第5話 時計塔攻防戦

弾は持てるだけ持て。

弾が切れたら何も出来ずに死ぬ。

――ウィスコット・リー(伝説のスナイパー)


好きで鹵獲したんじゃない。弾が無くなったから使っただけだ

――前線帰還兵


―――

<<私が左をヤります。右側を先にイってください>>

<<おーけー。今度は俺が行く>>

楽しい?楽しいね。

スコープ越しだから?いや、違うよ。

もし良ければ、私がナイフ持ってあそこに混ざりたい。


パシュッ ガコッ

あ、はい。絶賛、的当て中です。

先に行った皆の援護をしつつ、じわじわ前進ですね。

流石に中心部時計塔に近付くと数が多いですね。

まぁ、気にせず進んでいくんですが。

ガチャッ シャコン

パシュッ


<<広場外周に到着っス。流石に開けてるんで突っ込めないっスね>>

知ってた。ここが関門よね。

時計塔の周り。広場になってて遮蔽物が無い。

つまり、突っ込んだらバレるし、ヤってもバレる。

とは言っても……ねぇ?こっちには切り札有るし。


<<ワイルドキャットよりフェニックス。方位23より制圧爆撃を要請します>>

<<フェニックス01。上官遣いが荒いわね>>

<<ワイルドキャット01よりフェニックス01。飛んでる者は将官でも使え、と教わりました>>

<<そんな事言うとは面白い教官ね、気に入ったわ。頭上通過フライオーバーで制圧砲撃するから下がってなさい>>

お爺ちゃんの言いつけを守って砲撃依頼。

教官じゃなくてお爺ちゃんの言葉なんだよね。


……うん。これは確かに任せるべきですわ。見事にザックリとお掃除してくれました。

<<ワイルドキャット01よりフェニックス01。完璧な仕事振りに感謝します>>

<<フェニックス01、この程度で呼ばれても困るわ。せめて装甲目標を寄越しなさい>>

うーん。我等の大隊長は血気盛んです事。

装甲目標戦車なんて出てきたら、私は裸足で逃げ出しますよ。


<<大隊長が切り開いてくれた道のり。さあ、行きますか>>

増援が来る前にね。

仕掛爆弾ブービートラップも設置して……っと。

<<はい、GO!GO!ごーっ!目標時計塔目指して突っ込めー!>>




「マジで2回ほど死んだかと思ったっスよ」

死んでないんだからいいじゃん。

時計塔も制圧できたんだし、もう万々歳じゃない。

「1回目は敵スナイパーの射撃が頭カスった時。で、2回目はお嬢の射撃カウンタースナイプが額カスった時っスよ」

えーっと……うん。ごめんなさい?

ま、まぁ、ほら。倒せたから良いじゃん。

許して許して。……ダメ?

「もう良いっスけど。……はい、3時方向の距離260っス」

よっしゃ。許してもらえたっ!

……3時方向って……コイツかな。

パシュッ

「それじゃないっス。もっと右、双眼鏡でこっち向いてるっス」

流石、自動装填オートリロードもう撃てる。

右に振った照準器スコープ越しに光の反射。ここかなっ。

パシュッ

「頭吹っ飛んだっス、標的沈黙死亡確認。……てか、そろそろサイレンサー取っても良いんじゃないっスか?」

……あ、うん。すっかり忘れた。

どうせここに居る事バレてるんだし、外しちゃっても良いよね。

――残り15発(30口径)、10発(25mm)


「ありがとっ!次はどこ?」

こうやって狙い撃てると楽しいよね。

私が射程内見える限りの命を握ってる。って思うとワクワクしちゃう。

「見えた、10時方向。撃つよ」

ズバーン

やっぱり良いよね。この突き抜けるような音。心が洗われるよ。

22口径の頼りない音と違うし、25mmの無遠慮な音と違う。

余韻まで含めてパーフェクトじゃない。

「はい、次。同方位、撃つね」

ズバーン ガコッ

あら。弾切れ?

しょうがない。次の弾倉……もう持ってきてなかったか~。

予備弾は……えっと、この辺に……。


「8時方向に近付いて来てるっス。6時方向にも二人見えるっス」

あー。もう。

弾込めてる暇もないじゃない!

「3時方向二人、11時方向からも……合わせて六人っス」

あぁ、もう。

手榴弾投げなさい、ほら、それ。



<<フェニックス。流石に待ちくたびれたから突撃するわ>>

スっと気圧が下がる感覚。そしてすぐに吹き返し。

<<歩兵中隊、突撃しなさい。上から支援するわ>>

流石大隊長。的確に敵の上に爆裂魔導を叩き込んでます。

なるほど、逃げそうな方向に向かって攻撃するのね。勉強になります。

……って、違う違う。今のうちに弾を込めないと。


視界の端をサッと横切る影。魔導士の魔導反応が鳴り響く。

<<ワイルドキャットより全局、未確認魔導士確認。戦域警報ボギー戦域警報バンディットっ>>

「伏せてっっっ!」

身を護るのはともかく、塔が倒れると巻き添えになる。

塔の外周を覆うように縦に魔導防壁っ!間に合えっ!!



