第18話「勇者から逃げてきた蛇の少女」

 結局、あの赤グロテスクな果実を食べさせるのには非常に危険だと判明したので、仕方なくもう一度異世界食堂「カクヨム屋」に行くことにした。


 丁度良く彼女も目が覚めた。だが、意識は朦朧としており、何とか喋れる状態。


「あ……貴方達は……?」


「通りすがりの神の使徒とでも言おう。アンチ・イートだ」


「ネア・ラクアです」


「あ……コルラ・スネイブ……ですわ……」


 手を差し出して握手を求めている。こんな状態でも礼儀正しい事に感心する。私とネアは彼女の手を握る。


「君は空腹状態が続いていて非常に危険だ。今直ぐ水と食料がある所に連れていくからな」


「……何処のどなたか存じませんが……感謝いたしますわ……」


「わかったからもう喋るな。今から運びやすい形態にする」


「え? アンチさんそれってまさか……」


 ネアの予感通りに、アンチートガンナーをホルスターから取り出し、銃口をコルラに向けて引き金を引く。


「はいちょっとチクッとしますよ~」


TranceトランスFormationフォーメーション!》


「ぅぅ……!?」


「出会ったばかりで申し訳ないが君をアンチバレットコア化して持ち運ばさせてもらう、この方が運びやすいからな」


 アンチートガンナーとコルラをホルスターに収めてアンチェイサーに跨り、ネアを後ろに乗らせる。ハンドルを握りしめてエンジンを吹かす。アンチェイサーのライトが目覚めた生き物のように光り輝き、命をたぎらせるかの如くエンジン音を轟かせる。そして俺の考えを読んでくれたらしく、すぐさまスピードを上げて走り出す。


「流石、半生物マシンだな」


 メーターが一定ラインを越えて周りの景色が歪み目の前の空間が裂ける。そのまま裂け目へと突入して無事に異世界食堂「カクヨム屋」のある空間へと辿り着いた。アンチェイサーから降りて、ネアとコルラを取り出して放り投げ、アンチートガンナーで打ち抜く。


「もう一度だ」


TranceトランスFormationフォーメーション!》


 コルラの姿が光に包まれて元の姿へと戻り、素早くその身体を2人で抱きかかえた。アンチェイサーを駐輪し、食堂の扉を開く。


「いらっしゃいませ……あらお客様、もしかしてお忘れ物ですか?」


 先刻に接客してくれた女性ウエイトレスが出迎えてくれた。そしてこちらの顔を覚えてくれたようで、こちらに気付くなり親しげに声を掛けてくれた。直ぐに彼女に要件を伝える。


「いや、今すぐ水と、このクイーンコブラ族の彼女が食べれるものを。生き倒れていたんだ」


 女性ウエイトレスは俺とネアが抱えた衰弱気味のコルラを見るなり、目を見開いて驚き、会釈したあと急いで厨房の方へ走り、食堂のマスターとスタッフに伝えてくれている。


「ちょっと皆! 誰でもいいから今すぐクイーンコブラ族の子が食べれるもの用意しておくれ! 生き倒れだよ生き倒れ!」


「「な、なんだってー!?」」


 とりあえずテーブル席にコルラを座らせる。そして食べさせるためにもう一度話しかけて彼女を起こす。


「大丈夫か? 多少強引な手段を使ってしまってすまない」


 すると、彼女の目が開いて金色の瞳が顕わになる。先程よりはっきりと瞼を開けているから見えやすい。周りを見渡してここがどこなのか理解できないらしく多少混乱している。俺とネアの姿を見て先程自己紹介した事を思い出したようで少し落ち着く。


「え? あれ? あ、あの……ここは何処ですか……?」


「その話は後にしよう。今は君の空腹状態を治すことが先決だ」


「は、はあ……ということは……ここは安全なのですね……良かった……」


 コルラは心底安心したようにホッと息を吐いてソファーにもたれかかる。そして遠くを見つめて呆けた表情を浮かべる。ここは安全とはどういう意味だろうか。それが彼女があの森で倒れていたことと関係があるのか。


 少し不謹慎だが、疲れ切ったようにソファーにもたれかかる彼女の姿は、何処か艶めかしくも美しさを醸し出している。時より口から出る吐息が妙に妖艶だ。それでいて凛々しい。


「まったく……いきなり現れた勇者と名乗る者から……一方的に攻撃を受けて……僕はもう死にもの狂いで……」


 途切れ途切れに彼女の口から出た勇者と言う単語に、思わず反応してコルラに掴みかかってどういうことだと問い質してしまった。彼女は驚いて小さく悲鳴を上げる。そして後ろからネアにはたかれて諌められた。


「落ち着いてアンチさん」


「すまん、思わず取り乱した……」


「あ、丁度料理が来たようですよ! コルラさんしっかり食べて飲んでください!」


「あ、はい……ありがとうございます……」


 鼻腔を刺激する香ばしい匂い……思わず振り返ったことを後悔した。


 鼠だ。


 これでもかというくらい大量の鼠料理が運ばれてきた。正直に言えばグロテスクだ。


「気持ち悪い!! 造形がそのままだ!!」


 吐き気を催し、堪らずオイルが逆流して吐きそうになったが口元を両手で思い切り抑え込み寸前のところで押し留まる。


「ふふふ……そ、そうだ。俺が彼女が食べられるものをと言ったのだ……」


 水はポットに入れて持ってきてくれた。さっそくコップに注いで、なるべく急いで飲まないよに注意しながらコルラに飲ませる。


「ほら、水だ。落ち着いてゆっくり飲むんだよ?」


「は、はい……んぐ」


 ゆっくりと落ち着いて水を喉に通していくコルラ。表情は穏やかだ。


「はぁん……喉が潤います……っはぁあ!?」


 そして目の前に置かれた大量の鼠料理を、フォークもナイフも使わずにそのままかぶり――。


「はぶぅっ!! んんぐんぐむぐ……ぶはぁ……」


 ……丸呑みした。


 爬虫類の黄色い瞳を光らせ、牙を剥き出しにして獣のよう。獲物を前にした生物は、女性だろうが、蛇だろうが関係ないという事か。恐ろしい光景だ……。


「良かったわ。蛇族だから丸呑みだと思ったんです」


 女性ウエイトレスが安堵したように胸を撫でおろす。


 話は、彼女がこの食事を終らせてから聞くとしよう。っていうかこの女性ウエイトレスは平気なのだろうか? 周りの客は引いているんだが。

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