第44話「隠された激情」
早朝、奴らは再び攻めてきた。
今度も大軍だが、ダークエルフの残党たちも紛れ込んでいる。上空に飛空艇のような物体が数多く確認。今度は空からも攻撃を仕掛けてくる。
そんな物がこの異世界に存在するとは驚いたが、空族に成り下がったと言及されていた事を思い出す。ある程度の文明は栄えているのだろうか? しかもよりによって人間ではなく亜人が使うとは皮肉な話だ。
これは、厄介な布陣だ。地上の奴らは殆どが異世界チート転生者で構成されているので問題ないが、飛空艇に乗っている乗組員は殆どがダークエルフでそれに混じりチート転生者が乗り込んでいる。
私は原住民は攻撃できない。空も飛ぶことはできない。マシンクロッサーの一斉射撃ならば距離は届くが、それではダークエルフを巻き込んでしまう。先程から敵を屠りつつ、対抗策を考えてはいるが、まるで良い考えが浮かばない。ジレンマだ。上からの爆撃で森林に炎が上がり掛けている。このまま放っておけば被害が広がってしまう。
いや、上空のチート転生者だけをピンポイント狙えばいい。どうせ光弾は原住民には効かない。そして飛空艇はモコに対処してもらえばいいのだ。そして同時に彼女がダークエルフを殺さない様に抑え込める方法は……。いい方法があるではないか、灯台下暗しとは違うか。
「くすぐったいのは一瞬だ!」
一応、彼女に聞こえるように大声で忠告する。彼女は私の声を拾い上げたらしく、何の事かとこちらに視線を落とした瞬間、彼女に向けてアンチートガンナーの引き金を引いた。すまん、許せ。
《Trance(トランス)Formation(フォーメーション)!》
「フォアッ!?」
彼女の身体が光に包まれて縮小、アンチバレットコア化に成功。そのまま俺の掌に誘導されるように収まる。コウモリの翼と牙を象った造形、ダークグレー掛かった色合いだ。有無を言わさずガンナー上部に嵌めこむ。私の行いに気付いたネア達がこちらを何をしでかしてるんだアンタはとでも言いたげな視線を向けてきたが、無視して引き金を引く。
《Tune(チューン)、AntiBut(アンチバット)Moko(モコ)!》
アンチートガンナーを持つ右腕周辺に武装が装備される。コウモリの両翼を模したような形だ。接近戦にも使えそうだが、モードチェンジのボタンを押してみると、直ぐに武装は右腕から背中へと移動。大きなダークグレーカラーの両翼に変形した。右腕とは管の様な物で繋がっている。
「ちょ、ちょっとちょっと、何によコレ!? 私どうなってんのよ!? アンタ私の身体に何したのよ!?」
自分の身体の突然の変化に冷静さを欠いたのか、貴方からアンタ呼ばわりになっている。アンチバレットコア化したモコがガンナー上部で小刻みに揺れているが、気にも留めずに背中の翼を意識する。両翼は勢いよく羽ばたき、身体は大空へと舞う。風が身体を突っ切る感覚。気持ちが良い。高かった空の景色が近づき、下を見下げると緑色の森林の景色が並んでいる。
「しばらくの間、力を貸せモコ」
「ちょっと、こんな風にしておいて力を貸せって何様のつも」
「神の使い様だ」
モコの抗議を無視して飛空艇内部にいるチート転生者への攻撃を開始する。視界にレッドフィルターが掛かり、8隻の飛空の内部構造が視界に表示される。推進力がどうだの、武装等のデータが表示されるがそれらは非表示にしてチート転生者だけを検出させていく。1隻にかなりの数が乗り込んでいるようだ。当てにくいと思うだろうがロックオンモードに切り替える。光弾はダークエルフ達には効かない事も踏まえて構わず引き金を引いた。
《Judgement(ジャッジメント)AntiBreak(アンチブレイク)、ButMoko(バットモコ)!》
銃口から凄まじい勢いでダークグレーカラーの光線が発射された。曲線を描きながら高速で飛空艇の装甲を貫通して内部のチート転生者達を射抜くホーミング光線。光線は消滅する事無く飛空艇を次々と貫通。搭乗しているチート転生者だけを屠った。狙い通りだ。上手くいった。しかもホーミング機能付きとは嬉しい誤算だ。おかげで時間が省けた。
