第11話「戦闘開始」

 アンチスパイダーネアで武装したアンチートガンナーを携え、意を決して洞窟内へ走り出した。洞窟内に足音が反響してやけに耳に残る。そして、洞窟の奥から掛け声と共に現れた軍団に一瞬面食らう。


「なんじゃこりゃあ!?」


 もちろん大半はこん棒や革の鎧で武装したゴブリンやホブゴブリンで構成されている。それでもそれ以外の種族がいる事は理解していた。


 しかし、その軍勢の中には剣・槍・盾・防具で武装した年齢にばらつきのある人間の男女、耳が横に長い男女……もしかしてエルフだろうか? そして二足歩行の動物達、いわゆる獣人が混ざっていたのだ。さらに狼やら熊やらといった風貌のモンスター軍団までいるではないか。


「な、何ともカオスな連中だ……」


『各種族の詳細なデータを表示させます』


「なに!?」


 ▼エルフ

 主に森を居住区にしている亜人の種族。非常に美しい姿を持ち、誇り高く傲慢な者も多い。欲望より理性と知性が優先される。横に長く伸びた耳が特――


「待て待てキャンセルだキャンセル。視界が覆われて邪魔になりそうだ!」


『そうですか。では脳内に情報を流し込みます』


「ああそうしてくれ……」


 呆れた呟きが洞窟内に響く。変身してエコーボイスになっているせいで余計に反響して鬱陶しい。まさかここまでカオスな多種族混成部隊が攻めてくるとは思わず本気で引く。


「すごいですね……魔獣使いでもいるんでしょうか? あるいは召喚士かも」


「な、なに? 魔獣使い? 召喚士?」


「魔獣使いはその名の通り魔なる獣を使役する者です。そして召喚士は、契約を結んだりそうで無い者も、種族関係なく転移魔法で召喚してしまう者です」


「そ、そうか。よくわからんが大方は理解できた……」


 とにかく厄介な連中だということは確かだ。もしも手練れならば苦戦するだろう。それでも使命を果たさねばならない、しばし彼らとの戦闘に付き合うとしよう。


 だが、ここで事情を説明する手もあるだろうが、おそらく向こうは異世界チート転生者などと説明してもまったく理解もできないだろうから問答は無用。せめて重傷にならず殺さないようにすればいい。


 引き金を引き、迫りくる彼らに向けてネア仕様の光弾を発車する。銃口から放出されたエネルギー弾は白く輝いており戦闘のゴブリン達に直撃すると弾は弾けて大量の蜘蛛の糸が出現し数人のゴブリンを絡め取る。倒れ込んだゴブリン達によって後方の者達も彼らにぶつかってしまいそのまま糸の餌食になる。


 次の部隊は同じ手は食わないだろうが、彼等が前列部隊に気を取られた隙を突き追い打ちでネアバレット連続で撃つ。全員が粘着背のある糸にからめとられた。もがけばもがく程糸は身体に絡みつき、身動きが取れなくなった混成部隊に向かってアンチスパイダーネアのスパイクを食らわせ薙ぎ払う。

 蜘蛛の足を模した棘が皮膚を突く打撃の感触が伝わる。女性に暴力を振るうのは忍びないが、攻撃の意志があるなら容赦しない。そうしなければこちらが殺される。せめて顔とお腹は出来るだけ避けた。


 しかし、手加減したつもりだったが超人的パワーを制御しきれずヒューマン女戦士やエルフの女戦士らしき者達数名を壁に叩きつけてしまった。


「ああ、申し訳ない……だが許せ!」


 スパイクを混成軍団に浴びせ続ける。装備の平らな部分を弾く様にぶつけて意識を奪い、思い切り殴り飛ばし蹴りも顎に当てる。


 糸に絡めた奴らを突破すると何とエルフの少数弓部隊が応戦し、一斉に光る矢・稲妻を帯びた矢・毒々しい色の矢などを放たれ一瞬防御しようと思ったが、視界に映る矢の群れは何故か全てスローモーション。


『矢の効果解析完了。避けれます』


 ご丁寧に、各矢の効果が表示される。火傷効果・痺れ効果・毒効果など、当てればどれだけのダメージを負うのか懇切丁寧に。これもこの身体の機能。驚きつつ、これ幸いとアンチートガンナーで全て撃ち落とす。糸に捕らわれた矢が地面に落ちてエルフの少女達が怯んだ隙に彼女達も糸の餌食になってもらう。最後の1人を撃とうとすると必死な表情の彼女は何か言葉を叫び、掌から光のエネルギーが発射された。旋回しながら接近する白い光のように見えるがこれは……。


「光魔法です!!」


 ネアの呼びかけにより、間一髪チューンスパイダーの平らな部分白いエネルギーを防ぐ。衝撃が伝わり素簿から火花が飛び散る。


「なるほどな、今のが魔法か。思えば初めて本物の魔法というものをこの目で見た。できればもう少しじっくり拝見したかったがそれどころではないのでな!」


 さっきあの女性が叫んだ言葉は呪文だったのだろう。すると、青い視界に彼女のパラメーターらしきものが表示される。どうやら今の部隊の中で唯一攻撃魔法を習得しているらしいが……これだけでは要領を得ない。


「エルフは精霊魔法と白魔法と使った光属性と土、木属性魔法を使う事が出来ます! どうやらこの世界でもそれは同じ様です」


「あ、ああわかった!」


 ネアの解説の半分も理解しきれていないが感謝しつつ、同時に自信のある攻撃魔法を防がれた事に呆然としているエルフの女性を跳躍して飛び越え、彼女が振り向いた瞬間に光弾を食らわせ、糸が体に纏わりついた状態で吹き飛んだ彼女は壁に激突して張り付いた。興奮しているのか白い頬を赤く染めて罵倒と思われる言葉をこちらに浴びせ、声が洞窟内に響き渡る。


「許せ」


「あのアンチさん?」


 えらく不機嫌な口調でネアが呼ぶ。どうしたのだろうか? 今の攻撃に何か問題でもあっただろうか? 先程の彼女の思考言動パターンを考慮すると、まさか生温いと言いだすのではないだろうか? 先程岩を破壊するのに使ったJudgementジャッジメントを発動しろと言いだす可能性も無きにしも非ず。


「手緩いです。もっと私を使って毒針とか爆発ネットとか麻痺とか使ってほしいです」


「ほらきた……。なら元の姿に戻って暴れるか?」


「いいんですか?」


 先程の歓喜の叫びとか一際上の声を上げる。やっぱり闘争本能が流れ込んでるのか、大人しく清楚にみえて元々こういう子なのだろうか? 溜息交じりに彼女をアンチートガンナーから抜き取り。


「はいチクッとしますよ~」


TranceトランスFormationフォーメーション!》


「ひゃうぁ!?」


 放り投げた彼女を撃ち抜く。赤と紺の光に包まれた小さなシルエットが一瞬で大きくなりアラクネア態に戻った。彼女は両腕を胸の前に持ってきてしゃがみこみ、すぐさま起き上がって腕と人間の上半身を伸ばすと満面の笑み叫んだ。


「思いっきり暴れます、見ていてください!!」


 もしかしてこの子ヒューマノイド族が嫌いなのだろうか。元々モンスター系故、仕方が無いことかもしれないが、元人間として少しだけセンチメンタルな気持ちに浸ってしまう。


『この手の種族は基本ヒューマノイド種族は嫌う傾向にあります』


「でしょうねどう見ても!! ご丁寧にナビどうも!」

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