第20話「この屈辱は倍にして返す」
裂け目の中に突入して辿り着いた場所は、豊かな森林が生い茂る山地。コルラの住む異世界だ。
「また山のある場所かと思ったが、前回の異世界が岩肌が目立っていたのに対し、こちらは植物がやたらと生えている山のようだ。心なしか空気が澄み切っている気がする」
「呼吸しやすいです」
「アンチェイサーに乗ったまま進むか。コイツならどんな悪路でも平気だからな」
「あの大丈夫なんですか乗ったままで」
「他の種族に見つかったとしても、こいつは驚きの擬態能力で馬に見えている筈だから問題ない」
「それは安心ですね」
「コルラ、君が勇者と出くわしたのはここか?」
アンチェイサーの中央スロットにセットされているコルラを引き抜いて尋ねる。改めてアンチバレットコア化した彼女のフォルムを見て見ると、全身はメタルバイオレットカラーにゴールドカラーのラインが入っており、コブラの頭部を模した装飾になっている。口部分から除く牙まであり、中々攻撃的なデザインだが何処か気品も漂う。
「ええ。この匂いは、僕の故郷チュレナの森ですわ。」
「匂いだと?」
「ああ、僕らクイーンコブラ族、蛇種に属する種族は眼と耳があまり良好ではありませんの。ですから匂いと皮膚器官を頼りにしております」
「そういえば蛇は目と耳が悪いと聞いたことがあったな。では、耳が悪いなら何故我々の声が聞こえている?」
「さっき、皮膚器官があるって言ってましたね? それと関係が?」
「はい。皮膚からテレパシーで聞こえております。それと、なけなしの聴力とで月並みには聞こえていて会話ができるのです。多少人間の身体を得た事で改善はされたのですけれど、これらを応用しながら生活しておりますわ」
質問にあっさりと答えてくれたコルラ。異世界の種族にも色々な者がいるのだな。コルラがここで勇者と一悶着起こしたならば、奴はこの付近で何か行動を起こしている筈だからな……。
『警告。遠方に異世界転移者の存在を感知。遠方に異世界転移者の存在を感知』
脳内にナビゲート音声が響き、頭に電気が駆け巡ったかのように感覚が研ぎ澄まされた。目の前の視界が黄色に点滅している。これは異世界チート転生者ではなく、中間存在である異世界転移者を示している。間違いない。近くにはいないがこの森林の何処かにいるようだ。だとすればやはりコルラを襲った勇者しか考えられない。
「どうやら奴はこの森にまだ潜んでいるようだな」
「びびっと来たんですね、アンチさん」
「居場所がわかりますの? 失礼ですが、何か特別なスキルをお持ちで? 恩人に対して無礼を承知で言いますが、貴方は人間では?」
「ああ、言っていなかったな。俺はこの通り……」
《
コルラの疑問に答えるべく、アンチートガンナーを取り出し自分のこめかみに銃口を当てて引き金を引いた。人間態の姿が光りの粒となって消失し、機械染みた姿が顕わになった。
「これは……!?」
アンチバレットコア態になっているコルラの身体が激しく揺れる。ああ、流石に姿が変わったことは理解できたらしい。
「アンチさんは人間ではなく、その……アイアンヒューマノイドといいますか鉄亜人みたいです。普段人間の姿をしているのは、愚かな人間共を油断させるため。ねえアンチさん?」
「いや別に油断させるためではないんだが……」
ネアから自信満々に解説されたが、自分は半分サイボーグである。けっしてアイアンヒューマノイドという鉄亜人などではないが、彼女から見たらそう見えるのだろうな。
「これは大変失礼致しました。ご無礼をお許しください。なんと雄雄しいお姿」
「でしょでしょ、この姿凄くイケてますよね? あとアンチさんはもう1段階変身を残してるのです!」
「こらこら無駄に期待値を上げるんじゃない……ん!?」
『警告。異世界転移者急接近。異世界転移者急接近』
ナビ通り背後から急速に迫りくる気配を察する。そして殺気とチート能力の波動。振り返ると、こちらに向かい駿足で向かってくる人間の少年が見えた。
「へへへ~見つけたぜぇ、覚悟しやがれぇぇぇ!!」
年齢はざっと見積もって15、6歳のように見える。容姿は比較的標準。学校のクラスメイトで例えれば格好良い部類には入るだろう。背丈もそこそこ高い。
『異世界転移者のデータを表示します』
▼吉木宏太
異世界に召喚される事を夢見た16歳の高校生。常日頃異世界に召喚される妄想に耽る痛い日々を過ごしていたがある時本当に召喚されてしまう。最初は戸惑い帰りたいと願っていたが、チート能力が備わり自分をちやほやする王族と国民。さらに自分のステータスやスキルが表示される毎に毒されていった。
▼チート能力:空間断絶
対象の周りの空間を世界から切り離して何処にも属さない亜空間に取り残す能力。切り離された対象者は亜空間にとって異物と見做され、拒絶されて身動きが取れなくなり、そこを狙って攻撃が可能。
「あぁ!? 貴方は……あの憎々しい人間の童! フフフ……アッハハハ! よくものうのうと僕の前に姿を現しましたね……丸のみにしますわよ!!」
物騒な言葉を吐き散らし、牙を剥き出しにして怒りに震えるコルラ。これはいかん、殺す気満々ではないか。勇者とやらは既に剣と盾を構えて攻撃体勢を取っている。平然とした面構えが妙に腹立たしい。
「仕方ない。先手必勝だ」
アンチートガンナーの銃口を走ってくる勇者に向け、引き金を連続で引く。
「ええっ!? そんなんあっ」
