第55話「社の化け物」

 地面に向けて思い切りサイコパワーを放出。地面を通過したエネルギーは物陰に隠れていた男に命中した。身体に痺れを引き起こし、彼の口から呻き声が漏れる。どうやら銃で撃とうとしていたようですけど、直前に身体が痺れたせいで、銃弾は私達に当たる事無く空へと消えた。


「くそっ、何なのだ今の揺れと痺れは、この地面からかぁ!?」


「まだですわよ、蛇睨み!!」


「ぐお!? か、身体が動かん、動かんぞぉぉぉぉぉ!?」


 コルラちゃんが男を睨みつけると、彼は蛇睨み効果により動けなくなる。けど、男はそれでも微かに右手をこちらに向けて動かした。瞬間、掌から黒炎が出現し、やがて火の玉となって男の手から放出された。


「私に任せて!」


「ぐおおおおおっ!? 今度は何ぜよ!? 怪音波攻撃かぁぁぁぁぁ!?」


 男が放った黒炎の玉に向けて、モコちゃんが口から超音波攻撃を繰り出す。大気を揺らして振動する波が火の玉を包み込み、掻き消した。男は音波攻撃に苦しみながらも、微かに人差し指だけを動かす。指の先に光が集中し、閃光の一線が伸びた。


 雷撃魔法だ。威力は小さいが当たると一箇所に的確なダメージを与えられる類のものだけど、そう易々と当たりはしません!


「サイコパワー!!」


 両腕から直接サイコパワーを放出して雷撃とぶつける。直後に小さな爆発を起こした。


「な、なんとぉ!?」


 この男、いきなり攻撃を仕掛けてきただけはあって、先程から適度に反撃してくる。でも油断は大敵だ。次に何をしてくるかわからないので、一旦空へと逃げる事に決めた。


「モコちゃんお願い!」

「任せなさい!」


 私の合図でモコちゃんが私とコルラちゃんの腕を掴み、両翼を羽ばたかせて上空へと飛ぶ。地面が遠ざかり、大体見下ろせる距離まで移動すると、男がどう動くのか様子を見る。


「まったく、いきなり攻撃してくるなんて、物騒な男。しかも何気にしつこい」

「まあ、見知らぬ女3人が歩いているのですから警戒するのは当然ですわね」

「でもだからって、いきなり銃で攻撃してくるのは無しです!」


 3者3様の意見を出す。殺す気は無く、あの男から何かここら辺の出来事の話を聞ければいいのですが。

 上から観察していると、男は身体が動かせないながらも、こちらに向かって何か叫び出した。よく聞き耳を立てると……。


「おのれ……お社様の使いか!? 屈しないぞ、いくらお社様でも我ら町民は屈指はせぬぞおぉぉ!」


 おやしろさま? おやしろさまの使いとはどういう事でしょう?


 そういえば、町に入る前に小刻みに揺れていたアンチさんの反応が止まっている事に気付いて、ホルスターに収めているアンチさんに視線を移す。

 点滅はしているけど、この男の近くでも赤く発光せず、震れもしないと言う事は、彼は異世界チート転生者ではないみたい。だけど、町に入る前は反応していたのに町に入ると反応が消えたと言う事は、場所がずれたのかな?


「ちょっと話を聞いてもらいたいです、落ち着かせましょうか?」

「そうですわね。僕達をおやしろさまの使いと勘違いしていらっしゃるみたいですものね」

「で~? 方法はどうするのネア?」


 私はお尻を向ける。


「こうするの」


 男に向けて放出したスパイダーネットに、サイコパワーを乗せた。六角、八角の網目状へと展開された蜘蛛の巣は、サイコパワーを宿し緑色に輝き稲光が宿る。


「なあぁ!? 何をしてって……あびゃびゃびゃびゃ~!?」


 蜘蛛の糸が男に覆いかぶさり、彼は滑稽な叫び声を出した後に、眼を回して気絶しました

 地面に降り立ち、蜘蛛の巣に絡まった男を抱え、反撃する様子が無い事を確認。すると、モコちゃんが苦笑いを浮かべながら私を見ていた。


「アンタってさ、随分とえげつないことするんだね?」


「何がです?」


「お尻を向けて男が赤くなって驚いた隙に糸を放出するなんて……天国と地獄を見せたもんじゃん?」


「私、基本人間嫌いなんです、モコちゃんもそうでしょう? コルラちゃんも」


「嫌いね」


「嫌いですわ」


 2人とも否定しきれない様子で返事を返す。ほらそうでしょう?