地上へと着地して、モコをガンナーから抜いて放り投げ、銃口を彼女に向ける。
「くすぐったいのは一瞬だ」
《Trance(トランス)Formation(フォーメーション)!》
「フォッア!?」
光りに包まれて元の姿に戻るモコ。自分の身体を隅々まで触りまくって何も無い事を確認する。彼女が凄い形相でこちらに文句を言おうとする前に、ネアが私の耳を引っ張った後に引っ叩いた。
「ちょっと何考えんてんのアンチさん! いきなりモコさんをアンチバレットコア化するなんて!!」
明らかに怒っている。いや、確かに無断で有無を言わさず原住民をアンチバレットコア化してしまったのは問題があり、責められても仕方がないが、何故そこまで怒るのかは理解できない。
「落ち着いてほしいネア。おかげで空を飛んでダークエルフを殺すことなくチート転生者だけ無効化した」
「そうじゃなくて、もうアンチバレットコア化するのこれで4回目じゃないですか!? もし続けてこれがクセになったらどうするんです? 毎回異世界事に一瞬だけくすぐるつもりなの? ねえ、コルラちゃん、ピーコくん」
ネアがコルラと少年に意見を求める。2人は腕を組んで考え込む。
「そうね……正直に申し上げますとピーコくんの時もどうかと思いましたわ」
そうだったのか。
「あのさ、あれって一瞬だけど痛いのよ?」
知らなかった。
「ただ単にダークエルフを殺させない様にモコさんを抑え込んだだけじゃないですか! 私情ですよ! そう言うのはいけないと思います、私。いくら自分が原住民を殺したくないからって言っても、現地の人が現地の人をどうするかは個人の感情だなんですよ? それとアンチくんとの使命は関係ありません!」
ネアは指で私の胸を小突いきながら攻め立ててくる。確かにモコを抑え込む目的でアンチバレットコア化した。ネアの意見は完全に正論だ。返す言葉もない。
「本人に直接謝ってください!!」
「痛い!」
思いっきり頭を叩かれた。情けない金属音が鳴る。確かにネアの言う通りだ、モコに謝らなければいかん。
だが突如、少年の何かを制止する叫び声が轟いた。何事かと思えば、いつのまにか上空へ飛び立っていたモコに向かって訴えていたのだ。
上空に視線を向け、その光景に我が目を疑った。彼女は退却している飛空艇に向かって超音波攻撃を行っていた。少年が何度も声を上げるが、それでもモコは攻撃を続ける。
「無視してんじゃないわよこの女(あま)! 攻撃を止めなさいって言ってるでしょ!?」
「はあ? 何故攻撃を止めなきゃいけなの あいつ等敵よ?」
「何故って、あのダークエルフ達は異世界チート転生者じゃないのよ?」
彼女は顔色1つ変えずに冷淡な口調で話す。
「アイツ等は私達に攻撃を仕掛ける悪党、以前の紛争で残党兵から空族になったんだから、徹底的に潰しておかないと反逆されるし」
恐ろしく普通の表情で平然と喋る。少年は彼女に向かいさらに大きく叫んだ。
「もう相手は逃げてるじゃない。戦意喪失した相手に追撃するなんて鬼畜の所業なんだから!! ほら、ねえ、アンタには聞こえないの?」
何の事かと思い耳を澄ませると、森林のあちこちから微かに悲鳴が上がっていることに気付いた。恐怖と怯えが宿っている。正体は理解できた。これは逃げ惑うダークエルフ達の叫びだ。
「ねえ、聞こえるでしょ!? あれは悲鳴よ、アンタの攻撃に泣いて逃げ惑うダークエルフ達の声よ!」
「聞こえないわね~? しっかりしなさいよ蝙蝠少年」
少年は表情が険しくなり、怒りを込めた声が彼女に向けられる。
「お黙りブス!! これ以上の攻撃はただの殺戮行為よ! アンタはただの人殺しよ!」
だが、彼の主張に対して返ってきた彼女の答えに、戦慄が走った。
「アッハハハハハ!! バッカじゃないの? だってアイツ等はダークエルフよ。
ダークエルフと異世界チート転生者なら、殺しても人殺しじゃねえし、ダークエルフ殺しとチート殺しじゃん。人じゃないなら、殺しても構わねえよ。
いつもいつもこの森に攻撃を仕掛けてきて、来る日も来る日もチート能力者のチート攻撃を躱して何度も何度も殺してきたんだよ私は!!
