第47話「惨劇の予兆」

「どこ行ってたんですか、アンチさんのバカァ!!!!!」


 無事にモコの家に辿り着くと、ネアが凄い形相で飛び出して来た。外に空気を吸いに行くと言ったまま4時間近くも戻らなかったのだから当然か。


「アンチートガンナーまで置いて行ってこんな夜遅くまで何処に行ってたのですか!? 無茶な事しないって私が言ったばかりじゃないですかバカァァァァ!!」


 頭を何度も小突かれて問い詰められる。


「すまない、取りあえず落ち着いてほしい。私は、ダークエルフ達を説得しに行っていた」


「「「「はぁ!?」」」」


 一斉に声が上がる。


「やっぱりおかしくなってます!!」

「打ち所が悪かったのかしら」

「旦那、可哀想に……」

「正気で物を言いなさいよ」


「ぶっとばすよ?」


 全員から容赦ない言葉を向けられた。流石に傷ついた故、軽く冗談交じりで脅す。


「ダークエルフを説得しに行ったのは本当の事だ。説明するから聞いてほしい」


 全員驚愕の表情を浮かべていたが、一番驚いていたのは、もちろんモコだ。話の内容的にも、複雑な感情を抱いているのだろう……。だが、それでもこちらの真意と、ダークエルフの事情を知ってもらうために事細かく説明した。話している最中も表情は険しいままだったが、話が進むにつれて静かに頷きながら聞いてくれた。


「じゃあ、もうダークエルフは襲ってこないんだ?」


「ああ、双方約束を交わした。彼等を脅迫している異世界チート転生者を討伐すれば、彼等も解放される」


「そう……」


「もう追撃する必要はないだろう」


 こちらの問いに、彼女は静かに頷く。まだ表情は硬く晴れないが、少なくとも理解は示してくれた。これで普段の態度がもう少し穏やかになれば幸いだが、それは高望みだろう。


「でも、1人で行っちゃうなんて、やっぱり無茶し過ぎですアンチさん?」

「そうよそうよ、森の中を走り回るファッションじゃないじゃない」

「しかも、お1人であんな距離を何時間も走るなんて……」


 ネアが頬を膨らませて不機嫌そうな表情をこちらに向けてくる。コルラと少年も彼女に同意する様に頷く。視界の隅でモコまで頷いていることに気付いて少し驚いた。


「せめて、一言ぐらい相談してほしかったです……信用無いのかなって、私ブロークンハートです……」

「そうね、ウサギじゃないけど寂しくて死ぬわ、嘘だけど」

「水臭いですわねアンチ様ったら、寂しいですわ……」


 頬を膨らませておちょぼ口で喋り続けるネア。コルラと少年がさらに激しく頷く。表情に申し訳ない気持ちに駆られる。


「だが、私は少々君達に頼りすぎている。初めての時の様に、自分の力で成し遂げたいと思ってな……」


 3人とも顔を見合わせてしばし沈黙が流れる。数秒経過すると各々口を開く。


「それはわからなくもないですけど……それ自分の事だけですよね?」

「そう言う問題じゃないっつってんのよこのバカ旦那」

「残された僕たちの気持ちをお考えになってくださいまし」


 3者3用の厳しい意見が私の心に突き刺さる。


「アンチートガンナーを置いていくのはやりすぎよ、これ旦那の命みたいなもんじゃない」


「そうですわね。せめて僕達をアンチバレットコア化していただければよかったですわ」


「頼り過ぎだからって、1人で無茶な事はしないでください、アンチさん私達がいないと紙耐久なんですよ?」


「そうよ水に濡れても弱そうだし」


「それほど最強ではないのですから妙な意地は貼らないでくださいね?」


「……はい」


 随分ときつく釘を刺された。


「私からもいい?」


 モコが不意に話に入ってくるので驚いた。


「……なんだ?」


「ネアとコルラ、ピーコから聞いた話だと、アンタが思っている程、彼女達に頼り過ぎていないと、私は思う。彼女達の意見も聞かずに勝手に飛び出して行ったら、残った彼女達は不安になるじゃん? 信用されていないのかって、だから」


 モコが話に加わり、加熱し始めた。彼女がネア達と話し込んでいたとは驚いたが、俺が去ったあの場で彼女なりの対応を取っていたのだろう。彼女にも迷惑を掛けてしまったようだ。


