第11話 指し示す光明

「そんな……インタフェイサーが既に3機も失われていたとしたら……」


「最初から貴重な戦力を削がれてるなんてよ……」


『実際に破壊されたところを目視したわけではない。だが識別センサーの反応が無いのは機体が壊された証拠。残りのインタフェイサーは7機。計画に支障はあるがまだ意気消沈する程ではない。それよりも今は三兄妹を救出する方法を立案せねばなるまい』


 ――でも方法が無いって言ったじゃないか――


『今は手段が無いだけで全くないわけではない。ナミヲの残りのデータを回収してスコーピオンに戻せばまだ可能性はある』


 スウェンの言葉に、この場にいる全員が一斉に彼に視線を向ける。しかし、記憶の大半を失ったナミヲは実感が持てず、スウェンに訝しげな新線を送り、掴もそのような力がスコーピオンにあったかどうか疑問を持つ。


『私が搭載されているこのインタフェイサー10号機にはアバターを破壊分散してデータとして吸収破壊する一撃必殺のシステム"キルドレイン"が備わっている。

 電子のみに反応するから有機体である人間には無害だ。だがこのシステムは完全なスコーピオンの状態でなければ作動する事は出来ない。使い方を間違えれば電子機器のデータを全損させる危険性があるからな』


 ――そ、それは恐ろしいな……。でも、ナミヲが元に戻ればそのキルドレインって技でマコピー達を助けれるんだな?――


『ああ。デューク・紅蓮クレン・スコーピオンのデータを取り戻しナミヲに戻さねばならない』


 絶望しかけた状況に光明が指し示す。少しだけ希望が見えたことで、メンバーの表情にも明るさが灯る。


「それで。はどうするのだ? 方法がわかっても今の私はスコーピオンではない」


 全員凍り付く。そう、助ける方法がわかっても今実行できなければ意味が無い。失われたナミヲのデータ、デューク、紅蓮(クレン)、スコーピオンを手に入れなければ彼はスコーピオンには戻れずキルドレインも作動できない。そして、今も何処かでトラインブラザーズが自分達を狙っている状況下でデータを探しに行くなど到底不可能。


「何をこそこそ相談している?」


 突如建物全体に響く声に場が一気に戦慄と緊張感に包まれる。トライン達に追いつかれたのだ。サポート部隊も含め皆JT正義達に向かい一斉に強化銃を構える。

 咄嗟に佐伯が手で制して"撃つな"と意図を示す。相手は正義(せいぎ)達を人質に取っているのだ。下手に攻撃してしまえば傷付くのは彼らの肉体だ。


「お~お~雑魚神様共が雁首揃えて銃なんか向けちゃってまあ」


「あれ~? さっき瓦礫に埋めたお姉さんたち生きてたのかぁ、残念」


 SS誠とLV愛の煽りに対しサポート部隊数名が怒りを露わにするが、水島が落ち着けと宥めた。そんな彼の手には最新武装を揃えているメンバーとは異なる趣向の武器"弓矢"を構えている。ナミヲの視点を借りて目視した掴はその原始的な武器に思わず二度見する。まるで燃える炎を表わしたような明るい色合いの弓。先程まで持っていなかった筈なのに一体何処から取り出したのか。


「大人しくやられる覚悟は出来たか、元スコーピオン殿?」


 JT正義が殺意を込めた銃口を向ける。数では掴達が圧倒的に有利。だが"未知の技術と力を持つ電子人類"と、"強化された程度の武器を持つ人間"では例え数の面で勝っているとしても勝率は疑わしい。


 ――まずいよこの状況。俺達はともかく、魔法攻撃と熱線を連射されて大剣で斬りかかられたら血の雨が降るよ――


「先程の戦法は使えないな」


「んまぁお前らみてろよっと……」


 言い終えると同時に水島が弓を引いた。放たれた矢は壁に直撃。気付いたトライン達がそちらに気を取られた隙にもう片方の壁に矢が放たれる。その瞬間、両方の矢から電流が流れて一つに繋がり、やがて彼らを覆う電流の壁と化した。


「おっと、お前らその電流にさわんじゃねえぞ。その身体を壊されたくなかったらな」


 ――し、仕掛け矢!? 水島さんそんな器用な……――


「ほお、仕掛け矢か。考えたな」


 ナミヲを通じた掴の視線に気付いた水島が、答えるように"すげえだろ?"とでも言いたげに軽くウインクをする。


「知ってんぞ。お前らこっちの世界じゃまだ上手く実態化出来ねえだろ? 人質に取ったそいつらを失えばこの世界に留まれなくなるよな? 下手な真似はしない事だ」


 まさかの伏兵がいた。人質を危険に晒しているように見せてさり気なくああbター達の弱点を突いて脅している。水島ダビットは中々に食えない人だとナミヲ達は感心を覚える。


「ふむ……これでは確かに手が出せんな」


 電流の壁に阻まれたJT正義はあくまで冷静な姿勢を崩さない。ハンドガンから熱線を発射しようと構えるが、爆発炎上の危険性を考え直ぐに止める。


「くそ、どうすんだよ兄貴?」


「これじゃ入れ物も壊れちゃうよ?」


 余裕な姿勢を崩さない弟妹の催促に、JT正義は何かに気付いたように左手を眺めて眉を顰める。


「時間切れだな、体力が持たない。一時撤退するぞ、ラブ!」


「あちゃ~了解!」


 JT正義の指示に従い、LV愛は大杖を上に掲げる。


「粒子散布開始! ジャミングフィールド展開!」


 次の瞬間、視界が大量の発光する赤い粒子の様な物に覆われた。煙たくは無く、皆途惑い粒子を振り払おうと手をばたつかせる。やがて数秒が経過して粒子が晴れるとトライン達の姿は何処にも見当たらず、逃げられた事を意味した。

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