第3話 電装! 大剣デュエルフォーム!
ナミヲは走り出してデュークとの距離を縮める。ふらつきながらも掌から火の玉を放出するが跳躍して避け、そのまま降下してデュークに張り付くことに成功。
「捕えたぞ!」
『ウイルスバスター発射!』
スウェンの掛け声と共に小型中央ディスプレイから0と1、六角形模様の粒子を纏った光学模様の光線が放射される。零距離で放たれた攻撃を避けることが出来ず直に食らったデューク。そして直ぐに効果は表れた。彼の身体に纏わり付いていたウイルスは苦しむように蠢き、奇声のような鳴き声を発しながら分解消滅していく。やがて、赤い粒子も黒い泡もすべて取り除かれたデュークから狂気が消え失せる。それは無事にウイルスが除去できた証。
『エ、エ˝エ˝
しかし、"ERROR《エラー》"という不穏な単語がスウェンの電子音声で発せられ、ナミヲ達の絶叫と共に何かが弾け飛ぶような音が部屋中に響き渡り、衝撃波が発生して隊員達を襲う。怪我を負う程ではなかったものの、何が起きたか理解できずに全員戸惑う。
やがて粒子の渦が晴れて視界が鮮明になる。そこにいるのは、床に倒れて気絶しているN掴と機能停止したインタフェイサー。
そして、前屈み気味にデュークが突っ立ていた。逆上したデュークが再び攻撃を仕掛ける恐れがある。
「隊長……! せめて掴くん達をあの場から」
「ああ……だがあのアバターがどう動くか読めない限り手が出せん。気絶した掴くんに危害を加えられたら終わりだ……!」
下手に動くこともできず、歯がゆい思いを募らせ張り詰めた緊張感が漂う。
しかし、緊張の糸は不意に解かれる。デュークは徐に体を起こして背筋を立てる。顔に手を当てて頭部を左右に振り回し、外すと彼の瞳には正気と光が戻っていた。そして倒れたN掴を見下ろしサポート部隊に視線を移し数秒眺める。
「やあ諸君」
第一声は普通に発せられる。堅苦しいわけでもなく、気軽過ぎるわけでもない絶妙な声加減。教達は疑惑は晴れないもののどう反応したらいいか手探り状態であった。そんな彼らの反応にデュークは肩をすくめて微笑む。
「随分と苦労を掛けてしまったようだね。心より感謝申し上げる。我が非礼をお許し下され神の戦部隊よ」
襟元を正し、背筋を伸ばした状態でゆっくりとお辞儀をするデューク。突然の礼と詫びに隊員達は増々どう反応すればいいか混乱する。しかし、このままでは拉致が明かないので
「も、元に戻ったのか……?」
「さよう、
「な、何故俺の名を……?」
自分の名を呼ばれたことに、
「ああ、我が半身と主と記憶を共有した故、何と表現したらいいか、思い出したのですよ。貴方のことも。もちろん水島殿達も」
「そ、そうか……それはなによりだ……」
「ええ。ところで……」
次の瞬間、
「いやしかし、麗しの佐伯殿。貴方の戦いぶりは正に戦場に舞い降りた戦姫だ」
「……へっ!?」
甘い言葉を囁いた後、さらにデュークは顔を近づけて腰に手を回し口説き始める。
「貴方の一撃も、私の御身にしかと刻まれた。男に混じり勇敢に私を助け出そうとする御姿、なんと素晴らしきことか、我が半身と神と共にその身を犠牲にしようとしてくれた。ああ感謝致しまするぞ?」
「ええ……ちょ、ちょっと待て、ちょっと待ってアナタ何を……!?」
佐伯はみるみる顔を赤く染めて狼狽し始める。隊員達はデュークの行動が理解できずに口を開けたまま呆然と見つめたまま。水島と黒田はデュークの特徴をある程度理解していた。
「しかし、こうして禍々しき邪を浄化された。これからは手を取り合い、共に戦おうではありませんか佐伯殿?」
「顔が近いってば!?」
すると、ナミヲが意識を取り戻し、佐伯を口説いているデュークにふらつきながらも近付きその肩を掴む。デュークは爽やかに対応しようとするが、ナミヲの表情は明らかに不機嫌。そして無理矢理デュークを自分に振り向かせると胸倉を掴みあげた。
