第6話「移動用バイク、アンチェイサー登場」

『第一任務を完了を確認しました。インテリジェントデザイナーから移動用モービルのプレゼントが送られます』


「え? なに?」


 この場から移動しようとするとまた脳内にナビゲートの電子音声が聞こえ、いきなり目の前の空間が歪曲して孔が穿ち裂け目が出来た。一体何事かと身構えると、なんと裂け目の中からダークカラーの細長いフォルムと2つの丸い物体が前後に付いた物……そう、自動二輪車バイクが飛び出して来たのだ。


「バイクだとっ!?」


 最初は見間違いと思ったが、そのデザインはアンチートマンの姿と似通っており、この自動二輪車が自分専用に用意された物であることが理解できた。視界にデータが表示される。


 ▼次元移動自動二輪車アンチェイサー

 無機物と有機物が極限まで融合した半機械生命体。AIを搭載しており、アンチートマンの意志に従い駆けつける。二足歩行型のロボットに変形が可能で、サポートを行う。搭乗することで他の異世界に行き来が可能。その際は加速することで空間に裂け目を作り出し、そこから異世界へと渡る。


「まさか、こんなものまで用意されているとはな……半機械生命体? AIまで付いているって大層な代物だな……」


 異世界でこんなものに乗って大丈夫なのだろうかと疑問に思いながらも、移動が速いのにこしたことは無いので早速跨り、ハンドル部分を握って回しエンジンを吹かせ颯爽と走り出した。


 服越しに感じる風が何とも心地よく、周りの景色も視界から何度も消えては新しい景色が次から次へと移る。補強されていない草花が生えた砂利道を自動二輪車が走る絵面は何処か絵になる。まるで都会から田舎に来たような気分だ。


「盗んだバイクで走り出せ~鍵が無い~動かない~……って古いか、歌詞も微妙に違うし」


「それ何の歌ですか?」


「かつて俺の故郷にいた伝説のアウトロー、オオザキユッターカの歌さ。今の若い子にはわからないだろうな~」


「はあ、伝説のアウトローですか……」


 自分は今、アラクニア族の少女ネアを仲間に加え、共にあの異世界転生者が作り出したハーレムの後処理に向かっている。奴の魂に触れた際に必要な記憶データはこちらに流れ込んできた。

 場所もどれだけの人数がいるのかも把握している。ハーレム要因となっている女性達との出会いと過ごしてきた日々も読み取ることが出来た。これは仕事の判断材料にするための能力だろうか? あまり人の過去を覗いてしまうのは好ましくないが仕方がないと割り切ろう。


 奴が集めた少女達は人間や亜人入り乱れ年齢層もバラバラ。奴隷から解放しただの族やモンスターに襲われているところを助けただの何かしら彼女達を助ける形を取り仲間に加わったようだ。これから彼女達に事情を説明してハーレムから解放して解き放ってやらなければならない。


 腰のあたりで小さな揺れを感じる。アンチバレットコア化して腰の収めているネアだ。おそらく何処に向かっているのか不安なのだろう。


「あの、アンチさん。そのはーれむがあるという場所はわかっていらっしゃるのですか?」


「心配はいらない。奴の魂から居場所を読み取り特定できている」


「そ、そうなんですか? どのような魔法スキルなんですか?」


「ま、魔法スキル……? いやほらあれだ……仕事上そういうスキルを習得しているわけだ」


「へえ。それにしてもこの乗り物はすごいですね。人間が作ったものですか?」


「何と言えばいいか……我が創造主からの贈り物だな」


「か、神様ですか!? いろいろと凄いんですねアンチさんは」


 ネアの純粋な心に痛み入る。この自動二輪車の説明はまあ神の乗り物としか言いようがない。おそらくこの世界の技術ではこんな機械テクノロジーは開発不可能だからな。とはいっても、この乗り物は何やら奇妙な感覚だ。どうやら自分の意志があるようで、さっきから意思疎通を図るかのような信号を発しているらしく、脳内の信号と連動しているような奇妙な感覚がある。


 走行しているうちに目的の場所へと辿り着いた。あの男の住処だ。どうやら集落を作っていたようだな。建造スキルという能力でご丁寧に岩と木材で立派な居住区を建造している。


「ん? なんだこれは……見えない壁でもあるのか?」


『この世界の魔法系統である結界を確認。これは見えない壁を作り出し人の認識を阻害する魔法です。この世界の純粋な魔法技術であるためアンチート能力では破れません。無論、物理的攻撃も効きません』


「よ、よくわからないが、とにかく俺では突破できないということだな」


「さっきから誰と喋ってるんですか?」


「ああいやただの独り言……おっと、そのために君がいるんだったなネア」


 しかし、そこで彼女をアンチバレットコア化した意味を思い出す。自分の力で駄目ならこの世界の住人である彼女の力を借りるのだ。


「はい? 何ですかアンチさん?」


 彼女の質問に答えずアンチートガンナーをホルスターから取り出し、起動させて銃口に掌を押し当ててる。取りあえず変身だ。


AntiアンチUpアップ!』


 アンチートガンナーから流れるノイズ交じりの電子音声と共に紫色のエネルギー粒子が身体を包みこむ装甲が装着されていき別の物質に変わる感覚を味わいながら一瞬にして変身が完了。


『Hey・安置・因んだ治安維持・Yeah! 秩序・調和・アンチート!!』


「要領はさっきの必殺技と同じでいいか……」


 そしてさっきの質問に応えるべく腰のホルスターに治めているアンチバレットコア態のネアを指でつまむ。アンチートガンナー上部にセット。


「妙な気分だな、蜘蛛とはいえいたいけな少女を武器にセットするなど……」


『 Tune《チューン》。AntiSpider《アンチスパイダー》Nea《ネア》!』


 アンチートガンナーからノイズ混じりの電子音声が響く。ガンナーとネアが発光して銃口からコバルトカラーとレッドカラーの光が放出される。光の形が歪に変わったかと思うと、右掌から肘を覆う様にシルバーの下地でレッドとコバルト装甲の鋭利な蜘蛛の足装飾が施された武器が装備された。


「……ほお。触ると怪我しそうなデザインだ」


 思わず声が漏れる。棘付き手甲の様な物だろうか? アンチバレットコア化した者をガンナーに装填すれば、腕にコアの能力が反映した武装が装備される。引き金を引けば相応の弾丸が発射される機能らしい。


「わぁ~……すごいです! 私今アンチさんの右腕に装備されてます、装備されてますシャアアア!」


「ん? 意識はこっちにあるのか?」


「いや、えっと、ガンナーと右腕と武装が一体化しているような感覚なので……全部です」


「ややこしいな。まあいい、これならおそらく結界を壊せる。君の力が基なら問題ないはずだ」

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