第4話 これからのこと
戦闘終了後、掴は聞きたい事や話したい事が山ほどあったが、育継から無理矢理ワゴン車に詰め込まれ家へ帰らせられた。襲撃と戦闘により肉体的にも精神的にも疲れ果てていたので、無事に自宅に到着するなり自室で深い眠りについた。彼はそこから朝になるまで一度も目を覚まさず夢も見ることなく完全に熟睡。
やがて夜が明けて日が昇り、早朝となった。
今まで通りの変わらぬ日常であったならば、この時間帯にいつも通り望と叶が、夜更かしをして寝坊している彼を起こしに来ていた。
――……きろ……む――
「……っん?」
――起きろ掴――
「……っあ!? 望、叶!?」
自分を呼びかける声。瞼越しに感じる朝日。いつも通り望と叶が起こしに来てくれた。昨日の出来事が夢や幻であってほしいと願いながら目を覚まして2人の名前を叫ぶ。しかし……。
『残念だが私は御門望と願叶ではない。スウェンだ』
瞼を開けた視界に入ってきたのは、シルバーカラーに黒のラインが入った四角い携帯端末機。さらに手足の様な物が備わっており、人間の様に腕を組みながらしゃがみ込み掴の顔を覗いている。中央のディスプレイには彼の表情を表現していると思わしき顔文字が表示。
「……スウェン……?」
『ああ私だ』
携帯端末機の名称はインタフェイサー。スウェンはこの端末に搭載されたAI。彼の姿を確認した事で、昨日の出来事は夢幻ではなく現実だった事を再確認して少し項垂れる。そしてあちこちに走る鈍い痛みに苦悶の声を漏らし表情をしかめた。起き上がろうとするが身体が思うように動かせずにベットに倒れ込む。
「いてて……この痛みは、絶対ナミヲのせいだろう」
昨日、ナミヲが自分の身体に入り込んで戦ったことを思い出す。確か憑依能力と言っていた。身体の痛みの原因は彼が無茶苦茶な身体の使い方をしたせいだと容易に推測出来た。
『どうという事はない。ただの筋肉痛だ』
「え? ああ筋肉痛ね……しかも激しいなこれ……」
スウェンにただの筋肉痛だとあっさり返される。
『君はパルクールが出来るのに筋肉痛になるのは普段動かさない筋肉を使ったからだ』
「ああだろうな……あんなに現実離れした動きをすればなるでしょうよ……それよりも」
痛む身体を何とか起こしてスウェンに面と向かう。手足が備え付けられた携帯端末は何処か滑稽でもあり可愛らしい印象を受けた。
「聞きたい事が山ほどあるんだ」
『わかっている。君の疑問について全て答えよう』
「ありがとう。ってそういえば、あのナミヲとかいう奴は……?」
インタフェイサーを取り外したっきり、憑依が解除されたため存在を確認できていない。
「私ならここだ」
驚いて声が聞こえた方向を振り向くと、ナミヲが胡坐をかいて静かに座り込んでいるいた。
威風堂々と鎮座しているが、身体の周りに電気が走っているようなロープが回転しており、一目で拘束されている事が理解できた。
「あのさ……どうして拘束されているんだ?」
『こいつは君を助けてくれたがまだ警戒対象だ。だから拘束している』
「そういうことだ。私はこの変なカラクリ人形に信用されていない」
『私はインタフェイサー10号機に搭載されているAIスウェンだ!ファンタジア故に機械文明には疎いようだなアバター』
「そうだなマジックアイテム、もしくはゴーレム」
「まあまあお前らそこまでにしとけ……」
インタフェイサーのディスプレイに、スウェンの不機嫌さを表すような表情が表示。ナミヲもスウェンを様々なものに例えて呼びながら皮肉っている。いきなり不仲という状況。ナミヲは拘束されており、スウェンは性質上アバターを警戒せなばならないため致し方ない。
改めてナミヲの姿を観察。ある程度言葉を交わし、人間味のある彼を不思議に思っていた。
多少肌や服装の質感に奇妙な違和感を感じるものの、とてもコンピューターの中から出て来たとは思えないほど、現実の人間とさほど変わらない。普通に受け答えだって出来る。ファンギャラの中から出てきた電子生命体アバターに対し、好奇心と疑問は尽きない。掴は堪らず疑問をぶつけた。
