第5話 電装!ファイアレッドフォーム!

 人質救出の件も含めて本部にて作戦が練られる。


「あいつ、何の躊躇も無く人質ごと撃とうとするとは」


「それだけ腕に自信があるということだろうね。人質を取られても躊躇することなく状況を打破できる」


「そうだな……確かに強ければ何を盾にされようとも関係ないのかもしれぬ」


「そして、私達の創造主は彼の言葉が引っ掛かっているようだね」


 ナミヲとデュークは掴に視線を移す。掴は苦い表情を浮かべる。紅蓮クレンの言葉が頭から離れないからだ。


「アイツは……俺がギャラクシアを始めた頃の、荒んでいた頃をベースにしているんだろうな」


 幼き頃の記憶を辿る。ネットの闇を知りリアルでのいざこざも合わさり荒みきっていた時期であり、人間の悪意や理不尽に対し敏感に反応してギャラクシアでアバターを闇討ちしていた。


「ああ……微かに記憶の断片が蘇ってきた。ナミヲはどうだい?」


「私も同じだデューク。ふむ……確かにこれは幼き子供には痛烈な記憶だな掴」


「ああ。その頃の掴をベースに人格や思考を形成しているなら、アイツにとって他のアバターは敵だ。人質を取る理不尽かつ悪意のある行動は許せないんだ。だから憑依していたアバター達を次々と狙撃して葬ったんだろうな」


『だがインタフェイサーの力を介していない。だからアバター達はファンギャラに還元されず実態も維持できずに損壊した状態で放置されていたわけだ』


 被害者達が怪我を負っていたのも、紅蓮クレンが彼らごと攻撃したから。


 周りに考慮せずに攻撃を仕掛ける姿勢も昔の自分の行動だ。


 彼が放った言葉も、幼少期に起こった事件を解決する為に取った周りを試みない容赦無い行動に当てはまる。


 話しを聞いていた小鳥は当時の様子を想像できないらしく、率直に掴に疑問をぶつける。


「夢緒さん。そんなに荒んでいたんですか?」

「ああ……相当ね。自分でも異常だったと思う。いや、子供だったから余計になのかな……?」


 小鳥に対し、当時の事件を掻い摘んで明かす。友人が理不尽な目に遭ったことで、それに対する世間と法律の効かなさに幼心ながらも怒り狂い、多くの者達を巻き込んで世間的に破滅させたことを明かす。

 小鳥は多少眉をひそめつつも、ただ黙って掴の話を最後まで聞き続けた。


「後悔はない。多少の異常さは反省するけど間違ってるとは微塵も思っていない。結果的に人の命が失われずに済んだ。何かあってからでは遅いんだよ。

 そんな状態でプレイしていたからだな。紅蓮クレンは当時の容赦無い俺そのものを体現したんだよ」


 ナミヲとデュークはかつての記憶を辿る様に掴の話を遠目に聞いていた。スウェンも、時には非情な決断が必要なのだと形容しがたい感情を抱きつつあった。


 突如ミーミルの泉からアバター発見の警告音が鳴り響く。現地に向かう。


――――……――――……――――……――――……――――……――――……


 手負いのアバターとロボット軍勢はリーダー的立場のアバターメタライトと合流し回復していた。意識不明者達に憑りついていたアバター達の仲間であるギャラクシア出身。


「あいつらが来なければ侵略を進められたものを……特に紅蓮クレンめ、裏切者のアバターが……!」


「……お前達の様な外道を裏切った覚えはない……欠伸のでるような戯言は止せ……」


 だが、潜伏場所を発見した紅蓮クレンのビームの雨が襲う。軍勢の半分が熱線に貫かれて地に果てた。メタライトは紅蓮クレンを睨み付け、互いに冷たい視線を交す。


紅蓮クレン、貴様……どうやら本当に我々アバターの使命を忘れたようだな……裏切者が!」

「……次は仕留める……」


 言葉など意に介さず双銃の銃口を向ける。メタライトは民間人の人質を盾にするが紅蓮クレンは構わずに狙撃しようとした。


「待たれよ紅蓮クレン!」


 間一髪、放たれた弾丸をマルチフォーマーハルモニアフォームが投げた投的ナイフがビームに直撃して溶解四散した。


「……またお前達か……邪魔だ失せろ……」

「かつての半身にその言い草は無かろう。人質ごと攻撃するのは止せ!」


 紅蓮クレンとナミヲが睨み合う中、メタライトはギャラクシア世界は磁力により鉄を操る超能力を発動させて磁力を纏った瓦礫を投げつける。斬り捨てた後に近付き接近戦に持ち込んだ。