爆音、爆風、粉塵。

そして落ちてくる腕、足、金属片、頭、肉片。

ガンガンする頭を振りながら起き上がって……え?肉片?

<<あら、器用な事するわね。防壁に二人巻き込まれてるわよ>>

え、えーっと……?

もしかして、もしかしてなんだけど……未確認魔導士達彼ら、この塔を通過フライオーバーする航路で雷撃してたの……?

……そりゃね、防壁って薄い壁だから……ダイレクトに当たればスッパりいっちゃうと思うけどさ……。

何で君達当たってくれるの!?

<<04から06は対空迎撃、02と03は対地援護。今日は一番スコアが低い子の奢りよ>>

<<04より01、七面鳥的撃ちレベルです。空だけでは賭け率が悪すぎます>>

<<別に地上部隊も食べちゃって良いのよ?ほら、うかうかしてると子猫ちゃんが持ってくわよ>>

っと、考えてる間に1弾倉入った。

でも残りの弾、バラで持ってきてる分で残り13発……。


ガチャッ シャコンッ

ま、13発「も」撃てるってコトよね。

ズバーン

楽しみましょ。うん。

25mmも持ってきてるし……当たればイケるでしょ。うん。当たれば。

命中確認右腕千切れ飛んだっス。次は9時方向、距離300」

その前に後ろっ。ノンキに無反動砲構えてる子を……ここっ。

ズバーン

「え、どこっスか!?急に撃たないで欲しいっス!」

ちゃんと周り見なさい。ちゃんと武器無反動砲撃ち抜いてるから。

小銃しか持ってない敵なんて脅威度は低いんです。

長銃ライフルや無反動砲持ってる敵から狙うんです。

はい、そこ。

ズバーン

大体さ、距離300未満なら小銃で狙えるじゃない。

君が持ってる小銃は飾りじゃないんでしょ?撃ちなさいよ。

小銃での狙撃、教えたよね?

――残り10発(30口径、25mm)


窓からこちらをこんにちわ。はい、見えてます。

ズバーン

その御隣、隠れようとしても遅いよね。

ズバーン ガコッ

「弾切れっ。弾倉込めるまで支援射撃お願いしますっ」

ペタンと伏せると頭上を飛び越えていく弾丸。

ふはは。私は小さいから伏せると壁に隠れるのだっ。残念だったな諸君!

……悪かったね。小さくてっ!ぐすん。これでも気にしてるんだから。

ひのふのみの……トントン叩いて揃えて……っと。

ガチャッ シャコンッ

そしておまけでもう一発込めて……っと。

「もう少し時間稼げますか?残りも弾倉込めちゃいます」

返事とばかりに帰ってくる銃声バララララ。よし、今のうちに……。


「あ、やばっ。手榴弾グレネードっス!」

目の前にコロンと鉄の塊。

マズいマズいマズい。こういう時は……

拾って 投げて 伏せるっ!


――爆発 爆風

吹き飛ばされてゴロゴロと……うぅ、破片がどこかに当たったカモ……。

全身ズキズキ、視界が紅いよ……。

右手……動く、左手……銃掴んでる、足……痛いけど立てる。

なんだ。まだまだ余裕戦えるじゃない。


――残りxx発

照準スコープ覗くまでもなく……ほら、何を突っ立っているんだい?

後ろに手を振っている場合じゃないよ。ほらほら撃ち抜いちゃうぞ。

ズバーン

知ってるよ。手を振った先が居るんだよね。隠れる暇なんてあげないよ。

ズバーン

あら、もう一人。ダメだよ、グレネードなんて投げちゃ。

ズバーン

うふふ。楽しくなってくるね。

ほらほら、ダメだよ。せっかく落としてくれたグレネード拾っちゃ。

ズバーン

よしよし。そのまま爆発しちゃいなさい。

っと、流石に反対側もノイマンさんだけに任せてちゃダメだよね。

「ごめんなさい。今、そっちの援護しますっ」


あれ、ノイマンさん、なんで倒れて


―肩に衝撃

ターンッ

っっっっ!!体浮いた!吹っ飛んだ!

ヤラれたっ!狙撃っ!

あーっ……痛い、熱い。コレ、狙い撃たれてる……。



……うへぇ。見るんじゃなかった。

肩がぐちゃぐちゃ、穴が開いて向こう側見えちゃってる。なんか白いのも見えてるし……。

ぅー……見たらさらに痛い……。

って、違う違う!ノイマンさん!

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