勢い良く放出された数発の光弾は真っ直ぐ勇者に進み、直撃する前に間一髪盾でガード。しかし、たまの勢いに気圧され思わず後ろに後ずさって立ち止まる。その表情は明らかに動揺していた。
「当然の反応だろうな。ファンタジーの異世界だと思っていたら、銃から光弾を発射するSF染みた奴がいたんだからな?」
「こ、光線魔法みたいなもんか? まあいい、そんなの関係ねえ! 俺の能力を喰らいな!」
だが、勇者の少年はそれでもこちらに突き進み手を翳した。掌が淡く光り輝く。
『チート能力を確認』
「だろうな」
光が直ぐにチート能力だと理解できた。周りの景色が歪み始め、少しだけ身体が重くなるのを感じる。視界にチート能力のデータが表示される。
「これは……?」
「いけませんわアンチさん! 僕はその攻撃で身動きが取れなくなりましたの! このままでは手足が動かせなくなりますわ!」
「いや、大丈夫だ。これは対象の周りの空間を世界から切り離して何処にも属さない亜空間に取り残す能力。亜空間にとっては異物だから対象者は拒絶されて身動きが取れなくなり、そこを狙って攻撃が可能……」
アンチートガンナーの銃口を掌に押し当てる
《
赤紫色の光球型エネルギーが身体を包み、アンチートマンの姿へ変身した。そのエネルギーの余波を受けて切り離されようとしていた空間の歪みは無効化されて元に戻る。
チート能力を防がれたこと、紫と黒の装甲に覆われて鎧態へと変わった俺に、勇者は眼を見開いて驚愕の表情を浮かべる。
「へ……変身って……マジ? そんなんもありなの? つーか、何で俺のチート能力が防がれたんだ!?」
「この変身は相手を動揺させる効果も期待できるから良いな。俺は異世界チート転生者の番人にして執行者、そしてチート能力者を狩る死神、アンチートマン。君はこの異世界に召喚された勇者故、救済対象として元の世界に帰すぜ? 吉木宏太くん」
彼のパナーソルデータが表示されて名前が判別できたので、動揺を誘うために本名を告げてみる。さて、彼はどう打って出るかな。
「はあ!? な、何で俺の本名知ってんだ? つ、つーか意味わかんねえって! せっかくファンタジーの世界に来たってのに、地球になんか帰りたくねえっつうの!! これから勇者としてウハウハな人生が」
「この軟弱者がぁっ!!」
「おう!?」
「よしわかった! 貴様のその腐った妄想と根性を俺が叩き直してやろう!! 歯を食いしばれイカサマ野郎!!」
握りしめた左拳に渾身の力を込めて、強烈な一撃を胸に食らわせた。少年は呻き声を発しながら吐血し、木々を折りながら後方へと吹き飛ばされた。ようやく動きが止まると倒れ込み、激しく咳き込んでいる。
「これで彼のチート能力は俺のチート抗体により破壊され始める。いずれただの人間に戻る。頭に貴様のこれまでの行動が流れ込んできた。女性の獣人系ヒューマノイドに声を掛け、意にそぐわないと攻撃を仕掛けてアイテムや装備品をひったくっていたようだな。ここでも経験値稼ぎと生じて様々な種族を攻撃し続けていたとは……いったい異世界に来る日本人は異世界を何だと思っている?
殺しは行っていないか。だが重軽傷者が出ているな。しかもチート能力を乱発したせいで異世界の空間が不安定になっているな。少しお灸を添えてやる。コルラ、力を借りるぜ。俺がいた世界にはやられたらやり返すと言うことわざがある」
「あら? それはどういう……」
有無を言わさずコルラをアンチートガンナー上部に嵌めこんだ。彼女は甲高い掛け声を出したが無視する。
《
アンチートガンナーを握る右腕から肘にかけてコブラの頭部を思わせるゴールドラインが入ったメタルバイオレットカラーの武装が装備された。左右からゴールドの短い刃が三つずつ展開している。
一振りしてみると頭部先端部分が伸びて鉄の鞭のようになった。獲物を狙い静かに這い寄る蛇の牙とでも例えようか。実に素晴らしいしなり具合だ。
「これは接近でも中距離でも使えそうだな」
「こ、これはいったいこれはどうなっていますの!?」
戸惑うコルラには申し訳ないが、試しに攻撃してみるとしよう。完全に呆気に取られている勇者に向かい右手を振った。
先端から勢い良く伸びた蛇腹状のウィップが勇者のところまで届き、側面に直撃。勇者の身体が横に吹き飛ばされたところで、向きを変えて逆方向からしなりを効かせて鞭を当てる。何が起こったのか理解できずに転倒した後も周りを見渡す勇者。
「屈辱の怒りに身を焦がす蛇少女の殺意と呪怨を、その身で味わがいい!!」
止めを刺すためにアンチートガンナーのスイッチを押す。
《
ノイズ混じりの電子音声と共に銃口から凄まじい勢いで赤紫色の光線が発射される。まるで瘴気でも宿っているかのように霞掛かっており毒々しい。その姿はコブラの姿を模している。その咢は得物を捕えるように上下に分かれると、噛み付くように勇者を包み爆発した。
如何にもやられたぁという情けなくも滑稽な叫び声を上げて後方へと吹き飛ばされた彼は、転がりながら草木にぶつかって気絶した。どうやら口の中に光線が入ったらしく、口から赤紫色の泡を吹きだして目を回している。死んでは無い。毒効果はあるが俺のチート抗体と合成されているので、チート能力に対しての毒効果はある。
「貴様が勇者でなければ殺していた。いま命があることに感謝するんだな、勇者さんよ」
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