 さてこの人に話を聞かないといけません。何処の家かはわからないから、木々が生い茂ってるから蜘蛛の巣でも作って、そこで静かに落ち着いて話を聞いてみよう。

 お尻から糸を放出し、木から木へと跳躍しながら糸を絡めていく。そういえば木の上に巣をつくるのは久しぶりだな。かつての故郷の思い出が頭に甦る。少しだけ悲しくなる。


「よーし出来ましたよ2人とも~。降りてきて大丈夫だよ~」


 数秒で立派な蜘蛛の巣が出来上がったので、眺めていた2人にこちらに来るよう呼びかける。2人とも慎重な足取りで巣に足を置く。


「あはは、そんなに警戒しなくても、破れないし、くっ付かないよ。ちゃんと糸の成分は配合を変えておきましたから」


「いや、わかってはいるんだけどね? わかってはいるのよ? でも……」


「何分、僕達は蜘蛛の巣に乗るのは、初めての体験ですから、緊張してしまって……」


「ああ、それはそうか。普通は他の種族はアラクネア族の巣になんか触れませんもんね」


 さて、これでお話の場は確保した。この男を起こさなくちゃね。気絶している男に向かい、掌を近づけて……。


「起きてください!!」


 思いっきり引っ叩いた。


「アイタ~!?」


 頬に伝わった痛みに驚いて直ぐに目を覚ました男。


「な、何じゃお主らぁ!? まさかさっきの報復でワシを殺す気かぁ!?」


 男は私達を見て心底警戒している。コルラちゃんに目くばせをした、ここは彼女の出番です。


「ああ、そんなに警戒しないでよおじ様? 僕達はただ話を聞いてほしいだけなんだよ?」


「ぎょ、ぎょぇ……?」


 コルラちゃんが男に腕を絡ませて見つめはじめる。突然のお色気攻撃に男は顔を真っ赤にしてたじろいだ。ですが、色香で惑わす時は丁寧口調じゃないんですねコルラちゃん。


「始めてきた場所でしたから迷ってしまったの。良く見えないから彷徨っていたら貴方がいきなり現れたので、助けを求めようとしたらいきなり攻撃を仕掛けてくるんだもの……」


「え? あ、いやその、それはこちらもわるぅ……はい……」


 コルラちゃんはさらに、男の上に座り込んで腕を回し、もう片方の手の指で男の顎を撫でながら、誘惑の口調で喋り続ける。うわぁ……私でも魅入っちゃうよコレ。……見た目は蛇女だけど。


「心も体も傷つきました、僕達を傷付けた責任……取って、くださらない……?」


「ぎょぇ!?」


 耳元に息を吹きかけて止めを刺した。と言った方が良いかも。男は一瞬硬直した後、仰向けに倒れてしまった。


「あら? 少しやりすぎましたわね? 昇天なされてはお話が聞けませんわ」


「その前に私達が昇天しそうになりましたよコルラちゃん……」


「危うくそっちに目覚めるところだったわ……」


「んぎょえぇぇぇぇ!!」


 昇天したと思った男は勢いよく起き上がった。びっくりさせないで!?


「ああ、すまぬお嬢さん方。いきなり君達を攻撃するような真似をして。どっぷりお嬢ちゃんのお色気で正気に戻ったぎょえ……ワシの名はギョエイぜよ。よろしくギョエ」


 お色気で正気に戻るとかどういう効果ですか。


「初めまして、ネア・ラクアです」

「コルラ・スネイブですわ、お見知りおきを」

「モコ・リウよ」


「ああ、どうも。何分、村の皆も含めてお社様の化け物に警戒しておったぜよ。それゆえ、見回りをしておった。常に緊張状態だったからお社様の使いと勘違いしてもうてすまんぎょえ」


「あ、あのギョエおじさん。そのお社様の使いとか祟りとかどういうことなのか、私達に説明してくれませんか?」


「私達は世界に害を成す能力者達を討伐する使命を帯びてるからさ。何かしらの力になれると思うよ?」


 モコちゃん異世界チート転生者を上手く言い換えましたね。


「うむ、では詫びの代わりにお話して進ぜようぎょえ。この地域一帯には、お社様と呼ばれる神様の言い伝えがあるぎょえ。

 この町と他の村々を中心とした土地に社(やしろ)が祭られておってな。詳しい名前の記述が無かったため、仕方なくお社様と定着したんじゃぎょえ。ワシらは昔からお社様を崇めて毎年毎年祭り行事を行い賑わっておった……。

 だがしかし! ある時お社様の祟りが起こった。社(やしろ)に向かった者達が1人も戻ってこない事件が発生したのじゃ。調査に向かったワシらが見た者は、社の化け物じゃった。それが全ての始まりぎょえ……何とか逃げ延びたものの、次第に化物は眷属となるゴーストを町に放つようになった。静かな夜の世界で平和に暮らしておったワシらの日常は、崩れ去ったぎょえ……」


「お社様……」

「祟り……」

「化け物……」


 私達は聴き馴れない単語を頭で反復する様に呟いた。

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