第2話 桜川那子は江坂悠李に僅かな望みをかけると決めた (7)
バイトをするとなれば、嫌でも悠李と顔を合わす事になる。バイトをしなければ、悠李に秘密をばらされる。何より一番最悪なのは、バイトをしたにも関わらず、悠李に秘密をばらされる事だ。
外見上から判断すると、悠李にはその可能性が大いにありそうだった。一見、モテ風のチャラ男。そんな悠李を安易に信用出来るわけもなく、那子は迷いに迷っていた。
「アンタの事、全く信用出来ないんだけど」
「そんなに信用ないなんて心外だなぁ。じゃあ、これでどう?」
悠李は何を思ったのか、ポケットからスマホを取り出して操作すると、それを那子の目の前に置いた。
「何?」
「『何?』って……。俺の携帯番号だけど」
「誰もアンタの携番なんて訊いてないし」
「誰にも教えた事ないし」
「意味わかんない」
「だから、これが俺の秘密って事。もし俺が桜川の秘密をばらす様な事があったら、この携番ところかまわず漏洩していいよ」
上手く丸め込まれた気がすると思いながらも、那子は悠李の携帯番号を自分のスマホに登録した。
「って、事で。履歴書に書いてある桜川の携番、俺も登録させてもらおっ」
「なんでそうなるわけ!?」
「バイト一緒にやるとなると、お互い知ってた方が便利じゃん?」
もっともらしい理屈をつけつつ、悠李はスマホを片手操作しながら、那子の携帯番号を登録して言った。
「お互い携番知ってたら、LINEでも繋がれるし?」
と、同時に、消音にしていた那子のスマホが振動する。
見れば、悠里からのLINE通知で。
≪よろ~♪≫
なんて、いかにも軽々しいトークが届いていた。
「明日、十時出勤で宜しく。店長にも俺からそう言っとく」
言い逃げもいいところで、悠李は「じゃあ」と片手をあげると、那子を残して仕事に戻って行った。
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