第8話 FOR FORMATION
激しい戦闘で深刻的状況に陥った時に組んでおいた
大勢のアバターを含めた位持ち4人でも太刀打ちできるか怪しくなったこの状況を切り抜けるのは持って来いのプログラムだと軽く自己評価しつつ、掴はスコーピオンのキャラチェンジコマンドを操作して切り札を起動させる。
スコーピオンは双剣を握った両手を胸の前に突き出し構えた後に交差させた。
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少し歌詞の違う電子音楽が流れ始める。自分達もキャラチェンジを行うので馴れていたゼフィロスとノワールも、「スペシャル」という初めての単語に反応してスコーピオンに視線を向けた。大勢のアバター達がいるこの場で安易にキャラチェンジをするつもりなのかという驚きと困惑も隠されていたが、何か策を発動させることは察したので止めなかった。
「変身!」
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スコーピオンの身体を緑・青・赤・紫、4色の光が包み込み、光りは0と1の粒子を撒き散らしながら電子コードを模した魔法陣が展開。
魔法陣は4つに分かれ、スコーピオンが乗る紫を除いた残りの魔法陣から3人のアバターが召喚された。
「なん……だと!?」
「なんだいこれは……!?」
その姿を見てゼフィロスとノワールは思わず驚愕の声を漏らす。
あろうことか、スコーピオンと同一人物であるはずのナミヲ・デューク・紅蓮の3人がスコーピオンとは別々に現れたからだ。決して揃う筈の無い者達が同時に存在する事を可能にする。掴の切り札とは、スコーピオン達をそれぞれ独立して存在させる一種の分身プログラム。
そして、遂に長年の沈黙を破りデュークと紅蓮がこの場に現れた事に対し、参加者は驚きと興奮に包まれ大歓声を上げた。彼らからしてみれば、これまで決して揃う事が無かった賢者・暗殺者・チャンピオンの夢の共演。思っても見ないサプライズでありオールスター大集合。喜び勇む声や黄色い悲鳴など、多種多様な声援が惜しげも無く沸き立つ。
しかし、そんなプレーヤー達を他所にゼフィロスとノワールは不安を隠せない。
ここにきてまさかスコーピオンが分裂するとは思わず、キャラチェンジによる複数の姿を持ったアバターがそれぞれの姿に独立して存在するなど前代未聞。なにより誰に入っているんだという率直な疑問が浮かぶ。
「案ずるでない戦士達よ」
「……全て私達だ……」
「独立して行動が可能だよ」
「ある程度なら同時に操る事もできるからな」
「いやそういうことではなく……」
「誰に入ってるかって事なんだけど……」
答えは簡単。ただローテーションで喋っているだけ。スピーカーと音声の調整で割と上手く演じ分けれる。予め施しておいたプログラムにより独立したAIで異なる攻撃パターンも可能で連携だって取れる。今まで一度たりとも試した事は無かったが、いわゆる本本直前である。普段の掴はプログラム関係は慎重に作業を進めるためにこのような土壇場的展開は彼のスタイルにそぐわない。だが、自分が調整したラスボスやファンギャラのイベントが何者かのバグにより異常をきたしている事に対する微かな怒りとプライドが駆り立てた。
「す、凄いです……分身まで出来るなんて……」
天下の歌姫も、流石に驚きを隠せず、一緒に戦った4人の雄姿に眼を輝かせて眺める。
「それに見てください、他の参加者の方々が、凄く喜んでおられます。あんなに喜んでくれるなんて、貴方は素敵な方々なんですね」
彼女の純粋な反応に内心照れくさくなり、アバター達の反応に複雑な気持ちを抱くが、直ぐに気持ちを切り替える。ナミヲだけは一般アバターなのでさり気なく参加者の中に紛れ込ませ、一般参加者のフリをする。
「皆の者、位持ちアバターが贈りしこの最高のサプライズ。我々参加者が応えずして誰が応えるか! いざ、共に参ろう!」
双剣を高らかに掲げ、彼らを鼓舞する様に働きかけ真っ先に三黒竜に斬りかかり、ナミヲの口上に触発されたアバター達もノリに乗って攻撃を開始する。
「さて、ゼフィロス、ノワール。我らも参ろうではないか」
「もう野暮な事は聞かないでおこう……」
「仕方ないね……」
スコーピオンに促され、ゼフィロスとノワールは呆れ半分に了承しつつ笑顔で答える。今日はいつにもまして中のプレーヤーが積極的なのだから、それは2人にとっても嬉しい事であった。こうして3人で遊ぶのも久しぶりなのだから。
スコーピオンは宙を這うような素早い動作で大鎌を振り回し、ゼフィロスは跳躍してアクロバットな動きで斬りかかり、ノワールは遠方から銃撃を始める。
「さて、では歌姫君は私達がお守りしよう。よろしいかな?」
「え?」
「……再び心地良く眠るような調べを聴かせてくれ……」
「は、はい……」
デュークがティンカーベルの前に立ち大剣を構えて呪文を唱え、紅蓮は双銃を掲げて遠距離から銃弾を放ちつつティンカーベルの傍らに立つ。
内心、疑問に感じた。掴は一々アバターの人格を演じながらそれぞれ操っているのかと。そして彼女が感じた疑問通り、掴は演じるアバターを変えつつ攻撃しながら喋っている。これは彼だからこそできる芸当・荒業であり、思考的にもかなりの負担を掛けているが、今の掴にとってそれはどうでもよいこと。
電子の妖精、歌姫は再び唄い始める。ここにいるすべての者達を最高の舞台へと誘う為に。彼女の歌声は観客の戦意を高揚させ、気持ちを共感して一つとなり最高に盛り上がらせた。喜びと楽しみ、最大の興奮が生まれた。
イベントの様子をライブ中継で見ていた全てのプレーヤーや病院・リハビリ施設の患者、ネットを通じて配信されそれをたまたま発見した人々は、ただただそのエンターテイメントショーに感動して楽しんだ。
この場の流れを完全にコントロールしていた掴も、もはや忘れていた感情を素直に感じる事が出来た。
――なんて楽しいんだ……――
その感情が伝わったかのように、4人の分身に笑みが零れる。
邪悪な黒龍と化した三頭竜との戦闘は熾烈を極めた。だが、ノリと勢い。大いなる喜びと楽しさに高揚感を満たされた参加者達に負ける気など毛頭なかった。この楽しい時間を終わらせてたまるか、誰一人とてこの最高の舞台から退場などしてなるものか、と。確実に、皆の気持ちが1つとなっていた。
今宵は、バグが引き起こした儚い奇跡だったのかもしれない。
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そして、4人の
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