もうイライラしてウンザリしてるのよ!! おまけに反発した反逆者達まで協力してるなら、正当防衛じゃない! 元々私は人間が嫌いなんだよ、だから殺してもいいんだよ、だって私は獣人だからね、アッハハハハハハ、死ね、死ね、皆死んじゃえぇぇぇぇぇ!!!!!」
積年の呪怨が籠った声が、森林中に木霊する。嫌でも耳に残る嫌な響き。
このままではいかん。いくら異世界の個人の行動に干渉できないとしても、これだけは止めなくてはならない。上空で飛空艇を攻撃し続けている彼女に向けてアンチートガンナーをかざし、引き金を引く。
《Error(エラー)!》
「……なん……だと……!?」
アンチートガンナーから聞こえてきた電子音は、これまでに無いエラーという言葉。どういうことだ? それでも構わず彼女をアンチバレットコア化しようとしたが、突如身体中に電撃が走ったような痛みと痺れが駆け巡り、動けなくなり膝を付いた。
何とか手足を動かそうとするが、まるで自由が効かない。そして、アンチートマンの変身が解除されてしまった。これはいったいどういう事だ!?
《警告、これ以上の異世界原住民の行動に対する抑止は許されません。直ちに干渉の意志と行動を止めてください。
警告、これ以上の異世界原住民の行動に対する抑止は許されません。直ちに干渉の意志と行動を止めてください》
自分の身体から無機質な電子音声による警告が聞こえてきた。これは、私の身体に搭載されているシステムか? 止める事が出来ない? モコの行っているのは虐殺行為だ。止める事が許されないとはどういう理屈だ。
《警告、直ちに干渉の意志と行動を止めてください。止めない場合は、アンチートマンの全機能を停止させます。警告……》
だが、視界が真っ赤になりノイズが走る。痛みと痺れは増々強くなり、まるで電流が流れる縄で拘束されて閉まり続けているようだ。意識も朦朧としてきた。
異変に気付いたネア達が駆け寄り身体を揺さぶり叫ぶが、五感も正常に働かない。
《反抗の意志継続中、これよりカウンタープログラム続行。アンチェイサー、チェイサイダーの自動制圧モード始動します》
身体から聞こえた警告音声の意味を正確に理解する前に、意識を削がれた。その直後に視界が暗転、身体中に激しい痛みと痺れが襲う。気が付くと、俺は地面に転がっていた。そして目の前にはこちらに向かい銃口を突きつける2つの影。
1つはアンチェイサーが人型に変形した姿だとわかった。もう1体は、彼女とよく似たシルエットの機体。これは、チェイサイダーが人型に変形した姿か……。
2機とも視界バイザーから無機質な光を発している。そこには彼女達の感情と意思を感じ取れない……そうか、自分の意志を奪われて俺を攻撃するプログラムがあるのか……。
視界の隅に、モコが放った最大級のソニックブームと超音波攻撃で爆発炎上するダークエルフの飛空艇が見えた。結局彼女の虐殺を止める事は叶わなかった。
先程のネアの言葉が思い浮かぶ。原住民の行動と感情は原住民のものであり、こちらが指摘する事は的外れだ。そう、所詮私は原住民の行いに干渉する権利は無い事を思い知らされる。
ネア達の叫び声が微かに聞こえる中、私の意識は途絶えた。
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