第5話 語られる経緯
それから数分後、突如3人の客人が訪れる。
佐伯レイコ、水島ダビット、黒田ジョージの3名だ。
「突然押しかけてごめんなさいね掴くん」
「いえ、大丈夫ですよ。でも……3人ともなんで俺の部屋に?」
てっきり室長である育継に朝から呼び出されて出向いたのだと思って出迎えたが、用件は自分にあると言われて掴は3人を自室に案内。一応大人3名、高校生1人でも窮屈になることはない広さはある。しかし妙に狭苦しく感じてしまうのは、高身長でガタイの良い黒田のせい。
「そりゃあもちろん、内緒の話だからだよっと。なあジョージ?」
「……ああ……」
「ええと、内緒の話って……もしかして……」
水島の言葉に、掴は視線をゆっくりとインタフェイサーことスウェンに向け、こいつの事で尋ねて来たのかと無言の催促を促すと、3人とも頭を下げて頷き正解だと意思表示。掴は改めてインタフェイサーを手に取りディスプレイに触れる。黒い画面に目が覚めた事を表現する顔文字が表示された。
「あの時、佐伯さんがコイツを渡してくれましたけど……ここに水島さんと黒田さんもいるって事は3人とも事情を知っていて関係者という解釈でいいんですよね?」
「「正解」」
水島と黒田が声を合わせて返事を返す。
「そう、私も水島も黒田も関係者だから、安心してスウェンと一緒に話をしていいわ」
『レイコ。よくもあの時精密機械である私を投げつけてくれたな。壊れたらどうするつもりだ』
「あら。貴方はそんな事で壊れてしまう程ヤワな作りではないでしょう? だって、御守さんとAI烏丸が共同で作りだした世紀の大発明だもの」
『称賛の言葉はありがたい。確かに私はあれしきの事では機能を損なわない。だがそれとこれとは話が』
「それよりも、早く掴くんに話してあげましょう」
『む。そうだったな』
さり気なく褒めて話を軌道修正した。上手いあしらい方だと、掴は素直に心の中で称賛する。
『掴。手っ取り早く君に事情を理解してもらう為に御守の用意したホログラム映像を見てもらう。いいな?』
「え? お、おう……」
御守の名が出たことに内心驚く掴。結局、彼は昨日の祝賀会に訪れる事は無く会場は襲撃者により破壊されてしまった。望達とも会っていない。何か関係があるのだろうかと考える。
スウェンの表情が表示されているディスプレイが青白く発光すると、画面から映像が飛びだして宙に映し出される。御守の姿が立体となって映し出されており、言われなければホログラムだとは気付かない本物の様な精巧さ。ホログラム映像の御守が厳かな趣で口を開いた。
『俺様の名は
開口一番、粗暴な口調で始まった。相変わらずいつも通りなのだなと苦笑いを浮かべた。
御守のホログラムが最初に語ったのは、ファンタジアギャラクシアが既に自分たち開発陣の意図から外れ独立して動いている事。さらに、アバターがプレーヤーの記憶や思考と人格を基に独自の自我に目覚め、現実世界に
にわかには信じられず荒唐無稽な話に聞こえる。だが、実際にアバターをその身に宿し、その力を借りてバグモンスターと戦った掴にとっては現実の出来事である。
ホログラムの語りは続き、ファンギャラの自立性が発生しアバターが自我を持った原因は特別なAI、もしくはバグかコンピューターウイルスの仕業だと推測しているらしい。流石に実態化のプロセスまでは解明できていないらしい。
そして、アバターの性格や特徴はプレーヤーの
ナミヲが言っていた通りであるが、人によっては自分の演じた恥ずかしい黒歴史を暴露されてしまう事になることになる。
しかし、ナミヲの人格や行動は明らかに掴が
ここからが重要な話だと念を押され話が続き、どうやらアバター達はまだ完全に現実世界に実態化は出来ないらしい。なので、大勢で一気に現実世界へと侵攻することは出来ない。少なくとも今すぐ全滅する可能性は無いので一安心。
だが安心したところで御守はあっさりとこちらが勝てる可能性を否定。
その理由は、
空想の超兵器と現実の現代兵器ならどちらの勝算が高いのかは歴然。
そこで、アバターを倒す事の出来るたった一つの手段として御守が開発したのがインタフェイサー。
ファンギャラの未知の技術を利用して作り上げたと語られ、どうやって技術を手に入れたのか新たな疑問が沸くがあの色々無茶苦茶な人ならやってのけそうだと納得してしまう掴。
実際に自分がその身で体感したことで理解したが、インタフェイサーはとんでもない能力を持った超兵器。原理は全く理解できないが、アバターの力を使い身体の細胞を変異させて戦う事が出来る。ちなみに変な歌や音楽が流れるのは、完全に御守の趣味だという事が明かされた。
しかし、インタフェイサーは合計で10しか開発出来なかったことも説明。
世界を救うにはあまりにも少なすぎるが、肉体を変異させる超兵器レベルの代物を短期間で大量に生産するなど到底無理な話。時間も材料も圧倒的に足りない。
