第54話

 マシンクロッサーに跨り、新たなる異世界に出発する。アンチバレットコア化したピーコくん達はホルスターにセット。準備は整いました。


「ネアちゃんの運転、堪能させてもらいますわ」

「はい、任せてくださいコルラちゃん」


 サイドカーであるサイダーくんにコルラちゃんを乗せた。何故彼女だけ隣に座るのかと言うと、チェイサーちゃん側だけに私が乗るのはバランスが悪いです。せっかくだからサイダーくんにも人を乗せたいって思ました。後、私がコルラちゃんとお話したいからだけです。ずっとご無沙汰でしたから。


「ところで、行き先は大丈夫なの? チェイサーちゃん、サイダーくん」


 アンチさんが乗らないと行き先指定が出来ないのではと思って2人に尋ねた。確か無意識で異世界チート転生者のいる場所へと辿り着くのでしたか。


《なに、それなら心配はいらないさ……》

《一応、主はホルスターにいるからね……》

《翻訳機能も私達と主がいれば心配はない……》

《僕らがいないと言葉が通じないから気を付けてね……》


 ああ、そう言う理屈なら大丈夫ですね。私にはよくわかりませんけど……。


 ハンドルを回し、エンジンを吹かす。あれから2人に「簡単バイク運転方法」をレクチャーしてもらってばっちりです!


「安全確認良し! じゃあ、ランプを点灯させていきます!」

《お見事》

《ちゃんと安全確認して偉いよこの子!!》


 タイヤが高速回転して、車体が加速する。スピードが上がり、周りの景色が歪んで目の前に空間の裂け目が出来た。私達はスムーズに裂け目の中に吸い込まれる。そして、裂け目の先に到着。ブレーキを少しだけ掛けて速度を落とし、絶妙なバランスで地面接触時の衝撃を和らげる。


 目の前に広がる光景は……何だか、薄暗い雰囲気が漂う世界。


 既に夜になっているみたいで、夜空には満天の星空と月が出てるけど……月の色が赤と青に発光していて、正直……情緒が無いですね。嫌いじゃないけど、これは流石に受け入れがたいです。

 さっきから白い霧が立ち込めていて、生えている草木の色も暗黒色ばかり。ここに人間が住み込めば半年足らずで生気を吸い取られてしまう雰囲気ですね。妙な魔力も感じる。これは間違いなくゴースト系モンスターたちが生息している。


「あらあら、何だか暗い感じの世界ですわね……居心地は悪くは無いのですが……やっぱり見えづらいですわ」

《僕にお任せをマドモアゼル。頭に直接様子をお見せしましょう》

「フフフ、ありがとうございますサイダー様」


 コルラちゃんが効き辛い目で周りの様子を伺うと、サイダーくんがテレパシー能力でコルラちゃんの頭の中に直接光景を映し出してくれる。この能力もあるから彼に乗せたんです。


「でも、私達にはうってつけの世界じゃね? 私達は夜に真価を発揮する種族なんだからさ」

「イヤンセル」

「ああ、大丈夫よバイラ。お姉ちゃんがいるから怖くないわ」

「カンシャセル」


 アンチバレットコア化しているモコちゃんがそう進言してくれる。彼女の言う通り、この暗い雰囲気と空気は、私達には良い環境だ。案外有利に動ける可能性があるかもネ。ちなみに、ピーコくんは気絶したままなので当分は喋らない。モコちゃんと絡むと喧嘩になるんだもん。


《どうやら……この世界は常時夜の世界のようだな》


「ええ!? そうなんですか? 大丈夫なのそんな世界で」


「そうですわ、植物や食料は育ちますの? 太陽が無いと成り立たないのではありませんの?」


《そんな異世界もこの世には存在すると言う事だ。夜でも生命の循環が回る様に作られているのだろう》


 へぇ、そういうもんなんだ。1つ賢くなりました。


「さて、肝心の異世界チート転生者ですね。私はアンチさんみたいに存在を感じる事は出来ません? スパイダーセンスしかないので」


《それなら私とサイダーでも感知できる。それにホルスターを見てみろ》


 チェイサーちゃんに促されてホルスターを見てみると、アンチバレットコア化したアンチさんが小刻みに激しく揺れている。ホルスターにがっちりとロックオンしてあるから外れる事はないいけど。赤く点滅している……あ、これってもしかして……?


