。やっぱり怪獣のままだからでしょうか? とりあえず、今は殺される心配はなさそうです。彼に促されて社(やしろ)の中心を見ていると、神々しい光が集まってきて、収束。そして光が晴れるとそこには白羽衣に身を包んだ女性が佇んでおりました。


「ありがとうございます。おかげでわたくしは解放されました。これでまた、この地域の守り神として存在できます」


 慈悲深い優しさに溢れた声は、まるで人々を包み込む母のような感じです。


「助けていただいて申し訳ないのですが、わたくしに、早口言葉を聞かせてはくれないでしょうか? わたくしが今一度お社様として祠内に戻るためには、早口で唱えられる言葉の呪文が必要なのです」


「え? お社様は、早口言葉が弱点じゃないのですか?」


「それは少し語弊がありますね、蜘蛛の御嬢さん。早口言葉は、あくまでわたくしが祠の中に戻るための呪文という意味でございます。しかし、あの男に吸収されていたので。その時に早口言葉が成功していたら、その弱点という言葉はある意味当たっていたことでしょう」


 ああ、そういうことなんですね。確かに、祠の中に封印されたんじゃ、あのチート転生者にとっては弱点になる。古い文献から情報だってギョエイさんも言ってたから、多少の語弊はあるかもね。でも、私たちは早口言葉が言えない……。


「おい小娘、まだバイラを出してやっとらんじゃろうが」


「え? あ、はいそうだけど……?」


「出してやれ小娘。さすがのそいつも、蛹では自力で変身はできん」


 その小娘って言い方どうにかならないのでしょうか……いや、今の彼に何を言っても無駄でしょう。どうしてバイラちゃんを出さなきゃいけないのかわからないけど。この人はいつも私たちをリードしてきたから、考えがあるんだろう。バイラちゃんを取り出して、ガンナーの引き金を引いた。


「くすぐったいのは一瞬ですよ?」


《Trance(トランス)Formation(フォーメーション)!》


 光りに包まれて、拡大していくバイラちゃんは、やがて元の蛹態へと戻りました。


「……ヨビンセル?」


 やっぱり一言しか喋れないようです。何のために呼び出したのでしょう?


「ずっとこいつと潜在意識的に会話しとった。こいつは中々姉思いで口が達者だ。ツン娘、おどれが弟早口言葉を言うように頼め、その方がよかろう」


「ええ!? あ、はいイートさんが言うのなら……バイラ? ずっとアンチさんとおしゃべりしてたの?」


「ソウンセル」


「楽しかった?」


「タノンセル」


「えっと……じゃあ、あの女神様のために、早口言葉……言ってもらっていい?」


「イインセル」


「あの、バイラ大丈夫なの……?」


「……お宮の前の飴屋に あんまと尼が雨やどり 雨やむまで あんまももうと あんま申す あんま尼もみ 尼あんまもむ あんまうまいか 尼うまいか あんまも尼もみなうまい あんまもおもみやれ 尼もおもみやれ 雨やどり。歌うたいが歌うたいに来て 歌うたえと言うが 歌うたいが歌うたうだけうたい切れば 歌うたうけれども 歌うたいだけ 歌うたい切れないから 歌うたわぬ。魔術師手術中、手術中集中術著述。美術室技術室手術室 美術準備室技術準備室手術準備室 美術助手技術助手手術助手」


「えええええええ!?」


 その時、不思議な事が起きました。お社様の体が光り輝き、言の葉の輪っかが彼女の周りを囲んだ。嬉しそうに微笑みながら光に包まれ、お社様は赤い社(やしろ)の中へと消えていく。


 ――ありがとうございます異界の方々、これでわたくしもこの地域の人々を守護する事が出来ます、それではさようなら……――


 お社様は、呪文の輪と聖なる光に包まれながら社(やしろ)の祠へと消えていくように吸い込まれていった。これで、任務完了でしょうか?

 それにしても、バイラちゃんがあそこまで口と舌が回るとは知らなかった。モコちゃんも知らなかったみたいですし、意外な伏兵がいたのですね

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