「おい貴様……!なに平然とした面で佐伯を口説いているんだ!?」
「やあ我が半身にして残り粕先輩? いや後輩だな出来た順番的に考えれば」
「人をおちょくっているのか!? 何故貴様は私と融合していないんだ!?」
「私のくせにさっきからその余裕ぶった態度が非常に腹が立つ!」
「それを言えば君こそ私のくせに少々熱く成り過ぎじゃないかね? 癇に障るよ」
「待てってお前ら! 落ち着けよ元は俺なんだからさ!」
一触即発と思われたが、目を覚ました掴が2人の肩を掴んでなんとか強引に引き離す。
「ったくまさか爆発するなんて……もう死ぬかと思った。まあでもこうして助けたわけだし……」
掴は肩をすくめてデュークを手で指し示す。スウェンは"ばつの悪そうな表情"を表現した顔文字をディスプレイに表示する。どうやら彼にもどうして失敗したのか理解できないらしい。だがデュークを正常に戻せたのは確か。掴はデュークに向き直り、緊張したような様子で眺めつつ口を開く。
「その、なんだろ……まあ、まさかこんな形でお前と話せるとは思わなかったよデューク」
「私もだ神よ」
「いや掴でいいよ、なんか大袈裟だし。お前が正常に戻って良かったよ。で、今までなにがあったのか話せる?」
「話したいのは山々なんだが、あれは倒さなくていいのかい?」
「「あれ?」」
掴達はデュークが指差した背後に視線を移す。
そこにいたのは、先程までデュークが得物として使用していた大剣。誰も握っていないはずなのに宙に浮きあがり、至る所から赤い粒子に包まれた黒い泡が噴き出ていた。つばに該当する中央部分には巨大な目玉が覗いており、まるで意志を持ち生きているかのように血走った瞳をせわしなく動かしている。刀身や柄頭まで血管染みたふくらみが伸びており、その様子はまるで禍々しい邪気を発する邪剣の如き様相であった。思わず全員息を飲んで後ずさる。
「あの大剣ってさっきまでお前が使ってた武器だったよな!?」
「ああ……魔剣マクスウェルだったんだがね」
「はぁ!? あれがマクスウェル!? あんな形じゃなかったよね!?」
「おそらく、私がウイルスに感染した時に同じく感染して姿形すら変えてしまったのだろうな。妖しき妖気を発する邪剣の如き姿。あれもあれで美しいが……」
「この武器コレクターが!!」
「「お前がそれを言う?」」
"元はお前の
『そうかようやく理解した。感染源は大剣マクスウェルだったのか。先程エラーを起こしたのは感染源であるマクスウェルに邪魔されたからだ』
「そういうことか。ならばあの大剣のウイルスを除去せねばな」
「待ちたまえ後輩。自分の武器の始末ぐらい自分でつけさせたまえよ」
デュークはナミヲを制すると、ゆっくりと掴に向き合い、暫し眺める。
「なに、デューク?」
「ふむ。確か、こういう風にやるのだったかな?」
次の瞬間、デュークの身体が光り輝き青色の発光体へと変化。そのまま掴の脳内に入り込み憑依した。掴の瞳は青色に変色し、同色のメッシュが頭髪に入る。髪型はやや前髪が垂れたうねりのあるオールバックに変化し、目元にはペンタグルが掛けられた。デュークが憑依した状態、D掴へと外見が変化したのだ。
――おいデューク!? お前いきな――
「そしてこうだったか」
掴の呼び掛けを無視し、身体に装着されていたインタフェイサーに手を伸ばし、青色のスイッチへと指を伸ばし押し込む。
『
スウェンの歌が部屋中に響き、デュークは両腕を前に突き出した後に指一本一本を静かに折りたたみ、口を開いた。
「変身」
『電装・デュエルフォーム!』