「お前は俺が作ったナミヲなんだよな?」
「その通りだ」
「何でそんな性格なの?」
「我々アバターの人格は、創造主が我々を操っている時の人格や思考、感情などを基に構築されていると聞かされた」
「はい!?」
それが本当ならとてつもなく恥ずかしい事ではないか。自分が
だが理解し難かった。何故なら掴はナミヲをプレイする時に大した
「じゃあさ、どうしてアバターはこんな事をしたんだ? お前は今までの生活があったのか?」
「すまないがその質問には正確に答えられない……私は大事な記憶が欠落しているようなんだ」
「どういうことだよ?」
「自分がスコーピオンだったことは何となく覚えている。だが、こちら側に実態化する際に何かしらの不具合が起こったらしくてな……4人に分裂してしまったらしい……」
「え!?」
これからスコーピオンの事も含めて尋ねようと思った掴にとって衝撃の事実。つまり今のナミヲは一番重要な部分が抜け落ちてしまっている。どうりでスコーピオンにキャラチェンジして戦わないはずだと納得したが、これでは貴重な情報が聞き出せない。記憶が欠落してしまっているから。
そして4人に分裂してしまったと言うのは、ナミヲの他にデューク、紅蓮(クレン)、スコーピオン本体に分かれてしまった事を意味する。記憶が何処まで残っているのか疑問だが、彼の発言的に少なくとも自分が分裂してしまったことは自覚している。本人に尋ねても断片的な記憶しか話せないと覚悟しておく。
『ならばお前はスコーピオンの屑データ残り粕ということだ。よりにもよって弱い部分が来るとは期待外れだな』
「煽るなスウェン! で、何故助けてくれたんだよ」
「この世界が聞いていた話と全く異なるからだ」
「聞いていた話?」
「私達はあるお方に導かれて、自分達の住む世界の真実と己の存在について知らされた。ここは覚えている。この世界と住人は、我々を生み出した神の世界と神。そして神々は我々の世界を操り消し去ろうとしているとな」
「なんだと!?」
まさか、人類が神と思われる日が来るとは。だがファンタジアギャラクシアという仮想世界と、そこに住むアバター達を生み出したのは確かに自分達人間。彼らに知性が芽生えたのならばこちら側を神と捉えるのも合点がいく。しかし、操り消し去る考えなど抱いたことはない。そのような話は何処から出て来たのか。
「操るとか消し去るとかそんなことするわけないだろう? ファンタジアギャラクシアは現実世界にとって重要な存在で、今やなくてはならないものなんだ。ましてや俺達人間は神様なんてご立派なものじゃない」
「だろうな。君や逃げまどう人々、この世界の文明レベルを見て理解できた。とてもじゃないが我々を統治する神とは思えない程脆弱だ。魔法も使えなければ亜人もいない。ギャラクシアと違い高度な文明も持たないようだからな」
半ば失望したような視線と口調で冷たく言い捨てた。妙に癇に障るが、彼の言う通りなので言い返す事が出来ない。
「だが、だからこそ気付けた。私が聞かされたことは間違いだったのではないかと」
「……その発言は俺達を助けてくれるという意味に捉えていいのか……?」
「ああ。記憶の大半も失い、自分のやっている事に疑問を感じた時点で私は君を助けると決めた」
「でも……お前は同胞と戦うことになるんだぞ? 本当にそれでいいのか?」
自分を案ずる掴の真っすぐな問いに対し、ナミヲは静かに微笑み口を開く。
「掴。君は必死に
掴と視線を交し合い微笑むナミヲ。自分が作りだしたアバターの一部だからだろうか。掴は彼に対して愛情にも似た親近感を感じる。見えない繋がりを経て、人とアバター心が通い合った瞬間である。
スウェンも静かに2人のやり取りを傍観し、プログラムされた思考回路ながらに、眼に見えない暖かな何かを感じ取っていた。
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