インタフェイサーをじっくり眺める。一見普通の材質で作っているように見えるが、ファンギャラの未知の素材を使い開発していると思われた。OSや基本プログラムだけでも相当難解なものが組み込まれている筈。むしろ10個作れただけでも大快挙と言える。
ホログラムの御守の説明が活況に入り、最後の語りが再生される。
『インタフェイサーはアバターと戦う為のアイテムであるが、同時にアバターと共存し共に戦える事を目的に創られている。なんで侵略者と共存しなけりゃいけないんだって噛み付く奴らもいるだろうさ。真っ当な反応だ。だがな、俺はこのファーストコンタクトをこれ以上悲劇的な事態に持ち込むつもりはねえ。明らかにアバター達を先導する黒幕がいやがる。黒幕の野郎はアバター達に自我を芽生えさせると同時に洗脳してやがるんだ。洗脳を受けない個体も大勢いるし、争いを望まないアバターだっている可能性が出てきた。
だから、これから実態化してくるアバターをむやみに倒そうとすんじゃねえぞ。インタフェイサーで倒したアバターは俺様が開発した新世界に送られるように設計してある。だが倒す必要のない奴らは、できれば手を取り合い共に戦ってほしい。アバターは、俺達が色んな思いを込めて作りだしたファンギャラの中にいる住人達だ。こいつらとの接触をこのまま悲劇的に終わらせたくねえんだ』
画面の向こうで決意を宿した表情で語る御守。そして彼が提示する共存の可能性と黒幕の存在。
その黒幕によりアバター達が洗脳されて動かされ、自分達人間が彼らを消し去ると思い込んいるのならば、その誤解と洗脳を解いてやらねばならない。ファンギャラの魔法やアイテムをスコーピオンによって作りだした掴にとっても、ファンギャラに対する強い想いは人一倍ある。医療リハビリと密接したファンギャラによって多くの人が救われているのだ。だからこそ世界の住人であるアバターを、戦わされる存在にしてはならないという思いがこみ上げ、インタフェイサーを強く握りしめる。
『このインタフェイサーは望や掴達に渡す。何故ならファンギャラを開発した重要人物である俺の家族やダチの家族。つまりは身内が狙われやすいからな。これは俺達のガキ共を守るアイテムでもある。同時に望達ならアバターと共存できるって信じてる。
いいかガキ共。俺はお前らに託す。アバターと人類の未来をな。そしてNE社社員一同とシティガーディアンズの面々も、ガキ共をサポートしてやってくれ……』
ホログラム映像の再生が終わり、宙に浮かんでいた立体映像が消え失せスウェンも普通の状態に戻る。
名指しで自分の名を呼ばれ、このインタフェイサーが渡された経緯も理解できた。望も既にインタフェイサーを渡されていることになる。
「掴くん、御守さんの信念と思い……伝わった?」
「……はい」
実にぶっきらぼうで言葉の使い方は荒いが、それでも御守の想いは充分に伝わった。
「流石に怖くなっちまったかガキンチョ?」
「そうですね。正直怖くないかと言われたら嘘になります……」
「……それが普通だ。お前はまだ高校生の子供だ……」
「そ、そりゃ確かに。俺は正規の自衛隊でもなければ警察官でもない。皆さんみたいに腕の立つ警備員でもない、戦闘の関してはど素人です。初めて戦った時だって、スウェンとナミヲの力が無ければ大空さんを守り抜けなかった……」
インタフェイサーを握りしめ表情を引き締める。大きな重圧がのしかかるが、人類とアバターの未来は自分達の手に掛かっている。
「それでも、やらなきゃいけない事はわかった。だから俺、やります!」
少年の真っすぐとした曇りの無い決意の表情に、佐伯達は安堵の息を吐き、頼もしい顔に笑顔が零れた。
「その言葉を待ってたわ。私達も実働サポート部隊として動くから安心してちょうだい」
「さ、佐伯さん達も?」
「そういうことだ。バックにはNE社がいるから安心しろよっと。なあジョージ!」
「ああ……よろしく頼む……」
「は、はい! 佐伯さん、水島さん、黒田さん。これからよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いするわ。戦闘に関しては。暇な時を見つけて私達シティガーディアンズがこれからビシビシ指導してあげるから大丈夫」
佐伯の言葉に掴の表情が一瞬で曇る。
「鍛える、ですか……?」
「だってお前ってば戦闘に関しちゃど素人だろうが。訓練はしないと駄目だろうが。なあジョージ?」
「……当然だ……」
少しだけ怖気づき意気消沈する掴の様子を、インタフェイサーの中からナミヲとスウェンが静かに見守っていた。自分達も当然付き合う事になるのを考えながら……。
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