インタフェイサーから膨大な量のFG粒子が放出。六角形・0・1の形に変化しながらD掴の身体を包み込み、青色の燕尾服にも似た生体装甲に覆われた新たな変身が完了。魔法道具を表わした生体装甲が四肢の末端に追加されている。電装態10号マルチフォーマーの新たな姿である。
「決闘・大健闘・大剣から魔法!」
スウェンの変身口上が終わると、デューク変貌した身体の感触を確かめるように眺め、手足を動かす。
「これはこれは。実に面白い機能だね。変身する時に生じる身体の不快感はいただけないがね」
――お、おいデューク? いきなり大丈夫なのか?――
「安心したまえ。闘技場チャンピオンの実力を見せて進ぜよう。ああ、これが良さそうだ」
床に転がっていた観賞用の大木が植えられた植木鉢を掴みあげる。大きな植木鉢はモーフィング機能により分子構造を組み変えられ、一瞬で巨大な刀身を持つ大剣へと姿を変えた。
――そんな無茶な……――
「コレクションと対決するのはいささか忍びないが、致し方ないことだよ。さて、我がコレクションよ……」
デュークは徐に魔剣マクスウェルに視線を向ける。互いの瞳が重なり合った瞬間、デュークの冷たい視線がマクスウェルの瞳を射抜く。
「ウイルスごと置いて下がりたまえ」
マクスウェルから赤黒い触手が放たれる。即座に10号の足元に青色の魔法陣が展開され、クイックダッシュにより攻撃を避ける。そしてかつての愛器を翻弄する様に動き回り、鋭利な触手の攻撃を避けつつ、大剣を掲げて魔法攻撃を発動し続ける。雷撃・火炎・氷塊と連続で叩き込んだ後、大剣をインタフェイサー中央ディスプレイに近づける。
『
「そこに留まっていたまえ、リフレクトバインド!」
大剣をマクスウェルに向かい放り投げた。触手で捉えようとするが、勢い良く回転しながら放たれた大剣は巨体と遠心力を利用して次々と触手を切断。マクスウェルに到達した瞬間吸い込まれ、マクスウェルの刀身が青色の透明なシールドに捕らわれ身動きが取れなくなる。拘束状態となったその刀身にひびが入り始める。
「ウェブライダーキック!」
クイックダッシュで一気に距離を縮めた10号はマクスウェル目掛けて魔法陣が展開した足で強烈な蹴り技を叩き込む。拘束魔法との相乗効果によりダメージを蓄積した魔剣マクスウェルは大爆発。インタフェイサーにセットしておいたウイルスバスターのプログラムが必殺技にも流れ込んでいたおかげでウイルスも木っ端みじんに吹き飛び消滅した。
「おや、どうやらマクスウェルは無事だったようだね」
爆発の煙が晴れると同時に魔剣マクスウェルはくるくると回転しながら落下。デュークは床に刺さったマクスウェルを引き抜く。その姿は元の優美な大剣へと戻っていた。
「私達が作ったものだからね。武器でも物でも大事にしないと」
――なんだ? もしかしてお前俺に気を遣ってくれたのか? 確かにマクスウェル作ったけどさ――
「さて、どうかな。もしくは自分のコレクションを壊したくなかっただけかもしれない。まあ好きに捉えたまえ。さて、先程の話し損ねた話をしよう」
インタフェイサーを外して変身を解除。憑依状態から抜けて元の掴へと戻る。
「記憶が所々抜けていて不鮮明だ。かつて自分が賢者スコーピオンを形容する一部であり仮の姿の一つであったことは認識できている」
「やっぱりナミヲと同じか」
『おそらくお前は実態化の際にしょうじた不具合によりスコーピオンからナミヲ同様分かれ、電脳空間辺りに漂っていたのではないか?』
「ああ、その通りだ……微かに覚えている。私は光が走る闇の空間に漂い、その存在を辛うじて留めていた。いつ朽ち果ててもおかしくはなかった」
瞼を開き、思い出すのも忌々しいような様相を浮かべる。
「そこにあの禍々しく忌々しい邪が入り込んだのだ。私の残された意識は奴に侵食され穢されたよ。闘争本能と殺意が私を支配して、指令にも似たものが流れ込んできた」
「指令ですって!?」