 気が付くと、もう夜も更けていた。バイラはとっくに巣の中で寝息を立てている。皆も疲れて寝静まり、長距離移動により流石の私も疲れと睡魔に襲われて眠りに付こうとした。


「イート……さん?」


 不意に、モコに呼ばれて彼女の方を振り返る。彼女の隣ではバイラが眠りこけている。どうかしたのかと尋ねると、彼女は少し口籠りながら、照れた様子で喋りはじめた。


「その……まさか1人でダークエルフ達を説得しに行くとは思わなかった……」


「無益な殺生はする必要はないと、わかってくれると嬉しい……」


「ま、まあ。アンタがわざわざ長い時間を掛けたから……ね……」


 急に俯いて話さなくなる。一言おやすみなさいと挨拶を言い終えて布団を頭から被ってしまった。

 彼女の態度に対して、少しおかしさを感じて微笑を浮かべる。ゆっくりと体を寝かせ、瞼を閉じてそのまま夢の中へと突入した。


 ――――……――――……――――……――――……――――……――――……


 翌朝、アンチェイサーとチェイサイダーは無事に再起動した。


《……主か……》


「ああ……」


《……カウンターシステムが発動したんだね、僕たち》


 2機とも自分達に何が起きたのかは理解していた。元からカウンターモードが発動する事はプログラムされて知っていたようだ。


《主を攻撃してしまった事は謝罪しよう。だが主よ。所詮私達はインテリジェントデザイナーの作り物だと言う事を自覚してほしい》


《僕たちは主の乗り物。でも、優先する事項がある事は理解してくれる?》


「ああ、すまないな2機とも、自分でも下手な行動は控える」


 謝罪と忠告の混じる言葉を掛けられ、こちらも気を付けて行動する事を告げる。


「私なりに考えて、何時間か掛けてダークエルフ達を説得しに行ったんだ。彼等と約束して、もうこの森は襲わせないようにした。その代わりに私達は善全力で異世界チート転生者達を討伐せねばならない」


《私と弟が眠っている間に、随分と進展があったようだな。プライドの高いダークエルフの中枢に飛び込んで情報のやり取りをするとはな》

《僕らがいれば、直ぐにでも解決できただろうに……》


 チェイサーは私を称賛する言葉を述べてくれた。サイダーはこちらを気遣うような言葉。彼女らなりの良好な反応だ。


「ところでアンチさん。この世界の大半を占めているチート転生者はどうやって討伐するんですか? 場所もわからないし、数が多すぎますよ」


「その事に関しては、心配はいらない。ダークエルフ達から有益な情報を貰った」


「え? そうだったですか!?」


「ああ、これを見てくれ。これは奴らの居場所が書かれた地図だ。この中に、親玉である大異世界チート転生者の居所が掛かれているんだが、どうやらダークエルフ達の情報によれば、この親玉が他のチート転生者達のエネルギー供給者の役割を持っている。つまり、こいつを討伐すれば、エネルギーを絶たれた奴らのチート能力は著しく減退する」


 これは大きな収穫だった。ダークエルフの長からこの地図と情報を渡された際に、固い握手を交わした。必ず奴らを討伐してくれと懇願され、私は交した握手に誓った。


 この親玉さえ殺してしまえば、他のチート転生者の攻略は安易になるのだ。力が減退してしまえば、後は原住民だけで太刀打ちできる。私達の目標は妥当大異世界チート転生者に定まった。奴の居場所はここから東を100k進んだ場所に設置されている城。巧妙な結界魔法が施されているらしいが、ネア達の力を借りれば突破できる。私達は、早速親玉の場所へと向かう事にしたが、ここでモコとはお別れだ。彼女まで連れて行く必要はない。彼女はここでバイラと森を守る役目があるからな。


「……色々と世話になった。ありがとう」


「え、ええ……私の方こそ、色々……その……えっと……」


 モコは頬を紅潮させると、急に俯いて口籠る。何故か照れているようだが、正直そのようなキャラではないだろうにと半分呆れた感情が湧いてきた。


「ふん、いっちょ前の女らしく照れてんじゃないわよ、このブス! さっさと素直にお礼くらい言いなさいよ!」


「なんですって、このオネエ坊主! そこになおりなさいよぉ!!」


「こいやゴラァ?」


 最後の最期でピーコ少年は火に油を注ぐ発言をするなぁ? 彼の発言にモコは烈火の如く顔を真っ赤にさせて罵詈雑言を少年とわめきまくる。全員で必死に取り押さえ、騒乱に驚いたバイラが、毎度のこと泣き声を上げる。


「ピヤアァァァァァ怖いよぉぉぉぉ!!!!!」

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