第19話「異界からの勇者?」
「それで、その勇者とやらについて詳しい話を聞かせてもらえるか」
無事にお腹一杯となったコルラに、改めて話を聞くため向かい合う。
「ええもちろん。全てお話させていただきます」
彼女は布巾で口の周りを拭きつつ、優雅に構える。そしてこちらの様子を伺う様に声を掛けてきた。
「それよりも、体調が悪いようですが……少々刺激が強すぎたかしら?」
無論、トイレの中で吐いてきたばかりなのであまり気分は良くない。先程食べた定食が胃から吐き出されると思っていたが、オイルじみた液体を嘔吐しただけだった。そういえば半分機械だったな。
神経を麻痺させる麻酔針をネアに打ち込んでもらったので少し経てば効果が出て気持ち悪さも無くなるだろう。戻してしまったことに対し、自分の時も吐きそうだったのかとネアにはかなり心配されたが、種族間の違いだから仕方がないと言い聞かせた。
「少し経てば気分は良くなる。だから気にせず話をしてくれ」
「そうですか。では、僕の身に何が起こったのか、全てお話いたしましょう……」
コルラはかしこまった姿勢を取る。仕草が一つ一つが上品な印象を受ける。それでいて独特の色香を醸し出している。今更気づいたが一人称は僕なんだな。
「そう、ある晴れた日のこと。僕はいつも通り森の中を移動しておりました。
直ぐに朝食を食べ終えて、さあ戻ろうかと移動してきた道を引き返そうとして、突如現れた人間の子供に襲われたのです……」
まるで物語を読み上げるように語り始めた。いつの間にか周りの客も聞き入っている。喋っている勢いで誤魔化してはいるが、彼女の眼と表情は明らかに強張っており、体験してきた恐怖が感じ取れた。
きっと気丈な性格の子なのだろう。俺達に明確な説明をしようとする責任感も感じられる。
「勝てる自信も仕留める自信もありました。クイーンコブラ族ですから人間の子供如きに遅れは取りません。
しかし、人間の子供は自分は勇者であると名乗りだしたのです。最初はなんと痛い子供なのだろうと思ったのですが、彼は僕の話しを聞くことなく剣を構えて高らかに叫びました。「うっひゃ~、人間の女の身体をした蛇じゃん!? いきなりマジもんの獣人に会えるとか、どんだけだよ異世界!」と、下品な言葉遣いで。ああ本当に汚らわしいですわ……」
「ああ……間違いなく日本人の発想が丸見えの言葉遣いだ……
「に、にほん?」
「ああすまん続けてくれ」
「その後、剣で斬りかかっておきながら急に態度を変えた勇者は、激しく僕を求めてきたのです。仲間にならないか、ハーレム要因になってくれ、断ったら勇者としのチート能力で始末しちゃうけどわかってるかなど。もちろん拒みましたわ、僕は人間の子供如きに懐柔されません。すると奴は心底口惜しそうな表情を浮かべて先程よりも強烈な勢いで攻撃してきました。「経験値になりやがれ!!」と意味不明な言葉を吐きながら」
「ネアが襲われた時と似たような状況に陥ったか」
「そのちきゅうのにほんじん達は私達のことを何だと思ってるんですかね……」
ネアの不機嫌な問いに、ゲームのモンスターだ。と、正直には答えられなかった。
コルラは襲われた時のことが脳裏に甦っているらしく、表情が徐々に強張り始め、微かに震えている。この震えは怒りの震えだろう。
「奴は謎の波動を発して周りの景色を歪めました。今まで感じた事のない異質な魔力に感覚を狂わされ、全く身動きが取れなくなったところを斬撃を連続で叩き込まれて、敗北してしまいましたの……全く自分が情けないですわ……よりにもよって人の子に負けるなど屈辱の極ですわ! 今すぐ食い殺してやりたい!」
彼女は美しい顔を醜く歪めて机に拳を叩きつける。衝撃でグラスが揺れる。
「ちくしょうですわ……ああ、腹立たしい! あの憎たらしい人間風情がぁ!!」
瞳孔が縮まり黄色い瞳が爛々と輝く。口から牙が覗き、今にも襲い掛かってきそうな勢いがある。これは相当の屈辱を受けたようだ。ネアが慌ててコルラを宥めると、彼女は顔を赤らめた。
