第10話 俺達の戦いはこれからだ

 人好ひとよしは緊急入院した後、少年院送りになった。


 あの時、つかむが彼を崖に落とそうとするよりも早く、紅蓮クレンの撃った弾丸が人好ひとよしの頭部に直撃した。


 実弾ではなく、痺れ効果を持つパルス弾だ。


 つかむに殺人を犯させず、アバターである自分が代わりに汚れ役を買い、形だけでも報復するという、彼なりの優しさと配慮。


 少年院送りになったのは、佐伯達が連れて来たとある団体により処理された結果である。

 緊急入院の費用や少年院送致までの手続きもすべて団体が負担。両親への説明も彼らが行い、ファンギャラ事件の事も、人好ひとよしが行った悪行も全て打ち明けた。


 そう、今回の大事件により、ファンギャラ事件とアバターの存在は世間、世界に公表されることになったのだ。


 これにより、日本は世界から厳戒注意対象と見做されることになるが、そんな世界の眼から日本を守る目的で団体が呼ばれたと語られる。


 事件の事後処理に皆が奔走する中、つかむは団体の外国人男性局員と会合。詳しい経緯とこれからについてを話し合う。男性局員はスーツに身を包み、物腰の柔らかそうな、一見平凡に見えるが凛々しく優しい顔立ち。スーツに隠れてはいるが体格はかなり良さそうな印象。


「本当にこんなアリバイ・・・・で誤魔化せるんですかね?」


「問題無い。我々の力を信じろ。ところでコーヒー飲むかい?」


「ああどうも。……凄く濃厚で美味しいですね」


「だろう? 自慢のエスプレッソだ。これから向かう民衆の意見栽培に一時の英気を与えてくれる」


「は、はあ……」


 この外国人はやたらとコーヒーを勧めて来て、喋り方もコーヒー関連に例えることが多いので少し話にくいというのが、つかむが彼に感じた印象。


「それよりも、僕が歌姫であるティンカーベルを助け出したって話した方がロマンチックに」


「確かにロマンがあるがそのブレンドはお勧めできない。レシピメモ通りに読むんだ」


「あ、はい……コーヒー美味しいです。ありがとうございます。えっと……バ……」


「バックス。スター・バックス捜査官だ」


「ああ、はい。ありがとうございますバックス捜査官」


 つかむと記者会見の為の打ち合わせを終えた後、バックス捜査官は大空小鳥のもとへ向かい、修復治癒・・・・されたインタフェイサーを手渡す。小鳥は嬉しそうな笑みを浮かべて礼を述べる。


「本当にありがとうございますバックス捜査官」


「仕事だからね。御守みかみとは、レイチェル達を通じて我々とも良好なブレンド関係を築いている。Dウイルスの治療法については、とある・・・水使・・少年・・のおかげで我々の農場が知っている」


「そうだったのですね」


「そのインタフェイサーも問題無く使える筈だ」


「えっと、組織の名前は……せ、かんり……」


「諜報調査機関、通称アイラー」


 組織の略称・通称を伝えると、バックスは微笑みながら去っていく。

 小鳥は彼を見送った後、つかむの傍に寄る。


「本気なのか?」


「ええ。私も一緒に戦いたいです。ウイルスの名残でティンクのレベルと能力も上がりましたから……」


「確かに……」


「でもかなえさんを責めるのはいただけないですよ? 女性だから戦っちゃいけないというのは、貴方の変な固定概念です」


「御尤もです」


 のぞむかなえと再会した後、彼らと熱い口論を繰り広げた。とは言っても、主に言い争いになったのはかなえの方だった。かなえつかむと同じ時期、既にインタフェイサーを装着して戦っていたと明かした。それに対しつかむは、幼馴染みの女の子を戦わせるわけにはいかない、激しい戦いになるんだぞと必死にやめさせようとした。


 そんなつかむの主張に対しかなえは、自分は守られるだけの幼馴染みポジションではないと激怒。同じ幼馴染みなのに男であるのぞむは共に戦えて、女だからといって自分だけ駄目なのは道理に合わない、と強く主張。それでも反論しようとしたつかむはさらに激昂して大変な事態となった。


 結果的に、シーネットに変身したかなえとノワールがマルチフォーマーとゼロワンと戦い、どれだけ戦力になるのかを証明した事で決着が付いた。

 思い出すだけでもかなえ=ノワールの激しい形相は恐ろしかったとつかむは身震いする。のぞむからも、あまり彼女を嘗めない方が良いと苦笑いで言及された。


 そんなことがあってからか、小鳥とティンカーベルが共に戦いたいと言ってきた時は、つかむは素直に受け入れるしかなかった。


「これからは私も、インタフェイサーディーバとして共に戦うから、よろしくお願いしますねさん?」

「うん、こちらこそよろしく小鳥・・


 2人とも、微笑み合い、手を握り合った。完全に指と指を絡めた恋人握り。

 あの事件以来、少し歪んだ形ではあったがお互い想いが通じ合った結果である。



 ――俺達の戦いはまだ続く。黒幕の存在もある。俺達の戦いはこれからだ――













――――……――――……――――……――――……――――……――――……

 ――夢緒ゆめおつかむ達は帰って来る。トライブレンダーズで――

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