第43話「いけ好かない少女」
「モコ! 彼らは異世界チート転生者ではない。攻撃を止めろ!」
上空で超音波を吐き続ける彼女に向かい叫んだ。だが、聞こえていないのか聞こえていてわざと無視しているのか、モコは攻撃を止めずにダークエルフ達に超音波を発し続けている。すぐに止めさせるためにガンナーで威嚇射撃を行う。銃口から発射された光弾が彼女の横すれすれを通過した。
モコも流石に気付いたのか、それとも驚いただけか、こちらに向かって険しい表情を向ける。だが俺は謝らない。別に悪い事をしたわけではない。無駄な殺生沙汰は避けるべきだ。彼女がどういうつもりで逃げ惑うダークエルフを攻撃し続けたかは知らないが。
「どういうつもり? 私に向かって威嚇攻撃をするなんて」
地面に降り立ち、面と向かうモコ。僅かに怒りの感情を宿した一見すると穏やかな口調。だが、まるで夢中でやっていたことを途中で中断されて苛ついているようにも見えるのは気のせいだろうか。どういうつもりなのかと尋ねてきたが、そっくりそのまま返す。
「そっちこそ、どういうつもりだ? 彼らはダークエルフ。確かに異世界チート転生者と組んではいたようだが、戦意を失って逃げている相手に攻撃を続けるのは、ただの虐殺だ」
「あら、そんな怖い顔してんのに随分と慈悲深くお優しいのね」
笑顔だが、含みのある言い方。すぐに彼女が見た目ほど清廉な性格ではないことを気付かされた。
「あいつ等は無法者のチート能力者に加担してんのよ? 殺してもいいじゃん?」
「彼等が加担するのも、何か理由があるのかもしれない」
「そんなの知らないし」
きっぱりと言い切る。一瞬聞き間違いかと思った。だが彼女の表情を見ると、真実だという事を突きつけられた。
「案外甘いんだアンタって。敵の事情なんか知ったこっちゃねえし。私は敵の事情なんかに捕らわれないし」
こちらを否定し、さり気なく自分をアピールする発言。そういえば少年が彼女に対してやたらと非友好的な態度を取っていたが、恐らく彼は彼女の性格を見抜いていたのだろう。野生の勘だろうか? 私は彼等には敵わないだろう。
「まあまあ、2人とも落ち着きなよ。熱くなるのもいいけど、敵は一掃できたしいいでしょ? ね?」
ネアが仲裁に入る。気を遣わせてしまったようだ。
「あらごめんなさい。少し大人げなかっわ。だってこの人が突っかかって来るだもの」
「いちいちうるさい女ね、嫌らしい」
少年がその場が凍り付くような発言をした。危うく取っ組み合いを始めそうになるのを必死に引き剥がしてモコの家に戻る。
留守番していたバイラは開口一番、やはり泣いた。モコがバイラに駆け寄って思いっきり抱きしめる。笑顔を浮かべて頬を紅潮させ頬擦りしている。
先程の態度とは違い、本当に弟を思いやる姉そのもの。それだけは本物だ。
その後、彼女からあのダークエルフの話を詳しく聞かされた。彼らは森林の紛争を勃発させ、近隣を巻き込み大きな争いに発展したそうだ。何とかダークエルフ達を退けたが、残党が空族となったそうだ。
彼女からしてみれば討伐すべき悪で、森の住人達もそう思っているらしいが、だから彼らは異世界チート転生者と手を組んだのではなかろうか? チート能力者の力を借りれば、いくら大群でも歯が立たない。彼等からしてみれば自分達を追放したこの森の住民たちは憎いだろうからな。
「アンチさん、ダークエルフはね? 他のエルフよりもさらに誇り高きプライドを持っているんです」
ネアがそっと耳打ちしてきた。それは余計にこじらせそうな種族だ。空族に成り下がる等、さぞみじめな思いをした事が伺える。
「アタシからしたら意味わかんないわ、何で無意味に争うのかしら?」
「そういう世界もありますのよ。時にはわかり合えない事もありますわ。悲しいけど」
「バッカみたい。所詮は皆同じ生物よ? ネエさんだってそう思うでしょ?」
「そうですわね……」
少年が不機嫌そうな表情でぼやき、コルラがなだめている。ずっと種族関係なく仲良く暮らしてきた彼からしてみれば、理解し難いのだろう。
《主、先程からリサーチを掛けて判明したが、どうやらこの世界の異世界チート転生者は、人口の半分以上存在いている》
「それは本当か」
《ああ、先程の大軍はほんの一握りに過ぎない。非常にまずい状況だ》
チェイサーの不意打ちな報告に、思わず驚きの声を上げた。この世界の人口の半分以上。元の住人の半分以上存在しているとは、あと少しで侵略してしまう。
《姉さんの言う通り、これはまずいよ主。ただでさえこの世界の大半が彼等によって侵略されているんだ。このまま進めば、この森も奴らに蹂躙されちゃうよ》
サイダーがデータを表示してくれる。この世界の地図を描いたもの。青い部分が侵略されていない領域。赤くなっている所が侵略済みの土地だが、もはや赤ばっかりだ。
「ど、どうしてこの世界はこんなに異世界チート転生者が多いのチェイサーちゃん、サイダーくん」
ネアの口調も慌ただしくなっている。当然か、今まで以上の脅威が迫っている。
《何者かが助長しているのは確かだ。自分の遺伝子を移植したという可能性もある》
《姉さん。もしかすると、なろう神がいたずらで複数を転生させた可能性も……》
《大いにあるだろうな。質が悪いが》
「そうだとしたらなろうぶっ殺してやる」
2人が提示した可能性を聞いただけで、なろう神という単語を聞いただけで理性が吹き飛びそうなくらい怒りが沸き上がり、思わず机を叩く。思いのほか大きな音が出てしまい、全員が驚きバイラが再び泣き出した。
「びゃぁぁぁぁぁぁぁぁ怒ったぁぁぁぁぁぁおばけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
――――……――――……――――……――――……――――……――――……
奴らが再び進撃してくることは無かった。今晩はモコの家に泊めてもらう。彼女は可愛げが無いながらも、何だかんだで気になる少女ではある。出会う者すべてがネアみたいな取っつきやすい性格ではない。弟のバイラを思う気持ちは本物だから、見ていて微笑ましい。
先程の戦闘で回収してガンナー内に保管しておいた、異世界チート転生者の魂を天に送り届ける事にする。今回は大量に回収する羽目になったが、ガンナーの魂蓄積容量は大きいので問題は無い。そのまま銃口を上空にかかげ、トリガーを引いた。
《Soul(ソウル)、Go(ゴー)、Back(バック)》
電子音声の後、銃身が光り輝き銃口から大量の光群が銃声と共に放たれた。大きな光群は空を突き抜け、夜の星空へと昇って行く。その光景はまるで流れ星のようだった。
これまでに異世界チート転生者による被害を見てきた。原住民は彼等から被害を受ける立場が殆どだ。例え加担していたとしても強制されているか、一時の幻想を見ているに過ぎない。チート転生者によって原住民たちの考えや思想が変化させられる行為は秩序の崩壊につながる故、阻止せねばならない。だから俺は原住民たちを殺す事は出来ない。例外を除いては。
本当に殺せないのかと言う問いに対して、100パーセント肯定する返事は返せない。何故なら、2つだけ例外がある。1つは俺に対して攻撃の意志と悪意がある場合は殺傷設定が解禁される。
そしてもう1つは……。
いや、考えるのを止めた。今日はもう床の間に着くとしよう。休養できるときに休養しておかないといざと言う時に身体がもたない。
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