第7話「ハーレムの後片付け」
ネアの力を具現化させたアンチスパイダーネア装備を構え、集落の入り口に施されている結界に向けて思い切り振りかざして打撃を加える。硬い何かに接触したような感触が腕全体に感覚が伝わる。そして攻撃を二度三度と繰り返すと弾ける様な音が聞こえ、空間に揺れが生じたと思うと薄い硝子が割れた時の音が響いた。
『結界消滅を確認しました』
「成功だな」
「は、はい。やりましたねアンチさん」
「ありがとうネア。この鋭利なトゲトゲは攻撃力が高いようだな。さて、中に入るとしよう」
「はい」
結界は見事に破ることが出来た。
「この結界の仕組みは、意識からこの集落の存在を逸らす働きがあり、発見されるとこちらの世界の力で壊れるようになっていたようだ。逆に発見されなければ半永久的に隠れ家がばれることが無いわけか……よくわからんが大したものだな結界というのは」
「どうしたんですか?」
「ああいや、改めて魔法の凄さを実感していた」
ネアの強さが武装に反映されていることを考えると、あの男の魔法面での力は大したことは無かったという事になる。おそらくは肉弾戦以外は奪ったスキルに頼っていたのだろう。アンチェイサーを入り口に止めておいて集落に入る。変身態を解除してアンチートガンナーからネアを取り外す。右腕に装備されていた武装が消える。
「はいチクッとしますよ~」
そう言ってアンチートガンナーの銃口をアンチコアバレット態のネアに押し当て撃ち抜く。
《
「ひやあ!?」
小さな悲鳴を上げた後にネアの姿は元の姿、赤い体毛が生えた大きな蜘蛛に青肌人型の上半身が乗っかっているアラクニア族の姿へと戻った。彼女は何が起こったのかわからないような呆けた表情を浮かべ、両手と身体を見ながら白目の無い黒い円らな瞳をパチパチしている。ちょっとコミカルで可愛らしい動きだな。
「そうやって戻すんだ。もう窮屈じゃないだろう? ここには亜人や獣人がいるみたいだから大丈夫だろう」
「は、はい……あの、やっぱりちょっとくすぐったいというか、変な感じです。その銃みたいなのに嵌めたり撃たれたりするの……」
ネアが両人差し指をくっつけて小さく動かし、青肌の頬を赤く染めながらこちらを恥ずかしそうに見つめてくる。正直いたいけな少女の視線を向けられると心が痛む。そう言われても、これが仕様なので我慢してもらうか慣れてもらうしかない。
「すまんな。馴れるか我慢してくれ……」
「あ、えっと、そこまで嫌な感じというわけではないので、だ、大丈夫です! がんばって馴れます!」
頬を赤く染めたまま彼女は両拳をグッと握りしめて一瞬上下させるポーズを取る。白目の無い円らな瞳は固い決意を宿している。その愛らしい動作からは彼女の健気さが伝わってくる。蜘蛛だけども可愛い子だ。
彼女のおかげで無事に集落内に入れるようになったが、警戒しつつ周りを見渡すが、門番らしき者はいないので易々と侵入に成功。直ちにハーレム要員の女性達と接触を試みた。
「初めまして。自分達は怪しいものではありません」
当然警戒された。あちら側は武器を持って臨戦態勢、人間から亜人、半獣人と種類は豊富で年齢層もまばら。侵入を阻んでいた結界が破られて見知らぬ男と蜘蛛の少女が入り込んできたのだから当然警戒はするだろうな。
だが、あの男の知り合いであると嘘を付き、彼に頼まれてこの集落を警護する為に訪れたと適当に誤魔化しつつ、彼女達から情報を引き出す。
どうやら大分慕われてはいたようだが、彼女達がどういった経緯でこのハーレムに加わることになったのか、あの男の記憶から読み取っている。それらの情報を踏まえた上で彼女達と接触して気になる点がいくつもある。
まず、それぞれの生い立ちを聞いて回ったが、彼女達には男に免疫が無いのだろうかと疑問が浮かんだ。
「いや、この異世界に住む女性がそうなのだろうか……?」
思わずネアに視線を移す。そういえばこの子も命を救ったとはいえ、直ぐに慕ってくれたのだが、もう少し警戒心を持ってくれても良いとは思うが、それはこの子の性格によるものか。
「なんですか?」
「いやなんでもない」
「もしかして失礼なこと考えてます?」
「か、考えてないよ!?」
話を戻そう。いくら助けられたからといっても、ここまで一人の男に全員が妄信的に慕うだろうか?
