第29話「恐るべき子供達」

「はぁっ!? ここは誰? 私は何処!?」


「古典的だなおい」


 蠍の少年が飛び起きた。赤い瞳できょろきょろと周りの様子を確かめるように見渡した末に俺達を認識して多少かしこまる。


「あんたら誰? ぼ、いや俺を助けてくれたのかい?」


「ああ。俺はアンチ・イート。人間に見えるが一応亜人だ」


「アラク二ア族の……えっと蜘蛛獣人のネア・ラクアだよ、よろしくね」


「クイーンコブラ族の……蛇獣人のコルラ・スネイブですわ。以後、お見知りおきを」


「え? ああ亜人に蜘蛛と蛇……でその変な鉄の塊は?」


 少年の視線がアンチェイサーに向く。ああ説明せねばならぬか。


「これは人間の乗り物なんだが、意思のある生きたゴーレムだと思ってくれ」


「意思のある生きたゴーレム?」


 驚くかもしれないので一応生物と忠告しておく。この世界でもゴーレムが通じるのかわからないが、どう反応するかは彼次第だが……。


《私はアンチェイサーだ。よろしく頼むよ》


「うおっ!? なんじゃこりゃ~!?」


 予想通りの反応。ヘッドライトが光る故、余計に驚いたようだ。まるで文明の利器を見て慌てる原始人のようだな。いや見たことないが。


《君が驚くのも無理はない。だが、私はこういう存在だ。主の言う通り意思のある生きたゴーレムと思ってくれて構わない。もしくは馬車でもいい》


「いや馬車ってそれは無理がないか?」


「マジビックリした~。へぇ変わったゴーレムもいるもんだなおい」


 アンチェイサーを見つめながらゴーレムと思ってくれたらしい。ゴーレムが通じて助かった。彼は一呼吸するとこちらに向き直る。


「助けてくれてアリガト。ぼ、俺はスコルピオン族のピーコ・オスンだ。よろしくな」


「ああ、よろしく」


 さっきから一人称を僕と言いかけて俺に言い直してる。これは……ああ、おそらく背伸びでもしたい年頃なんだろうな。なんだか子供らしくて可愛く見えて来た。


「ねえねえ、ピーコくん? 何が遭ったのかお姉ちゃん達に教えてくれない?」


「誰かに襲われたりしたのかしら? それとも行き倒れだったの? さあお姉さんたちに話して御覧なさい!」


「だからコルラはその口調と挙動を止めなさいって!」


 ネアとコルラは優しい口調で子供を見るような目線で話している。


《母性本能》


「なに?」


《おそらく主にはわからんよ。私も似たような感情は抱いている》


「母性……。そうか、少し弱っている少年に、女性に備わっている本能を刺激されたと言うことか」


「ちょっ、あんだよ。子ども扱いすんじゃねえよ! 俺は立派な蠍野郎だ!」


「ふ~んそうかそうか~」

「えらいわね~」

《背伸びしたいお年頃》


「なんだよなんだよ、バカにすんなよ!」


 妙な気持ちになる。この微笑ましさは何と形容すればよいだろう。両腕の鋏をじたばたと振り回してる様が子供の駄々っ子のような光景。ネア達はすっかり、にやけ面で接している。


「ああもう話すから聞いてくれよな! 俺はな……突如現れた、あの恐るべき子供達に襲われたんだよ……!!」


《「「君も子供じゃん」」》


「もう変な所でアゲアシ飛んじゃないわよ、何なんだよもう~!!」


「もしや、その恐るべき子供達とやらはチート能力者だろうか」


「俺は……奴らに対してあまりにも無力だったのさ……ある日この世界に現れた奴らは、皆この世界で言う天職を持っていた。その力は強大だった、仲間は全員経験値稼ぎだとか言われて奴らに葬り去られた。

 他の種族もそうだ。皆捕まっちまった。そして、周辺の村や町に繰り出してあっという間に勢力図を書き換えちまった。あいつらの圧倒的力には、人間も亜人も獣人も屈するしかなかったのさ。そして俺は……奴らの攻撃から逃げだしたんだ……そして力尽きた。で、あんたらに救われたわけだ」


「そうだったの~怖かったね~よしよし」

「もうご安心なさい? お姉さん達がいるからね~」

《慰めて抱きしめろ》


 彼の話を真面目に聞いてはいるが、母性本能をくすぐられた彼女達のせいで色々台無しになっている。彼の話はシリアスな内容の筈だが、彼女達は少年のことが気になって仕方がないらしい。当の彼は、ネアとコルラに抱かれて頭を撫でられて赤面して暴れ出した。


「あ~もう、ふざけんなよ! アイツらは僕の大事なもん、大切なもん、全部奪っていきやがったんだからよ! ふんずけてやる!!」


「……ああ少年」


「なによ!?」


「俺達なら君の力になれる。俺はその手の連中、チート能力者と呼ばれる者達をかる役目を負っているんだ。さっきの君の言い方だと、少なくとも生きている仲間はいるんだな?」


「そうよ、経験値だとか言われてやられた奴らも体力が無くなって瀕死状態になってただけだかんな。そんでもって他の連中も取っ捕まっただけだしな」


「襲ってきた子供達は、全員人間だったか?」


「おお、何か全員お揃いの服着てたぞ、人間が着る制服ってやつだろ。だけど全員が天職に就いているなんてありえないぜ。知り合いの人間から聞いたけど、あれだけの大人数が揃って強力な天職に就くことは聞いたことがねえ。しかも何処からともなく妙な建物と一緒に召喚されてきたんだよ」


「妙な建物だと? で、その建物は何処にある?」


「あっち」


「あっち?」


「どっち?」

「そっち?」

《こっち》


「だから一々からかわないでよ!! あっちよあっち!!」


 ネア達にからかわれつつも彼が指し示す方向は、この海岸から遠くの方へ位置する場所。そこには一際目立ち、とてもじゃないが異世界には似つかわしくない近代デザインの建物を視界センサーが捉えた。


「なんということだ、あれは日本の学校の校舎ではないか!? これで確定したな。召喚されたという恐るべき子供達は日本人の生徒達だ。それも全員、天職と言う名のチート能力を付与されたな。なんとたちわるい……!」


 思わずそう呟かずにはいられない。

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