第9話 QUESTCLEAR!!
スコーピオン・紅蓮・デューク・ナミヲが同時に発動した
これにより危うく不祥事になり掛けたイベント初日は一旦平穏に幕を下ろす事となる。
結果的に言えば、今回は大きな盛り上がりを見せ大成功となった。
生きた伝説と言われる賢者スコーピオンと、電子の歌姫ティンカーベルの参加。
ギャラクシアで名を轟かせるゼフィロスとノワールの参戦。
まさかの闘技場チャンピンデュークと伝説の暗殺者紅蓮が緊急参入。
どれもこれも参加者・視聴者を沸き立たせるには充分すぎるほどのサプライズ。話題は話題を呼び、SNS等で拡散されホロネットニュースにまで取り上げられた。日本中が熱狂したのではないかと錯覚を覚える勢い。
この立役者は掴であり、彼が操るアバター達による功績が大きい。ティンカーベルに即興でコンサートを開かせる奇策も出したが、おかげで大勢のプレーヤーが最深部へと辿り着き形勢を逆転する事が出来たのだから結果は上々と言える。
そして、イベント報酬のフェアリープリンセスクラウンを無事に手に入れる事が出来た。
「さあ受け取るが良い歌姫よ。これは貴様の為に獲得した物だ」
「あ、は、はい……!」
今回のもう一人の立役者であるティンカーベルにクラウンを差し出すスコーピオン。しかし、目を輝かせ受け取ろうとする彼女が手を触れる前に、突如頭上へ持っていく。
「え!? あの、スコーピオンさん!?」
「動くでない。上手く付けられぬ」
彼女の黄緑色の髪一本一本に優しくかき分けながら、フェアリープリンセスクラウンを付けるスコーピオン。位置が決まると何度か確認して小さな笑みを浮かべる。
「良く似合っておるわ。流石我とあやつが作りし物。妖精の歌姫に相応しき一品よな」
「あ、ありがとうございます……大切にしますね」
頭上に光り輝く妖精姫の王冠。スクリーンに映る自分の姿を確認しながら、彼女は照れくさそうにはにかみ頬を赤く染め、スコーピオンに礼を述べる。
「すまぬな。無茶な要求を容認してくれたこと、感謝するぞ」
「いえ、とんでもない。こんな場所で歌うのも新鮮でしたから。それに案外楽しかったですよ。それに……」
「なんだ?」
「やっぱり貴方は素晴らしい方です。だって、あんなにも沢山の人達を喜ばせる事が出来るのですから。最高のエンターテイナーです」
思ってもみない歌姫からの称賛の言葉。最高のエンターテイナー。
だが、先程までの喜びはもう無く、素直に褒め言葉を受け取ることは出来ずに俯き背を向ける。
「ただの一興だ。あの場では仕方が無かった故な。奴らも大いにはしゃいでおったようだが、我にとっては鬱陶しい存在でしかない。我と比べれば主の方が素晴らしきエンターテイナーであろう。歌で人々を魅了するのだからな」
「ご自分を卑下になさらないで。そして参加者の人達を鬱陶しいだなんて仰ってはいけません。貴方の過去に何があったのかは存じ上げませんが、少なくともあの人達は純粋に楽しんでおりましたわ。病院で見ておられる視聴者の方々も同じです」
そんな事は理解している。ネットにいるのは屑ばかりではない。だが良き人というのは大抵はネットの渦と屑達に蝕まれる。基本自分本位なものばかり。それを嫌と言う程見せ付けられ嫌気がさしている。スコーピオン越しに掴は頭を抱える。ティンカーベル越しに彼を見つめる小鳥はさらに言葉を続けた。
「それに、私にはわかります。戦っていた時の貴方は、皆を先導して盛り上げていた瞬間の貴方は確かに心の底から楽しんで喜んでいました。その、凄く……輝いておられましたから……」
小鳥にはわかった。
同じエンターテイナーとして通じるものを感じていたからこそ、アバターを先導して戦っていた彼の、純粋に喜びと楽しみを抱いていた瞬間を。
自分の心中を見抜かれていたことに驚く
「歌姫殿の勝ちだなスコーピオン」
「なんだと?」
「負けを認めなよ。今回ばかりは素直に喜んだらどうなんだい?」
「何をいうか馬鹿者共め……」
呆れ半分、冷やかし半分にスコーピオンに語り掛けるゼフィロスとノワール。それは望と叶からの掴に対する激励の言葉でもある。今日だけは過去の出来事など忘れて純粋に喜びを噛みしめろ、と。小さく溜息を付いたスコーピオンは改めてティンカーベルに向き合う。
「仕方がない。今回はお前に免じて素直に喜ぶことにする。確かに楽しかった。歌姫を守りながらの戦いは中々の一興だったぞ……」
「はい、私も凄く楽しかったです。クラウン、ありがとうございます」
微笑む歌姫に対し、スコーピオンはフードから見える僅かな素顔で微笑み返す。
「……!?」
ほんの一瞬だけ、頭に電流が走ったような痛みが襲う。あの痛みだ。思わずスコーピオンから意識を離して頭に触れ、辺りを見渡す掴。
――なんだ? またあの痛みか……何かにぶつけたわけじゃないし、ゲームのやりすぎか……?――
そう思いながら、ティンカーベルに言葉を掛けてオチようとした。
「ん……? 誰かいるのか?」
直ぐ近くで気配を感じた気がした。だが、何処を見渡しても部屋の中には自分以外誰の姿も見当たらない。しかし、この感覚はあきらかにすぐ近くにいる。注意深く探ろうとしたが……。
「どうかしました?」
「ん? いや……」
急に動きが止まった事を心配したティンカーベルに話しかけられた事で我に返る。なんの気配も感じられない。どうやら杞憂だったようだ。
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