「やだ、僕ったらはしたない……申し訳ありません、取り乱しましたわ」
「えっと、どう思うアンチさん? その勇者が放った攻撃って……間違いなくチート能力だよね?」
「そうだな。彼女の言う感じたことのない異質な魔力はその類かもしれん。そして、周りの景色を歪めて対象者の五感を狂わせ、空間の裂け目を作る……。対面すればわかる」
「あ、でも……異世界に召喚された勇者ですから……執行対象じゃないですよね?」
ネアが疑問を抱いた表情でこちらの顔を覗き込む。
「うん。確かにお前の言う通り、その勇者と言う男は異世界チート転生者ではなく、異世界に召喚されたチート能力を持つと思われる勇者だ。今までの俺のからしたら処刑する対象ではないと思われるかもしれない、だが、事情は少々複雑でね。地球から召喚された勇者がその異世界で戦うことはその世界の秩序と文化を乱す著しく行為だ。異世界の魔王はその異世界の力のみで倒さねばならないんだ。それに、場合よっては勇者は利用されるだけ利用されて使い捨てにされる危険性もあるんだ」
この発言にネアは心底驚いたようで、こちらに顔を急接近して尋ねてきた。
「そうなんですか!? り、利用するだけ利用して使い捨てって……人間はどれだけ愚かなんですか……」
「否定できない自分が悲しいな……。だがその勇者の男は地球に帰さないといけない。問答無用でな。そのまま異世界に住まわれたらいずれチート能力者として対処せねばならない、利用されてしまう前に助けると言う意味もある。コルラ? 君のいた異世界に今から向かう」
「え? ですが、どうやって僕の世界へ戻るおつもりで……?」
「そこは問題ないさ」
腰のホルスターからアンチートガンナーを取り出してコルラに銃口を向ける。コルラは何のことか理解できずに呆けた表情を浮かべたが、気にせずに引き金を引く。
「はいチクッとしますよ~」
毎度一応、警告しておく。
《
「ブラァ!?」
コルラの姿が光りに包まれアンチバレットコアに変わる。妙に色気のある様な甲高い声を上げる。
「今気づいたが、コルラはタカッラヅカのような声色だな。どこか凛々しくも麗しい」
「何の話してるんですか?」
アンチバレットコア化したコルラをキャッチ。腰のホルスターに収め、コルラは手に握ったままにする。
「立て続けに二度も世話になりました」
「はい、またお越しくださいませ~」
ウエイトレスに挨拶を交わし、入口のドアを開けて食堂から出る。入り口付近に駐車しているアンチェイサーに跨った。
「ちょっと、これはいったいどうなっていますの!? 僕の身体が、ち、ち、小さく?」
「大丈夫だ」
慌てふためく彼女をアンチェイサーの中央に設けられたアンチバレットコア挿入口にセットした。瞬間彼女から素っ頓狂な声が漏れたが、気にしない。
《
アンチェイサーからアンチートガンナーとは違う声色の電子音声が発せられた。そして正面に設置しているライトが紫色に光り輝く。これで準備完了。
ハンドルグリップを握りしめ、回す。エンジン音が響き、アンチェイサーの命の息吹が迸る。
《
「こうやってアンチェイサーにアンチバレットコア状態にした君達をセットすれば、生体情報を読み取り簡単に元の世界への道を開いてくれる。これでいつでも帰れる」
「ああ、この乗り物さんそんな便利な魔法が使えるんですね、凄いです!」
ネアから素直な反応が帰ってくる。魔法と解釈したようだが、正直なに言えば自分でもどんな原理なのかわからない。
そして空間が歪み、目の前に裂け目が生まれた。少し違うのは、裂け目からこちらを誘導するように光が放たれており、アンチェイサーのライト部分と繋がっている事。思い切りエンジンを吹かして裂け目の中へと、コルラの異世界へと突入した。
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