男の煩悩を体現したというか、まるで自分の意志が無いようなと疑ってしまう。 よもや媚薬か誘惑魔法でも使ったのではと考えたが、奴のデータにそのような能力は無かった。ならば、あの男に助けられたことで彼女達の心は奴の虜になったということか。哀れなことだ。彼女達の容姿や能力ならいくらでもいい男がいるというのに。
あの男の発言と除いた記憶からわかったが、奴はハーレムを満喫しているだけであり彼女達を助けたことに関してはその場にいたからで何とも思っていなかったことが判明している。ここにいる彼女達はただのハーレム要因であり、奴は適度に彼女達にそれらしく優しくしたり言葉を掛けて奮い立たせていただけ。最初から下心ありで真心など存在しなかった。それをこの娘たちに伝えるのは酷だろう。弄ばれていたとしれば心に傷を負いかねない。
「あの下衆野郎が!!」
思わず思考回路が熱くなり地面を拳で叩きつけた。ほんの少しだけ地響きが鳴る。
「お、落ち着いてくださいアンチさん……」
「あ、ああすまん。つい思考回路が熱くなってしまった。冷却しなくては……」
そろそろこちらの正体が疑われるだろう。腰に収めたアンチートガンナーを再び取り出し、先程とは別のスイッチに指を掛けてモードチェンジする。敵を射抜く殺傷能力弾ではない、精神干渉を引き起こす攻撃だ。
これにより彼女達をあの異世界チート能力転生者から解放して自由の身とする。行く当てが無い者は、あの男の置き土産であるこの集落で暮らせばよい。記憶も弊害が無いように書き換えれば問題は無い。
彼女達の上空に目掛けてアンチートガンナーを構え、ゆっくりと引き金を引いた。
《
銃口から一筋の白い光弾が放たれ、頭上で弾けた淡白い光が彼女達を包み込む。暫しの時間が経過すると、彼女達は我に返ったかのようになる。周りを見渡し、一体自分達が何をしていたのかと疑問を口に出し、それぞれ話しかけ合っている。
「あの、アンチさん? 記憶を消したのはいいのですが、この後はどうするんですか?」
「この集落で暮らしてもらうしかないだろうな。幸いあの男が作り上げたこの場所は立派な村として成立できる。身寄りのない人たちもいるから。自然と身を寄せ合い暮らせるはずさ」
「でも女性ばかりですよ? 万が一、男の集団が襲ってきたら……」
「あの男が貯蔵していた道具や武器があるから武装できる。色んな亜人の人達もいるから戦力としては男共とやり合える。一致団結した女性の強さは計り知れないからね。きっと大丈夫だ」
「ああ、確かに……」
「さあ、俺達もここから去ろう」
ここから立ち去るという意思をネアに伝え、集落の入り口に止めてあるアンチェイサーに向かう。
「はいチクッとしますよ~」
《
「ひゃぅあ!?」
アンチートガンナーでネアを撃ち抜いて再び彼女をアンチバレットコア態化。一応警告はするのだが、彼女はまたも喘ぐような声を出すが心の中で謝罪しつつ彼女をホルスターに収め、アンチェイサーのシートに跨り、ハンドルを握りエンジンを吹かせてその場から走り去る。
遠ざかる集落を後ろ背に去来した思いは、只々強く生きて欲しいという事。
さあ、次の異世界へ出発だ。
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