第1話 平野伊万里は今宮兄妹と出会った (4)

 萌果にドリンクバーといちごパフェを奢ってもらう事になり、伊万里はドキドキしながらドリンクバーコーナーへ向かった。ファミレスという場所は実は苦手なのだが言い出せず……。

 四人掛けのシート席に、萌果と向かい合わせに座っているけれど、すぐ後ろに律樹とその友人達がいた。

 萌果はさっきから律樹の方ばかり見て、話に聞き耳を立てている。


「お待たせ致しました、いちごパフェになりまーす」


 待ちかねたいちごパフェがやって来たが、店員の顔を見た瞬間、萌果の顔色が変わった。


「おぉ、律の妹ちゃん。元気?」


「まぁ、普通」


「今日もお兄ちゃんの追っかけ? 大変だね」


「追っかけじゃないし。帰る家が一緒だからだし」


「あっそ。ま、大変なのは律の方か」


 胸元のネームプレートには「えさか」と書いてある。律樹の友人なのだろう。


「こっちの彼女、新顔だね。妹ちゃんのお友達?」


「友達じゃない人とは来ませんから。もう、向こう行ってよ」


「はいはい、ごゆっくり」


 彼がテーブルを離れると、萌果は身を乗り出して伊万里に耳を貸すよう合図した。


「今のが、お兄ちゃんの友達の江坂悠李えさかゆうり。チャラいでしょ? なんであんな人と仲いいのか、理解に苦しむよね。伊万里もそう思わない?」


 確かにチャラい雰囲気ではあった。いかにも女子にモテそうなタイプだ。伊万里の苦手な部類。


「ま、いいや。食べよ? 美味しそう!」


 萌果が美味しそうにいちごパフェを頬張り、伊万里も続く。甘酸っぱいいちごソースにバニラアイス、コーンフレークが層になっていて、いちごの果肉が上に乗っかっていた。

 顎のラインで切り揃えられた黒髪をそっと耳にかける。ふと視線を感じ、伊万里は萌果の方を見た。


「伊万里、せっかく可愛い顔してるのに……髪の毛で隠さない方がいいよ?」


 冗談じゃない、と伊万里は激しく首を振った。


「女子力アップして、可愛くなろうよ。私、いろいろ教えるから」


「……遠慮します」


「えー、なんでぇ」


 いちごパフェを食べながら、伊万里は今日来た事を後悔していた。萌果はいい友達だし、憎めないところはあるが、時々どうしようもなくうざったい。やはり女同士のベッタリした付き合いは苦手だと、内心溜め息をつくのだった。

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