第6話 家でのひと騒動

「派遣先を失った私達に何処へ行けと言うのかしら?」


「出勤場所がおじゃんになったよっと」


「……上の指示があるまで待機だ……」


「すみません。配慮が足りませんでした!」


 そう。3人とも警備員として派遣されている身。派遣先が跡形も無く消滅してしまえば、派遣元であるシティガーディアンズからの連絡を待つしかないのだ。


「あれ? じゃあ父さんが行く必要も無いんじゃ……」


 本社が破壊されてしまったので、育継もわざわざ現場に行く必要はない筈である。幸い日本支部は無事なのでそこから業務連絡を受けるかもしれないが。


「室長は破壊された現場から敵の痕跡が無いか調べに行ったのよ」


「え? 敵の痕跡……?」


 佐伯からそっと耳打ちで知らされる。そして育継が敵の襲撃に対し、ある程度予測していたような発言をしていたことを思い出す。掴も声を潜めて佐伯に尋ねる。


「父さんも関係者なんですね?」


「御守さんの親友ですもの。当然ね。じゃないと君を選んだりしないわ」


「ああ確かに……」


 お互いを小さい頃から知り尽くしている御守と育継。事情を知っていても何ら疑問は無い。むしろ一番最初にアバター関連の事を明かしたのではないだろうか。


「……あ、学校行かないと」


「いややってないだろう!? 自宅待機だろう普通」


 律儀に学校行くという掴。そんな彼に対し水島はツッコミを入れる。


「水島くんの言う通りよ掴。学校からも休みだって連絡があったわよ」


「私も大学休みになった。こんな状況で通常通りだったら日本は終わってる」


「あはは……そ、そうですね姉さん……」


 確かに、あんな襲撃事件があったのだから通常営業などしていられない。安全を確保し防衛のために自宅待機が懸命だ。無意識にいつも通りの日常を始めようとしていたらしく、そんな自分の滑稽さに掴は苦笑いを浮かべる。


 ――そういえば、望と叶とあれから会ってない……2人とも大丈夫か……?――


 2人のことが心配になる。おそらく願家も自宅待機している。家族水入らずで寄り添っているだろうから余計なことはしないでおこうと考える。

 だが、御門家とはまだ顔を会せていない。雛型によれば、既にアリアと踏子から無事だと連絡を貰ったが御守と望に関しては言及が無かったらしい。望に関しては同じ使命を託された者として協力しなければならない。今会いに行っても大丈夫だろうかと思ったが……。


 ――掴、アバターのニオイを嗅ぎつけた――


「えっ!?」


 不意打ち気味にナミヲの声が脳内に響き、喋った内容をよく認識できないまま驚きの声を上げてしまう。

 そして次の瞬間、自分の意識が遠ざかる感覚に襲われ、掴の外見はナミヲが脳に憑依したN掴状態となる。


 ――おいおいなに急に憑りついてんだよ馬鹿野郎!?――


「アバターのニオイを感じたからな。用心の為に身体を借りるぞ」


 ――今出てくるなよ母さんと姉さんもいるんだぞ!?――


「あら? 掴、アンタいつの間に逆毛にセットしたのよ? 緑のメッシュとカラコンまで入れて」


「緑のスカーフ? なんかガタイが良くなってない……?」


「母君と姉君か。すまないが私は掴ではない」


「「お前誰だよ!?」」


 数秒で容姿が変化した掴に対し、雛型と巡が変化した部分を指摘するが、N掴は軽く受け流し佐伯達にアバターのニオイを報告する。N掴の声と表情に、雛形と巡は直ぐに違和感を感じ声を荒げて訝しむ。当然水島と黒田も驚くが、一度見ている佐伯は驚かなかったものの、突如出現したナミヲに焦りの表情は見せた。


「え? なんだよ!? 髪型とか色とか声とか色々変わってるけど!?」


「……誰だ!?……」


「ああすまない。私はアバターナミヲだ。以後よろしく頼む。それよりもアバターのニオイだ佐伯殿」


「ぁぁこんな時に馬鹿……! ああそうわかったわ。ニオイがするのねありがとう。それじゃあちょっと一緒に調べに行きましょうか」


 初めてアバターが憑依した状態を目にした水島と黒田は状況が飲み込めず戸惑うが、佐伯は何とか平静を保ち誤魔化そうとする。


「あの奥さん。巡ちゃん。ちょっと掴くんが私達に話したい事があるみたいなので、彼のお部屋でおしゃべりしたいと思います。では……」


 N掴を若干ぞんざいに扱いながら二階へ促し、水島と黒田の首根っこを掴んで半ば強引に二階へと上がり、雛型と巡はそんな様子を唖然と見つめていた。なんとか掴の自室へ戻ると扉を閉め、安心したように地べたに崩れ落ちる3人。


「なんかよくわかんねんけど焦ったわ……」


「……あ、ああ……」


「何をそんなに動揺している?」


 ――いや動揺するだろうさ――


 どうかしたのかとでも言いたげなN掴に対し、佐伯は顔を声を荒げり気味に食いつく。同時に上着のポケットからスウェンも飛びだし、ディスプレイに怒りを表現する顔文字が浮かぶ。


「ちょっとアンタどういうつもりなの!? それ憑依状態って言うんでしょうけど。いきなり出てくるなんて何考えてるのよ!?」


『雛形と巡は準関係者だ。余り巻き込まない為に情配慮している。迂闊な情報の漏えいと軽率な行動はは万死に値する!』


「アバターの気配、もといニオイを感じたから安全の為に掴に憑依したまでだ。こうしていればいついかなる時も貴殿を装着して変身できるであろう」


 あくまで平然とした彼の態度に、水島と黒田は思わず吹き出し、佐伯は2人を睨んで委縮させる。そして一息吐いた後に尋ねた。


「ニオイね……それで? 何処からニオイがするのよ?」


「この方角は……掴の通う学校だ」


 ――え? 学校にアバターが!?――


「ああ」


『確かにアバターの存在を感知した。嗅覚で探知できるとは優れた嗅覚機能だな』


 ――そういえば嗅覚スキルを装備させてたような……レベルも高かったからその影響?――


「よりにもよって面倒な所にいるものね……仕方ない、今すぐ部隊を手配しましょう。水島、黒田。行くわよ」


「あいよっと」


「……はい……」


 こうして、急遽掴の通う高校へとアバター調査をする事となった。

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