指令という単語に佐伯がいち早く反応してデュークに詰め寄る。
「じゃあ貴方がこの場所を襲ったのは、ウイルスが命じた指令に従わされたからなの?」
「ええ。頭の中に何処に何があるのか様々な情報が強引に流れ込んだ。半ば乗っ取られた傀儡状態。それでいて、自分の意識は辛うじて残されているのだ。耐えがたい苦痛を味わされた……!」
険しい表情を浮かべたデュークは震えた拳を壁を叩きつけた。掴は彼の心情を汲み取る。そんな風に
彼の心情を察しつつ、独立して実態化を果たした彼の真意を確かめるため、ナミヲはデュークに言葉を掛ける。
「その、さっきの無礼を詫びる。無理矢理融合されそうになったから興奮していてな……だが一つ確かめておかなければいけない」
「如何なることだ?」
「貴様はこの世界の真実を知っているか?」
「ああ……先程のカラクリ殿の現象により、情報と記憶を共有したから知っている」
ナミヲの問いにデュークは苦々しい表情で答えた。身振り手振りを交えてこの場にいる人々に言い聞かせるように語り出した。
「実に滑稽なことだと思わないかね? かつて世界を導く賢者スコーピオンであった我々が、何者かと共にアバターを導いた。だが不具合を起こして分裂し、本来の記憶も失いこの様。そして降り立ちしこの神の世界は我々が抱いていた世界とは程遠い」
「ああ、取る足らない世界だ」
「力無きただの人間ばかり」
「魔法も使えない。剣も槍も握れない。種族的アドバンテージも無い」
「お前ら馬鹿にしてんのか?」
余りの言われように耐えかねた水島が苛々気味で思わずツッコミを入れる。しかし本当のことなので
「だからこそ、我々アバターは何者かによって動かされていた。騙されていた可能性があるだろ」
「なに?」
「既に他のアバターがお前と同じように侵略者としてこの世界に送り出されている。皆この世界が自分達の世界を侵略すると思ってる奴ばかりだ。まともに話しすら聞いてくれない」
「らしいな。トライン達もかつての人格とはまるで違う。蜘蛛の女子もだ。明らかに不自然だ。まるで何者かに命令されるがまま……」
途中で言葉が途切れ、デュークは確信めいたようにナミヲと目を合わせた。
「「ウイルスだ!」」
『気が付いたか。これまでに襲い掛かってきたアバター全員にウイルスと同じ成分が検出された。そしてあの赤い粒子はトライン達が発していたFG粒子と似たものだ。おそらくアバターの人格が本来とは異なり攻撃的で倫理性を欠き狂暴化しているのもウイルスのせいだ』
スウェンの報告に隊員達がざわめく。掴はインタフェイサーを握りしめて問いかけた。
「それは本当かスウェン?」
「ああ。このウイルス。元々はコンピューターウイルスだったものがファンギャラの実態化現象に巻き込まれて実態を得た存在。だが今回の件で意図的に感染させられている可能性が出て来た」
「じゃあ意識不明者の人達に取り付いたアバター達も感染しているのか……。じゃあこれから実態化してくるアバターも、モンスターすらも感染してるのか!?」
『可能性はある。そしてそれを支持しているのはかつてスコーピオンと共にアバターの自我を芽生えさせた者だろう』
「決闘者」
ナミヲはデュークに対し、二つ名めいた名で呼びかける。
「真実は元スコーピオンだった私達にある。そのためには残りの
ぎこちなく差し出された、協力を求める手。デュークは数秒見つめた後にゆっくりと歩み寄り、その手を握り返す。
「中級者の後輩だけでは心もとない。ファンタジアとギャラクシア、双方の中立者立場である闘技場チャンピオンとして、この戦いは見過ごすわけにはいかん」
デュークは静かに笑みを湛えてナミヲに応えた。
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