《近くに異世界チート転生者がいる証だな。主の視界は異世界チート転生者の気配が近づくと赤くなるからな。それの表れだろう》


 アンチさん、すごいなぁ。でも逆に言えば、使命からは逃れられないって事ですよね? 何だか不憫に思えるます……。


《言っておくが間違っても開放するなよ?》

《血の雨を見るからね?》


「わっわかってるよ!? なにがなんでも解放しないと誓います、はい!」


 まだ元に戻っていないアンチさんを開放して惨劇を見るのは私達の方だもん。この世界の住民達も巻き込んで大惨事になるので……ごめんねアンチさん。


 とりあえず、小刻みに震えるアンチさんの反応を見ながら、異世界チート転生者の元へと向かいます。もし見つけたら、その時は私がアンチートマン、もといネアンチートゥマンとしてジャッジメントしないといけないんだ……これが初仕事だから気合い入れて行かないと。

 しばらく走行していると、灰色の建物が並ぶ小さな町が見えてきた。アンチさんの反応が増々強くなる。どうやら、敵はあの町にいるみたいです。人が大勢いると思うけど大丈夫かな? いや、この環境なら私達の方が有利に振る舞えるし、人の事など気にしてられない。アンチート攻撃が効くのは異世界チート転生者だけだから、騒ぎになれば糸で捉えて黙らせればいいのです。


 だけど、さっきから感じるこの妙な気配は何でしょう? 寒気というか、誰かに見られているというべきか。人間だったら怯えてしまいそうなこの感覚……まるでゴースト達が近くにいる様な感覚……。

 数秒で町に到着する。でも、問題なのはここからだ。私は人間態にトランスフォーメーションしているけど……正直に言えば、人間から見たらグロテスクみたいです。

 アンチさんは可愛いと言ってくれました。でも、価値観が種族間の違いだから私にはよくわかりません。コルラちゃんは平気そうだけど……いろんな意味で危ないです。


《その心配はない。この町に住んでいる者達は、どうやら皆人間ではあるが、こういう世界だから血色は悪く青白い肌をしていて、魔族と大差ない見た目をしている》

《だからネアやコルラが入っても、フードか何か被れば問題ないよ》


 ああ、そうなんだ。なら安心です。じゃあ早速、私が自分の糸で編んでおいたこのブランケットを頭から羽織って町に入るります。コルラちゃんにも羽織らせる。肌触りはいいと思います。


《私達はさすがに待機している》

《何か遭ったら直ぐに駆けつけるからね》


 2人に見送られ、私達は町の中に入る。町内も白い霧が立ち込めており、冷たい空気が漂っている。今の時間が夜なのか昼なのかはわからないけど、家に明かりが灯っていて、誰1人として外に出ていないところを見ると夜なのかな。


「あら? 僕ら以外誰も外を出歩いておりませんわね」

「これは問題無く解決できますかね?」


「いんや、それはどうかしら?」


 私とコルラちゃんが少しだけ安堵の意志を表わすと、ホルスター内からモコちゃんが話しかけてきた。


「2人とも油断は禁物じゃね? こういう時に限って何処からともなく暴漢が襲い掛かって来たりするもんだからさ~」


 わかってますってモコちゃん。確かに用心はしておかないと。スパイダーセンスで警戒網を巡らせる。コルラちゃんの表情も真剣になる。多分、紫外線か赤外線を見ているのでしょう。


「じゃあ、私もトランスフォーメーションさせてもらうから」


「え? モコちゃんちょっと待っていまもど」


「トランスフォーメーション!」


 まだ元の姿に戻していないのに、彼女はアンチバレットコア化した状態でトランスフォームを始める。おそらくアンチバレットコア化した際にイメージが頭の中に流れ込んできて理解できたんだろうけど、このままの状態でやったら……。


 腰に軽い振動が伝わったと思ったらホルスターから小さな光が飛び出して、徐々に大きくなり、それと同時に肉と骨が軋むグロテスクな音が鳴る。そして光が晴れるとそこには両腕と翼が分かれたモコちゃんが立っていた。

 耳の形が翼を模した形状に変化。お尻からは細くて長い尻尾が生えており先端が尖ってる。微かに色気が漂い体色は白い。お色気ムンムンでどっぷんしたコルラちゃんと比べるとスレンダーセクシーって感じ。控えめだね。でも……。


「アンチバレットコアの状態で出来るの!?」

「知りませんでしたわ……」


「え~? やってみたらできただけだし、別にアンチバレットコアの状態でもできないとはお告げに無かったからさ~。じゃあ、私も加わったからには警戒は万全ね」


 意気揚々と張り切るモコちゃん。女3人なら襲われても対処できるかも。


「ヘイ! フリーズ!!」


 大きな男の掛け声が聞こえた。その瞬間、私のスパイダーセンスが敏感に反応した。相手は止まれと言ってきたけど、攻撃してくる気満々だ。

 先手必勝、地面に伏せて両腕をあてがいサイコパワーを放出させた。

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