第46話「ダークエルフ」

 異世界チート転生者を探索できる機能についてだが、実はこれを応用して他の種族も探し出す事が出来る。私が触れたり見聞きした事により得られた生体情報を元に探索が可能となる。


 すでに十分な情報を得ているため、そこから検索して彼らの居所を突き止める。視界にデータが表示される。地理や距離などが算出される。かなりの距離があるようだ。しかも彼らはダークエルフであり空族。入り組んだ根城に隠れているらしく、複雑な地図が表示される。


 アンチェイサーとチェイサイダーに乗り込めば早いのだろうが、生憎彼女らは機能停止中で使用できない。徒歩で向かうしかない。常人ならば困難だが、この身体ならばスタミナの心配は無い。危険地帯でもそれなりに戦闘は出来る。相手が敵意を向けてきた場合に限るが。


 森林を延々と駆け抜けると、山岳地帯に出た。空は暗く満月が出ている。時間を確認すると、既に夜の8:00を周っている。あれから2時間が経過しようとしている。視界に表示されている彼らの居所は、この山岳地帯の中央、入り組んだ土地の中だ。場所が近い事を示すように点滅している。後は視界に表示される場所を頼りにひたすら走るのみ。


 数十分が経過した頃、微かに話し声と火を焚く音を聴覚に捉える。聴覚の情報も得た事で明確に彼らの場所へと向かう事が出来た。暗がりの山道を走り抜けると、開けた場所に彼らの飛空艇を発見。10隻集結しており、飛空艇を中心にベースキャンプを開いているようだ。たき火で灯りと暖を取っている群衆が見える。浅黒い肌に横に長く先端が尖った耳。美しい白銀の髪と白目が大きいな黒い瞳。堀の深い顔立ちは、間違いなくダークエルフだ。幸いな事に、近くに異世界チート転生者はいない。


 無事に彼等を発見できたはいいが、問題はここからどうやって話し合い、説得に持ち込むか。しばし瞼を閉じて深呼吸して精神統一を図る。夜の冷たい空気、もとい新鮮な空気を出し入れする事で頭がすっきりする感覚を覚える。


 下手な小細工はせずに単刀直入に乗り込む事に決めた。


 砂利道を歩き、彼らのベースキャンプまで接近する。かなりの数がいるが、問題無い。重要なのはこれから行う説得なのだから。


 こちらの存在に気付いたダークエルフ達は、一斉に立ち上がり弓矢を向けてくる。確か……エルフも弓を使っていた気がするが、もしやエルフ共通の武器なのだろうか。もちろん足や腰に短刀や小型爆薬の様な物を携帯している。服装は疎らで、如何にもあちこちでかき集めた様な統一の無い服装ばかり。空族故、盗みを働く事で物資の調達を図っているのだろう。


 こちらに敵意が無い事を示し、話がある事を説明する。手を上げるのは異世界でも共通らしい。そして、話し合いがしたいという意思を信用してもらう為に、私は自分の正体を明かす。ダークエルフ達が手を組んでいる異世界チート転生者と同一の存在である事、詳しい事はなるべく噛み砕いて説明。


 こちらの誠意が伝わり、ダークエルフ達は武器を下ろす。表情と言動から完全に信用しきっているわけではないが、彼らダークエルフの長の所へと案内してくれるようだ。


 こういう場合、いつもならアンチートガンナーとネア達に物を言わせて強硬手段で交渉に入っていたが、話せば理解してくれる事を痛感した。自分は今まで攻撃的だったのだと自覚した。


 そうして案内されたのは、10隻ある飛空艇の中でも大きさと外観が異なる船。おそらく主格だ。他の飛空艇に比べて大きいからな。外観もわかりやすいように色が鮮やかだ。


 扉を潜り、船内へと通される。視界にこの飛空艇の内部構造が次々と表示される。設計を見る限り、この異世界では高水準の作りと伺える。何故亜人種である彼らの方が、このような文明の利器を手に入れたのかは疑問があるが、触れない方が良いだろう。


 そして、ダークエルフ残党空族を率いる……キャプテンと呼ぶべきか、長と対面する。見た目年齢は20代後半程に見えるが、雰囲気はそれよりも歳上である。長を務めるだけあり、厳つい印象を受けるが独特の美しい顔立ちをしており、敢えて表現するなら野性味溢れる美男。

 服装は他の船員よりも豪華。ロングコートを羽織り装飾を身に着けている。頭に被った帽子は、つばの広い丸い形状で羽が付いている。


「アンタかい? 私と話がしたいってチート野郎というのは」


 語り口調は何処か乱暴のようで整っているようなもの。声からも長の威厳を醸し出しているが、年齢は読めない。


「はい。アンチ・イートと申します長殿。こちらの申し出を受け入れていただき、真に感謝いたします」


「ご丁寧な事だ。私はダークエルフの長、カイス。堅苦しい挨拶は抜きにして、本題を話してほしい」


 思ったよりも好意的ではあるようだ。プライドの高い種族の長故、話は難航するかと思われたが、出だしは良好だ。話の内容次第でどう転ぶかはわからないがな……。


 私はカイスに対して、異世界チート転生者とは縁を切る様に懇願した。彼らは異世界の秩序を著しく損なわせる存在であり、自然と近い種族であるダークエルフが組むべき相手では無い事を必死に伝える。無論、彼らがかつての紛争で故郷を追われて空族と成り果てた話も飛び交い、その話は甘んじて聞き手に回る。聞けば彼等にも理はある主張だった。森の国の行く末を決める為に争いに発展したという。その戦いの果てに彼らは敗れて追われる身となった。


 そして空族となり生きていくために一族残党率いて各地を転々としていた途中で異世界チート転生者と遭遇し、脅迫されて屈するしかない状況に追い込まれているという。なるほど、彼らダークエルフも被害者だったのだ。やはり、話し合いで真意を確かめてみて正解だった。これ以上無益な争いは続けられない。


 その後、私が全力を挙げて異世界チート転生者を葬り去る事により、脅威を退けると、彼らに約束をした。ダークエルフ達もチート転生者の脅威から解放されるのなら、もう手出しはしないと約束してくれた。


 これで次にやるべきことは確定した。彼等の為にもこの世界に蔓延る異世界チート転生者を一網打尽にする。モコにも、彼らの事情を話さなくてはいけない。彼らの説得が成功した事を伝えれば、何かしら理解を示してくれることを期待するしかないが。


 ダークエルフのベースキャンプから去り、私はネア達の元へ全力疾走で駆ける。

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