第21話「この件、最後まで付き合わせてください」
『チート能力の消失を確認。対象者は無事に普通の人間と戻りました』
視界が安全を示すブルーに切り替わる。これはチート能力が消えて勇者が普通の人間へと戻ったことを意味する。
「ふぅ……どうも熱くなって説教臭くなってしまう……」
「なに爺臭いことを言ってるんですか」
一息つくと、勇者を足蹴りにして転がし仰向けにする。アンチートガンナーのスイッチを押して転送モードに変更。そして気絶した勇者に銃口を向ける。
「え? 殺すんですか?」
「違う。元の世界へ転移させる」
そう言った後に引き金を引いた。銃口から白い光が放たれ勇者に触れる。光りは勇者の身体を包み込み彼の周りに円形の魔法陣が展開される。一際強い光と共に一瞬で上空へと舞い上がり、そのまま光りの粒子となって消え去った。
「今ので帰ったんですか?」
「ああ、原理は俺にもよくわからない」
地球に送る仕様ということは理解しているが、どういう原理でその力が働いているのかは知らない。そういう設定だ。まあいい。これで一先ず片付いた。後は、この異世界をどうするかだ。
「アンチさん、勇者を元の世界へ戻しちゃって本当によかったんですか?」
「うん。確かに奴はこの異世界を救うために召喚された。だが、異世界のことは異世界で解決しなくては、結局この異世界に未来は無い。そのまま一生、異界の存在に頼り続け、異世界の秩序とバランスは崩壊する。なにより、召喚された方は大迷惑だ。下手をすれば人生を台無しにされかねない」
「ん~でも、あの勇者結構楽しんでましたよ? コルラさんを容赦なく攻撃してたし……」
「それこそ人生を台無しにしている証。元いた地球での価値観を忘れ、すっかり異世界に毒されている」
「ああ、確かに」
「異世界に召喚された地球人は野垂れ死ぬか、授かった勇者の力で異世界を救うことを余儀なくされる。この時点で自分の人生の半分を奪われたようなものだ。理不尽極まりない。妙な使命感に目覚めて戦う者、異世界に胸躍らせる者がいるが、その時点で毒されたも同じだ。自分の意志が感じられない」
とは言っても、そう語る自分も人のことは言えない。インテリジェントデザイナーより与えられた使命と本能に従い行動しているだけに過ぎないのだから。
元より何の目的も持たずに組織に従う身だったからな。だが、ある意味今は解放されたともいえるだろう。縛られているとも捉えることもできるが。
「元凶のところに向かうとしよう。コルラ、今元に戻す」
「あのちょっとよろしくて?」
コルラを手に取り、いざ元に戻そうとアンチートガンナーを向けたところで止められる。
「その調査、僕も同行させてもらってもよろしくて?」
「……何故だ?」
「お役に立てると思いますよ? お二人には助けてもらった恩がございますもの」
「あの勇者に報復できただろう」
「あら、あれは貴方が僕の力を利用して間接的に果たしたに過ぎませんもの、不本意ですわ、いっそ腹の中に収めたかったのに……」
「それを避けるためにアンチバレットコア化させたんだがな。間接的に攻撃させれば多少は満足するかと思ったが、返って不満足だったか?」
「勘違いなさらないでくださいね? 恩を返すこと、そして自分の好奇心を満たしたいだけです。それに、この件がどうしても気になりますの。あの勇者を召喚せざる得ない程の危機がこの世界に訪れていませんもの」
「君から見てもそう思うのか?」
「正直、僕らの間では少なくとも勇者が現れるのは世界が危機にさらされた時だと聞いています。ですが、そのような脅威は我々モンスター寄りの種族に味方になれと勧誘しに来ますの」
「ちょっと待て。味方になれと、声を掛けられるのか?」
「ええ。ネアさんもそうでしょう?」
「うん、私の種族は、確か魔王辺りに声かけられましたよ。ダークエルフやオークにもお呼びが掛かってたから。でも毎度毎度勧誘しに来るのも困ると言うか……」
「きちんと勧誘お断りと入口に貼ってありますのに」
「そうそう。営業の人も仕事だから仕方ないとは思うけどね」
そういうものなのか……。はて、ではよくあるファンタジー小説やゲーム等でモンスター系種族が敵として出現し、魔王や親玉の手下として現れるのは、彼らが勧誘してるからだったのか……いや、あれはフィクションだ。
「正直人間ばかり地上の覇権を握られると私達も肩身が狭いから、闇の存在からリクルートしにくるのは普通なんですよ。私達も生活が向上するなら攻撃しかけますから」
「ええ、世界は人間共のものではありませんもの。そこを勘違いしていらっしゃるヒューマノイド族が多いのです」
「愚かですね」
「ええ、愚かですわ」
「だからいつまでも争うんです」
「反吐が出ますわ……話しを戻しましょう。僕のことをアイテム化しておいてさよならするおつもりですの? 実はけっこう痛みが伴いましたのよ? そこのところご理解いただけてるのでしょうね……?」
爬虫類の黄色い瞳をこちらに向けて不敵な笑みを浮かべる。これは、まるで蛇に睨まれた獲物のような感覚、微かに生物的恐怖と防衛本能が働いている。
「確かに緊急事態だったとはいえ、君をアンチバレットコア化してしまったのは軽率だったかもしれん。その後も殺させない為にあんな報復の仕方を取らせてしまったからな……」
彼女自身がこの件に興味があるのなら最後まで付き合わせるのが筋というものだろう。
「コルラさんの言う通りだよアンチさん? 責任取らなきゃ、ね~?」
「致し方ないな。戦力も欲しいから一緒に来てくれると助かる」
「ふふふ、物分かりが良くて助かりますわ、一時の間よろしくお願いしますわね、アンチ様」
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