「こいつらは我々に任せろ! 全員、四散して四方八方から狙い撃て!」

「「了解!」」


 教達サポートチームは残りのメカ集団と対峙する。しかし、強化銃弾は効いてはいるが多勢に無勢。しかもメカ集団はビームを撃ってきた。本物のビーム兵器に対し、当たればその箇所が丸ごと焼け焦げるという発想が脳裏を過り、メンバーに多少の恐れが生まれる。


「怖気づいてんじゃねえよっと! 焼け焦がすもんはこっちにもあるんでな!」


 突如、水島が何処からともなく弓矢を取り出す。彼の翳した腕から燃える炎と共に現れたのだ。誰もが己の眼を疑い水島に驚愕の視線を向ける。


「燃えちまいなぁっ!」


 弦を引いて一閃。一筋の赤く燃える鮮やかな火矢が放たれ、メカの装甲に触れるなり炎に包んだ。水島は驚くメンバーに構うことなく連続で矢を射り何機も落とした。


「見てみろ! 大したことね! だから続け!」

「ちょっと水島待ちなさい! アンタその弓どっこから取り出したのよ!?」

「手品ですよ手品!」

「嘘つけぇ!?」


 水島なりの激にメンバーたちは奮起して強化銃弾の狙撃を続けた。だが、それが続くのも時間の問題であった。親玉であるメタライトを片付けなければならない。


「……どいつもこいつも欠伸が出る程甘ちゃんだな……どけ」

「なにっ!?」


 メタライトと交戦していたマルチフォーマーに光体となった紅蓮クレンが接近。掴の身体からナミヲを追い出して強引に憑依してしまった。


「あっぐっ……な、なにをする!?」


 ―く、紅蓮クレン!? お前なにを……!?―


「……こうすればいいんだったか……変身……!」


『電装! レッドファイアフォーム! 狙撃銃撃過激な双銃ファイア!! 』


 指を突き出した状態で両腕を交差させ、その後前面に構えて言葉を唱える。

 自動的にスウェンの電子音声が鳴り響き、インタフェイサーから赤い粒子が放出されて体を覆う。鮮血の様な粒子が晴れると、赤き装甲と強化皮膚を纏う狙撃形態レッドファイアフォームにフォームチェンジした。バイザー越しにレンズが光り、獲物を狙う。


紅蓮クレン! 貴様強引に憑依して何をする!? システムが対応できたから良かったものを。一歩間違えばエラーが起こっていたぞ!』


「……端末もよく見ていろ。真の救出とはこういうことだ……」


 紅蓮クレンは双銃をインタフェイサー中央に近付けた。その瞬間スキルフルバーストが発動してしまった。


 ―く、紅蓮クレン止せ!?―


 スウェンがシステムをダウンさせるようとしたが、掴が制止する間もなく二つの銃口から紅色の光球が放たれた。


「っな!? 正気か!? くそ……」


 本気で人質のことなどお構いなしに撃ってきたことに動揺したメタライトアは、人質を捨てて逃亡。紅蓮クレンは背を向けたメタライトにすかさず狙撃を行い、レーザーに肩を貫かれて動きが鈍ったところに光球が直撃して爆発四散した。


「……な、なんと強引な奴だ!?」

「ひゅう~クールだねぇ……」


 ナミヲと水島が思わず言葉を漏らす。


 結果的に人質は無事だった。


「……眠いな……」


 紅蓮クレンは欠伸をしながらインタフェイサーに手をかけて取り外す。

 赤い粒子が四散すると共に変身が解除されて元に戻る。


「く、紅蓮クレン、お前……」

「……だから言っただろう? 本当に強い者は何を盾にされようが構わず状況を打破できる……俺の記憶が正しければ。俺は過激で容赦の無いお前だ」


 紅蓮クレンは強引に掴の肩を掴み、静かにその冷たい瞳で睨み付ける。


「……記憶違いか? ずいぶんと甘くなったものだな。当時のお前なら人質が怪我をしても助ける筈だ……助けようとして手加減をすれば失敗する」


 掴もかつての自分を睨み返し頭を掴んだ。互いに険しい表情でガンを飛ばす。


「あれから多少、周りの人々のおかげで軟化したんだよ。それでも容赦尚なさは失ったわけじぇねえよ。適量の常識と情が備わったんだ。成長と言ってもらいたいね紅蓮?」


「ふっ……」


 紅蓮クレンは嘲笑うように微笑を浮かべると、掴の肩から乱暴に手を離す。


「……こんな軟弱な者ばかりではいずれ壊滅しかねない……俺も加わってやろう……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る